インド知財情報
1.インド概観
(1)面積 3,287,263平方キロメートル(日本の約8.8倍)
(2)人口 10億3,700万人(2001年人口センサス)※センサスは10年毎に発表
(3)首都 デリー 人口1,385万人(2001年人口センサス)
(4)言語 ヒンディー語、英語、ウルドゥー語、ベンガル語
(5)宗教 ヒンドゥ教(82.7%)、イスラム教(11.2%)、キリスト教(2.6%)など
(6)公用語 ヒンディー語(連邦公用語)、英語(準公用語)
(7)実質GDP成長率 7.4% [2009年] 基準年:2004-2005
(8)名目GDP総額 1兆2,369億547万ドル [2009年]
(9)一人あたりのGDP(名目) 1,032ドル [2009年]
(10)輸出額 1,787億5,143万ドル [2009年]
(11)対日輸出額 36億2,954万ドル [2009年]
(12)輸入額 2,883億7,288万ドル [2009年]
(13)対日輸入額 67億3,418万ドル [2009年]
(14)主要産業 農業、工業、鉱業、IT産業、製薬、バイオテクノロジーなど
(15)主要貿易相手国
輸出 UAE、米国、中国、香港、シンガポール、オランダなど
輸入 中国、UAE、サウジアラビア、米国、スイス、豪州など
2.インドに出願するメリット
インドへ知的財産権に関する出願を行うことに関して以下のメリットが挙げられる。
(1)インドはBRICsの1つであり、今後も高成長が見込める市場の1つとして注目されている。
(2)インドでは、手続を英語で行うことができるため、欧米で作成した英文明細書を用いて出願することができ、翻訳費用を節約することができる。
(3)パリ条約に加入しているため、日本での出願に基づく優先権の主張が可能である。
(4)PCTに加盟しており、PCT出願から移行可能である。
3.特許
出願から20年(特許法53条)。但し、日本とは異なり、医薬品発明等の存続期間を延長するような制度は設けられていない。
・インド特許法では、3条において「発明でないもの」を具体的に例示している。
・インドでは、物質特許は認められるが、”既知の物質の新規用途の単なる発見”は認められない(特許法3条(d))。また、既知物質の塩等の誘導体は、それらが効能に関する特性上実質的に異ならない限り、同一物質とみなされる(特許法3条(d))。
・ソフトウェア自体は特許されないが、何らかのハードウェアと組み合わされたものは認められ得る。
・農業の方法、ゲームの方法、集積回路の配置、原子力に関する発明は認められない。
・2005 年1月1日施行の改正法により、医薬品の関する発明、微生物・化学品・農薬及び飲料物に関する発明、及び、産業上利用性を有するコンピュータプログラムに関する発明、が保護されることになった。
・インドには実用新案制度はない。
図1に出願から登録までのフロー図を示す。以下、各段階について簡単に説明する。
<出願>
・パリ条約に加入しているため、日本特許出願に基づく優先権の主張が可能である。
・PCTに加盟しているので、PCT出願においてインドを指定することができる。
・出願から6ヶ月以内に、外国出願に関する情報を提出しなければならない(特許法8条(1)、特許規則12(1A))。また、出願人は、特許付与又は特許付与拒絶までは、長官の要求があれば、外国における出願の処理に関する所定の明細を提出しなければならない(特許法8条(2)、特許規則12(3))。
・インドには、特許庁が4箇所ある(ニューデリー、チェンナイ、コルカタ、ムンバイ)。外国の出願人は、代理人の居住地により特許庁が決まる。審査のスピードは、各支局によって異なる。一般的には、特許出願の審査の早さは、ニューデリーが最も早く、チェンマイ、ムンバイ、コルカタがその後に続くと言われている。
・インド国内でなされた発明は、原則としてインド国内に出願しなければならない。その発明をインド国外で第1国出願する場合には、許可が必要。
・明細書には、仮明細書および完全明細書がある。仮明細書は、発明を広範囲に説明した文書であり、図面、フローチャート、化学式を含む場合がある。仮明細書には、クレームは含まれていないものの、発明者が保護を希望する発明のすべての側面を説明する必要がある。仮明細書を提出することで、その発明の優先日が得られる。
・仮明細書の要件は、完全明細書ほど厳格ではなく、発明を詳細かつ無制約に説明し、想定される改善及び修正を網羅すれば足りる。
・特許出願が仮明細書と共になされたときは、優先日を維持するために12ヶ月以内に完全明細書を提出しなければならない。完全明細書が提出されると、新たな内容を追加することはできない。
・コグネート(cognate)出願という形態がある。複数の仮出願について、一つが他の変形発明に該当する場合などの所定の場合に、まとめて一つの完全明細書で出願することができる。
・追加特許制度というインド特有の制度がある(54条、55条、56条、特許規則13(3))。完全明細書に記載若しくは開示された発明(主発明)の改良または変更の特許出願を行い、追加特許として請求することにより、改良または変更の特許を追加の特許とすることができる。但し、追加特許の存続期間は、主発明の特許権の存続期間と同じであり、主発明の特許権が失効すると追加特許も失効する。
・職務発明に関して、インド特許法には、使用者と従業者の関係について明文の規定はない。英国の先判例によれば、明示的ないし暗示的な契約上の義務がなければならない、とされている。
<情報開示義務>
・特許付与前に、対応外国出願の対応外国出願の国名、出願日、出願番号、出願のステータス、出願公開番号、特許発行日を通知する必要がある(特許法8条(1))。
・特許付与前に、対応外国出願に係る、サーチレポート、審査結果、特許付与を受けたクレームを提出する必要がある(特許法8条(2))。
<クレームの記載について>
