エジプト

エジプトは、中東・アフリカ地域にある、面積約100万平方キロメートル(日本の約2.7倍)、人 口1億233万人(出所:2020年世界銀行)の国である。

エジプトの主要産業は、製造業(16%)、小売・卸売(14%)、農林水産業(11%)、不動産(10%)である。エジプトでは出稼ぎ外貨送金、観光、運河通航料及び投資で貿易赤字を補填する経済構造を有している。

2011年の政変の影響で上述の従来の経済構造が崩れ、外貨準備高が政変後2年で半減したが、2018年までに外貨準備高は回復している。

エジプトの通貨は、エジプト・ポンド(LE)とピアストル(PT)である。(LE1=100PT)

(外務省ホームページより)

特許及び実用新案はエジプト特許庁が管轄し、意匠及び商標はエジプト標章登録局が管轄する。なお、エジプト特許庁は、アフリカ、アラブ・中東地域で最初に国際調査機関/国際予備審査機関(ISA/IPEA)に指定された。

知的所有権法(2002年法律82号)

2002年6月に制定された知的所有権法(2002年法律82号)は、以下の4部で構成される。(JETROホームページより;最終更新日: 2010年04月26日)

1.特許権、実用新案権、集積回路デザイン、非公開情報・データ。

2.商標権、地理的表示、意匠権。

3.著作権および著作隣接権。

4.植物品種。

 同法はTRIPS協定に準拠している。先願主義を採用しており、罰則規定も設けられている。

 それぞれの知的財産の保護期間は、以下のようになっている。

  • 特許権:出願日から20年
  • 実用新案権:同7年
  • 集積回路デザイン:同10年
  • 営業秘密:所轄官庁に情報が提出された
  • 意匠権:出願日から10年
  • 商標権:登録日から10年(更新可能)
  • 著作権:創作時から著作者死後50年(一
  • 植物の品種:認可日から20年または25年
 

出願件数・登録件数の統計データ

出願件数 2018年 2019年 2020年 2021年
特許 全数[件] 2,255 2,183 2,207 2,224
外国出願[件] 1,258 1,156 1,229 1,343
日本から[件] 120 87 97 55
PCT[件] 1,226 1,123 1,199 1,313
実用新案 全数[件]       8
外国出願[件]       1
意匠 全数[件] 2,009 1,999 181 212
外国出願[件] 341 279 180 212
日本から[件] 25 25 3 11
商標 全数[件] 24,546 26,130 4,010 4,415
外国出願[件] 8,319 8,243 4,009 4,414
日本から[件] 216 214 88 82
登録件数 2018年 2019年 2020年 2021年
特許 全数[件] 690 747 495 508
外国出願[件] 530 747 430 445
日本から[件] 68   23 51
PCT[件] 524 562 404 428
実用新案 全数[件]       8
外国出願[件]       3
意匠 全数[件] 1,183 973 193 173
外国出願[件] 258 312 192 173
日本から[件] 28 25 3 3
商標 全数[件] 12,271 14,295 4,726 4,848
外国出願[件] 6,829 8,068 4,726 4,847
日本から[件] 209 231 120 93

(出典:WIPO IP Statistics)

 
 
 
 

特許制度

エジプトの特許制度について、以下に簡単に紹介する。

出願ルート

直接出願するほか、パリルート、PCTルートのいずれも利用可能である。

保護対象でないもの

以下のものは、特許法の保護対象とはならない。

  • ①その利用が公序良俗に不利益となりうる発明、又は環境、人、動物もしくは植物の生活及び健康に損害を与える発明
  • ②発見、科学理論、数学的方法、プログラム及び計画
  • ③人及び動物に対する診断的、治療的及び外科的な方法
  • ④希少であるか独特であるかにかかわらず植物及び動物(微生物を除く)、ならびに、原則的に、植物又は動物を生産するための生物学的プロセス(植物又は動物を生産するための非生物学的プロセス及び微生物学的プロセスを除く)
  • ⑤臓器、組織、生細胞、天然の生物学的物質、核酸及びゲノム

発明者

発明は発明者に帰属する。

出願の際に、発明者の氏名及び国籍の表示が要求される。PCT出願の場合には、遅くとも国内段階移行時に提出しなければならない。

また、発明者が所属している公共又は私的機関の活動の一部として発明された場合、雇用者は、発明を実施するか、又は発明者に公正な報酬を支払い、特許を取得するか、いずれかを選択しなければならない。この選択は、特許付与の通知日から3ヶ月以内にしなければならない。

審査制度

実体審査の請求のために特別の様式は要求されないが、審査手数料を全額支払わなければ実体審査は行われない。審査される事項は、発明の新規性、進歩性、及び産業上の利用可能性、ならびに法律の規定に従っているかである。

