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特許権の有効/無効について私人間で合意する際の留意点

2016年06月03日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
文責:弁理士 樋口智夫

はじめに

特許権侵害訴訟は和解によって終了させることができ、この点は、特許権侵害訴訟が特許権の有効/無効についての議論を伴うものであっても変わらない。

また、共同出願違反および冒認出願の無効理由以外の無効理由を主張する特許無効審判は、利害関係人に限り請求することが「できる」(特許法123条2項)が、利害関係人は、無効審判を請求する義務を負う訳ではない。

さらに、特許無効審判の請求は、審決が確定するまでは取り下げることができ(特許法155条1項)、答弁書の提出があつた後であっても、「相手方の承諾」があれば、請求を取り下げることができる(同2項)。

和解による特許権侵害訴訟の解決、および、相手方の承諾を得てする特許無効審判請求の取下が許されている以上、私人間で特許権の有効/無効について合意することは問題にならないようにも思われる。

しかしながら、特許権は対世効を有する以上、特許権の有効/無効を私人間で決することはやはり問題を生じ得るであろう。例えば、医薬特許に係るReverse Payment和解(以下、「RP和解」と略記する)について、競争法上の問題を指摘する判決・決定が、米国、EUおよび韓国等において出されている。

例えば、米国における判決としては、「Louisiana Wholesale Drug Co.,et al., v. Hoechst Marion Roussel, Inc., and Andrx Pharmaceuticals, Inc.(In re Cardizem CD Antitrust Litigation),332F.3d896(6th Cir.2003)」、「Inre K-DurAntitrustLitigation,686F.3d197,218(3dCir.2012).」、「In re Cipro Cases I&II,CaseNo.S198616(May7,2015)」などを挙げることができる。

また、欧州においては、いわゆるLundbeck事件に係る欧州委員会決定(2013年6月19)が2015年1月19日に公表され、日本においても様々な考察がなされている。

さらに、韓国では、GSK(GlaxoSmithKline)とDong-A Pharmaceuticalとの間の和解協定が公正取引法違反にあたるとの決定が2011年10月24日に韓国公正取引委員会(KFTC)によって出されている。

本稿の目的

そこで、特許権の有効/無効に係る私人間での合意が、いかなる場合に問題(特に、競争法上の問題)となり得るかを事前に確認しておくことは有用であろう。

結論から言えば、「無効とされるべき特許権」の有効性を維持しようとする私人間の合意は、競争法上の問題を生じ得ると考えられる。

そして、少なくとも現在の日本においては、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下、「PBPクレーム」と略記する)に係る特許権については、その有効性を前提とするような契約・合意を成立させ、または維持しようとする場合には、第三者の意見を求めるのが無難と考える。以下、解説する。

特許権の有効性を維持しようとする私人間の合意の一例:不争義務

特許権の有効/無効に係る私人間での合意の一例として、ライセンス契約における不争義務を挙げることができよう。公正取引委員会の示している「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(以下、「ガイドライン」と略記する)」の「4 技術の利用に関し制限を課す行為」における「(7) 不争義務」に係る記載を、以下に引用する。

  • ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(注14)を課す行為は、円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面が認められ、かつ、直接的には競争を減殺するおそれは小さい。
    しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第12項)。
    なお、ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。
    (注14) 「権利の有効性について争わない義務」とは、例えば、ライセンスを受けている特許発明に対して特許無効審判の請求を行ったりしないなどの義務をいい、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる権利をライセンサー等に対して行使することが禁止される非係争義務とは異なる。

ガイドラインの上記記載を乱暴に整理すれば、「ライセンス契約における不争義務は、独禁法上の問題とはならないのが原則だが(第1段落)、無効とされるべき特許権について不争義務を課す場合には、不公正な取引方法に該当する場合もある(第2段落)」ということになるだろうか。つまり、無効とされるべき特許権について特許無効審判の請求を妨げるような私人間の合意は、競争法上の問題を生じる可能性がある。

パテント・トロールなどのPAE(patent assertion entity)をめぐる議論や、FRAND宣言のなされた特許権の行使制限についての考察からすれば、有効な特許権であっても、その行使態様によっては競争法上の問題を生じ得るというのが現在の一般的な認識だろう。まして、無効とされるべき特許権を私人間の合意により有効なものとして維持しようとするのであれば、当該特許権に係る技術の自由な利用を制限し、ひいては市場競争を制限することになるから、公正競争阻害性を有すると判断される可能性は低くはないと考える。

特許権の有効性を維持しようとする私人間の合意の他の例:和解協定

また、RP和解に関連して、韓国の公正取引委員会による知的財産権ガイドライン中の「特許紛争における不公正な協定」に関する項目には、以下の記載があるそうである。

すなわち、「特許紛争の和解は、一般的には効率的なものであるが、その過程において市場参入を遅らせるような不公正な協定を行うことは、市場における公正な取引を阻害するものであり、特許権の正当な行使の範囲を超えると判断されることがあり得る。特に、特許紛争の和解協定が、・・・、⑤紛争対象の特許権が無効であることを紛争当事者が知っているか、無効であることが客観的に明らかである場合には、不正当なものと判断されるおそれがある。ただし、公正取引法19条(不公正な共同行為)等の規定に違反するかどうかは、各規定の違法要件により判断される」。

競争法の運用は各国で異なるが、特許侵害紛争上の和解についての韓国公正取引委員会の見解、および、ライセンス契約上の不争義務についての日本の公正取引委員会の見解は、「無効とされるべき特許権」の有効性を維持しようとする私人間の合意が競争法上の問題を生じ得るとする点で共通しているようである。

権利の有効性について疑義ある特許権

ここで、特許庁により特許法上の要件を満たしていると判断され、特許が付与された発明については、特許権者を含む私人が「無効とされるべき特許権」ではないと判断したとしても、問題が生じる可能性は一般的には低いだろう。ただし、PBPクレームに係る特許権については、以下に示す理由から注意が必要であると考える。

PBPクレームについて、最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号)は、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」と判示した。

これに対し、平成28年3月15日には、PBPクレームを製造方法に係るクレームに訂正するカテゴリ変更の訂正を認める審決が出された(訂正2016-390005)。

正確ではないのかもしれないが、上記最高裁判決により特許法第36条第6項第2号の無効理由(特許法第123条第1項第4号)を有することになったPBPクレームに係る特許権について、特許庁が救済手段を示したようにも見える。そして、特許庁が敢えて救済手段を示したのであれば、PBPクレームに係る特許権の有効/無効については、上記最高裁判決において示されている特殊な事情が存在しない場合、より慎重な判断が求められるであろう。

したがって、上記特殊な事情の存在しないPBPクレームに係る特許権の有効/無効について、私人間で合意をなす場合には、少なくとも、中立的な専門家(特に、競争法および知的財産権についての専門家)からの意見を確認する方が望ましいと考える。もちろん、特許侵害紛争に係る和解の場面だけでなく、既に締結しているライセンス契約についても、それがPBPクレームに係る特許権についてのものである場合、契約書上の文言等を確認しておいても無駄にはならないと考える。

  • 参考文献:
  • ①「特許ライセンス契約の作成・交渉業務における独占禁止法上の問題点」
    弁護士・弁理士 鮫島 正洋
    弁護士 栁下 彰彦
    パテント2011 Vol. 64
  • ②知的財産権の濫用的行使と競争法―医薬品特許を巡る逆支払を伴う和解を素材にして―
    栗田 誠
    千葉大学法学論集 第30巻第1・2号(2015)
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