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判例紹介 「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する判決」
平成24年(受)第1204号、第2658号

2015615

(文責:弁理士 芦田 文人)

キーワード:物同一説、特許法36条6項2号

1.判示事項

事件番号 平成24年(受)第1204号、第2658号
事件通称 プラバスタチンナトリウム事件
判決日 平成27年6月5日判決言渡
裁判所 最高裁判所
判決全文URL http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/145/085145_hanrei.pdf
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/144/085144_hanrei.pdf

 いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下、「PBPクレーム」ということがある。)における、特許発明の技術的範囲の確定の在り方および発明の要旨の認定の在り方に関する判決。


(なお、平成24年(受)第1204号および平成24年(受)第2658号、は、判決の論旨がほぼ同様であるため、平成24年(受)第1204号の事案に基づいて解説する。)




2.判決要旨

(事件の概要)

(1)上告人は、プラバスタチンナトリウムに関する特許(特許第3737801号。以下「本件特許」という。)を有しており、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1は、下記の通りである。

「次の段階:

 a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、

 b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、

 c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、

 d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして

 e)プラバスタチンナトリウム単離すること、

 を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」

(2)一方、被上告人は、医薬品のプラバスタチンNa塩錠10mg「KH」(以下、「被上告人製品」という。)の製造販売を行っている。被上告人製品は、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを含有しているが、その製造方法は、少なくとも上記a)を含むものではないと主張し、製造方法の記載がある場合における特許発明の技術的範囲の確定のあり方が争われた。


(原審の判断)

(1)物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における当該発明の技術的範囲は、当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して確定されるべきである。

(2)本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから、本件発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物に限定して確定されるべきであるとした上で、被上告人製品の製造方法は、少なくとも本件特許請求の範囲に記載されている「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成」することを含むものではないから、被上告人製品は、本件発明の技術的範囲に属しないと判断し、上告人の請求を棄却した。


(最高裁の判断)

(1)願書に添付した特許請求の範囲の記載は、これに基づいて、特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項)、かつ、同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定されるという役割を有しているものである。そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の効力は、当該物と構造、物性等が同一であるものであれば、その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。

 したがって、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、物性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

(2)一方、特許法36条6項2号によれば、特許請求の範囲の記載は、「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは、発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって、特許権者についてはその発明を保護し、一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより、その発明の利用を図ることを通じて、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するとの特許法第1条の目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に、その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造、物性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば、これにより、第三者の利益が不当に害されることが生じかねず、問題がある。

(3)他方、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては、通常、当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが、その具体的内容、性質等によっては、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど、出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく、上記のような事情がある場合には、当該製造方法により製造された物と構造、物性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

(4)以上によれば、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

(5)原審の判断は、以上と異なり、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ、その特許発明の技術的範囲は、原則として、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して確定されるべきものとしており、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そして、本判決の示すところに従い、本件発明の技術的範囲を確定し、更に本件特許請求の範囲の記載が上記(4)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととすると判示した。




3.実務における注意事項

 本判決においては、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合は、物同一説(4.参考資料「物同一説と製法限定説」参照)で判断されることを前提として、物の発明を製造方法で特定することができるのは、特許法36条6項2号の「明確性要件」を充たす場合に限られることが示された。

 したがって、物の発明が製造方法で特定されている場合に、従来の審査では、特許法36条6項2号の判断は、実務上比較的緩く解されていたと思われるところ、今後は、まず特許法36条6項2号の「明確性要件」を充たすか否かが判断され、充たさない場合には、製造方法での特定が不明瞭とされ、特許法36条6項2号違反の拒絶理由が通知されると考えられる。すなわち、新規性・進歩性の判断以前に、特許法36条6項2号違反で拒絶される事案が増加するものと考えられる。

 また、「明確性要件」の判断に当たっては、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する(以下、「不可能・非実際的事情」(裁判官千葉勝美の補足意見より引用)という。)」との基準が示された。

