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「産業上利用することができる発明」及び「医薬発明」の審査基準改訂について

2009年11月27日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 中尾 守男

1.はじめに
 2009年5月29日に知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化専門調査会 先端医療特許検討委員会においてまとめられた「先端医療分野における特許保護の在り方について」を受けて、「産業上利用することができる発明」及び「医薬発明」の審査基準が改訂された。今回の改訂では、保護される発明の範囲の変更も含まれている。本稿ではこの点について整理してみる。

2.「産業上利用することができる発明」の審査基準の改訂
 「産業上利用することができる発明」の審査基準の改訂において、最も重要な改訂は、「人間を診断する方法」の範囲が変わったことである。
 「人間を診断する方法」について旧審査基準と改訂後の審査基準の規定を比較すると次の通りである。

旧)「人間を診断する方法には、病気の発見、健康状態の認識等の医療目的で、人間の身体の各器官の構造・機能を計測するなどして各種の資料を収集する方法、及び人間の病状等について判断する方法が含まれる(旧審査基準第II部第1章2.1.1.1(3))。」
改訂後)「人間を診断する方法は、医療目的で人間の病状や健康状態等の身体状態若しくは精神状態について、又は、それらに基づく処方や治療・手術計画について、判断する工程を含む方法をいう(審査基準第II部第1章2.1.1.1(3))。」

 重要なことは、旧審査基準に記載されていた「各種の資料を収集する方法」が改訂後には記載されておらず、「医療目的で・・・判断する工程を含む方法」に限定されたことである。これに関して、改訂後の審査基準には次の文章も盛り込まれている。

 「人間の身体の各器官の構造・機能を計測するなどして人体から各種の資料を収集するための以下の方法は、医療目的で人間の病状や健康状態等の身体状態若しくは精神状態について、又は、それらに基づく処方や治療・手術計画について、判断する工程を含まない限り、人間を診断する方法に該当しない(審査基準第II部第1章2.1.1.2(3))。」

 つまり、旧審査基準では「人間を診断する方法」として挙げられていた「医療目的で、・・・各種の資料を収集する方法」について、「医療目的で人間の病状や健康状態等の身体状態若しくは精神状態について、又は、それらに基づく処方や治療・手術計画について、判断する工程」を含まない限り人間を診断する方法には該当しないことが念押しのように明記されている。
 要するに、従前は保護されていなかった「医療目的で、・・・各種の資料を収集する方法」が、「医療目的で・・・判断する工程」を含まない限り保護されるように保護対象の発明が拡張されたのである。

 このような改訂の背景には、先進諸国の特許制度との調和がある。
 つまり、米国及び豪州は医療方法の発明を特許対象としているため、「医療目的で、・・・各種の資料を収集する方法」に関する発明は元々保護されている。また、欧州では、2005年12月16日に拡大審判部の審決が出され、最終的な診断を補助するための人体のデータ収集方法(手術、治療、診断が含まれない人体の計測・測定方法)を特許対象とすることが確定した。さらに、韓国もこの審決の後に審査基準を改訂し、同様の措置を講じた(2008年1月)。その他の先進諸国においても、このような発明を特許対象としている。このように先進諸国において既に「医療目的で、・・・各種の資料を収集する方法」に関する発明が保護されていることに鑑み、日本も審査基準の改訂を行なうこととなった。

 私見ではあるが、実際の医療現場に対して、どのように権利行使を行なっていくのか(そもそも権利行使できるのか)疑問が残る。元々、医療行為に特許権を及ぼすことは人道上許されないとされている(例えば平成12年(行ケ)第65号東京高裁平成14年4月11日)。一方、このような発明は主に医療現場で医療行為の一環として実施されることが圧倒的に多いと考えられる。このような事情を考えると医師が医療現場で実施したときに、侵害行為となるのか否かを明確にする必要があると考える。なお、特許庁はこの点に関して「医師により実施される可能性はありますが・・・現時点で医師免責の法定化が必要との結論には至りませんでした。」と述べている。暗に医師による行為は権利侵害にはならないことが前提とされているようにも感じられるが、今後、より明確にする必要があるであろう。

3.「医薬発明」の審査基準の改訂
 「医薬発明」の審査基準の改訂において、最も重要な改訂は、「特定の用法・用量で特定の疾病に適用するという医薬用途が公知の医薬と相違する場合には、新規性を認める」点である。つまり、これも上記2.と同様に保護対象の発明の範囲を拡張する改訂である。

