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バイオ支援室

遺伝資源の出所開示要件について -COP10と名古屋議定書の概要-

2011年1月17日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
友野 理生

1.はじめに

バイオ・化学分野においては、医薬品、食品、化粧品などに、微生物や動植物などの遺伝資源が数多く利用されている。遺伝資源には、人類に有用な価値の高い未知の素材が多く残されていると考えられており、今後これらの素材が見出され、研究開発を経て人類に役立てられていくことが期待される。

遺伝資源に関しては、遺伝資源を提供している国(資源提供国)と、遺伝資源を利用する国(資源利用国)との間で、その遺伝資源より得た利益が誰のものかという点で、国際的に議論がされている。遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access and Bdnefit Sharing, ABS)は、生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity, CBD)の目的の1つである(弊所コラム「遺伝資源へのアクセスと利益配分について」を参照)。


2010年10月18日~29日、名古屋において、CBDの第10回目の締約国会議(COP10)が開かれた。以前の会議において、このCOP10までに、ABS問題に関する新たな国際的取り決め(International Regime, IR)の交渉完了が目標とされていた(参考資料1、2)。COP10では、途上国と先進国との間の激しい対立が納まらない中、議長の松本龍環境相が提出した議長案に、加盟国193カ国・地域が全会一致で同意する形で、ようやく名古屋議定書が採択された。この名古屋議定書について、ここに簡単に紹介したい。



2.特許出願における遺伝資源の出所開示要件について

名古屋議定書について紹介する前に、ABS問題において従来から議論のあった特許出願における遺伝資源の出所開示要件について、ここに簡単に説明する。


特許出願における遺伝資源の出所開示要件については、これを国際的に義務化すべきか否かについて、各国(特に資源提供国と資源利用国との間)で意見が分かれている。出所開示要件を義務化すべきと主張する側(特に資源提供国側)としては、特許出願の公開が、遺伝資源の利用について最初に公衆に知られるタイミングとなることが多いため、特許出願の際に出所開示を要求し、特許出願の公開を通じて遺伝資源の利用を監視したいという考えである(参考資料2)。


しかし、出所開示要件が義務化されると、特許出願時に出所開示のための手続きをしなければならず、出願の遅れにつながったり、発明者の出願意欲が減退したりするというおそれがある。また、このようなわずらわしさを避けるために、遺伝資源の利用自体を避けようとする傾向が生じるおそれもある。

また、バイオ分野では、特許出願の際に、配列表、薬理データ等の準備や微生物寄託をする必要がある場合も多く、これらだけでも出願人(発明者)に大きな負担となっている。このうえさらに出所開示要件が加わると、出願人の出願意欲を減退させるおそれがある(参考資料1)。

したがって、資源利用国の多くは、出所開示要件の義務化には反対の立場をとっている。


また、出所開示要件を課す場合に、どこまでを開示要件の範囲とするか(例えば、遺伝資源を加工した「派生物」を含むか否か)についても、各国で考えが異なっている。



3.名古屋議定書

名古屋議定書では、資源利用国に対し、利用されている遺伝資源について、資源提供国の政府の事前同意を得ているかどうか、契約を結んでいるかどうかを監視するチェック機関の設置を義務づけた。ただし、特許出願段階における開示義務は課さず、監視方法については資源利用国の判断に任された。資源提供国の要望に沿う案であるが、資源利用国が歩み寄りやすい案となっている。

また、名古屋議定書では、各国に担当窓口を置くことを求めており、国内法で遺伝資源の持ち出しを厳しく制限している国に対しては、利用手続きの簡素化、手続のための時間の短縮化が期待され、遺伝資源が利用しやすくなる可能性もある。


利益配分の対象とする生物に「派生物」を含むか否かという点に関して、名古屋議定書では、この「派生物」の用語を用いず、「遺伝資源の利用に対し利益配分する」というあいまいな表現となった。実際には、途上国が対象とすることを求めている派生物を含む余地が残されており、各国との契約時に個別に判断することとなるため、注意が必要である。


さらに、名古屋議定書においては、「多国間の利益配分の仕組みの創設を検討すること」、「人の健康上の緊急事態に備えた病原体の入手に際しては、早急なアクセスと利益配分の実施に配慮すること」などの内容も盛り込まれている(参考資料3、4)。



4.今後の対応について

現状では、2002年にABSを確保するための法令として採択された、法的拘束力のないボン・ガイドラインにおいて、特許出願の際の遺伝資源の出所開示を奨励しており、国内で出所開示要件を課すことは国際的にも認められている。実際、中国、インド、ノルウェー、スイスなどでは、特許法において出所開示を規定しており、特に中国とインドでは、出所開示が特許要件となっている。また、ブラジル、デンマークでは、他の法令により出所開示が義務づけられている(参考資料1、2)。


今後、自国内で出所開示義務を課す国がますます増えていくことも考えられる。例えば中国は、2009年10月1日に施行された第三次専利法改正において、特許出願における遺伝資源の出所開示要件を導入しており、また、近い将来ABS国内法を確立する予定である。韓国でもABSへの対応に急速に積極的に動く等、近年続々と各国でのABSへの関心が高まっている。

出願人は、国際出願の際の指定国のうち、1ヶ国でも出所開示義務を課していれば、出所開示をせざるを得ない。遺伝資源提供国の多くが、出所開示要件の義務化に積極的であると考えれば、今後国際出願の際に、遺伝資源の出所開示が必須になるだろうと予想される。そのため、遺伝資源を利用する際には、直接的入手先を確認しておくことが重要である(参考資料1)。


なお、出所開示要件だけでなく、遺伝資源へのアクセスの際にとるべき手続きである、事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent, PIC)、相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms, MAT)に関しても、注意が必要である。ブラジルやインドなど独自のABS国内法を既に制定している国では、PIC、MATに違反した者は、行政処分、刑事罰、特許・出願の拒絶、特許の無効、商標登録の無効等の制裁を課されることもある。このようにして特許が無効とされたり商標が取り消されたりした例がいくつも知られている。また、ペルーやコスタリカでは、国内の権限当局にPIC及びMATの証拠を示さなければ、特許が付与されないという例もある(参考資料1、2)。


このように、遺伝資源を利用する際には、将来的に特許出願する場合に備えて十分に準備をしておくことが必要である。また、名古屋議定書を受けて、今後各国がどのように遺伝資源へのアクセスと利益配分の問題に対応していくかを、注意深く見守っていくべきであると考える。


参考資料

  • 1.パテント2010 Vol. 63 No. 9 「基礎からわかる生物多様性条約」
  • 2.知財管理Vol. 60 No. 9 2010「COP10:遺伝資源へのアクセス及び利益配分(ABS)問題と知財制度への影響」
  • 3.名古屋議定書(JBA仮訳) 財団法人バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所
  • 4.環境省ウェブサイト「報道発表資料」


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