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裁判例の紹介 −材料・化学分野−

2004年7月15日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 金子 一郎

目 次
Ⅰ. 特許権の法的性質
 1. 権利の不安定性
 2. 権利の不明確性

Ⅱ. 審判制度・裁判制度
 1. 審判制度
 (1) 拒絶査定不服の審判(特121条1項)
 (2) 特許無効の審判(特123条1項)
 (3) 訂正の審判(特126条1項)
 2. 裁判制度
 (1) 行政訴訟(審決取消訴訟 特178条)
 (2) 民事訴訟

Ⅲ. 特許要件に関する判例、審決例
 1. 発明の成立性(特2条1項)
 ● アルミナの製造法事件(大阪地判昭41.2.14、判時456号56頁)
 ● 除草剤イミダゾール、ピラゾール及びイソチアゾール誘導体事件(東京高判平6.3.22、判時1501号132頁)
 2. 産業上の利用可能性(特29条柱書)
 ● 桃の新品種Ⅱ事件(東京高判平11.5.11、判時1687号119頁)
 3. 新規性(特29条1項)
 ● 置換ベンジルアルコール事件(東京高判平3.10.1・判時1403号104頁)
 ● トリグリセリドの測定方法事件(最高判平3.3.8、民集45巻3号123頁)
 4. 進歩性(特29条2項)
 ● メソ層ピッチの製造法事件(東京高判平2.12.27、無体集22巻3号879頁)
 5. 特許権侵害
 ● 1−αヒドロキシビタミンDの製造方法事件(大阪地判平4.11.26 判時1458号141頁)
 ● 組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子事件Ⅱ2審(大阪高判平8.3.29、知裁集28巻1号77頁)

Ⅳ. 化学・材料分野の発明特有の問題に関する判例、審決例
 1. 利用発明の成立性
 ● ビタミンEニコチン酸エステル事件(大阪高判昭54.10.26、無体集11巻2号516頁)
 2. 用途発明
 3. 選択発明
 ● 有機酸エステル殺虫剤事件(東京高判昭38.10.31、審決公報457号99頁)
 ● 新規ペニシリン及びその塩の選択方法事件(東京高判昭56.11.5、無体集13巻2号816頁)
 4. 数値限定発明
 ● 窒素酸化物含有ガス処理法事件(東京高判平4.11.5、知裁集24巻3号980頁)
 ● 微細エッチング加工用素材事件(東京高判平7.74、取消集51巻43頁)
 ● パラメータ発明

Ⅴ. 参考文献

Ⅰ.特許権の法的性質
特許権とは、無体の財産権たる知的財産権の一種であり、「業として特許発明の実施をする権利を専有する」(特68条)ことができる権利であって、その特徴として以下が挙げられる。

1.権利の不安定性
多くの国では審査制度を採用しており、我が国では、出願に係る発明が特許要件を具備しているか否かを審査し、拒絶理由を発見しなかったものにつき登録によって特許権を発生させる。しかしながら、特許庁における審査は、 膨大な技術情報 に対し、 有限の時間と人員 とによって行われているのであるから、 審査に限界がある ことは止むを得ないことである。

このため、特許権には、 権利の有効性が絶えず争われる という他の財産権には見られない特徴がある。

2.権利の不明確性
特許権の対象たる「発明」は、技術的思想の創作であるから、出願に際して文章によって特定する必要がある(発明を具現化した装置、材料、化合物や薬品そのものによって、発明を特定することは認められていない)。技術的思想(アイデア)たる発明を、文章によって特定することの困難性に加え、出願人は出来るだけ権利範囲が広くなるように特許請求の範囲を記載するのが常であるから、その発明を正確に把握することは困難である。

このため、権利化段階(審査段階)における出願に係る発明の特許性の判断(出願に係る発明と、従来公知の発明との比較)、及び権利化後における発明の技術的範囲の判断(特許発明と、第三者が製造、販売等している装置や材料、組成物等との比較)においては、権利の客体である発明の解釈などにつき、審判や裁判において争われることとなる。

また、特許権の対象たる「発明」は、無体物である技術的思想の創作であるから、ボールペンや本等のような有体物とは異なり、特許権者が権利の客体を占有することができない。すなわち、特許権者が特許発明を実施している場合であっても、当該実施と並行して、第三者も特許発明を実施することができるから、特許発明が第三者により実施されたとしても、特許権者が実施している発明がなくなるといったことはない。このため、第三者による特許発明の実施の事実を発見し摘発することが容易ではない。