存続期間

エジプトの特許権の存続期間は、出願日から20年である。

なお、PCT出願に関するエジプトの特許権の存続期間は、国際出願日から20年である。年金の起算日も国際出願日となっている(2009年6月6日付に公示)。

出願が、植物、動物等の生物材料、伝統的な医療、農業、工業もしくは工芸知識、文化的もしくは環境的遺産、についての発明に関するものである場合

発明者は、その材料を取得した出所について、国内法の規定に従い正当な方法で利用した旨を証明する宣誓書を添付しなければならない。

出願が、生物材料についての発明に関するものである場合

出願人は、その生物材料を、その性質、特徴及び用途が特定されるように開示し、科学調査担当大臣の決定によって認められた研究機関に生体試料を寄託し、寄託が行われた旨の証明書を提出しなければならない。

先の出願の情報の開示

出願人は、同一の発明について外国出願している場合、その情報を提出しなければならない。

実用新案

出願人は、PCT出願の国内段階移行時に、実用新案又は特許のいずれを出願するのかを選択できる。なお、選択は、国内段階移行様式の対応するチェック欄に記入することによって行う。

出願の補正

国内官庁から補正を求められた場合、出願人は、通知から3ヶ月以内に補正しなければ、出願が取り下げられたものとみなされる。このみなし取り下げの決定通知から30日以内であれば、審判を請求できる。

また、出願人は、出願の許可公告が行われる前であれば、出願の補充又は訂正を行うことができる。ただし、発明の主題の範囲を拡張しないことを条件とする。

なお、日本の訂正審判制度に相当する制度はないため、上記許可公告の後は、原則として、出願の補正を行うことはできない。

日本-エジプト間の特許審査ハイウェイ(PPH)

日本国特許庁とエジプト特許庁との間の、特許審査ハイウェイ試行プログラムは、2020年5月31日に終了したが、2020年6月1日より、「PPH-MOTTAINAI」および「PCT-PPH」加えた、新たに特許審査ハイウェイ試行プログラムが開始されている。

上記新たな特許審査ハイウェイ試行プログラムの終了予定日は、2023年5月31日である。

上記特許審査ハイウェイ試行プログラムを利用することにより、日本国の特許に基づいて、エジプトにて早期に特許権を取得することが可能となる。

また、「PPH-MOTTAINAI」によって、どの庁に先に特許出願をしたかにかかわらず、日本-エジプト間において、PPHの利用した早期審査の申請が可能となる。

さらに、「PCT-PPH」を利用することによって、PCT出願の国際段階成果物(国際調査機関が作成した見解書、国際予備審査機関が作成した見解書および国際予備審査報告)に基づき、PPHを利用した早期審査の申請が可能となる。

 
 

PCT出願を国内段階に移行させるための要件

PCT出願をエジプトの国内段階に移行させるためには、以下のことに留意しなければならない。

移行できる期間 優先日から30ヶ月(33ヶ月まで延長可能。ただし、延長費用が発生する。)
翻訳文の言語 アラビア語
提出すべき書類 ①発明者の氏名及び住所が国際出願の願書に記載されていない場合には、発明者の氏名及び住所②国際出願の翻訳文3通(明細書・請求の範囲・図面の中の説明・要約書)*③国際出願日の後に出願人の名称又は名義変更があったが、国際事務局からの通知(様式PCT/IB/306)に当該変更が反映されていなかった場合には、当該変更を証明する書類④国際出願日の後に出願人が変更された場合には、国際出願の譲渡証⑤出願人がエジプトに居住していない場合には、代理人の選任
国内出願の翻訳文の提出期限 国内官庁の通知の日から6ヶ月
代理人とすることができる者 国内官庁に登録されている弁理士又は特許代理人

*PCT22条に基づく場合、最初に提出したもの・補正されたものの双方の請求の範囲、及び19条に基づく説明書の翻訳文が必要。PCT39条(1)に基づく場合、いずれかの書類が補正された場合には、最初に提出したもの・国際予備審査報告の附属書により補正されたものの双方の翻訳文が必要。

 
 

 

 

意匠制度

出願ルート

パリルート、ハーグルートでの出願が可能。

出願言語

アラビア語

保護対象

色の有無を問わず、線又は立体を組合せたもの。ただし、当該組合せ又は形が新規性のある特別な外観を与えかつ産業上利用可能なものに限る。

一出願複数意匠制度

 採用している。出願は50 以下の意匠を含むことができるが、これらすべての意匠はまとまりのある一つの単位でなければならない。

出願に必要な書類

①各意匠4 部,ただし,保存することが可能な場合には,意匠が意図する現物見本を提出することができる。

②出願人が法人の場合,登録出願は,当該法人が記録されている商業登録簿の該当頁の謄本,定款の公式の謄本又は規約の複製を添付する。

③本規則第132 条に基づいて出願を提出する場合は,外国に提出した登録出願に寄託された意匠の写しを出願に添付する。係る写しは,当該外国の工業所有権当局によって証明されかつ出願と共に提出されるものとし,又は当該人による書面請求に基づいて,意匠当局に対し,出願提出日から6 月を超えない期間内に提出しなければならない。出願された意匠は,外国に寄託された意匠と同一の意匠でなければならない。

