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医薬品特許と医薬品アクセス問題に関する一考察

2009年11月06日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 長谷川 和哉

1.はじめに
 2005年にインド特許法が改正され、インドにおいても医薬品に関する物質特許制度が本格的に導入された。この改正により大手製薬メーカーのインドへの本格進出が期待されるようになった。その一方で、これまで安価かつ高品質であるとされるインド製後発医薬品(ジェニリック医薬品)の供給が実質的にストップすることになり、薬価が上昇し、貧困層が十分な医療を受けられなくなることを危ぶむ声も叫ばれた。貧困層が比較的多い開発途上国においては、AIDS、結核、マラリア、新型インフルエンザなどの問題は特に深刻であり、安価な医薬品の供給がストップすることは死活問題である。
 2005年のインド特許法改正から数年が経過した今、医薬品に関する物質特許と医薬品アクセス問題について考えてみたい。

2.2005年インド特許法改正の影響
 医薬品に関する物質特許を保護対象とすることが盛り込まれた2005年インド特許法改正は、1995年にインドが世界貿易機関(WTO)へ加盟に端を発し、TRIPs協定(WTO協定付属書1C:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の遵守のために行われたとされる1)。
 この改正によって、先進諸国を中心とした大手製薬企業の研究開発拠点のインドへ本格的進出が開始された。例えば、英国AstraZeneca PLCは、2001年にバンガロールに設置した結核の新薬を主な研究対象とした研究開発拠点に対し、2005年からの5年間で3,500万米ドルを追加投資することを決め、また日本の製薬企業では、エーザイが2007年内にインドで研究開発拠点を新設し、2010年から稼働することを決めたと聞く2)。大手製薬企業の研究開発拠点がインドで本格的に稼動すれば、欧米諸国に比べて低賃金であるインドの優秀な人材を新薬の研究開発に投入することができ、これによって新薬の開発コストを下げることが可能となる。また、大手製薬企業にとっては、人口が世界第2位であるインド自体が大規模市場であり、インドへの本格進出によって高収益につながることも期待される。これらの結果、薬価を下げることが可能となると思われる。また、インド国内での新規雇用も創出され、インド国内の雇用活性化にもつながるといえる。

 ところで、2005年改正前のインド特許法(1970年法)の下では、医薬品に関する物質特許が認められておらず、インドにおいては製造方法さえ異なっていれば、例え他国で特許権が存続している医薬品であっても後発医薬品として製造することが可能であった。このような背景の下、インドにおいて医薬品産業(後発医薬品産業)は確実に発展し、インドの経済成長の成長を支える基幹事業の一つとなった3)。そして、インド製後発医薬品は、インド国内はもとより、開発途上国をはじめする世界各国へ安価に供給された。このようなインド製後発医薬品は、安価であることから貧困層の多い開発途上国における医療を支えてきたことは事実である。2005年改正法によって医薬品に関する物質特許が認められるようになったことによって、インドにおいても後発医薬品の製造が特許権の存続期間中は規制されることになる。その結果、後発医薬品が市場に参入までにある程度の時間を要すことになり、正規医薬品が至上を独占するため、薬価は一時的に上昇するかもしれない。ある移民団体のレポートによれば、ある医薬品の正規医薬品がインドの市場を独占することになった結果、1ヶ月薬代が175米ドルから2,000米ドルになったといわれている。薬価が上昇すれば、貧困層にとっては薬代を支払うことができなくなり、十分な医療を受けることが困難になる。貧困層が多い地域ではAIDS、結核、マラリア、新型インフルエンザなどの問題は特に深刻であり、十分な医療が受けられないことは死活問題である。
 上記のような死活問題を回避すべく、ドーハ宣言(WTO 2001年閣僚会議にて採択)によって、感染症などの公衆衛生上の重大な問題が生じた場合には特許権の強制実施権が認められるようになり、強制実施権によって特許権に係る医薬品の製造や輸入を行うことができるようになった。これにより開発途上国における医療アクセスの問題は解決するかと思われた。しかし、このドーハ宣言によって、製薬企業において熱帯感染症等の開発途上国特有の疾患に対する医薬品の研究開発や製造が減退するという新たな問題が浮上した。製薬企業は営利企業であるため当然利益を優先せざるを得ない。このため、特許権に対する強制実施権が設定されやすく、かつ貧困層が多い地域において需要が高い熱帯感染症等に対する医薬品は利益の見返りが少ないと判断し、このような疾患に対する医薬品の製造や研究開発を減少さることとなった。例えばトリパノソーマ病(眠り病)の特効薬エフロルニチンの製造が1995年に中止された。またスラミンやニフルチモックスといった同じく眠り病に効果がある薬も生産中止の危機にさらされた4)。

