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USPTOが自然に基づくものに関する特許適格性を判断するための事例集を公表

2015731

(文責:弁理士 芦田 文人)

1. はじめに

 2013年6月13日、Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc.事件に関して米国最高裁の判決が下された。この判決の中で、米国最高裁は、「自然界から単離されたDNA」は米国特許法第101条(以下、単に「101条」という)の規定により特許対象とはならない旨判示し、天然に存在するDNAの特許適格性が否定されることとなった。この判決は、「単離された」という文言を付すことで、DNAが101条の特許適格性を有するとしてきたこれまでの米国特許商標庁(以下、「USPTO」という)の審査実務を覆すものであった。

 上記判決を受けて、USPTOは、2014年3月に審査ガイドラインを公表した。続いて、2014年12月16日に審査ガイドラインの改訂版および事例集を公表し、101条の特許適格性を判断する具体的な審査基準が提示された。

 本稿では、2014年12月16日に公表された事例集のうち、自然に基づくもの("nature-based product")の発明に関する事例について解説する。




2. 自然に基づくものの発明に関する事例

 本項では、化合物、タンパク質、細菌、核酸、抗体、細胞、食品等の自然に基づくものの発明に関して、特許適格性を有するか否かの判断の手法について解説する。

 なお、以下に示す各事例については、事例集(http://www.uspto.gov/patents/law/exam/mdc_examples_nature-based_products.pdf)からのクレームの引用、当該クレームの和訳、当該クレームについての解説の順に記す。また、和訳の末尾において、特許適格性を有すると判断されるものを「○」、特許適格性を有さないと判断されるものを「×」で示す。



〔事例1〕火薬および花火
〔事例1〕火薬および花火

(和訳)

1.75%硫酸カリウム、15%チャコールおよび10%硫黄の細粉化された密接な混合物を含む火薬。○

2.(a)発火組成物、(b)塩化カルシウム、(c)請求項1に記載の火薬、(d)発火組成物と塩化カルシウムとを含む第1コンパートメントおよび火薬を含む第2コンパートメントを有する厚紙本体、および(e)一端が前記第2コンパートメントまで伸びており、もう一端が前記厚紙本体の外側に向かって伸びているプラスチック点火ヒューズを含む、噴水型花火。○


(解説)

 claim 1では、3種類の天然物質の組み合わせが記載されている。前記3種類の物質は、天然状態において爆発性を有していないが、それらを組み合わせると、天然状態では生じない爆発性を有するようになる。このような特性は、顕著な差異("markedly different")を有していると言え、よって、claim 1は特許適格性を有する。

 claim 2では、5つの構成要素を含む噴水型花火が記載されている。ここで、claim 2の発明は、組み立て体としての噴水型花火に関するものであり、nature-based productに関するものではないので、特許適格性を有する。



〔事例2〕ポメロジュース
〔事例2〕ポメロジュース

(和訳)

1.ポメロフルーツを提供することを含む方法。×

2.ポメロジュースおよび有効量の添加された保存剤を含む飲料組成物。○


(解説)

 claim 1は、方法のクレームであるが、ポメロフルーツ自体に対する物のクレームと実質的に差異がない。ここで、claim 1のポメロフルーツは、天然で生じたポメロフルーツと区別できる特性(構造、機能等)を有していない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 一方、claim 2では、ポメロフルーツに有効量の保存剤が添加されている。保存剤が天然であるか非天然であるかに関わらず、保存剤の添加により、飲料組成物の保存期間が延長されるという効果を奏している。この特性(効果)は、天然のポメロフルーツジュースの特性とは異なっており、よって、claim 2は特許適格性を有する。



〔事例3〕アマゾン酸
〔事例3〕アマゾン酸

(和訳)

1.精製されたアマゾン酸。×

2.精製された5-メチルアマゾン酸。○

3.デオキシアマゾン酸。○

4.以下の工程を含む方法により製造された酸を含む組成物:

アマゾン酸を提供する工程、および

アマゾン酸のヒドロキシル基を水素で置換する工程。○

5.アマゾン酸を含むコアおよび前記コアを覆う天然ポリマー材料の層を含む、医薬組成物。○

6.アマゾン酸および安定化剤を含む、安定な水性組成物。○

7.1日投与量の精製されたアマゾン酸を、10日~20日の間、大腸がんを患う患者に投与することを含む大腸がんの処置方法であって、前記1日投与量がティースプーンで約0.75~約1.25杯のアマゾン酸を含む量である、方法。○

