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公衆衛生と強制特許権について

2009年7月1日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 山口 充子

新型インフルエンザに対してWHOが警戒度をフェーズ5に引き上げたことを受け、韓国政府が、新型インフルエンザが急速に拡大して抗ウイルス剤の供給が追いつかない場合には、強制実施権を発動し、国内の製薬会社が製造できるようにする方針を決めたことが報じられました(5)。
 新型インフルエンザについては、その後感染は拡大しているものの、現時点では症状が比較的軽いこともあり、強制実施権が発動される事態には至っていません。

 強制実施権は、特許権者の許諾を得ないで、国が特許権者以外の第三者に特許発明を実施する権利を強制的に付与するものです。例えば、ある医薬品について特許が成立している国においては、特許権者と特許権者から実施の許諾を得た実施権者しか、特許発明を実施(当該医薬品の製造、販売等)することができませんが、特許権者の許諾を得られなくても、国等が強制的に第三者に実施権を付与するものです。

 特許制度は、新しい技術を発明した者に、発明を特許出願により公開する代償として、一定期間独占権としての特許権を付与し、一方、公衆には公開された技術の利用を可能とするかわりに一定期間実施を制限するものであり、特許権者と公衆との利益を調整して、産業の発達を図るものです。従って、特許権者が実施をしない場合は産業の発達に寄与しないのでその制裁として強制実施権が規定されます。また、特許権は独占権であるので、公益に反する場合には、その権利を制限する手当てが必要です。
 そのため、強制実施権は、特許権者が発明を実施しない場合の制裁として、及び、公益上の必要から、古くから規定されてきたものです。わが国特許法においても、大正11年の旧法では、強制実施権とともに特許の取り消しも規定されていました(1)。本来発明者は発明した技術を秘密にしておくことができるところ、開示するだけでも一定の貢献をしていること、実施義務が強力であると発明が秘匿されるおそれがあること等により、現行法では特許の取り消しは廃止されています(4)。

 国際的には、パリ条約5条A(2)(3)(4)が、不実施に対する制裁について、ブラッセル(1900年)からリスボン(1958年)の各改正会議で合意に至った範囲で規定しています。5条A(2)には「各同盟国は、特許に基づく排他的権利の行使から生ずることがある弊害、例えば、実施がされないことを防止するため、実施権の強制的設定について規定する立法措置をとることができる」ことが規定されています。これは、不実施に対する規定であり、公益上の必要によるものを規定するものではありませんが、パリ条約の同盟国が公益上の必要から強制実施権を規定することは自由であると解されています(3)。

 パリ条約の不実施に対する制裁規定の改正については、強制実施権の設定を限定的にすべきであると主張する先進国と、強制実施権の設定には柔軟性を持たせるべきであると主張する途上国との意見の対立から長い間硬直状態が続いていました(2)。このような状態を経て、強制実施権を各国が国内法令で定める場合に、遵守しなければならない条件が明確化されたのは、GATTウルグアイラウンド交渉が最終合意に達し、WTOが設立されたのに伴い1995年に発効したTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)においてです(2)(7)。
 TRIPS協定31条に、強制実施権を含むより広い概念である「特許権者の許諾を得ていない他の使用」を、加盟国が国内法令で定める場合に、遵守しなければならない条件が規定されています。そのような条件としては、
・強制実施権を設定する前に、その使用者となろうとする者は、事前に特許権者と実施権の許諾を得るための交渉を行って、その交渉が成立しなかったこと(31条(b))、
・その使用の範囲及び期間は許諾された目的に対応して限定され(31条(c))、
・その使用は非排他的なものであり(31条(d))、
・当該他の使用を許諾する加盟国の国内市場への供給のために許諾され(31条(f))、
・特許権者は適当な報酬を受ける(31条(h))
こと等が規定されています。そして、31条(b)の条件は、国家緊急事態その他の極度の緊急事態の場合、又は、公的な非商業的使用の場合には免除されます。

 このTRIPS協定31条に基づき、深刻な公衆衛生上の問題となっていたHIV/AIDSの治療薬の特許権に強制実施権が発動されました。また、他の発動例としては、2005年には、H5N1型インフルエンザの流行に備えるために、台湾において、抗ウイルス剤の十分な供給が得られない場合との条件付きで強制実施権の設定による独自製造を容認することが発表されています。

 TRIPS協定31条に関するその後の動きとしては、31条(f)が、他の使用を、許諾する加盟国の国内市場への供給に限定するものであるため、医薬品の製造能力がない国ではこの制度を活用できないという問題に対し、2003年8月のWTO一般理事会で、強制実施権に基づき製造された医薬品を他国へ輸出することに関してTRIPS協定の改正が行われるまで、一定条件の下、31条(f)に基づく義務が免除されることが決定されました。現在は、かかる改正案についての交渉が合意に至り、議定書が加盟国の批准のために解放されています。そしてこの改正をふまえて、カナダ、ノルウェー、EU、韓国、インドなどで国内法の整備が進められています(7)。

 わが国は、2007年8月31日に批准書を寄託していますが、国内法の改正についての議論がされるのはこれからであるようです。わが国では公益上の必要から設定される強制実施権(裁定実施権)については特許法第93条に規定があります。特許法第93条に規定される裁定実施権はこれまで設定されたことはありません。多くの国においても強制実施権が設定されたことはこれまでに殆どないといえます。これまで、公衆衛生のための強制実施権の発動は途上国のみの問題として捉えられてきたように思われます。しかし、H5N1型インフルエンザの世界的流行や、病原菌テロのような事態が起こりうる中、先進国でも強制実施権の設定が必要になることがあるかもしれません。もし強制実施権の設定が必要となるような事態となった場合に、迅速な設定が求められる中、特許法第93条が使えるのか疑問に思います。

参考文献
1.特許庁編 工業所有権法逐条解説
2.特許法概説〔第11版〕,吉藤幸朔著,熊谷健一補訂
3.Paris Convention For The Protection Of Industrial Property ,Bodenhausen邦訳
4.工業所有権法 上 特許法,第二版,中山信弘著
5.http://rki.kbs.co.kr/japanese/news_detail.htm?No=33767
6.図解 TRIPS協定,荒木好文著
7.WTO公衆衛生に関する2003年合意を踏まえた各国の国内制度整備状況 調査研究報告書,平成19年3月,社団法人 日本国際知的財産保護協会




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