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意匠の類似とは
意匠法第23条本文
意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。
意匠の「類似」とは、意匠権の効力が及ぶ範囲を決める中核的概念です。意匠権の効力は登録意匠そのものだけでなく、「類似する意匠」にも及ぶためです。したがって、意匠権侵害の有無を判断する上で「類似か否か」は極めて重要です。
また、意匠法第3条によれば、出願前に公知である意匠と類似の意匠は、意匠登録を受けることできず、同法第9条によれば、先願の意匠と類似の意匠も、意匠登録を受けることできません。
類否判断が必要になるシーン
意匠の類否が問題となるシーンには、例えば、次のような場合があります。なお、見解書における類否のため、出願時の登録可能性の調査は除いています。
- 自社製品の製造・販売の準備段階又は開始後に、問題となりうる登録意匠を発見した場合
- 既に製造・販売している製品が他社の意匠権を侵害していると警告を受けた場合、或いは訴訟を提起された場合
- 1.及び2.とは逆に、他社の製品が自社の意匠権の権利範囲に属するか判断したい場合
- 自社の意匠権に対し、他社から無効審判請求をされた場合、或いは侵害訴訟中に無効の抗弁がされた場合
- 他社の登録意匠の無効理由の存否を判断する場合
以上のように、意匠の類否は貴社のビジネスの成否、御社の社運を大きく左右することがあります。
意匠の類否判断の基本的な手法
意匠法第24条第2項
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
意匠の類否は、需要者の立場から両意匠を見たときに美感上同一又は類似の印象を受けるかどうかで判断します。物品の同一類似が前提ですが、具体的には類否判断は以下の3段階で行われるのが基本です。
【第1段階】意匠の構成の把握
各意匠の構成態様(形状・模様・色彩の組合せ)の全体を客観的・具体的に認定する。
対象となる物品(用途・機能)を踏まえて、構成要素を分析。
例:「電気ポット」の意匠なら、胴体部の形状、取手の配置、注ぎ口の形態、蓋のデザインなどを抽出。
【第2段階】要部の認定
全体の中で需要者の注意を惹きやすい部分を特定する。それが「意匠の美感形成上の要部」となる。逆に、機能上当然に備わることからデザイン選択の自由度がない部分や目立たない部分、ありふれた形態の部分は要部から除外される。
【第3段階】両意匠の対比・美感判断
各意匠の要部を中心として全体を比較して共通点・差異点を抽出・個別評価し、例えば次の点を考慮しつつ需要者が受ける美感上の印象を総合判断する。
全体的印象 見たときの全体的な統一感・バランス
要部の共通性 要部の割合・大きさ・形態・配置・線の流れの一致
差異点の顕著性 相違がどの程度印象を左右し、類否判断に大きな影響を及ぼすか
取引実情・使用態様 需要者の注意力の程度、需要者が注目する部分
結果の判断:
類似:全体的印象が近似し、美感上類似の印象を与える
非類似:全体的印象が明確に異なり、別個の美感を与える
なお、部品の登録意匠についての、いわゆる利用関係についても検討します。この場合、部品の登録意匠に対応する当該製品の箇所を特定し、部品の登録意匠と当該製品の対応箇所に係る意匠を比較し、美感上同一又は類似の印象を受けるかどうかで判断します。
当所の見解書作成について
意匠の類否は、概ね上記のような要領で判断しますが、実際に信頼性のある類否判断をするには、専門的な知識と経験が必要となります。
また、登録意匠の類似範囲については、特許庁に判定を求めることもできますが、判定結果は公開される上、不利な判定結果が出ても不服申立てをすることはできません。
当所に「意匠の類否判断に関する見解書」の作成をご依頼頂ければ、経験豊富な当所の意匠専門弁理士が非公開で信頼性と説得力の高い見解書を作成してご提供致します。