8.有効量の精製されたアマゾン酸を乳がんまたは大腸がんを患う患者に投与することを含む、乳がんまたは大腸がんを処置するための方法。○


(解説)

 claim 1では、アマゾン酸がアマゾンの樹木の葉で産生されることを見出し、その精製に成功したという前提である。claim 1の精製されたアマゾン酸と天然のアマゾン酸とは構造的および機能的に区別できない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 claim 2では、5-メチル化されたアマゾン酸が記載されている。5-メチル化アマゾン酸は、天然のアマゾン酸と構造が異なる。よって、claim 2は特許適格性を有する。なお、5-メチル化アマゾン酸は、前提として天然のアマゾン酸と機能も異なる(増毛効果)が、機能について言及するまでもなく、構造のみの違いによって特許適格性を有する。

 claim 3では、デオキシアマゾン酸が記載されている。デオキシアマゾン酸は、天然のアマゾン酸と構造が異なるが機能は同一であるとの前提である。claim 3のデオキシアマゾン酸は、天然のアマゾン酸と構造の違いのみをもって、区別できる。よって、claim 3は特許適格性を有する。

 claim 4では、プロダクト・バイ・プロセスクレームが記載されている。claim 4の方法で製造された酸は、デオキシアマゾン酸であり、デオキシアマゾン酸は、天然のアマゾン酸と異なる構造を有する。よって、claim 3は特許適格性を有する。

 claim 5では、アマゾン酸を含むコアと前記コアを覆う天然ポリマー材料の層を含むという特別な構造体を形成しており、天然の物質とは構造が異なる。また、claim 5の組成物は、前提としてアマゾン酸のバイオアベイラビリティを増大させるという機能を有しており、これは天然の物質とは異なる特性である。よって、claim 5は特許適格性を有する。

 claim 6では、天然のアマゾン酸が不溶性であるとの前提で、アマゾン酸に安定化剤を含ませることで水溶性の組成物を形成している。よって、claim 6の組成物に含まれるアマゾン酸は、天然のアマゾン酸とは特性が異なるため、claim 6は特許適格性を有する。

 claim 7では、請求の対象がアマゾン酸自体ではなく、アマゾン酸の利用(大腸がんの処置方法においてアマゾン酸を使用すること)に向けられている。よって、claim 7のアマゾン酸が天然のアマゾン酸と異なる顕著な特性を有するかについて検討するまでもなく、claim 7は特許適格性を有する。

 claim 8では、請求の対象がアマゾン酸自体ではなく、アマゾン酸の利用(乳がんまたは大腸がんの処置方法においてアマゾン酸を使用すること)に向けられている。よって、claim 8のアマゾン酸が天然のアマゾン酸と異なる顕著な特性を有するかについて検討するまでもなく、claim 8は特許適格性を有する。



〔事例4〕精製されたタンパク質
〔事例4〕精製されたタンパク質

(和訳)

1.抗生物質L。×

2.精製された抗生物質L。○

3.四面体結晶形である、請求項1に記載の抗生物質L。○

4.組み換え酵母により発現した、請求項1に記載の抗生物質L。○

5.配列番号2と少なくとも90%の同一性を有し、かつ、配列番号2に対して少なくとも1個の置換修飾を含むアミノ酸配列を含む、単離された抗生物質。○


(解説)

 claim 1では、天然の抗生物質Lを一部に包含しており、天然の抗生物質Lと区別できる特性(構造、機能等)を有していない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 claim 2では、claim 2の抗生物質Lと天然の抗生物質Lとは、構造(異なる結晶形、糖鎖の形態)および機能(低免疫原性、半減期等)が異なるという前提である。すなわち、天然の抗生物質Lと精製後の抗生物質Lとで、抗生物質Lの構造が変化している(それに伴い、機能も変化している)。よって、claim 2は特許適格性を有する。

