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医療行為関連発明と特許

2003年6月24日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 酒井善典

1.産業構造審議会知的財産権政策部会特許制度小委員会報告書
平成15年6月12日に、産業構造審議会知的財産権政策部会特許制度小委員会医療行為ワーキンググループ報告書「医療関連行為に関する特許法上の取扱いについて」が特許庁ホームページに掲載されました。この報告書の結論は以下の通りです。  ( http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/toushintou/pdf/iryou_report.pdf

現在の特許審査基準において、「採取したものを採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にして、採取したものを処理する方法(例:血液透析方法)は「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当する」として一般的に特許付与の対象から除外しているところ、このうち「人間に由来するものを原料又は材料として医薬品又は医療機器(例:培養皮膚シート、人工骨)を製造する方法」については、同一人に治療のために戻すことを前提とするものであっても特許付与の対象とすることを明示するよう、速やかに同基準の改訂を行うことが適当であると考える。なお、医療関連行為に関する特許法上の取扱いに関し、上述の基準改訂による出願動向や研究開発活動への影響、新たに取得された権利の行使の状況等について、今後とも、将来における議論の必要性も含めて注視することが適切である。

したがって、特許庁は審査基準を改訂し、上記「人間に由来するものを原料又は材料として医薬品又は医療機器(例:培養皮膚シート、人工骨)を製造する方法」を特許付与の対象とする運用を始めるものと考えられます。その結果、再生医療や遺伝子治療関連技術のうち、皮膚の培養方法や細胞の処理方法等が特許付与の対象となり、新技術の事業化が促進されることが期待できます。

一方、医療関連行為行為一般を特許対象とすることの是非については、その政策的必要性、現実的影響等について議論の積み重ねが必要であると考えられ、現時点では合意を形成するには至らなかったと報告されています。
本報告書の発表に先立ち、報告書(案)について、平成15年4月21日〜5月20日にパブリックコメントの募集が行われ、9件の意見が特許庁に寄せられました。これらの意見の概要は以下の通りです ( http://www.jpo.go.jp/iken/sankosin_iryou_pub.htm )。

・ 医療関連行為のうち、人間に由来するものを原料又は材料として医薬品又は医療機器を製造する方法を特許付与の対象とする結論については賛成意見が大勢であった。
・ 特許付与の対象拡大は特許審査基準の改訂でなく、法律改正によって対応すべきとの意見があった。
・ その他の医療関連行為への特許付与についても特許付与の対象とすることを要望する意見が多かった。また、この場合、特許権によって医師による医療行為が制約を受けないように考慮すべきであるとの意見が多かった。

2.現行の特許審査基準による運用
特許審査基準の「第II部 特許用件 第1章 産業上利用できる発明」には、医療行為関連発明の取扱いについて以下のように記載されています。

2.1 「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型
(1)人間を手術、治療又は診断する方法
人間を手術、治療又は診断する方法は、通常医師(医師の指示を受けた者)が人間を手術、治療又は診断する方法であって、いわゆる「医療行為」といわれているものである。
医療機器、医薬自体は、物であり、「人間を手術、治療又は診断する方法」に含まれないが、医療機器(メス等)を用いて人間を手術する方法や、医薬を使用して人間を治療する方法は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当する。

また、人間から採取したもの(例:血液、尿、皮膚、髪の毛)を処理する方法、又はこれを分析するなどして各種データを収集する方法は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当しない。ただし、採取したものを採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にして、採取したものを処理する方法(例:血液透析方法)は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当する。
さらに、人間に対する避妊、分娩などの処置方法も、上記「人間を手術、治療又は診断する方法」に含むものとする。

すなわち、医療行為関連発明は「産業上利用することができる発明」(特許法第29条第1項柱書き)に該当しないとの理由で、特許付与の対象から除外されています。この背景としては、こうした発明は大学や大病院においてなされており、特許制度によるインセンティブ付与の要請が強くなく、また、医学研究は研究開発競争になじまないとする政策的理由や、医薬品・医療機器に比較して、医療行為の場合は緊急の対応を求められることが多く、実施に当たって特許権者の許諾を求めなければならないとするのは不当であるとする人道的理由などが挙げられています。

3.医療行為に関する最近の判例
平成14年4月に医療行為関連発明に関する審決取消訴訟の判決が東京高等裁判所により出されました(東京高裁平成14年4月11日判決平成12年(行ケ)第65号審決取消請求事件)。判決は、拒絶査定の維持を認めた特許庁の審決を支持するもので、原告の請求は棄却されましたが、裁判所の判断には注目すべき内容が含まれています。なお、これに対する上告はなされておらず、本判決は確定しています。
この審決取消訴訟における争点の1つとして、「医療行為は産業に該当しないか」という点が争われました(争点は他にもありましたが、ここでは省略します。)。その概略を以下に記載します(詳細は判決をご覧下さい)。

