GCC

GCCの概要

GCCとは、湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council)の略称である。GCCは、中東・アラビア湾沿岸地域における地域協力機構として1981年に設立された。

加盟国はバーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、およびアラブ首長国連邦(以下「UAE」)の産油6カ国である(地図参照)。加盟6カ国の人口は計約3860万人を数え、GDPは計約9000億ドル超に達する。

これは日本のGDPの1/5程度であるが、例えばサウジアラビア、UAE、クウェートなどは先進国並みの市場を持っており、GCC6カ国は、イスラエル、ヨルダン、トルコ、モロッコ、エジプトなどと合わせてMiddle East & North Africa =MENA と称されて、投資の対象として注目されている。

GCCは、経済、金融、商業、関税、教育、法律および行政分野等において類似の制度および法律を採用すること等を目的としており、共通した知的財産制度の採用も目的の一つとされている。

特許規則の改正による取扱いの変化

GCC特許庁は、2021年1月6日、新規特許出願の受付を停止する旨を発表した。

係属中の出願については、審査が継続され、特許付与された場合は全加盟国で効力を有する。

すでに付与された特許権は、権利期間満了まで、加盟各国において有効である。

 

前記出願の受付停止は、2021年1月5日に、特許規則の一部が改正されたことによる。2021年4月11日付で公表された前記特許規則には、以下のことが定められている。

  • (1)GCC特許庁は、GCCのいずれかの国の要請により、特許出願の受付、審査、特許付与に責任を負う(1条の2第1項)。
  • (2)前記要請は、GCC加盟国が任意に選択することができる(1条の2第1項)。
  • (3)GCC加盟国は、特許出願の受付、審査、特許付与の全部または一部をGCC特許庁に要請する場合、GCC事務局にその旨を通知する。前記要請を行わない部分には、各国特許法が適用される(1条の2第2項)。

2023年1月1日から、クウェートおよびバーレーンについて、2023年7月1日からカタールについて、特許出願の受付および審査が再開されている。これら3か国の前記要請によるものと思われる。残り3か国による要請の有無は不明。

 

GCC特許が付与された場合、加盟国すべてに効力が及ぶことが、GCC特許の最大のメリットであった。しかし、これを定めた規定は廃止された。

 

出願人は、出願時に、クウェート、バーレーンおよびカタールからなる群より選ばれる1以上の国を指定する。特許権の効力は、指定した国にのみ及ぶ。

クウェート、バーレーンおよびカタールを含め、加盟国に対するパリルートでの直接出願、またはPCTルートによって権利化を図ることも可能。

GCCのロゴマーク
GCC加盟6カ国(地図出典:参考文献②)

 

GCC特許制度の概要

1992年12月に開催された第13回GCC首脳会議において、GCC特許規則が可決され、GCC特許庁が設置された。GCC特許庁はサウジアラビアの首都・リヤドに置かれ、1998年8月より特許出願の受付を開始。1999年11月に規則の一部を改正し、改正規則が2000年8月16日に発効された。同日にはTRIPs協定にも加盟。

しかし、2021年1月5日に、特許規則の一部が改正されたことにより、前記<特許規則の改正による取扱いの変化>に記載した状態になっている。よって、以下の記載は、加盟国からGCC特許庁に前記要請が行われた場合にのみ適用されると考えられる。

 

GCC特許制度の概要を表1に示す。

【表1】

対象制度 特許制度のみ
現地代理人の必要性
出願言語 アラビア語
実体審査 あり(要件)審査手数料納付通知日から3月以内に審査手数料納付
PCTにおけるGCC指定 不可
パリルート出願
出願公開 なし
優先審査・早期審査 なし
特許権存続期間 出願日から20年(存続期間の延長制度なし)
異議申立制度 あり
無効審判制度 あり
実施義務 3年不実施で強制実施権付与の対象化

 

制度

GCCに対しては、今のところ特許出願しか行うことができない。実用新案制度および意匠制度は設けられていない。よって、実用新案および意匠については各国で保護を求める必要がある。ただし、サウジアラビアには実用新案制度はない。

一方、商標に関しては、GCC統一商標法という制度が2006年に発効し、クウェート、バーレーン、サウジアラビア、オマーンでGCC統一商標法を採用している。
 2023年7月10日には、カタールでGCC統一商標法を採用する実施規則が発効され、8月10日からその規則が適用されることとなった。これにより、GCC加盟の6カ国全てが統一商標法に準拠することが確定し、ユーザーの利便性が向上すると期待されている。