3.私見
 特許法の制度趣旨を鑑みるに、巨額の資金と労力を費やして完成させた医薬品(物質)についても特許権を認め、発明の公開代償として一定期間独占権を製薬企業に認めることが好ましいと考える。それは、先進国のみならず、医薬品の製造や研究開発を行う設備がまだ整っていない開発途上国であっても同じである。全ての開発途上国において物質特許が認められることによって、先進国の製薬企業が安心して当該開発途上国に進出することができるようになるからである。そして先進国の製薬企業が開発途上国に進出することによって、①先進国の技術を導入することができ開発途上国の技術レベルが向上するとともに、当該開発途上国から新たな発明が創出される可能性がある、②開発途上国は外貨を獲得することができる、③開発途上国において新たな雇用が生まれ、当該国の産業の活性化につながる、④製薬企業は比較的安い人件費により新薬の開発を行うことができるために、薬価をある程度下げることができる、というメリットを享受することができると考える。

 開発途上国における医薬品アクセスの問題については、やはり国家と製薬企業間の協力体制、および国家レベルでの協力体制の構築が必要であると考える。この問題には営利団体である製薬企業が関連する以上、製薬企業単独や、国家または国際機関単独では解決することは困難である。開発途上国の医薬品アクセスを容易にするためには、医薬品に係る特許権の強制実施権設定のハードルを下げ、より容易に設定可能にすればよい。ただし、このように強制実施権の設定を容易に行えば、製薬企業にとってその医薬品に関する事業は利益の見返りが少ないと判断せざるを得ず、その結果、事業規模を縮小せざるを得ない。そうなってしまえば、医薬品アクセスの問題を解決するどころか、さらに悪化させる結果を招く恐れがある。また逆に医薬品に係る特許権の強制実施権設定のハードルを上げれば、医薬品アクセスの問題はそもそも解決しない。
 そうならないためにも、強制実施権によって開発途上国への医薬品供給を行うのではなく、もっと積極的な流れによって医薬品供給が行われる必要があると考える。例えば、重大な病気ではあるが、製薬企業にとっては見返りが少ないと考えられる熱帯感染症等に対する医薬品の開発については、国家レベルまたは国際機関レベルで開発を進めることが挙げられる。また上記のような医薬品の研究開発およびその後の製造に対して、国家または国際機関が製薬企業に対して資金援助をもっと積極的に行ってもよい。ただし、開発途上国が医薬品開発を行う、または資金援助を製薬企業に対して行うことにはある程度限界があると考えられるため、やはり先進国からのサポートおよび製薬企業の協力も必要になると考える。
 医薬品アクセスに関する問題を解決するキーは、最終的には「マネー」になってしまうのかも知れない。しかし医薬品はかけがえのない人の命に関わる極めて重要なものであるため、単なる企業利益や国家利益の追求のためのアイテムとは決してなってはならない。このためにも、先進国-開発途上国間、企業-国家などの垣根を超えた地球全体の問題として捉えて解決に努めていかなければならないのではないだろうか。これらを実現するためには、条約、協定、法律等の整備も重要であるが、まずは戦争などの争いのない世界平和が望まれる。

以上


<参考文献>
1) 岩田 敬二、「インド特許法改正の影響」、パテント2008 Vol.61 No.2 pp42-48
2) 日経BP知財Awareness、「インドの最新知的財産事情(1) 改正特許法で相次ぐ製薬企業の研究開発拠点の新設」、2007/12/03
3) 山名美加、「インドにおける医薬品産業と特許法-Novartis事件からの示唆-」、PATENT STUDIES No.44 pp37-47
4) 津田 明子、小沼 操、「医薬品における特許権保護のあり方-知的財産は何を守るか?-」、The Japan Veterinary Medical Association


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