 なお、本事案では、単に「精製された」という文言により、特許適格性を有する訳ではない点に注意が必要である。

 claim 3では、claim 3の抗生物質Lと天然の抗生物質Lとは構造および機能が異なる。よって、claim 3は特許適格性を有する。

 claim 4では、claim 4の抗生物質Lと天然の抗生物質Lとは構造および機能が異なる。よって、claim 4は特許適格性を有する。

 claim 5では、claim 5の抗生物質Lと天然の抗生物質Lとは構造が異なり、さらに一部では機能も異なり得る。よって、claim 5は特許適格性を有する。



〔事例5〕遺伝学的に改変された細菌
〔事例5〕遺伝学的に改変された細菌

(和訳)

1.炭化水素分解系を提供する、安定的エネルギー産生プラスミド。×

2.少なくとも2つの安定的エネルギー産生プラスミドを含むPseudomonas属由来の細菌であって、前記プラスミドの各々が別々の炭化水素分解系を提供する、細菌。○


(解説)

 claim 1では、claim 1のプラスミドと天然のプラスミドとが構造および機能について差異がない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 claim 2では、claim 2のプラスミドがより多くのプラスミドを有するように遺伝学的に改変されている点で天然の細菌と構造が異なる。また、機能については、claim 2のプラスミドが少なくとも2種類の炭化水素を分解できるという点で、1種類の炭化水素のみを分解できる天然の細菌とは異なる。よって、claim 2は特許適格性を有する。



〔事例6〕細菌の混合物
〔事例6〕細菌の混合物

(和訳)

1.相互に阻害しない異なる複数種の選択されたRhizobium属の細菌を含むマメ科植物用接種剤であって、前記細菌がそれらに特異的なマメ科植物内で窒素固定を行う能力について互いに影響を与えない細菌である、接種剤。×

2.Rhizobium californianaおよびRhizobium phaseoliの混合物を含む、マメ科植物用接種剤。○


(解説)

 claim 1では、claim 1の細菌は、相互に干渉しない状態で含まれており、各細菌の性質は何ら変わっていない。claim 1の細菌は、天然の細菌と区別できる特性(構造、機能等)を有しておらず、よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 claim 2では、混合物とすることにより、細菌の感染対象が広がるという特性をもたらす。これは、天然の細菌と比較して顕著な差異であり、よって、claim 2は特許適格性を有する。



〔事例7〕核酸
〔事例7〕核酸

(和訳)

1.配列番号1を含む単離された核酸。×

2.配列番号1と少なくとも90%の同一性を有し、かつ、配列番号1に対して少なくとも1個の置換修飾を含む配列を含む、単離された核酸。○

3.さらに前記核酸に結合した蛍光標識を含む、請求項1に記載の単離された核酸。○

4.請求項1に記載の核酸および異種核酸配列を含む、ベクター。○


(解説)

 claim 1では、claim 1の核酸と天然の核酸とが機能について差異がない。構造に関しては、一部異なるが、顕著な差異("markedly different")とは言えない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。なお、本事例は、Myriad最高裁判決に相当する事例である。

 claim 2では、claim 2の核酸と天然の核酸とは構造が異なり、さらに一部では機能も異なり得る。よって、claim 2は特許適格性を有する。

 claim 3では、claim 3の核酸と天然の核酸とは構造および機能が異なる。よって、claim 3は特許適格性を有する。

 claim 4では、ベクターが他の種由来(異種)の核酸配列を含んでいる。このような構成を含んだベクターは、天然には存在しない。よって、claim 4は特許適格性を有する。



〔事例8〕抗体
〔事例8〕抗体

(和訳)

1.タンパク質Sに対する抗体。×

2.ヒト抗体である、請求項1に記載の抗体。○

3.配列番号7-12で示されるCDR配列を含むマウス抗体である、請求項1に記載の抗体。○

4.キメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。○

5.変異Fcドメインを含む、請求項1に記載の抗体。○


(解説)

 claim 1では、タンパク質Sに対する抗体が、マウスや野生型コヨーテで天然に生じることが知られているという前提である。ここで、claim 1の抗体は、マウスや野生型コヨーテで産生されるタンパク質Sに対する抗体を含んでいる。これら天然のタンパク質Sに対する抗体とclaim 1の抗体とは構造的に区別できない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 claim 2では、claim 2の抗体と天然のタンパク質Sに対する抗体とは構造および機能が異なる。よって、claim 2は特許適格性を有する。

 claim 3では、claim 3の抗体と天然のタンパク質Sに対する抗体とは構造および機能が異なる。よって、claim 3は特許適格性を有する。但し、claim 3のCDR配列を含むマウス抗体が天然に存在することを審査官が示すことができた場合には、claim 3の抗体は天然の抗体と構造的に区別できないこととなり、特許適格性が否定される。

 claim 4では、claim 4の抗体と天然のタンパク質Sに対する抗体とは構造および機能が異なる。よって、claim 4は特許適格性を有する。

 claim 5では、claim 5の抗体と天然のタンパク質Sに対する抗体とは構造および機能が異なる。よって、claim 5は特許適格性を有する。



〔事例9〕細胞
〔事例9〕細胞

(和訳)