原告の主張
被告自身、近年、特許法にいう「産業」を広義に解釈し、金融業や保険業のようなものまで「産業」として取り扱っているのが現状である。このような状況の下で、医療行為のみが医療行為であることだけを理由として一律に「産業」から除外されるとすることは、解釈上、不自然というほかない。

被告の主張
人体の存在を必須の構成要件とするものが「産業上利用することができる発明」に当たらないとすることは、従来から、判決においても支持されているところである(東京高等裁判所昭和45年12月22日判決・判例タイムズ260号334頁参照)。
原告は、「産業」は広義に解釈すべきで、「医療業」も「産業」として取り扱われるべきであるという。「産業」は広義に解釈すべきであるという点は、被告も認めるところである。被告も、従来から、この「産業」には、製造業以外の鉱業、農業、漁業、運輸業、通信業なども含めてきている。医療機器や医薬に係る産業もこれに含まれることは明らかである。
しかしながら、上記判決が判示するように、「人体の存在を必須の構成要件とするもの」である医療行為は、産業の一種でないと解すべきであり、審査基準においても、人間を手術、治療又は診断する方法(医療行為)は「産業上利用することができる発明」に該当しないとして扱ってきているのである。

裁判所の判断
特許法において、その目的が、発明を奨励することによって産業の発達に寄与することとされていることからすれば、一般的にいえば、「産業」の意味を狭く解しなければならない理由は本来的にはない、というべきであり、この点については、被告も認めているところである。
従来、医療行為の特許性を否定する根拠の主たるものとして挙げられてきた、医療行為は、人の生存あるいは尊厳に深くかかわるものであるから、特許法による保護の対象にすることなく、人類のために広く開放すべきであるとの議論は、必ずしも、十分な説得力を有するものではない。
人の生存あるいは尊厳に深くかかわり、人類のために広く開放すべきであるとされるほど重要な技術であるからこそ、逆に、特許の対象とすることによりその発達を促進すべきである。
少なくとも、医薬や医療機器に特許性を認めておきながら、医療行為のみにこれを否定するのは一貫しない、と考えることには、十分合理性があるというべきである。
医薬や医療機器に係る技術について特許性を認めるという選択をした以上、医薬や医療機器に係る技術のみならず、医療行為自体に係る技術についても「産業上利用することのできる発明」に該当するものとして特許性を認めるべきであり、法解釈上、これを除外すべき理由を見いだすことはできない、とする立場には、傾聴に値するものがあるということができる。

以上のように、裁判所は医療行為自体を「産業上利用することができる発明」に該当するという解釈を妥当とも言えるとしました。しかし、最終的には、医薬や医療機器と医療行為そのものとの間には、特許性の有無を検討する上で、見過ごすことのできない重大な相違があるというべきであり、医師に特許権侵害の責任を追及されることになるのではないかと恐れさせるような状況に追い込む特許制度は、医療行為というものの事柄の性質上著しく不当であるというべきであるから、特許法に特段の措置が講じられていない以上、医療行為の発明を産業上利用できる発明としないと解する以外にない旨が判示されました。
すなわち、これを逆に考えると、裁判所は、「医療行為に特許を与えた場合に、医師が特許権侵害におびえることなく医療行為を行える担保措置さえできれば、医療行為を産業上利用できる発明と解釈すべきである。」と判断していると考えられます。

4.まとめ
今回、産業構造審議会知的財産権政策部会特許制度小委員会の報告書により、医療行為関連発明の一部が特許付与の対象となるよう、特許審査基準が改訂されることになりました。しかし、上記判例でも示されているように、医療行為を「産業上利用することができる発明」に該当しないとする取扱いを今後も続けることは無理があるように思われます。また、産業界からは医療行為関連発明についても他の発明と同様に特許の保護対象とすることが要望されています。
医療行為関連発明と特許についての議論は今後も積み重ねられ、早期に決着することは難しいと考えられますが、将来的には米国のように、医療行為に特許を付与した上で特許権の効力が医師の医療行為に及ばないととする法制がとられるのではないかとの見方が趨勢であると思われます。

5.参考文献等
(1)「医療関連行為に関する特許法上の取扱いについて」産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会、 平成15年6月(http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/toushintou/pdf/iryou_report.pdf
(2)「産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為ワーキンググループ報告書(案)に寄せられた意見の概要」特許庁総務課制度改正審議室、 平成15年6月(http://www.jpo.go.jp/iken/sankosin_iryou_pub.htm
(3)東京高裁平成14年4月11日判決平成12年(行ケ)第65号審決取消請求事件
(4)廣瀬隆行、「医療行為の特許法による保護」、パテント、Vol.56、No.4、69-78、2003

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