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「試みることが自明 (Obvious to try)」の判断-日米の比較-

2010年3月15日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 黒田 敏朗

1. はじめに
 2007年4月30日に出された米国連邦最高裁判所(連邦最高裁)のKSR連邦最高裁判決の影響は、機械や電気分野等のいわゆる“予測可能な技術分野(predictable art)”に限定され、生物や化学分野等のいわゆる“予測困難な技術分野(unpredictable art)”にはそれほど影響がないとする専門家もいた。
 しかし、生物関連発明の分野でもKSR判決を踏襲するような「試みることが自明 (Obvious to try)」という新たな非自明性の基準となるようなCAFC判決が出された。我が国における類似の判断が示された判決例と合わせて紹介する。

2. In re Kubin, 561 F.3d 1351 (Fed. Cir. 2009)
 出願人(Marek Z. Kubin et al.)は、2000年9月20日に「NK cell Activation inducing Ligand (NAIL) DNA and Polypeptides, and Use thereof」という名称で特許出願を行った。NK細胞は腫瘍やウイルス感染細胞等を排除する細胞であり、サイトカインの放出を通して免疫応答をコントロールする免疫系の主役の一つである。この出願の背景技術にも記載されているが、従来、ヒトNK細胞は、“p38”または“NAIL”と呼ばれる特殊な表面タンパク質を有し、この表面タンパク質が活性化されることによりNK細胞は細胞障害性能およびサイトカイン放出能を発揮することが知られていた。しかし、そのアミノ酸配列や当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は同定されていなかった。
 Kubinらは、本出願において、ヒトp38(NAIL)タンパク質をコードするcDNAをクローニングし、塩基配列を同定するとともに、NAILタンパク質が免疫系細胞マーカーであるCD48に結合することを示し、新たな医薬用途の可能性を示した。そして、Kubinら出願人は、NAILタンパク質のアミノ酸配列と80%の相同性を有する、CD48結合性タンパク質をコードするヌクレオチドおよびその利用発明について、包括的に出願した。
 USPTOの審査官は、(i) シグナル伝達とNK細胞の細胞障害性に関与するp38(NAIL)タンパク質の存在と、(ii) p38(NAIL)タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体と、を開示する引例に基づき、本願の非自明性を否定した。審査官は、本文献にはp38(NAIL)タンパク質のアミノ酸配列や塩基配列は記載されていないが、従来公知の手法を用いることにより、p38(NAIL)cDNAの塩基配列およびp38(NAIL)タンパク質のアミノ酸配列を同定することができるとした。出願人は、BPAIに審判請求するも非自明性違反は維持されたため、CAFCに不服申し立てした。
 CAFCは、『出願人は、従来公知の手法を用いてNAILのcDNAを単離しただけである。出願当時、既に当業者にとってNAILのcDNAを単離する価値は十分に認識されていることから、従来公知の手法を用いてNAILのcDNAを単離することには十分に動機付けられる。』として、BPAIの判断を維持した。このように、CAFCでも、これまで生物関連発明の分野において適用されてきた基準In re Deuelを適用せず、USPTOの判断を支持し、非自明性なしとの判断を下した。
 ここで注目すべき第1点目は、CAFCは、KSR最高裁判決に基づき、「“obvious to try”は自明性テストとしては不適切である」としたIn re DeuelのCAFC判決を否定した点である。In re DeuelのCAFC判決の概要は、タンパク質の部分アミノ酸配列が公知であっても、当該タンパク質をコードする核酸分子は多数存在するため、たとえ遺伝子クローニングに関する一般的な方法が公知であったとしても、当該タンパク質をコードする核酸分子を取得することは自明ではないとした判決であり、生物関連発明の非自明性の判断に大きな影響を与えてきた判決である。
 さらに、第2点目として、CAFCは、KSR最高裁判決によれば、“obvious to try”とされたクレームは、必然的かつ自動的に103条のもと自明であるわけではないと述べ、In re O’Farrellを基にして、非自明性を主張し得る以下の2つの場合について言及した。
 (1)成功という結果に到達するまで、全てのパラメータを変えたり、多くの選択肢を試したりする場合であって、かつ先行技術がどのパラメータが重要であるか、または多くの選択肢の中でどれが成功しそうかについて示唆・指針を与えていない場合は、自明ではない。
 (2)実験分野において有望と思われる新技術または一般的方法を探求する場合であって、かつ先行技術が、特定の形式のクレームまたはそれを得る方法について一般的指針しか提供していない場合は、自明ではない。

 特に、このIn re Kubinにおける第2点目は、非自明性を主張するための有用な示唆といえ、生物関連発明のみならず、全ての技術分野に適用されるものと考える。


3.我が国における類似の判断が示された判決例
 我が国の判決例にも、上記In re Kubinと類似の判断を示した判決例が存在する。以下、事案の概要について記載する。

 本件発明は、HCV(C型肝炎ウイルス)のエンベロープポリペプチドの可変ドメイン中に存在するエピトープを含有する免疫反応性ポリペプチド組成物に関する発明であり、ワクチン等に利用可能な発明である。裁判所は、引用例1には、HCVの超可変領域に免疫反応性のポリペプチドが存在する可能性が示唆されていることを指摘し、また引用例3には様々なウイルスにおける可変領域に、エピトープが存在し、中和免疫応答を誘起する部位があることが示されていると指摘した。その上で、「引用例1の示唆に引用例3の記載を併せてみれば、当業者は、HCVエンベロープポリペプチドの超可変領域中にも、HIV-1と同様にエピトープを含有する免疫反応性部位があることを期待し、これを確認してみることを強く動機付けられるのであり、その結果、HCVエンベロープポリペプチドの超可変領域中に免疫反応性が見いだされても、そのことは、当業者が期待したとおりの結果が得られたことを意味するに過ぎない・・・。」として、進歩性を否定した審決の結論を支持した。

 本判決は、特許庁審判部による「生物関連発明の主な判決事例集」の進歩性の判断に関して、『出願日(優先日)前にあるタンパク質のある機能の存在が期待され、それを確認しようとする強い動機付けがあった場合、周知手段により当該機能の存在を確認しても進歩性がないとされた事例』として紹介されているものである。In re Kubinの判断基準は、この判決に近い考え方をとっている。日米いずれの国においても、強い動機付けがあり、成功の合理的な期待を持って当業者が試みることが自明である場合であって、効果の顕著性も認められない場合には進歩性は否定される、という判断基準にあるといえる。

以 上

(参考文献)
[1] In re Kubin, 561 F.3d 1351 (Fed. Cir. 2009)
[2] In re Deuel, 51 F.3d 1552, 1558-59, 34 USPQ2d 1210, 1215 (Fed. Cir. 1995)
[3] KSR v. Teleflex, 550 U.S. 398 (2007)
[4] In re O’Farrell, 853 F.2d 894, 903 (Fed. Cir. 1988)
[5] 平成17年(行ケ)第10073号(判決日:平成17年5月17日)
[6] 事例7「免疫反応性C型肝炎ウイルスのポリペプチド組成物」、生物関連発明の主な判決事例集 平成20年3月 特許庁


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