香港

 

香港の概要

 香港(全称「中華人民共和国香港特別行政区」)は、ニューヨークとロンドンに続き、世界で三番目の金融中心です。1840年頃にはまだ小さな漁村だった香港は、今は面積1104平方キロ、人口約713万に成長しました。日本でも馴染みのあるブルース・リーやジャッキー・チンなどの著名人も香港から輩出しています。

 阿片戦争後の1842年~1997年の間、香港はイギリスの植民地として管轄されてきましたが、1997年7月1日、中国政府は香港に対して主権を回復し、「香港特別行政区」として設立しました。

 香港島、九龍半島、新界の三大島を含む香港は、亜熱帯気候の影響で一年中に暖かく、平均気温が約22.8℃。しかし地理環境的要因を受け、香港は自然資源が少なく、最も貴重な自然資源は中国南海産の海洋資源です。

 香港は、マドリッド協定、ニース協定、WTO協定、APEC等に加入しています。

 

 

香港の知的財産制度

 香港の知財法域は、主に特許、商標、意匠、著作権の4類を含みます。うちの特許、商標、意匠に関する概要は下表の通りです。

  原授標準特許 標準特許 短期特許 商標 意匠
申請言語 中国語または英語
実体審査
優先権主張
存続期間 20年 8年 無制限 25年
異議申立
情報提供
取消/無効
強制実施

 

 

特許

 香港は、特許性に関する実体審査が存在しませんが、独自の特許制度が設けられています。

標準特許申請制度

中国、欧州、英国の何れかの特許庁による登録特許(以下、対象特許)に基づき、その登録日から6ヶ月以内に標準特許を申請することができます。具体的な手続は、以下のステップを踏まなければなりません。
(i)上記3庁のいずれかにより公開され、香港で特許保護を求めようとする出願(以下、対象出願)について、その公開日から6ヶ月以内に「記録請求」を行い、
(ii)対象出願が上記3庁のいずれかにより特許登録された日から、6ヶ月以内に「登録請求」を行います.。
 パリ条約加盟国で行われた先の出願が優先権主張の基礎となりますが、特定要件を満たす場合でも主張可能(条例98条)。
 標準特許の存続期間は、対象出願の出願日から最長で20年です。

 標準特許は、対象出願の分割出願、または新規構成を追加した対象出願の後願についても特許登録を申請できます。ただし、すでに開示された対応構成を拡大した部分は、その登録請求が認められません。

 標準特許は自発補正が可能です。補正のタイミングは、対象出願の公開後、且つ標準特許登録の許可前です。補正は、当初の開示範囲を超えてはならず、且つ、対象出願に対して行われた補正内容と一致するものでなければなりません。

 標準特許の申請は、その記録請求の公表後、次年の該申請日と同じ日から起算して5年目に或いはそれ以降の年に申請を維持する場合、その期間の満了までに、維持を申請すると共に維持費を支払う必要があります(満了前の3ヶ月から維持を申請できる)。

 維持費は、上記期間の満了後でも、その6ヶ月以内なら追納可能(追加手数料有)。追納期間が過ぎた後でも、合理的理由があれば、該標準特許の申請の見做し取下げ決定日から12ヶ月以内にその回復を申請することができます。

 但し、対象出願の取下げ/拒絶が決定された場合、或いは対象出願の特許登録日から既に6ヶ月途過した場合は、維持申請が却下されます。

短期特許申請制度

 各国際調査機関、中国特許庁、欧州特許庁、英国特許庁のいずれかにより発行された調査(検索)報告に基づき、短期特許を申請することができます。申請期限は基本的には設けられていません。
 優先権を主張する場合は、最初の優先日から12ヶ月以内に短期特許を申請する必要があります。なお、パリ条約加盟国またはWTO加盟国で出願された先願等、若しくは香港で先に申請した短期特許が、優先権主張の基礎となります。