このように、特許権には、有体物と比べて、権利の対象が不明確であり、また、権利侵害を発見することが困難であるという特徴がある。

Ⅱ.審判制度・裁判制度

1.審判制度
審判とは、審査における瑕疵ある処分を正し、特許庁の処分に対する信頼性を高めるために、拒絶査定、既に設定登録した特許権の有効性、特許発明の訂正の適否などにつき再度審理する制度である。

(1)拒絶査定不服の審判(特121条1項)
拒絶査定不服の審判(以下「拒絶査定不服審判」という)とは、審査官による審査の結果、拒絶査定を受けた者が、拒絶査定に不服がある場合に、査定の謄本の送達日から30日以内に請求することができる審判である。2001年なされた拒絶査定のうち、約25%に対して拒絶査定不服審判が請求されている。

この審判は、第一審である審査においてなされた審理手続や結果を無視して、最初から審理をやり直す覆審ではなく、審査においてした手続を土台として審理を続行し、新たな資料をも補充し、原査定がなお維持できるかどうかを審理する審査の続審としての性格を有している(特158条、159条)。この原査定と審判との関係は、審決とその審決取消訴訟(178条1項)との関係とは全く異なる(吉藤『特許法概説』592頁)

(2)特許無効の審判(特123条1項)
特許審査および拒絶査定不服審判を経て特許権が付与されたもののうちには、審査官・審判官の過誤や、審査・審判の限界により、本来特許されるべきではなかったものも存在することは仕方がないといえる。しかしながら、このような、本来特許されるべきでなかった発明の特許権が存在すると、特許権者を不当に保護し、本来ならば自由に実施することができる自由技術の実施を禁止することとなるから、特許法の目的である産業の発達(特1条)を阻害する結果となるのは明らかである。

そこで、法は、上記のような、本来特許されるべきではなかった特許を、遡及的に消滅させる(初めから権利が存在しなかったものとする)べく、特許無効の審判(以下「特許無効審判」という)を規定している。

なお、2004年1月1日から特許異議申立制度が廃止され、無効審判制度と統合されたことに伴い、無効審判を請求する者に対して利害関係を要求することなく「何人も請求することができる」と改められた。

2001年に請求された無効審判は283件である一方、特許異議申立の件数が4000件である(特許庁資料より)。2004年1月1日に特許異議申立制度が廃止された後、無効審判の請求件数が増加すると見込まれる。

(3)訂正の審判(特126条1項)
訂正の審判(以下「訂正審判」という)とは、発明の保護を図ることを目的として、第三者に不測の不利益を与えない範囲において、特許権者に訂正の機会を与える制度である(特126条1項)。

特許権が設定登録された後は、特許請求の範囲及び明細書は一種の権利書となるから、その内容を自由に変更することを認めるべきではない。しかしながら、特許権の一部に無効理由が存在することを理由に、有効な部分をも含めた全体が無効であると主張される場合がある。このような場合に、有効な部分をも含めて特許権全体を無効とすると、特許権者に酷であり、また、発明の保護にも欠けることとなる。

そこで、法は、第三者に不測の不利益を与えない範囲に限って、特許権の付与後において、特許請求の範囲、明細書又は図面を訂正することを認める訂正審判制度を設けて、特許権者及び発明の適切な保護を図っている。

2.裁判制度

(1)行政訴訟(審決取消訴訟 特178条)
特許庁の処分に対する信頼性を高めるべく、特許法は、上述の通り、拒絶査定について再度審理する拒絶査定不服審判、瑕疵ある特許を無効にする特許無効審判、及び発明を適切に保護するための訂正審判を有している。上記した審判制度により、特許処分の瑕疵がかなり解消されるとはいえ、三権分立を採用する我が国では、行政庁が最終的な処分を行うことはできない。このため、行政庁である特許庁の処分に対して、出願人などが不服を申し立てる途を設ける必要がある。

一般の行政事件では、行政処分に対する不服の申立を地方裁判所とするのが原則であるが、特許審判は、専門的・技術的官庁としての特許庁により民事訴訟類似の準司法的な手続を経て行われるものであるから、審決取消訴訟の前審的性格を有するということができる。このため、特許庁の審決に対する不服の申立は、東京高等裁判所に申し立てる、いわゆる一審省略の構成をとっている(吉藤『特許法概説』651〜652頁)。

審決取消訴訟においては、審判における、審決の結論に影響を与える、手続きの手続上または実体上の瑕疵の有無が審理される。

(2)民事訴訟
特許権が侵害された場合、下記の権利に基づいて、特許権者は、侵害者の侵害行為の差止、侵害行為により生じた損害の賠償などを請求することができる。

差止請求権(特100条)

特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、その停止又は予防を請求することができる(特100条1項)。

