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育成者権侵害訴訟における権利濫用の抗弁

2008年07月08日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 村橋 麻衣子

1.はじめに
 平成18年12月21日、種苗法に基づく育成者権侵害を理由とする差止請求に対して、品種登録は取り消されるべきものであることが明らかであるから、権利の濫用に当たり許されないとする知的財産高等裁判所判決がなされた(平成18年(ネ)第10059号 種苗生産・譲渡行為差止等請求控訴事件、知財高裁第3部 佐藤久夫裁判長;原審 長野地方裁判所平成14年(ワ)第358号)。本判決は、キルビー事件最高裁判決を契機に新設された特許法第104条の3(権利濫用の抗弁)を種苗法に援用する形となった事例として、興味深い。
 以下では、上記判決について紹介し、種苗法に基づく育成者権、品種登録の瑕疵、品種登録の瑕疵と権利濫用との関係について説明する。

2.原審:長野地方裁判所 平成18年5月19日判決(抜粋)
(1)裁判所の判断
 品種登録に公知性を理由とした無効理由が存在することが明らかであるときは、その育成者権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと判示した。
(2)理由
 特許権に関しては、特許無効審判を経なくても、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は特許権の侵害に係る訴訟において相手方に対してその権利の行使をすることができないとされており(特許法104条の3第1項)、この規定は実用新案権、意匠権、商標権の侵害訴訟にも準用されているが、種苗法の育成者権の侵害訴訟には準用されていない。
 育成者権が農林水産大臣による品種登録によって生じ(種苗法19条1項)、無効事由がある場合には農林水産大臣がこれを取り消すこととされ、品種登録に際しては農水省職員や独立行政法人といった専門家による現地調査や栽培試験を行うことが前提となっていること(種苗法15条2項)を考慮すると、品種登録の有効性の判断は関係機関の専門的判断に委ねて画一的に決するのが法の趣旨であると解され、育成者権の侵害訴訟の相手方は当然には育成者権の品種登録の無効を抗弁として主張し得ないと解される。
 しかしながら、・・・公知性に関しては、登録品種と比較すべき品種が公知のものか否か・・・につき客観的な判断が可能で判断が分かれるおそれもないといえるから、育成者権の侵害訴訟の相手方は公知性を理由とする品種登録の無効の抗弁を主張することができると解される。すなわち品種登録に公知性を理由とした無効理由が存在することが明らかであるときは、その育成者権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない。

3.控訴審:知的財産高等裁判所 平成18年12月21日判決(抜粋)
(1)裁判所の判断
 品種登録が取り消される前であっても、当該品種登録が取り消されるべきものであることが明らかな場合には、その育成者権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり許されないと判示した。
(2)理由
 特許権に関しては、特許無効審判を経なくても、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は特許権の侵害に係る訴訟において相手方に対してその権利の行使をすることができないとされており(特許法104条の3第1項)、この規定は実用新案権、意匠権、商標権の侵害訴訟にも準用されているが、種苗法の育成者権の侵害訴訟には準用されていない。しかし、これは種苗法が特許法のような独自の無効審判制度を設けていないことによるものと考えられるが、種苗法においても、品種登録が種苗法の規定に違反してされたものであり、農林水産大臣により取り消されるべきものであることが明らかな場合にまで、そのような品種登録による育成者権に基づく権利行使が許されるとすることが相当でないことは、特許法等の場合と実質的に異なるところはないというべきである。
 けだし、種苗法の規定に違反し、取り消されるべきものであることが明らかな品種登録について、その育成者権に基づいて、当該品種の利用行為を差し止め、又は損害賠償等を請求することを容認することは、実質的に見て、育成者権者に不当な利益を与え、当該品種を利用する者に不当な不利益を与えるものであって、衡平の理念に反する結果となるし、また、農林水産大臣が品種登録取消しの職権発動をしない場合に、育成者権に基づく侵害訴訟において、まず行政不服審査法に基づく異議申立て又は行政訴訟を経由しなければ、当該品種登録がその要件を欠くことをもって育成者権の行使に対する防御方法とすることが許されないとすることは、訴訟経済に反するといわざるを得ないからである。
 したがって、品種登録が取り消される前であっても、当該品種登録が種苗法の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものであることが明らかな場合には、その育成者権に基づく差止め又は損害賠償等の権利行使は、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。

