特許ハイウェイについて
2007年6月13日
特許業務法人原謙三国際特許事務所
弁理士 廣瀬 真由
近年、特許の出願に際しては、日本国での出願のみにとどまらず、同時に海外にも出願する企業が増加している。また、このように、一の発明を複数の国へ出願するという傾向は、日本国の企業だけでなく、米国や欧州の企業においても同様である。
複数の国へ出願することは、出願人にとって、事務手続き,費用の両面で大きな負担となる。一方、出願を審査する特許庁などの手続きも複雑となり、加えて,各国の特許庁においては,出願件数の増加に伴う審査の遅延や事務作業の煩雑化などが深刻な問題になっている。
このような問題を回避すべく、新しい試みが実施されている。2006年から日米間で試行され始めた特許審査ハイウェイプログラムがそれである。本稿では、この特許審査ハイウェイプログラムを取り上げたい。
《目的》
この特許審査ハイウェイプログラムは、出願人にとっては、海外での早期権利化を容易にし、各国特許庁にとっては第1国の先行技術調査と審査結果の利用性を向上し、審査の負担を軽減し、審査遅延の改善を図ることを目的としている。
《対象案件》
このプログラムの対象となる案件は以下の要件を満たしていなくてはならない。
(1)第2国への出願(プログラムの適用を受けたい出願)が、第1国で出願された1つ以上の出願への優先権を主張するパリ条約による出願であること。ここでは、PCT経由の出願も含まれる(PCT経由の出願は、プログラムの試行開始当時は、対象に含まれていなかったが、2007年5月より対象に含まれるようになった)。
(2)第1国での出願が、第1国の特許庁によって特許可能と判断された少なくとも1つの請求項を有すること。
(3)第2国での出願における請求項の全てが、第1国において特許可能と判断された請求項に十分に対応していること(実質的に対応していればよい)。
(4)第2国の特許庁において出願は審査が始まっていないこと。
《手続き》
(1)プログラムの適用を受けたい旨の申し出をする。
第2国が日本である場合には、このプログラムは、従来からある早期審 査制度の枠組みに含まれると考えられているため、「早期審査に関する事情説明 書」を提出すればよい。なお、事情説明書においては、所定の要件を満たすこと により「先行技術の開示及び対比説明」の記載を省略できる。
(2)第1国での審査の過程において、引用された文献を提出する
(3)第1国の出願について、特許可能な請求項を含み、第1国の出願に対する全てのオフィス・アクション(「特許査定」を含む)のコピー等を提出する。
この申出に関する手続きについては、不備があった場合、補正の機会(1回のみ)が与えられる。
《効果》
第2国において、早期に審査を受けることができる。たとえば、第2国が日本である場合には、申出から平均3ヶ月で第1回目の応答を受領することができる。
上記のように、このプログラムの適用を受けることで、第2国での早期権利化を図ることができると期待されている。しかし、わが国の出願人が、米国においてこのプログラムの適用を受けたい場合、日本国の出願に対する全てのオフィス・アクションの全てを英訳し、その英訳が正確であるというステートメントをコピーに加えて提出しなくてはならない。本プログラムの利用に際しては、これらの手続き費用も軽視できないだろう。
さらに、この特許審査ハイウェイのプログラムの適用を受けるためには、第1国で特許可能と認められた請求項と、第2国での出願の請求項と実質的に対応していなくてはならず、審査基準が両国間で必ずしも一致していない分野では、この制度の利用は難しいかもしれない。
この日米間で始まった特許審査ハイウェイのプログラムは、いま、試行開始から一年がたとうとしている。法制度の異なる両国間で特許出願の審査を連携するという、これまでに無い制度であるがゆえに、さまざまな問題点や課題が浮き彫りになったのではないだろうか。今後本格運用の運びになったときに、どのような点が改善されているか興味深い。また、日米間に続き、日韓間でも特許審査ハイウェイの受付が2007年4月から開始されており、日英間においては、2007年7月から受付が開始される予定である。