差止請求権の行使に際しては、侵害者の故意、過失の存在を問わず、客観的に特許権を侵害した事実さえあればよい。また、差止請求権の行使に付帯して、侵害品の廃棄、侵害のために使用した設備の除却など、をも請求することができる(特100条2項)。
損害賠償請求権、不当利得返還請求権(民709条、民703条)

特許権侵害者に損害賠償の義務が発生するには、民法の原則により、故意、過失が存在することを要する(この点、上記差止請求権とは異なっている)。しかしながら、特許法は、特許権が設定登録されたときに、特許請求の範囲、特許明細書等、特許権の内容を公示する(特65条3項)から、侵害行為に過失があったことを推定する 規定を設けている(特103条)。

また、特許権侵害による逸失利益を立証することが困難であるため、特許法は損害額の推定に関する特別の規定を設けている(特許法102条)。

特許権は絶対的独占権であるから、他人の特許権の存在を知らずに、特許発明を実施することも特許権を侵害する行為に該当することとなる。この点、相対的独占権である著作権とは異なる(著作権の対象である著作物に依拠せず、独立に創作されたものにはその効力が及ばない)。このため、特許権の設定登録時には、特許請求の範囲、明細書、及び図面を特許公報へ掲載して(特66条3項)、公衆に公開することとしている。
補償金請求権(特65条1項)

保証金請求権とは、出願人が出願公開後、特許権の設定登録前に出願に係る発明(特許請求の範囲に記載された発明)を実施した者に対し請求することができる権利である(吉藤『特許法概説』414頁)。

特許法は、重複研究や、重複投資を防ぐことを目的として、出願日(優先権の主張を伴う出願の場合は優先日)から1年6ヶ月経過後に、出願内容を強制的に公開する出願公開制度(特64条)を採用しているから、当該公開により、第三者が出願に係る発明を模倣することが可能となる。このような、模倣行為は、特許権の設定登録後においては、特許権により排除することができるが、出願公開後特許権の設定登録までの期間は、特許権の効力の対象外である。

そこで、法は、一定の要件の下、上記のような模倣行為により生じた出願人の損失を補償する補償金請求権(特65条1項)を規定している。

Ⅲ.特許要件に関する判例、審決例

1.発明の成立性(特2条1項)
発明として成立するためは、自然法則を利用したもの(特2条1項)であることが必要である。

●アルミナの製造法事件(大阪地判昭41.2.14、判時456号56頁)

争点
発明が完成していると認められるためには、課題解決の手段と効果との因果関係が学理的に理解されていることが必要か。

判決
「発明の完成を示すために、課題解決のための外部的因果関係を学理的に理解していることまでは要求されない。それは学問の世界に属する。」

⇒学会における学術論文では、得られた結果の理論的説明が重要であろうが、特許法上の発明の要件を満たすためには、客観的事実さえあれば十分であり、理論的根拠を明確に把握することまでは要求されない。

●除草剤イミダゾール、ピラゾール及びイソチアゾール誘導体事件(東京高判平6.3.22、判時1501号132頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』104頁)

争点
化学物質発明が完成したと認められるためには、新規な化学物質が製造されたことが確認できれば足りるか。

判決
「化学物質発明は、新規で、有用、すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから、その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とすべきである。」
「そして、化学物質発明の成立のために必要な有用性が認められるためには、・・・一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところであり、・・・したがって、化学物質発明の有用性を知るには実際に試験することによりその有用性を証明するか、その試験結果から当業者にその有用性が認識できることを必要とする。」

⇒化学物質発明にはその構造自体から作用効果を判断できないという特徴があるから、その有用性は実際の試験等によって証明することが必要である。
なお、配列自体からその効果を予測できないという点においては、遺伝子関連出願も同様であるので、例えば、ETSと呼ばれる機能が不明のDNA断片は、有用性・産業上の利用性を充足するには、出願当初明細書にその機能が特異的に記載されている必要がある。

2.産業上の利用可能性(特29条柱書)
発明が特許を受けるためには、産業上利用できるものでなければならない。

●桃の新品種Ⅱ事件(東京高判平11.5.11、判時1687号119頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』5頁)

事実
複数の桃の品種の交配と選抜淘汰によって特定の形質を有する新品種の桃を育成しこれを無性的に増殖する発明は、交配による育種の過程の再現性が極めて低いものであった。

争点
再現性が極めて低いという理由により、産業上の利用性がないといえるか。

判旨
「本件発明における本件作出過程を反復実施することにより、本件発明の育種目標とする形質と同じ形質が発現する可能性は、現実にはあり得ることである。そうすると、形質遺伝に係る遺伝構造の同一の観点からではなく、現実に発現する遺伝形質(特に、育種目標とする形質)自体の同一の観点からみるならば、本件作出過程により同じ形質はあり得るものと認めるのが相当である。
そして、本件発明においては、一旦本件黄桃の形質が得られた以降は、本件黄桃は、常法により、無性的に増殖を繰り返すことができるのであり、これを考慮すると、本件作出過程により同じ形質が再発現する確率は、高いものとはいえないことをもって、本件発明が産業上利用できないということはできない。」