しかしながら、GCC統一商標法は、GCC地域の商標に関係する法律分野を調和させる試みであるものの、地域ハーモナイゼーション法でしかなく、欧州連合におけるEUTMのように商標出願を統一又は集中させるものではない。そのため、それぞれのGCC加盟国は引き続き登録簿を独立して保持、管理すると考えられる。その結果、GCCにおいて商標を登録したいと考える出願人は、従来通り、各GCC加盟国で商標出願を個別に行う必要がある。

出願件数・登録件数

・出願件数の推移

年度 2014 2015 2016 2017 2018
出願件数 2492 1982 1949 1846 2220

 GCC加盟国以外からの出願件数が90%以上を占める。

・登録件数

 年300~500件程度で推移。2020年3月現在までの登録件数は10906件である。

技術分野 2020年03月現在までの登録件数
機械工学及び電気工学 2475
石油工学及び天然ガス工学 2085
薬剤及び生物工学 1240
化学及び化学工学 5106
合計 10906

 

出願人

発明者およびその承継人が出願人となりうる。出願人がGCC居住者ではない場合、GCC居住者である登録代理人を任命する必要がある。

 

現地代理人

知的財産関連の専門資格制度は設けられておらず、大卒者であれば特許庁に対して代理業務を行うことができる。そのため、現地代理人の質の見極めが必要である。

 

出願書類、言語

出願書類は、

  ①願書、
  ②明細書、
  ③クレーム(日本と同様の従属形式可)、
  ④要約(50語以上200語以下で記載)、
  ⑤必要な場合図面。

他に、願書を補うために、出願日から3月以内に

  ⑥委任状(包括委任状提出可)、
  ⑦(法人出願の場合)譲渡証および⑧登記簿謄本、
  ⑨(優先権主張する場合)優先権証明書、

の提出が必要。

 

出願はアラビア語で行い、明細書、クレーム、図面および要約については英訳の添付が必要。英語での出願はできない。アラビア語訳の明細書等は出願と同時に提出することが必要であるないため、現地代理人による翻訳期間を十分に確保する必要がある。

  ・優先権証明書が日本語の場合、英訳も提出要。
  ・上記⑥~⑨には、いずれかのGCC 加盟国の領事による領事認証が必要。認証手続に時間がかかるため、時間的余裕を確保することが肝要。
  ・上記⑥~⑧は、所定の用紙を提出し、書面で誓約することにより、出願日から3月以内に提出することができる。
  ・開庁日は日曜日~木曜日である。ラマダン時の労働時間の短縮、突然定められる祝日等の制約があるため、早め早めの対応が望ましい。
  ・電子出願が試行されている。

出願の形式

①GCCへの出願

(i)パリ条約の優先権を主張したGCC出願が可能(GCCはパリ条約を締結していないが、優先権に関するパリ条約のルールを尊重しているため)。

GCCにおいて登録された場合、以前はGCC加盟6カ国(UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア)全てにおいて特許権の効力が及んでいた。しかし、前記特許規則の改正により、現在は、前記要請をGCCに対し行った国にのみ効力が及ぶ。

(ii)PCT出願においてGCC特許庁を指定することはできない。

②加盟各国への出願

(i)各国への直接出願が可能である。

(ii)パリ条約の優先権を主張した出願が可能であり、PCTルートによる権利化も可能。移行期間は優先日から30か月。

出願から登録までの流れ

①方式審査

GCC特許庁に提出された出願書類が形式要件を満たしていれば、願書に出願番号が割り当てられ、出願日が確定する。

毎年1~3月の間に出願維持年金の支払が必要。期間を徒過した場合、4~6月に、追加料金と共に支払可能。

②出願公開

出願公開制度がないため、行われない。

③実体審査

審査手数料納付通知を受けた日から3月以内に審査手数料を納付すると、実体審査が行われる。納付しない場合、出願は放棄されたものとなる。
優先審査制度、早期審査制度はない。今のところ、PPHも導入されていない。
実体審査を遅らせるための制度はない。
実体審査は、一部をオーストラリア特許庁および中国特許庁に委託している。1st OA発行までの平均期間は出願日から約3年。査定日までの平均期間は出願日から約42月。

④自発補正

特許査定まで可能だが、審査手数料納付後は不可。

⑤特許要件

新規性・・先行技術によって予期されないことを要する。世界主義であり、出願日より前または優先日より前に開示された発明は、以下の例外を除き、新規性を有さない。

新規性喪失の例外
発明の公衆への開示は、以下の場合新規性を喪失しない。

(i)出願人又はその前任者に対する濫用行為により、又は、その結果として開示が行われた場合であって、出願日又は優先日のいずれかに先立つ1年間に行われたもの
(ii)出願日の前6ヶ月以内に公認の博覧会で開示されたもの