 短期特許の存続期間は、出願日(申請日)から最長で8年です。また、短期特許の登録は、その延期を請求することができます(条例第119条)。

 短期特許は、対象出願が拒絶、取消、見做し取消となった場合を除き、その登録公報準備が完了する前であれば分割できます。ただし、すでに開示された対応構成を拡大した部分は、その登録請求が認められません。
 短期特許も自発補正が可能です。補正のタイミングは、その登録公報準備の完了前です。補正は当初の開示範囲を超えてはなりません。

特許不登録事由

①単なる発見、科学的理論、数学的方法
②美的創作物
③精神的活動、または遊戯若しくは業を行うための計画、規則若しくは方法
④コンピュータプログラム自体
⑤単なる情報提供
⑥人体、動物体に対する外科的治療若しくは処置の方法、またはその診断方法(ただし、当該方法に用いられる製品、物質、組成物はこの限りではない)
⑦公開又は実施が公共秩序、道徳に反する発明
⑧動植物の品種若しくは生産に関わる本質的な生物学的方法(ただし、微生物に関する当該方法またはその製品は、この限りではない)

★2019年12月19日から新特許制度運用開始

 旧制度では、標準特許(存続期間20年)と短期特許(存続期間最長8年、日本の実用新案に相当)とがあります。標準特許は「再登録特許」とも呼ばれ、中国、英国、欧州(英国指定)で登録された特許を標準特許として香港で登録することができます。
 新制度では、「再登録特許」に加え、「原授標準特許(OGP: Original Grant Patent)」が標準特許制度に追加され、香港に原授標準特許出願を行うことも可能。

(原授標準特許制度の概要)
・適用対象:標準特許出願(PCTルートは不可)
・優先権主張:可
・主要手続の流れ:出願(審査請求期間3年)→方式審査→公開(18ヵ月)→実体審査
・分割出願:可
・情報提供:可(出願公開後)

(原授標準特許における実体審査手続の主な流れ)
・OA応答期間は4か月。2か月の延長が可能。
・再審査請求の提出期間は2か月。2か月の延長が可能。
・再審査見解書に対し、2か月以内に意見書の提出が可能(2か月の延長可能)。
・拒絶理由が解消した場合、特許査定が発行され、解消されない場合、最終拒絶通知が発行されます。

(短期特許改定ポイント)
・批准後の実体審査申立(利害関係人)
・独立クレーム数の緩和(上限1個→2個)

 2021年6月現在、「原授標準特許制度」に基づく最初の標準特許が付与されています(出願日から14ヶ月未満の審査期間を経た登録)。
 2021年5月現在、計426件の原授標準特許出願がなされ、うちの33%(142件)は香港域内の出願人による出願で、67%(284件)は香港域外の出願人による出願です。

PCT国際出願に基づく特許申請

 中国を指定国とする国際出願は、中国国内移行後は標準特許または短期特許を申請することができます。また、実用新案として指定した国際出願は、中国国内移行後に短期特許として申請することができます。
 標準特許を申請する場合、中国語で国際公開された出願にあっては、中国出願番号付与通知書が発送されてから6ヶ月以内に、中国語以外で国際公開された出願にあっては、その中国公表日から6ヶ月以内に「記録請求」を行う必要があります。
 短期特許を申請する場合、中国国内移行後の6ヶ月以内、若しくは中国出願番号付与通知書が発送されてから6ヶ月以内に登録を申請する必要があります。

新規性喪失の例外規定

 標準特許についてはその対象出願の出願日から、短期特許についてはその申請日から遡って6ヶ月内に公開された発明について、その公開が以下のいずれかの事由による結果であれば、新規性喪失の例外規定を適用できます。
(i)出願人または発明者にとっての明らかな発明濫用
(ii)正式な、または認可された国際展覧会による展示公開
展示とは、香港の「国際展覧会公約」に規定された展示を指します。

強制実施許可

 特許登録から3年後は、何人も所定の理由により実施の許可を裁判所に申請することができます。

更新

 標準特許は、最初の3年存続期間以降には、当該存続期間が満了する3ヶ月前から1年単位で更新することができます。更新期限の途過後でも、その6ヶ月以内に追納可能(追加手数料有)。
 短期特許は、最初の4年存続期間以降には、当該存続期間が満了する3ヶ月前から、4年単位で更新することができます。更新期限の途過後でも、その6ヶ月以内に追納可能(追加手数料有)。