4.種苗法に基づく育成者権
 種苗法に基づく品種登録がされると育成者権が発生する。品種登録は、農林水産大臣が行う行政処分である。出願した品種が以下の①~⑤の規定を満たす場合、品種登録される。
 ①区別性、均一性及び安定性の具備(種苗法3条1項)
 ②未譲渡性の存在(同法4条2項)
 ③育成者複数の場合の共同出願(同法5条3項)
 ④先願優先(同法9条1項)
 ⑤外国人の権利享有の範囲(同法10条)
 育成者権者は、業として登録品種、登録品種と明確に区別されない品種、従属品種及び繁殖のため常に登録品種を交雑させる必要がある品種(以下、これらの品種を「登録品種等」と称する)を利用する権利を専有する。登録品種等の利用行為とは、種苗に係る行為、収穫物に係る行為、および加工品に係る行為をいう。したがって、育成者権者以外の者は、育成者権者の許諾を得なければ登録品種等を業として利用することができない。
 育成者権の存続期間は、登録から25年または30年であるが、存続期間内であっても、定められた期間内に各年分の登録料が納付されない場合は品種登録は取り消されるほか、品種登録の要件を満たしていなかったことが判明した場合や品種登録後に植物体の特性が登録時と異なるものになったような場合にも品種登録が取り消される。

5.品種登録の瑕疵
 出願された品種が上記①~⑤の規定に違反していることが審査において判明したときには、拒絶理由が通知され(種苗法17条2項)、出願人による意見書の提出によっても拒絶理由が解消されない場合には拒絶される(同法17条1項1号)。一方、品種登録後にこれらの規定に違反したことが判明したときは、農林水産大臣の職権により、取り消される(同法49条1項)。品種登録が取り消されたときは、育成者権は品種登録の時にさかのぼって消滅したものとみなされる(同法49条4項1号)。
 種苗法には、特許法等に存在する無効審判制度はないが、品種登録処分に不服のある者は取消しの職権発動を促し、職権発動がなされない場合には、行政不服審査法による異議申立や行政訴訟を提起して、品種登録の取消しを求めることができる。
 しかしながら、種苗法には、特許法104条の3のような権利行使を制限するような規定もないため、育成者権侵害訴訟において、品種登録の取消しを経ることなく、品種登録の要件を欠くことを抗弁として主張できるか否かが問題となる。

6.品種登録の瑕疵と権利濫用との関係
 品種登録に取消しの理由がある場合、農林水産大臣による職権での取消しがなされない限り、侵害訴訟において品種登録が有効であるとの前提で侵害の有無が判断されるとすることは不合理であり、このような状況は特許侵害訴訟において発明に無効理由があるときと実質的に異なるところはないといえる。種苗法において、無効審判制度がなく、職権取消制度しかないことも、育成者権侵害訴訟における権利濫用の抗弁の可否に影響を与えるものではない。
 本件の原審および控訴審のいずれの判決においても、品種登録に瑕疵があることが明らかな場合には、その育成者権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり許されないと判示されている。
 しかしながら、権利濫用の主張の対象となる取消し理由については、原審と控訴審とで判断が異なっている。原審の判決においては、出願審査には現地調査や栽培試験が行われる(種苗法15条2項)など関係機関の専門的判断に委ねていることから、取消し理由が公知性の規定に違反することである場合には、権利濫用の主張ができるとしている。したがって、原審の判断によれば、他の取消し理由がある場合には、実質的に権利濫用の主張ができないといえる。
 一方、控訴審の判決においては、キルビー事件最高裁判決の権利濫用を認めた実質的な理由と概ね異なることがなく、品種登録が取り消される前であっても、当該品種登録が上記①~⑤の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものであることが明らかな場合には、その育成者権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり許されないと判断している。したがって、控訴審の判断によれば、権利濫用の主張の対象となる取消し理由は公知性に限定されず、他の理由によっても権利濫用の主張が可能であるといえる。

7.最後に
 本件控訴人は、控訴審判決に対して現在上告受理申立を行っており、今後控訴審判決が覆る可能性もあるが、種苗法に基づく育成者権侵害訴訟においても、特許法104条の3を援用する形で権利濫用の抗弁をすることが可能であると考えられる。

8.参考文献
 知財管理 Vol.57 No.9 P1521-1525 2007 日本知的財産協会
 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARKホームページ-植物品種登録相談室-
  http://www.intellelution.com/jpn/plant/

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