④博覧会における展示の場合において,登録出願が優先権を含む場合は,一時的保護証明書を添付する。

出願公開

出願公開制度はない。ただし、方式要件を満たしているときは公報により公告(公開)される。

異議申立制度

利害関係人は、出願の公告日から60日以内に異議を申立てることができる。

審査

審査請求制度なし。

優先審査制度、早期審査制度なし。

不登録事由

①その形が基本的に製品の技術又は機能的要件に由来する意匠

②紋章、宗教上の象徴、エジプト又は他国の旗又は印章を含む場合、又はその使用が公序良俗に反する意匠

③登録商標若しくは周知標章と同一、類似、又は極めて似ている意匠

無効審判制度

 無効審判制度はない。ただし、無効は裁判所に提訴することができる。

意匠権の存続期間

出願日から10年である。更新により5年延長することができる。最長15年。

 

 

商標制度

出願ルート

パリルート、マドプロルートでの出願が可能。

出願言語

アラビア語

商標の種類

文字商標、図形商標、記号商標、結合商標、色彩商標

保護対象

商品、役務、標準商標(証明商標)

商標分類

国際分類(ニース分類)を採用している

一出願多区分制度

法律では一出願多区分制を導入しているが、商標庁は各区分につき個別に出願することを要求している。

出願に必要な書類

①標章の画像4 部,登録出願様式の標章の画像と同一とする。

②出願人の姓名,家柄,国籍,送達宛先及び(もしあれば)エジプト・アラブ共和国における選定住所。出願人が法人の場合は,同法人の名称及び送達宛先。出願が代理人の仲介により提出された場合は,姓名,宛先及び認証された委任状

③登録出願に係る標章

④標章登録出願に係る製品の表示及び製品が属する類の番号

⑤製品を区別するためにそれに関して標章が使用されている又は使用される予定の商業事業又は開発計画の場所

⑥優先権が主張される場合,出願人が出願を世界貿易機関に加盟する又はエジプトと相互関係のある国若しくは団体に登録したことを証明する書類

⑦標章の一時的保護を確保するために交付された書類(もしあれば)。外国語で提供された場合,本条に規定する書類には,アラビア語翻訳文を添付しなければならない。

出願公開

出願が認容された場合、公告料金が支払われた後に異議申立のために出願内容が商標公報に公告される。

異議申立制度

公告日から60日以内に、利害関係人は異議申立を行うことができる。

登録局から異議申立の謄本を受領した出願人は受領してから30日以内に、答弁書を登録局に提出する必要がある。

出願人が答弁書を提出しなかった場合、出願は取り下げられたものとみなされる。

審査

方式審査および実体審査が行われる。
不登録事由

  • ①特有の特徴を欠いている標章、又は、製品に対する慣習的な標識や記述又は一般的な図柄や画像の組み合わせである標章。
  • ②公序良俗に反する標章。
  • ③国家又は他の国、地域又は国際組織に関する公の紋章、旗及びその他の紋章、並びにそれらの模造品。
  • ④宗教的性格の象徴と同一又は類似の標章。
  • ⑤赤十字又は新月社、又はその他同じ特徴の紋章、並びにそれらの模造品。
  • ⑥本人の同意を得ない個人の肖像又は紋章。
  • ⑦出願人が自己の権利を立証出来ない名誉学位の称号。
  • ⑧公衆に誤解を与える虞がある又は公衆を混乱させる虞がある標章及び地理的表示、製品の原産地として又は商品及びサービスを問わず他の品質に関して虚偽の記載が含まれている標章及び地理的表示、並びに、商標を捏造した表示又は模造した表示又は偽った表示が含まれる標識。
 

無効審判制度

 無効審判制度はない。ただし、利害関係人は、無効を裁判所に提訴することができる。

不使用取消制度の有無

5年間継続して不使用のときは、不使用取消の対象となる。

商標権の存続期間

出願日から10年である(10年毎に更新可能)。

 
 
 

リンク

エジプト特許庁(英語あり)<http://www.egypo.gov.eg/>

WIPO<http://www.wipo.int/portal/index.html.en>

 
 

参考資料・サイト

PCT出願人の手引き(WIPOホームページより入手)

JETRO 日本貿易振興機構(ジェトロ) ホームページ

 

 

 

弁理士 スペシャリスト  鷲見 祥之

<関連ページ>
外国・知財翻訳 外国支援室 外国最新情報 新興国等情報 PCT支援室

TOP