⇒一定の結果を得るための手段が見出されている場合、再現性が低くても、産業上の利用可能性があるものとして認められる。但し、再現性の程度と発明の成立性の関係は、発明の性質により異なり、本件発明のように一回適切な形質が得られれば、後は無性増殖が可能であるから目的を達するといえる。なお、御木本幸吉が明治29年に養殖真珠の特許2670号を取得した時の成功率は、数%程度であったとのことである。
一方、正確な再現性を達成することが本質であるような発明(例えば、機械分野の発明)の再現性が低い場合には、発明が未完成であると判断される場合もある。

なお、リンゴの「むつ」「ふじ」などのような突然変異による新品種は、育種過程の再現性を満たすことは困難であるが、増殖過程の再現性を満たすことは可能である。特許法では、植物新品種の発明の成立性の判断においては、その確率は低くてもよいが、育種過程の再現性があることを必要としている。このため、突然変異による新品種は、種苗法によって保護することが適当である(種苗法では、品種登録することにより、実際に育成された品種を増殖する権利が登録から20年間認められる。)

3.新規性(特29条1項)
発明が特許を受けるためには、公知の発明と同一であってはならず、新規なものでなければならない。

●置換ベンジルアルコール事件(東京高判平3.10.1・判時1403号104頁)
 (増井・田村『特許判例ガイド』48-50頁)

事実
出願に係る発明が「光学活性体」であるのに対して、公知文献に光学活性体の1対1混合物の「ラセミ体」が開示されていた。

争点
ラセミ体の公知発明と、光学活性体の発明とは同一性があるか否か。

判決
「原告は、従来は分割が不可能とされていたものを単独の物質として提供する行為は創作的価値を有するから、その結果として得られた物質そのものに新規性を認めるべきであり、本願発明のSアルコールと引用例記載のRSアルコールとは実質的に別異の物質に他ならない、と主張する。
しかしながら、ラセミ体について本件出願前から種々のラセミ分割(光学分割)の方法が行われていたことも、当業者にとって技術常識に属する事項である。したがって、仮にRSアルコールについて本件出願当時は的確なラセミ分割の方法が未だ知られていなかったとしても、ラセミ分割の方法は、Sアルコールをより高純度の形で取得する精製方法の一種に擬せられるものと考えるべきであるから、新規な合成法によってSアルコールを単独の物質として提供する行為は、方法の発明としてならばともかく、物の発明として新規性を有するとすることは相当でないと考えざるを得ない。」

⇒物としての同一性を判断するにあたっては、対比される刊行物の記載には物の構成が開示されてあれば、出願に係る発明の新規性を阻却するのに十分である。方法の発明であれば別の判断がなされる。
なお、方法の発明には、単純方法の発明と製造方法の発明とがあり、製造方法の発明の特許権の効力は、その製造方法によって製造された物にまで及ぶ(特2条3項3号)から、Sアルコールの製造方法として特許権が設定されれば、その製造方法によって製造された物にも特許権の効力が及ぶこととなる。

●トリグリセリドの測定方法事件(最高判平3.3.8、民集45巻3号123頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』)43-44頁)

事実
特許請求の範囲には「リパーゼ」と記載されているのに対し、発明の詳細な説明には「Raリパーゼ」のみが記載されている。

争点
特許請求の範囲に記載された「リパーゼ」は、「Raリパーゼ」に限定解釈されるか。

判決
「特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当っては、この発明を同条1項各号の所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情がない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」

⇒特許性の判断は、特許請求の範囲に記載された発明と、特許法29条1項各号の発明(引用文献に記載されている発明等)とを比較してなされるが、このとき、特段の事情がなければ、明細書の発明の詳細な説明の記載されている事項が参酌されることはない。発明の詳細な説明に記載されたものにまで限定しなければ、出願に係る発明と公知発明との相違が明確にならない場合、補正により発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲に加える必要がある。

4.進歩性(特29条2項)
発明が特許を受けるためには、公知の発明に基づいて、いわゆる当業者が容易に発明をすることができないものでなければならない。

●メソ層ピッチの製造法事件(東京高判平2.12.27、無体集22巻3号879頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』56-57頁)

