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選択発明に関する判例紹介 平成28年(行ケ)第10037号
-「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」事件-

2017911

第1.事件の概要

発明の名称を「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」なる名称の発明について,審決の相違点評価,特に選択発明の判断枠組みに従っての特許性の判断に誤りがあるとして,新規性を否定して特許を無効とした審決を取り消した事例。



第2.判決の概要
1 本件特許の独立クレーム

本件特許の独立クレームは以下のとおり。


  • 【請求項1】

    第一成分として,一般式(I-1)から一般式(I-4)
    (式中,R 1 及びR 2 はそれぞれ独立して以下の式(R-1)から式(R-15)
    の何れかを表す。)で表される重合性化合物を一種又は二種以上含有し,第二成分として,一般式(II)
    (式中,R 3 は炭素数1から10のアルキル基を表し,R 4 は炭素数1から10のアルキル基又はアルコキシル基を表し,mは0,1又は2を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とする重合性化合物含有液晶組成物であって,
    一般式(IV-1)
    (式中,R 3 は前記R 3 と同じ意味を表し,R 4 は前記R 4 と同じ意味を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し,塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない,重合性化合物含有液晶組成物。




2 裁判所の判断

(1)本件審決の判断構造と原告の主張の理解

本件審決が認定した本件発明と引用発明(甲1発明)は,いずれも多数の選択肢から成る化合物に係る発明であるところ,本件審決は,両発明の間に一応の相違点を認めながら,いずれの相違点も実質的な相違点ではないとして,本件発明と甲1発明が実質的に同一であると認定判断し,その結果,本件発明には新規性が認められないとの結論を採用した。・・・

要するに,本件審決は,引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上,甲1発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するかどうかを問題にしており,その結果,本件発明が甲1発明と実質的に同一であるとして新規性を認めなかったのであるから,本件審決がいわゆる選択発明の判断枠組みに従って本件発明の特許性(新規性)の判断を行っていることは明らかである。


(2)甲1発明Aとの対比(包含関係の有無)

…以上によれば,本件発明1は,甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあると認めるのが相当である。


(3)特許性の有無について

  • ア 特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。
    ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあることは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。
    そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとまでは認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められる場合)に限られるというべきである。

  • イ …以上によれば,本件審決は,
    ① 甲1発明Aの「第三成分」として,甲1の「式(3-3-1)」及び「式(3-4-1)」で表される重合性化合物を選択すること,
    ② 甲1発明Aの「第一成分」として,甲1の「式(1-3-1)」及び「式(1-6-1)」で表される化合物を選択すること,
    ③ 甲1発明Aの「第二成分」として,甲1の「式(2-1-1)」で表される化合物を選択すること,
    ④ 甲1発明Aにおいて,「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様を選択すること,
    の各技術的意義について,上記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討した上,それぞれについて,格別な技術的意義が存するものとは認められないとして,相違点1ないし4を実質的な相違点であるとはいえないと判断し,本件発明1の特許性(新規性)を否定したものといえる。

  • ウ 本件審決の判断の妥当性
    本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,…液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である
    そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
    ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである
    以上のとおり,本件審決は,必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから,上記の個別的検討の当否について判断するまでもなく,審理不尽の誹りを免れないのであって,本件発明1の特許性の判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものというべきである。
    したがって,本件発明1の特許性に関する本件審決の判断は妥当でない。




第3.コメント

本件は選択発明の判断枠組みを考えるうえで参考になるケースと思われる。特に,上位概念が記載されている引例に基づいて,本件発明の各構成要件を選択するにあたり,別個バラバラに検討すると格別な技術的意義がなく容易に想到できそうな場合であっても,本件発明が各構成要件の選択を組み合わせる点に技術的意義がある場合は,各構成要件の選択を組み合わせた場合に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があると判示されている点に注目すべき。




以 上






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