医療関連発明に関する日米欧中の制度の比較
2007年12月19日
特許業務法人原謙三国際特許事務所
弁理士 黒田 敏郎
-主要国における許容される範囲とは-
医療関連発明は、国民の健康長寿の実現、種々の疾病への対応など国民の健康や生活の向上に直結する課題を解決していく上で重要な役割を担うものであり、科学技術基本計画においてもその研究開発を重点的に推進することとされている。
近年、我が国をはじめとした世界各国において、再生医療,遺伝子診断・治療,細胞治療,医薬品の用法・投与方法などの高度な医療方法が開発されている。これら医療関連発明への特許法上の保護については、先端医療技術の更なる発展を促進するという観点から広く保護すべきとの意見と、「医療のフリーアクセス」や医療費高騰の抑制の観点から保護は制限すべきとの意見が対立する傾向があり、世界主要国においても医療関連発明の保護の態様は異なっているのが現状である。
そこで、以下、日本・米国・欧州の三極と、近年目覚しい発展を遂げている中国における医療関連発明の保護について比較検討する。
(1)日本
医薬品を構成する低分子化合物やその用途の発明(第二医薬用途も含む)については「物」として特許が認められている。また、医療行為に用いられる医療機器も物の発明として特許保護の対象とされる。一方、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」については、医療行為への影響が大きいこと、医療費高騰などを考慮して、「産業上利用することができる発明」には該当しないとして特許を付与しない運用となっている。ただし、実務的には、診断方法の前段階として、生体試料(ヒトの体から採取したサンプル)を用いてデータを取得する方法等は保護される余地がある。また、我が国では対象がヒト以外の動物であれば診断方法・治療方法であっても特許保護の対象となる。
また、先端医療技術の更なる発展を促進するという観点から、2003年8月7日に審査基準が改訂され、培養皮膚シートなどヒト由来のものを原材料とする医療材料等を製造するための方法の発明(同一人に戻すことを前提としているもの)に特許が認められることになった(2003年8月~2007年7月の間の登録件数:14件)。
さらに、2005年4月15日に審査基準が改訂され、装置の作動方法の発明、投与間隔・投与量等の治療の態様で特定される医薬の発明に特許が認められることとなった(審査基準の改訂後2005年4月~2007年7月の間、前者については80件、後者については1件登録されている)。
(2)米国
米国においては、医療行為も産業であるとの解釈され、医療関連発明全般について特許付与の対象とする運用が行われている。ただし、米国では、既知物質を用途で特定しても、物質としては同一であると判断される(inherency doctrine)ため、既知物質の新規医薬用途を見いだした、いわゆる第二医薬用途発明は「物の発明」としては保護されず、「治療方法の発明」として保護される。
なお、米国では医師等に対する特許侵害の免責規定が存在するが、医療方法の実施がⅰ)医療機器や医薬品などの物の特許、ⅱ)医薬品の使用方法の特許、ⅲ)バイオテクノロジーの特許を侵害する場合は、免責の対象外であり、免責の対象は限定的なものとなっている(米国特許法第287条第c項(1)(2)参照)。
(3)欧州
欧州特許庁においては、「人間又は動物を手術、治療又は診断する方法の発明」は特許付与しない方針を採っている。2007年12月に発効する改正欧州特許条約(EPC)では、「人間又は動物を手術、治療又は診断する方法の発明」を特許付与の対象外であることが明確化された。なお、改正前EPCでは、実務的には、診断方法の前段階として、診断のための中間データ等を取得する方法等は保護される余地があった。改正後EPCでどのように運用されるか、注意深く動向を注視していきたい。
また改正前EPCにおいては、第二医薬用途発明は、物の発明としては新規性がないとされ、スイスタイプクレーム(「医薬の製造のための使用」)という特殊なクレーム形式でのみ保護されていた(ただし、イギリス、フランスなどで無効と判断された裁判事例がある)。一方、改正後EPCでは、第二医薬用途発明は、日本と同様に“物”の発明として保護されることになる(EPC2000改正条約54条(5)参照)。
(4)中国
中国では、ヒトだけでなく動物を対象とする治療方法・診断方法についても特許保護の対象外である。特に、診断方法については、2006年7月1日付けで改正された中国特許審査基準において、以下の2つの条件を満たす場合、特許保護の対象外であることが明確化された。
(i) ヒト又は動物を対象とするもの
(ii) 病気の診断結果を得ること又は健康状態を知ることを直接の目的とするもの
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なお、中国では、生体試料を用いて診断のためのデータを取得する方法であっても、発明に係る方法の直接の目的が病気又は健康の診断である場合は、特許保護の対象外である点に注意が必要である。
また既知物質の医薬用途発明の新規性について、改正審査基準では以下のように判断基準が示されている。
(i) 新規医薬用途が既知医薬用途と実質的に異なっているか
(表現形式上異なるだけでは新規性なし)
(ii) 新規医薬用途が既知用途の作用機序、薬理作用と異なるか
(既知用途と直接均等な用途には新規性なし)
(iii) 新規医薬用途が既知用途の上位概念に該当するか
(新規用途が既知用途の上位概念に該当する場合は新規性なし)
(iv) 投薬対象、投薬方法、用量及び投薬間隔等の使用に関する特徴に過ぎないか
(医薬の使用過程にのみ現れる特徴は、新規用途とはみなさない)
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したがって、上記の点を満たせば、中国においても第二医薬用途発明も保護される余地があるといえる。
医療関連発明に関する日米欧中の制度の比較
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医薬品
新規物質 第一用途 第二用途 |
医療方法 |
医療機器 |
| 日本 |
○ |
○ |
○ |
× ※1 |
○ |
| 米国 |
○ |
× ※2 |
× ※2 |
○ ※2 |
○ |
| 欧州 |
○ |
○ |
○ ※3 |
× ※4 |
○ |
| 中国 |
○ |
○ |
○ |
× |
○ |
(出展:ライフサイエンス分野プロジェクトチーム調査検討報告書(1))
※1:診断方法でも“生体資料を用いた診断のためのデータの検出方法”等で保護の余地有
※2:米国では既知物質の医薬用途発明は診断方法の発明として保護される
※3:改正前EPCではスイスタイプクレームのみ許容。改正後EPCでは“物”として保護される
※4:診断方法でも“診断のための中間データの取得方法”等で保護の余地有
(参考文献)
(1)「ライフサイエンス分野プロジェクトチーム調査検討報告書」知的財産戦略本部知的財産による競争力強化専門調査会ライフサイエンス分野プロジェクトチーム
以上