事実
出願に係る発明は、炭素繊維の製造のための紡糸用ピッチの製造を課題とするものであるのに対し、引用例は電極に使用されるピッチの製造を課題とするものであった。

争点
出願に係る発明とは課題が全く異なる引用例記載の引用発明を進歩性の判断資料とすることができるか否か。

判決
「両発明は、その課題を異にしており、引用例には、本願発明の解決課題に関する事項はもとより、これを示唆する事項も見出し得ないものであるから、一見両者の構成に共通している如き点があったとしても、引用例記載の発明を本願発明の容易想到性判断のための対比資料とすること自体相当でない。」
⇒課題において明確に相違する引用発明は、出願に係る発明の進歩性判断の資料にならない。ただし、引用発明の課題を上位概念で捉えた場合に、出願に係る発明と共通する場合、引用文献に記載された課題が出願に係る発明と相違する場合であっても、当該引用文献は進歩性判断の資料とされることがある。

5.特許権侵害
技術的思想の創作という無体の観念的存在である特許発明の範囲を技術的範囲といい、特許侵害の有無は、被告の特定の物や方法が特許発明の技術的範囲に属するか否かで判断される。
特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(特70条1項)、特許請求の範囲に記載された用語の意義の解釈においては、明細書の記載および図面が考慮される(特70条2項)

●1−αヒドロキシビタミンDの製造方法事件(大阪地判平4.11.26 判時1458号141頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』138-139頁)

事実
天然のビタミンDよりも医薬品としての活性が高い合成ビタミンDの製法特許に関し、特許請求の範囲には、水酸基を有する出発物質をそのまま、あるいは「アシレート」として(つまり、水酸基を「アシル化」して)反応させると記載されていた。

争点
「アシル化」とは、水酸基(−OH)をカルボン酸エステル(−OCOR)とすることであるが、アセチル化のようにRが炭化水素の場合(狭い意味)に限られるか、Rが酸素を含むメトキシ基である場合(広い意味)をも含むか。

判決
「明細書中に実施例として明確に記載されていない保護基であっても、有機化学の分野において、広義のアシル化において、保護基として通常狭義のアシル基と代替可能と認められているものを用いたアシレートは、本件特許出願の出願願書添付明細書によって開示されていると認められるべきである。そして、イ号方法において使用されている、アルコキシカルボニル基に属するメトキシカルボニル基(CHOCO−)を保護基に用いたアシレートも、有機化学の分野において、広義のアシル化において、保護基として通常狭義のアシル基と代替可能と認められているものを用いたアシレートに該当すると認められる。」
⇒特許請求の範囲の記載に抽象的な用語が含まれる場合、明細書に実施例として記載されているものに限定して解釈されるのではなく、明細書全体に開示された技術範囲に基づいて解釈される。すなわち、実施例として具体的に記載されていないくても、技術常識および明細書全体を考慮して開示されていると認められるものは、特許発明の技術的範囲に属することとなる。

●組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子事件Ⅱ2審(大阪高判平8.3.29、知裁集28巻1号77頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』146-148頁)

事実
特許発明は、遺伝子工学により生産されるTPAと呼ばれるタンパク質であり、69番から527番までのアミノ酸配列を具体的に特定するものであるのに対し、被告製品は、245番のアミノ酸が、特許発明のバリンではなく、メチオニンである点において異なっていた。

争点
特許発明のアミノ酸配列と一部が異なる被告製品は、特許発明を侵害するか。

判決
(置換可能性) 「両者は特性が同一であるから、作用効果が同一であって、A、B発明のt−PAのバリンから被控訴人のt−PAのメチオニンへの置換は、置換可能性の要件を満たしているものと認められる。」
(容易想到性) 「t−PAにおいては、245位の部位はt−PAの機能にとって重要な部位ではなく、バリンとメチオニンとの変異は蛋白質の機能に影響を及ぼさない変異であって、かつ、変異体を製造することは容易にできるのであるから、245位のバリンをメチオニンに変異させることにより、A、B発明のt−PAと同等程度の機能を有するt−PAが得られるであろうという高い予測可能性が、本件出願時(本件優先権主張日)当時にあったものと認められる。」
⇒医薬、化学の分野では、化学構造からその物質の有する性質を予測することが困難であるという特性があることから、一般に均等論の適用は困難と考えられるが、本件では、多数のアミノ酸により構成されるタンパク質の場合、置換されたアミノ酸の位置によっては、作用効果に差異を示さない場合も知られているということにより、特許請求の範囲に記載されたアミノ酸配列と明確に異なるタンパク質に対し、均等論を適用したものである。