 改訂前では、特定の投与間隔・投与量等の治療態様により特定される医薬が、「特定の用法・用量の医薬」というように「物」の発明として表現された場合であっても、下記(a)及び(b)のように、医薬用途が相違すると認められない限り、新規性が無いとされていた。
(a)患者群が明確に異なる場合(例:従来C型肝炎患者群に対して、ある投与量・投与間隔で投与されていた薬剤について、特定の投与量・投与間隔にすることで、特殊な遺伝子型を保有するC型肝炎患者群に有効なことが明らかになった場合)
(b)適用部位が異なる場合(例:特に適した適用部位が発見された場合)
※(a)(b)に該当しなくても、その剤形に治療態様が反映されることにより、公知の薬剤と明確に物として区別することができる場合は新規性が認められていた。

 一方、改訂後には、「新規性の判断」の項(審査基準第VII部第3章2.2.2(3))のうち、これまでの「投与間隔・投与量等の治療の態様に関して」の項に置き換わり、次の文章が記載されている。

「請求項に係る医薬発明の化合物等と、引用発明の化合物等とが相違せず、かつ適用する疾病において相違しない場合であっても、請求項に係る医薬発明と引用発明とが、その化合物等の属性に基づき、特定の用法又は用量で特定の疾病に適用するという医薬用途において相違する場合には、請求項に係る医薬発明の新規性は否定されない(事例4~6)。(審査基準第VII部第3章2.2.2(3-2-2))」

 つまり、従来のように、患者群、適用部位、剤形が相違せずとも、用法・用量が相違すれば、新規性が認められることとなった。

 この改訂の背景としては、上述の「人間を診断する方法」のような国際的な制度の調和というよりは、むしろ国民のニーズと製薬企業の開発に対するインセンティブの付与が大きい。
 つまり、国民一般の生活水準の向上や公衆衛生・医療水準の向上に伴い、患者や医師からは、効能が同じであっても、副作用や身体への負担が低減されてより安全で安心して用いることができ、患者の生活の質(QOL)を維持・向上することのできる医薬の開発が一層求められている。
 また、用法・用量を刷新する場合、人間に対して使用するものである以上、研究開発のリスクは高く、また多額の開発コストを要するものである。薬事法上も、「用法・用量」の重要性にかんがみ、その変更の際には改めて治験等を行い承認を得ることが必要とされている。換言すれば、適用患者、適用部位が同じでも、用法・用量を改良すれば、多額の開発コストを要していたにもかかわらず、改良された薬剤について特許権を取得することができなかった。そこで、用法・用量が改良された薬剤についても特許権にて保護することで、用法・用量を刷新するための開発のインセンティブを付与することとしたのである。

 なお、参考のため、用法・用量の相違による医薬発明が、国際的にはどのように保護されているのかについて整理すると次の通りである。
 即ち、米国及び豪州においては「特定の医薬を特定の用法・用量で使用して治療する方法」という治療方法の発明として特許対象となる。欧州においては、「特定の用法・用量の医薬」という「物」の発明として保護されるかについての条約解釈の最終確定待ちとなっており、特許対象となるか否かの結論は出ていない。ニュージーランドではスイス形式で保護されている。カナダ、韓国では保護対象外とされている。

 ところで、用法・用量の違いは本当に「物」としての違いとして捉えることができるのかについて興味を持たれる方もいらっしゃるのではないか。小生は最初にこの審査基準を目にしたとき、実際に権利を行使する際に用量・用法の違いをどのように立証するのか興味を持った。この点、政府の見解は次の通りである。
 「実際の取引においても、医薬は用法・用量という情報と一体となって流通している(薬事法第52条の規定により、用法・用量は医薬品添付文書(いわゆる「能書」)やパッケージ(箱)に記載が義務付けられている。)。このように、用法・用量は医薬の一部であり、その構成要素であると捉えることができる。」
 つまり、錠剤や粉末自体ではなく、それに添付されている能書等の記載事項を、物の構成要素として考慮するとの見解であると考えられる。このような考えが成立するのであれば、これまでも用法・用量が相違すれば新規性くらいは認めてくれてもよかったのではないかと思うが、なんにせよ、医薬品の物としての構成を把握する上で能書等の記載内容が考慮されるという点は重要である。

4.最後に
 以上、今回の審査基準の改訂のうち、特に重要と思われる保護対象の拡張に関わる部分について説明した。今回の改訂は特許戦略の幅を広げるものであり、特に製薬業界においてメリットの大きい改訂であるといえる。

(参考文献)
・「先端医療分野における特許保護の在り方について」知的財産戦略本部知的財産による競争力強化専門調査会先端医療特許検討委員会
・特許庁HP「「産業上利用することができる発明」の改訂審査基準(案)及び「医薬発明」の改訂審査基準(案)に寄せられた御意見について」
http://www.jpo.go.jp/iken/sangyouhatumei_iyaku_kekka.htm


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