 そこで、出願人としては、特許法36条6項2号違反による拒絶を回避するために、「不可能・非実際的事情」について主張・立証することが必要となってくるが、本判決においては、「不可能・非実際的事情」の具体的内容が示されていないため、どのような範囲までが「不可能・非実際的事情」として認められるかは現段階では不透明である。

 したがって、出願人の対策としては、PBPクレームの場合には、すべからく別途製法クレームをたてておき、最低限、製法クレームは抑えられるように準備しておくのが好ましいと思われる。

 なお、PBPクレームに関して、特許庁は、本判決に基づく審査基準を公開する予定があることを発表しているため、「不可能・非実際的事情」についてどのような判断基準が示されるか、注目されるところである。

 一方、PBPクレームの特許発明の技術的範囲の解釈については、従来の審査基準(4.参考資料「PBPクレームに関する審査基準」参照)と同様、「物同一説」による判断がなされており、従来と同様の運用がなされるものと思われる。すなわち、原審で判断されたような真正PBPクレーム・不真正PBPクレーム(4.参考資料「真正PBPクレームと不真正PBPクレーム」参照)の違いにより異なった扱いがされることなく、審査段階では、上記「明確性」要件をクリアしたPBPクレームは、一律に「物同一説」に基づく新規性等の判断がなされると思われる。

 さらに、権利化後においては、特許権者の立場から見ると、従来よりも広い技術的範囲が認定され易くなると考えられ、その結果、侵害訴訟を提起しやすくなると思われるが、一方で、新規性違反等を理由とする特許無効審判や特許無効の抗弁(104条の3)を受ける可能性も増えてくると考えられる。また、無効理由としては、今後、新規性違反等に加えて上記の「明確性要件」違反に基づくものが増えると思われる。




4.参考資料

◎物同一説と製法限定説

「物同一説」:特許請求の範囲が製造方法によって特定された物であっても、特許の対象を当該製法によって製造された物に限定して解釈する必然はなく、これと製法は異なるが物として同一である物も含まれるとする説。

「製法限定説」:物の発明において、当該物の製造方法が記載されたものは、当該物の製法によって特許請求の範囲に記載した物の構成を特定せざるを得ないなどの「特段の事情」があるとは認められないときは、当該製法によって製造された物に限定して解釈すべきとする説。

(平成22年(ネ)第10043号(原審)、第3 1(1)アを参照)


◎真正PBPクレームと不真正PBPクレーム

「真正PBPクレーム」:物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため、製造方法によりこれを行っているとき。

「不真正PBPクレーム」:物の製造方法が付加して記載されている場合において、当該発明の対象となる物を、その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき。

(平成22年(ネ)第10043号(原審)、第4 1(2)イより抜粋)


◎PBPクレームに関する審査基準

(i)発明の対象となる物の構成を、製造方法と無関係に、物性等により直接的に特定することが、不可能、困難、あるいは何らかの意味で不適切(例えば、不可能でも困難でもないものの、理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるときは、その物の製造方法によって物自体を特定することができる(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)。(参考:東京高判平14.06.11(平成11(行ケ)437異議決定取消請求事件「光ディスク用ポリカーボネート形成材料」))

(ii)請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合には、通常、その表現は、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(第II部第2章1.5.2(3)参照)。そして、製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む請求項であって、その生産物自体が構造的にどのようなものかを決定することが極めて困難な場合において、当該生産物と引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性が欠如する旨の拒絶理由が通知される(第II部第2章1.5.5(4)参照)。同様に、審査官が、両者が類似の物であり本願発明の進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が欠如する旨の拒絶理由が通知される(第II部第2章2.7参照)。

(特許庁「特許・実用新案審査基準」第I部第1章2.2.2.4(2)より抜粋)


 請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。

(注)このように解釈する理由は、生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製造方法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でないからである。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。

(特許庁「特許・実用新案審査基準」第II部第2章1.5.2(3)より抜粋)

以 上


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