均等論の適用要件としては、「ボールスプライン事件」(最高判平10.2.24、民集52巻1号113頁)において、特許請求の範囲に記載された構成中、文言上対象製品と異なる部分が、①特許発明の非本質的部分であり、②置換可能性があり、③置換容易性があり、④出願時の公知技術と同一又は公知技術から推考容易ではなく、⑤意識的除外等の特段の事情が無いこと、という5つの要件が示されている。また、同事件では、②置換可能性の判断を出願日ではなく侵害時で判断するとしている。

Ⅳ.化学・材料分野の発明特有の問題に関する判例、審決例

1.利用発明の成立性
自分の実施品に特許権が付与されている場合、先願の権利者から攻撃を受けても侵害にならないということはない(先願権利者からの請求に対して、先願特許発明の権利範囲に属する場合、特許付与されていることが抗弁とはならない。)。他人の特許発明等との関係に関し、特許法72条は「特許権者、…は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、…を利用するものであるとき、…は、業としてその特許発明の実施をすることができない。」と規定している。

●ビタミンEニコチン酸エステル事件(大阪高判昭54.10.26、無体集11巻2号516頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』156-158頁)

事実
ビタミンEとニコチン酸とからビタミンEニコチン酸エステルを製造する特許発明に対し、被告(控訴人)は、これらに縮合剤としてのパラトルエンスルホン酸クロライドを共存させて反応させる方法により、ビタミンEニコチン酸エステルを製造するものであった。
なお、パラトルエンスルホン酸クロライドの一般的用途は公知であったが、これを用いてビタミンEとニコチン酸とを反応させてエステルを生成する技術は新規であった。

争点
特許方法が2成分の反応であるのに対し、被告の方法は3成分の反応である、このような場合に、特許発明の利用としての侵害に該当するか。

判決
「対象方法が、特許発明の利用か否かは、同方法が特許発明の要旨全部を含みこれに新たな技術的要素を付加したものであるか否か、換言すれば、同方法中に、当該特許発明の要旨が一体性を失うことなく存在しているか否か、によって決せられる、と解するのが妥当である。」
「控訴人方法における、パラ−トルエンスルホン酸クロライドの使用は、控訴人方法全体から見れば、技術的には、本件特許発明の要旨に対する、いわば付加的操作の域を出ず、技術的には、本件特許発明の要旨が一体性を失うことなく存在している、したがって、控訴人方法は、特許発明の利用であると解するのが相当である。」
⇒本判決においては、対象方法が特許発明の技術的範囲に属しないと判断しつつ、利用発明に該当するから侵害に該当すると判断している。これについては、利用発明の実施の場合も、一般の権利侵害の認定と異なった原理を必要とするものではないという反対意見も存在するが、上記の基準は、化学反応の発明のように他の成分が添加されることにより全く別の反応が生じ得るような場合に、侵害が成立するか否かを判断する際の参考になるであろう。

なお、本件特許は、昭和50年に物質特許制度が導入される前のものであり、エステル化反応そのものではなく、製造されるビタミンEニコチン酸エステルが新規な物質であったことが特許付与の理由であった。昭和50年に物質特許制度の導入により、新規な化学物質そのものに特許が付与されるから、上記のケースように物質に特許性がある場合には、物質特許を取得すれば、製造方法の如何を問わず、当該物質の製造を排除することができる。

2.用途発明
用途発明とは、物の特定の性質(属性)を発見し、この性質を専ら利用する発明をいう。(吉藤『特許法概説』62頁)。なお、用途発明は必ずしも既知物質に限られず、新規物質についてもありうる。新規な化合物または組成物の場合、出願にあたって、物質クレームの特許性が維持できなくなった場合に備えて、当該物質に想定される用途を発明特定事項に加えた用途発明のクレームを作成しておくべきであろう(竹田『特許の知識』94-95頁)。

化学物質の属性は多面的であるから、用途発明は、化学・材料分野の発明に多い。例えば、既知の物質であるDDTに殺虫効果があるということが発見されれば、「DDTを含有する殺虫剤」や「DDTを虫に振りかける殺虫方法」の発明は、他の特許要件を充足することを条件として、DDTが既に公知の化合物であっても用途発明として特許され得る。

3.選択発明
選択発明とは、構成要件のうちの全部または一部が総括的な概念(上位概念)で構成されている先行発明(先願発明又は公知発明)に対し、その上位概念で包括される概念(下位概念)であって、先行発明記載の明細書または文献に具体的に示されていないものを構成要素として選択したものに相当する発明をいう(吉藤『特許法概説』132頁)

上位概念(例えば、アルキル基)で表現された先行発明の後に、その下位概念(プロピル基)で表現された発明がなされた場合に、当該下位概念で表現された発明が、先行発明を記載した刊行物に開示されていない顕著な効果(先行発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果)を奏する場合には、先行発明とは独立した別個の発明であるとして特許性を認める(東京高判昭62.9.8、無体集19巻3号309頁、竹田『特許の知識』155頁)