救済

 年金未納/年金未追納による期間満了で消滅した特許は、合理的な理由がある場合に、消滅日から18ヶ月以内に回復を申請することができます(更新手数料+追納手数料有)。

異議申立/取消審判による補正/取消

 標準特許は、その対応指定特許が指定特許庁での異議申立/取消審判手続により補正/取消された場合、当該標準特許についてその補正/取消命令の謄本等を提出しなければなりません。なお、当該補正による効力は、特許登録日に遡ります。当該取消により、特許は最初からなかったものとされる。

職務発明

 通常職務もしくはそれ以外の特定職務の遂行において行なわれ合理的に結果が期待されていた発明、および、職務内容およびそれ由来の責任により従業者が特定の義務を負っていた発明は、使用者に属すると見做される。
 従業者は、職務発明の特許登録もしくは自分に属する非職務発明の特許登録、および、使用者にもたらされる職務発明特許の利益に対し、正当な補償を要求する権利を有する。前記補償の実施後、従業者は、自分に属する当該発明に係る権利を使用者に譲渡、または排他的ライセンスを許諾した場合、相当の補償を要求する権利を有する。

 

 

商標

香港の商標登録は、概ね以下の流れとなります。

 出願
  ↓
 形式要件の審査
  ↓
 調査と審査 ←聴取(任意)
  ↓      ↓
 公告/異議申立期間(公告日から3ヶ月以内)
  ↓
 登録

基礎事項

(i)登録対象:文字(人名を含む)、記号、設計様式、英文字、フォント、数字、図形要素、色、音、匂い、商品の形状及び包装、若しくはこれらの組み合わせ。
(ii)指定商品/サービス分類:ニース分類に従い、複数の指定は可。
(iii)商標タイプ:一般商標、集団商標、証明商標、防護商標等。
(iv)優先権:パリ条約加盟国またはWTO加盟国で出願された商標先願等に基づく優先権(優先期間6ヶ月)
(v)登録までの最短時間:約6~10ヶ月(※中国は9ヶ月以内)。
(vi)登録存続期間:出願日から10年。10年ごとに更新可能。
(vii)商標の分割、合併:可能ですが、規定の要件を満たす必要があります。
(ⅷ)権利不要求制度:自発的または拒絶理由に応答する形で商標構成中の識別力ない部分について専用権を放棄することができます。
(ⅸ)コンセント制度:引用商標権者から同意書(Letter of Consent)が提出された場合、拒絶理由は解消されます。

拒絶理由

(i)形式的不備:補正通知が発行されてから2ヶ月以内(延長不可)は補正できます。
(ii)最初の拒絶:拒絶理由通知が発行されてから6ヶ月以内(3ヶ月延長可能、聴取請求可)は応答できます。
(iii)再拒絶(拒絶査定):拒絶理由通知が発行されてから3ヶ月以内は再応答できます(無効審判、譲渡/許諾、異議申立、係属裁判中などの特定事由により応答準備時間が要される場合は、3ヶ月延長可能)。

・主な絶対的拒絶理由(11条)

 ①識別性のない商標
 ②記述的標章のみからなる商標
 ③慣用商標
 ④商品自体の性質に由来する形状のみからなる商標
 ⑤公の秩序を害する商標
 ⑥悪意により出願された商標
 ⑦法律により香港において使用が禁じられている商標

・主な相対的拒絶理由(12条)

 ①先願商標と同一の商標であって同一の指定商品または役務を指定する商標
 ②先願商標と同一の商標であって、類似の指定商品または役務を指定し、かつその使用により公衆に混同を生じさせる商標
 ③先願商標と類似の商標であって、同一または類似の指定商品または役務を指定し、かつその使用により公衆に混同を生じさせる商標
 ④先願商標と同一または類似の商標であって、先願商標がパリ条約により周知商標として保護される対象であり、かつ正当な理由なく後願商標の使用が先願商標の顕著性または名声に対して不当な影響を与えることになる場合
 ⑤取引において、特に偽造商品に関する法律に基づき香港での使用が妨げられる標章、または先に存在する権利、特に著作権又は登録意匠法により使用が妨げられるものである場合
  *④⑤は先行商標の権利者が異議申立がなければ拒絶されない