進歩性・・特許出願に関する先行技術について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって、自明ではない場合、進歩性を有するものとみなされる。

産業上の利用可能性
何らかの種類の工業、農業、漁業又はサービスにおいて生産されるか使用される可能性がある場合、産業上利用できるものとされる。
★プロダクト・バイ・プロセスクレームは、物自体が特許要件を満たすことが必要。新たな製造方法によって製造されたという事実だけでは、新規性を有さない。

不特許事由
以下のものは発明とみなされず、特許を受けることができない。

(i)発見、科学理論、数学的方法およびコンピュータプログラム
(ii)計画、規則、事業の実施方法、純粋な精神的活動の遂行または遊技
(iii)植物品種、動物品種、又は、植物若しくは動物を生産するために用いられる生物学的方法。ただし、微生物学的方法及びそれによる製品は除く。
(iv)人又は動物の身体の外科治療又は診断の方法、及び、人又は動物の身体について用いられる診断方法。ただし、これらの方法において用いられる製品を除く。

★手術、治療、診断方法については、動物が対象であっても不特許事由となる。

⑥拒絶理由通知

(i)実体審査の結果は出願人に通知され、出願人は通知を受けた日から3月以内に応答することができる。在外者であっても応答期間延長は認められない。アラビア語での応答が必要であるため、通常、日本語→英語→アラビア語への翻訳が必要となる。現地代理人へは早めに指示することが望ましい。
(ii)最大3回のOAが発行され得る。
(iii)出願が拒絶された場合、出願人は公告日から3ヶ月以内にGCC特許委員会に対して審判請求を行うことができる。

⑦分割出願、出願の変更

分割出願は特許査定まではいつでも可能。出願の変更は制度がないため不可。

⑧第三者による情報提供制度

制度なし。

⑨特許権の発生・異議申立

(i)特許査定後のクレームおよび明細書の補正、訂正は不可。
(ii)特許付与承認の通知を受領した日から3ヶ月以内に料金を納付する。公告料及び付与料の納付後、決定が公告され特許証が出願人に交付される。
(iii)利害関係人は、特許付与の公告の日から3ヶ月以内に異議申立を行うことができる。
異議申立は、裁判管轄権を有する加盟国の裁判所に対して行う。裁判管轄権は、訴訟原因がどこに由来するかということ、または被告の住所によって決定される。
特許付与公告の日から3ヶ月以内に異議申立がなかった場合、異議申立が認められなかった場合は、特許原簿に特許が登録される。
(iv)存続期間は出願日から20年である。前期要請を行った国にのみ、効力が及ぶ。存続期間の延長制度はない。

⑩無効審判

無効審判制度自体はないが、GCC特許庁によってなされた決定に対し不服のある者は、決定の交付を受けた者に知られた日、又は、公告の日から3ヶ月以内にGCC特許委員会に上訴することができる。

⑪訂正審判

制度なし。

⑫実施義務

特許権者は、特許付与日から3年以内にGCC加盟国の国内で十分な実施を行うことが求められており、十分な実施が行われない場合は強制実施権付与の対象となる。

権利行使

GCC裁判は、侵害がなされた加盟国の裁判所に提起する。

 

参考文献・参考URL

①特許庁委託 ジェトロ知的財産権情報 模倣対策マニュアル 中東編(2009年3月、JETRO)

②ロシア、中南米及び中東における知的財産権制度及びその運用状況に関する調査研究報告書(平成22年3月、社団法人 日本国際知的財産保護協会)

③GCC特許庁ホームページ:http://www.gccpo.org

④社団法人発明協会 外国産業財産権侵害対策等支援事業 世界の産業財産権制度および産業財産権侵害対策概要ミニガイド(GCC特許制度の概要を所収):http://iprsupport-jpo.go.jp/miniguide/pdf2/GCC.html

⑤UAE・サウジアラビアにおける特許権取得・行使上の留意点(初版)(一般社団法人 日本知的財産協会)

⑥UAE・サウジアラビア調査団報告(一般社団法人 日本知的財産協会)

⑦湾岸協力会議特許庁における特許権取得に関する制度概要調査(独立行政法人 日本貿易振興機構 ドバイ事務所 知的財産権部)

⑧中東諸国における特許・実用新案・意匠・商標の審査運用の実態および審査基準・審査マニュアルに関する調査研究 報告書(一般社団法人 日本国際知的財産協会)

 

 

弁理士 スペシャリスト  松村 一城


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