●有機酸エステル殺虫剤事件(東京高判昭38.10.31、審決公報457号99頁)

事実
本願発明(出願に係る発明)
本願発明(出願に係る発明) 0,0−ジメチル−0−4ニトロ−3−クロルフェニル−チオフォスフェート

先願発明(特公昭25−6170)
先願発明(特公昭25−6170) ZはS又はO、R1およびR2は、アルキル、またはアリル、Yは、H、NO2以外の反応に対して不活性な他の置換基、mは3より大きくない整数。

判決
「出願発明の特定化合物は、公知発明を記載した文献(特許公報)を仔細に検討しても見あたらず、引用特許の発明者が具体的に前記化合物を発見したとは認められないので、出願発明の新規性を否定することはできない。またこの発明の化合物は、公知文献において具体的に開示されている化合物に比し、殺虫性において同等であるとはいえ、温血動物に対する毒性がきわめて僅少であるという顕著な効果を有する。今日温血動物に対する毒性の低減化は殺虫剤技術開発上の重要な課題であり、この発明はこれを見事に解決したものというべく、この点において全然触れるところのない公知文献の記載から容易に想到できるものと解することはできない。」
⇒下位概念の発明が上位概念の発明の範囲に含まれていても、下位概念の発明が新規であって、かつ上位概念の発明にはない別個の課題を解決する顕著な効果を有する場合には、選択発明として特許されることとなる。なお、このような、選択発明の取扱いは、EPO(欧州特許庁)及びUSPTO(アメリカ特許庁)においても同様である(竹田『特許の知識』157頁)

●新規ペニシリン及びその塩の選択方法事件(東京高判昭56.11.5、無体集13巻2号816頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』50-52頁)

事実
引用例の特許明細書には、一般式で示された合成ペニシリンの合成法が記載されおり、置換基Xの部分は何を選んでも良いとされており、ほとんど無数のペニシリン化合物を含んでいた。これに対し、出願に係る発明は、引用例の一般式のXを「水酸基を有するベンゼン環」(理論的に9種の物を含む)に特定したものであった。

争点
引用文献に具体的に記載された化合物の中で薬効が最高であるアンピシリンと比較して、優れた効果を奏するものは、本件発明の化合物の9種のうちの一種のみである場合に、出願に係る発明は、引用文献との比較において、新規性を充足するといえるか。

判決
「特許出願に係る発明が、先行の公知となった特許明細書に記載された発明に包含されるときは、その出願がいわゆる選択発明として特許され得る場合を除き、特許法第29条第1項第1号又は第3号により、特許を受けることができないものと解するを相当とする。けだし、特許出願に係る発明の構成要件が、既知の文献又は特許明細書に記載された発明にその下位概念として全部包摂されるときは、原則として同一発明として特許を受けることができないというべきである。しかし、先行発明には具体的には開示されていない選択肢を選び出し、これを結合することにより先行発明では預期できなかった特段の効果を奏する発明に特許を与えることは、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的とする特許法の精神に合致するから、形式的に二重特許になる場合であっても、右のような選択発明に特許を与えることを否定すべき理由はないからである。」

「審決は、本件発明の目的物質に属する9種の化合物のうち、1−パラヒドロキシ体はともかく、残りの8種のいずれもが、グラム陰性菌に対する抗菌活性においてアンピシリンよりも優れていないから、本件発明の目的物質の薬効は、全体として、引用例の目的物質のそれよりもすぐれていないものと判断・・・したのであって、審決の右判断は審決の例示する各証拠・・・によっても、これを是認することができる。」
⇒選択発明として認められるためには、当該選択発明の発明特定事項により特定される下位概念の全範囲において、公知発明と比較した顕著な効果を有することが必要である。

特許法29条は、新規性と進歩性について項を分けて規定し、それぞれ独立した特許要件としており、通常その判断は別個に行われる。しかしながら、選択発明は、上位概念で表現された先行発明に含まれる下位概念で表現される発明であり、原則として二重特許となるところを、例外的に、下位概念で表現された発明に顕著な作用効果がある場合に限り、先行発明と別発明として特許が与えられるものである。このため、先行発明を記載した先行文献中に具体的に開示されていないこと、及び先行発明と比較して顕著な効果を有すること、という選択発明の成立要件を充足する場合には、先行発明と別発明となり、新規性と同時に進歩性も満足することとなる(竹田『特許審査・審判の法理と課題』274-275頁)

4.数値限定発明
請求項の発明特定事項に数値限定を含む数値限定発明は、その技術的意義によって特許性の判断が分かれる場合がある。特許庁の審査基準では、進歩性の判断に関して下記の基準が示されている。