登録異議申立

出願公告後3ヶ月以内に何人も登録異議申立をすることができます。異議申立の期間は請求により、2ヶ月に限り延長することができ、異議申立は相対的拒絶理由について申立理由とすることができます。
被異議側は、異議申立に係る通知が送達されてから3ヶ月以内は「反対陳述」を提出でき、また、異議側は、反対陳述があった場合には反対陳述に係る証拠/資料の送達から6ヶ月以内に、反対陳述がない場合には異議申立を申請した日から9ヶ月以内に、異議申立の理由を補足する証拠/資料を提出する必要があります。なお、異議側から証拠の提出が無い場合は申立が放棄されたものとみなされます。また、請求により、聴聞審理(ヒアリング)が行われます。異議決定に不服がある場合は第一審裁判所に控訴することができます。

商標登録無効申立

何人も、登録審査官又は第一審裁判所に対し、絶対的拒絶理由又は相対的拒絶理由若しくはこれら両方に基づき、商標登録無効の申立をすることができます。
無効申立書提出の際、無効請求人は無効理由を明確にしなければなりません。無効申立は登録商標に係る指定商品/役務ごとに申し立てることができます。

不使用取消し

継続して少なくとも3年以上香港において、商標権者又はその同意を有する者により、指定商品/役務について登録商標が使用されていないときであって、その使用されていないことにつき理由がない時は、何人も登録審査官又は第一審裁判所に対し、登録商標を取り消すことを請求することができます。
不使用取消請求は、指定商品/役務ごとに請求することができます。

行政訴訟

 決定または裁定に対して不服がある場合は、決定日または裁定日から28日以内は裁判所で提訴することができます。

救済

 年金未納による期間満了で消滅した登録は、消滅日から6ヶ月以内に回復を申請することができます。

 

 

意匠

基礎事項

 意匠は、出願日または優先日の時点で新規なものでなければなりません。新規な意匠とは、
(i)当該物品またはそれ以外の物品について過去に登録されたことがない意匠、
(ii)香港特別行政区またそれ以外の地域で過去に発表または披露されたことがない意匠を指します。
 登録の対象とならないものは、
(i)外観が重要でない意匠、
(ii)公共秩序や道徳に反し、または香港の法律で禁止されたものの意匠
(iii)コンピュータープログラム、若しくは保護された回路配置、文学作品または芸術的特徴を有する物品の意匠です。
 登録有効期間は出願日から5年。5年ごとに更新でき、最長で25年になります。

分割

 補正により削除された意匠は、原出願が係属している期間中であれば、いつでも分割できます。

優先権

 パリ条約加盟国またはWTO加盟国で出願された意匠先願に基づき、優先権を主張できます(優先期間6ヶ月)。

新規性喪失の例外規定

 以下のいずれかに該当する意匠は、新規性喪失の例外規定を適用できます。
(i)意匠の出願日から遡って6ヶ月内に、正式な国際展覧会で展示され、またはその後に展示されたもの
(ii)秘密保持の範囲内で披露されたもの、若しくは他人が設計人の意に反して他人に披露したもの

登録の取消/無効

 所定の理由により、登録取消/無効を申請することができます。

その他

 ロカルノ分類に基づく同類の物品または組物については、1つ以上の意匠を1件として出願できます(料金減免可)。

 

 

参考ソース

香港知識財産権署公式サイト:

http://www.ipd.gov.hk/eng/home.htm

特許庁公開-外国の知的財産制度・知的財産庁に関する情報:

http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/kokusai/kokusai2/sangyouzaisanken_gaiyou.htm

 
 

 

 

外国専門部 課長 中国支援室 室長 中国弁理士 スペシャリスト  孫 欧


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