1.単離された人工ヒトペースメーカー細胞。×

2.マーカーZを発現する単離された人工ヒトペースメーカー細胞。○

3.集団の約10-15%がマーカーZ陽性であり、集団の約85-90%がマーカーP陽性である、ヒトペースメーカー細胞の集団。○

4.単離された人工ヒトペースメーカー細胞の集団を容器内に含む、組成物。×

5.単離された人工ヒトペースメーカー細胞の集団を生体適合性のある三次元支持体内に含む、組成物。○


(解説)

 claim 1では、単離された人工ヒトペースメーカー細胞の一部は、天然のヒトペースメーカー細胞と同じ遺伝子型や表現型を有しているという前提である。そうすると、claim 1の細胞の一部は、天然のヒトペースメーカー細胞と区別できず、よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 claim 2では、claim 2の細胞と天然のヒトペースメーカー細胞とは構造(マーカーZを発現)および機能(増加した酸素利用効率)が異なる。よって、claim 2は特許適格性を有する。

 claim 3では、ヒトペースメーカー細胞の集団は、優れた増殖速度を有する。このような特性は、天然のヒトペースメーカー細胞の集団には見出されない。よって、claim 3は特許適格性を有する。

 claim 4では、claim 1で示した通り、「単離された人工ヒトペースメーカー細胞」は特許適格性を有さない。ここで、「容器」の使用は、周知技術であり、"significantly more"とはなり得ない。よって、claim 4は特許適格性を有さない。

 claim 5では、claim 1で示した通り、「単離された人工ヒトペースメーカー細胞」は特許適格性を有さない。ここで、claim 5の組成物では、「三次元支持体」内に人工ヒトペースメーカー細胞を含むことで、組織再生を促進し、再生医療技術を改善するという効果を有する。この効果は、"significantly more"に該当するため、claim 5は特許適格性を有する。



〔事例10〕食品
〔事例10〕食品

(和訳)

1.Streptococcus thermophilusおよびLactobacillus alexandrinusを含む、ヤギ乳ヨーグルトを製造するためのキット。×

2.Streptococcus thermophilusおよびLactobacillus alexandrinusを混合したヤギ乳を含む、ヨーグルトスターター培養物。○


(解説)

 claim 1では、Streptococcus thermophilusおよびLactobacillus alexandrinusは、天然で生じた細菌であり、天然のStreptococcus thermophilusおよびLactobacillus alexandrinusと区別できる特性(構造、機能等)を有していない。よって、claim 1は特許適格性を有さない。

 一方、claim 2では、Streptococcus thermophilusとLactobacillus alexandrinusとが混合した状態にあるヤギ乳を含んでおり、この混合状態が天然の細菌(またはヤギ乳)自体とは異なる機能的特性を有する。よって、claim 2は特許適格性を有する。



3. まとめ

 本稿では、2014年12月16日に公表された事例集のうち、自然に基づくものの発明に関する事例について解説した。本事例を通して、USPTOの基本的な判断基準は、以下のようであると考えられる。

(a)天然物と構造的な差異を有すれば、特許適格性を有する。

(b)天然物と構造的な差異があれば、機能的な差異は別段要求されることなく、特許適格性を有する。

(c)天然物との差異がわずかな場合には、"significantly more"と認定されず、特許適格性を有さない(特許適格性を有するためには、一定以上の差異が必要である)。

 今回公表された審査ガイドラインの改訂版および事例集に基づいて、101条に対する審査が実際にどのように進められていくのか、今後の動向が注目される。

 また、今回は事例として挙げられていなかったが、特定の遺伝子(タンパク質)を指標として特定の疾患を診断等する発明については、具体的にどのような記載方法であれば許容されるのか、注目されるところである。



以 上


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