原則
①実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、通常はここに進歩性はないものと考えられる。
②しかし、請求項に係る発明が、限定された数値範囲内で、刊行物に記載されていない有利な効果を奏する場合には、進歩性を有する。有利な効果の顕著性は、数値範囲内の全ての部分で満たされる必要がある。
数値限定の臨界的意義
①請求項に係る発明が引用発明の延長線上にあるとき、すなわち、引用発明との相違が、数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、その数値限定の内外有利な効果において量的に顕著な差があることが要求される。
②課題が異なり、有利な効果が異質である場合は、数値限定を除いて両者が同じ発明を特定するための事項を有していたとしても、数値限定に臨界的意義を要しない。

●窒素酸化物含有ガス処理法事件(東京高判平4.11.5、知裁集24巻3号980頁)
(増井・田村『特許判例ガイド』67-69頁)

事実
出願に係る発明の特定する処理温度が150℃〜250℃であるのに対し、公知文献に記載の引用発明においては対応する処理の温度の上限が130℃と記載されていた。

争点
出願に係る発明の発明特定事項としての数値範囲の最外値において臨界的意義が必要とされるか。

判決
「化学に関する発明の分野において、特許請求の範囲の数値の限定を加えた場合、数値限定の技術的意義は、そのことによって当該発明の作用効果の顕著性が認められるか否かにより定まるのが通常である。そして、・・・本件のように限定された数値範囲内の温度のものが前記認定のような最大限130℃であるものと対比する場合には限定のないものとの対比とは異なり、必ずしもその範囲外の直近のものとの間に急激な作用効果上の変化が見られることは必要でなく、130℃付近の温度との対比において作用効果の顕著性が明示されていれば足りる。
⇒ 引用文献に記載の数値範囲とは異なる数値範囲に限定されている場合には、本件発明の数定範囲の最近接の数値ではなく、引用例文献に記載されている引用発明の条件に対して顕著な作用効果を有する場合には特許性が認められる。すなわち、請求項に記載された数値範囲には直近の値に対する臨界的意義は必要とされない。

●微細エッチング加工用素材事件(東京高判平7.74、取消集51巻43頁)
事実
出願に係る発明:炭素含有量0.01%以下
引用発明   :炭素含有量0.009%

争点
引用文献に実施例として記載された引用発明と、出願に係る発明の構成と一致する場合にも、出願に係る発明の数値範囲において顕著な効果を奏する場合には、進歩性が認められるか。

判決
「引用例1には、炭素含有量が0.01%以下である合金素材が示されているからといって、このことから、エッチング速度を早めて、製品の加工部の直線性や真円度が損なわれることを紡糸すると共に、アラビを解消するという課題の解決のために、炭素含有量を0.01%以下に限定する構成を選択することが容易に想到し得る程度のものと認めることはできない。」
⇒ 発明の構成の一致を検討する際に、数値限定の範囲内に引用文献に記載の実施例が含まれているからといって、数値限定の技術的意義を否定することが出来ず、進歩性があるとしている。

しかしながら、特許庁の審査実務では、数値限定発明が、先行文献の実施例を含む場合には、新規性が無いとして特許性を否定し、先行文献に記載された一定の幅のある数値範囲と一部重複する場合には、上記審査基準に記載の基準に基づいて、その進歩性が判断される。よって、上記のような発明は、特許庁における審査では、進歩性がないとして拒絶されることとなろう。

●パラメータ発明
審査段階および権利行使段階において、その技術的範囲の特定が困難である「特殊パラメータ」を発明特定事項に含む発明をパラメータ発明という。パラメータ発明は、構造による特定が難しい技術内容を容易に表現できるため出願人にとって有利である反面、当業者によく知られた使用頻度が高い物性・特性などの数値を用いたものではないから、第三者が実施する具体的事物がその技術的範囲に属するか否かを、明細書の記載から直ちに判断することが困難であり、従来から実施していた具体的事物や公知技術が、その技術的範囲に含まれて特許される場合がある等の問題点がある。

このため、審査実務においては、公知の先行発明を含むパラメータ発明に特許が付与されることを防ぐため、引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性が欠如する旨の拒絶理由を通知することとしている。

Ⅴ.参考文献
・「 特許判例ガイド 〔第2版〕」 増井和夫、田村善之(有斐閣)
・「 特許審査・審判の法理と課題 〔初版〕」 竹田稔監修(発明協会)
・「 特許の知識 〔第6版〕」 竹田和彦(ダイヤモンド社)
・「 特許法概説 〔12版〕」 吉藤幸朔(有斐閣)

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