・発明の単一性を満たすのであれば、一出願において複数カテゴリーをクレームアップ可能。
・多項従属項、多項従属項に従属する多項従属項は認められる。
・二部形式の記載が好ましいが、義務ではない。
・クレーム中に参照番号が含まれていてもよく、それによってクレームが限定されることもない。
<出願公開>
・出願公開は、出願日又は当該出願の優先日の何れか先の日から18月より後にされる(特許規則24)。早期に権利化を希望する場合には、早期公開制度を利用する必要がある(特許法11条(2))。
<審査請求>
・審査請求は、出願の優先日又は出願日の何れか先の日から48月以内にしなければならない(特許規則24B)。当該期間内に審査請求を行わなかった場合には、出願が取り下げ擬制される(特許法11条(B))。
<審査>
・審査において拒絶理由が見つかれば最初の拒絶理由通知(First Examination Report)がなされる。これに応答すると、再度審査が行われる。拒絶理由が見つからなければ登録査定なされる。
・インドでは、最初の拒絶理由通知が送付された日から12月以内(アクセプタンス期間)に特許付与が可能な状態にしなければ、出願が放棄されたものとみなされる(特許法21条(1)、特許規則24B(4))。
・拒絶査定がなされた場合、再審査請求(特許法77条(f))や審判請求(特許法117A条)を行うことができる。
(審査時に出願人が取り得る措置)
(a)補正
長官の許可が得られれば補正することが可能である(特許法57条)。但し、補正後の明細書が補正前の明細書において実質的に開示していないか又は示していない事項をクレームし若しくは記載することになるとき、又は補正後の明細書のクレームが補正前の明細書のクレームの範囲内に完全には含まれなくなるときは認められない(特許法59条)。
自発補正は、出願当初の明細書中に開示のある事項をクレームに追加する補正は、たとえ権利範囲を拡大することになったとしても可能である。
(b)分割出願
・特許付与前であればいつでも分割出願することは可能である(特許法16条)。
・分割出願の審査請求期間は、優先日から48箇月または分割出願から6ヶ月のうち、何れか遅い方までに行わなければならない。
・分割出願からの分割出願は不可。
(c)審査官との面談
・出願人は、審査官に審査着手後面談を求めることができる。インド代理人からの情報では、審査官の面談は非常に有効な措置とのことである。
・出願人は、審査官の報告に不服がある場合にはヒアリングを請求できる。ヒアリングの請求は、最初の審査官報告から12箇月期限の最終日の10日より前までにする必要がある。
<付与前異議申立>
・特許出願が公開後で、特許が付与されていない場合は、何人も、特許付与に対する異議を長官に申し立てることができる(特許法25条(1))。つまり、異議申し立ての請求は、利害関係を有していることは要件とならない。
<PCT出願>
・国内移行期限は優先日から31ヶ月であり、審査請求期間は、パリルート出願と同じく、優先日から48箇月である。
・特許付与後で特許付与の公告の日から1年間の満了前はいつでも、利害関係を有する何人も長官に異議を申し立てることができる(特許法25条(2))。
・付与後異議申立とは別に、特許取り消しの申し立てをすることができる(特許法64条)。
・特許権者は、実施状況に関する情報(Woeking Statement)について毎年報告しなければならない(特許法146条、特許規則131(2))。
・特許付与日から3年の期間の満了後、特許発明をインド領域内で実施していないこと等を理由に、強制ライセンス付与の対象となる(特許法84条)。
・最初の強制ライセンス許諾の命令の日から2年後であっても、特許発明がインド領域内で実施されていない場合には、特許が取り消され得る(特許法85条)。
4.特許侵害訴訟について
・侵害訴訟は、特許権者の権利に対する侵害行為を抑制するために提訴される(48条)。特許権者(および、当該特許に関する権利を有する者)は、侵害者の所在地、若しくは侵害行為が発生した場所を管轄する地方裁判所または高等裁判所のいずれかを選択して提訴することができる。提訴および審理の手続は、1908年民事訴訟法第26条から第35条Bに規定されている。
・特許侵害訴訟において特許権者等が侵害者に対して請求できる救済方法は、(a)差止命令(暫定的、終局的)、(b)損害賠償または不当利得返還、(c)押収、没収又は廃棄、(d)訴訟費用などである。
・法律により製品を製造、譲渡又は販売する権限を与えられた者から特許発明にかかる製品を輸入する行為は、侵害に当たらない(消尽)。
・1970年特許法第111条は、特許権の存在に善意であったことを条件として、損害賠償責任または不当利得返還を免れると規定している。
図1 出願から登録までのフロー図
5.意匠
・登録日から 10 年間であり、1回のみ5 年間延長ができる(意匠法11条)。但し、意匠が登録されるときは、登録出願日の時点で登録されたものとみなされる(意匠法5条(6))。
・意匠法2条(d)には、「「意匠」とは、工業的方法又は手段により、物品に適用される線又は色彩の形状、輪郭、模様、装飾若しくは構成の特徴 に限られるもの」と定義されている。
・意匠法2条(a)には、「「物品」とは,何らかの製品又は物質であって、人工のもの、又は部分的に人工で部分 的に天然のものを意味し、かつ、製造して個別に販売することができる物品の何らかの部品 を含む。」と定義されている。尚、個別に販売することができない「部分意匠」は保護されない。
・パリ条約に加入しているため、日本での出願に基づく優先権の主張が可能である。
・審査請求は不要(意匠法5条)。
・審査の結果、拒絶査定となった場合には、高等裁判所に上訴することできる(意匠法5条(4))。
・インドには、意匠庁が4箇所ある。外国の出願人は、代理人の居住地により特許庁が決まる。
・利害関係人は、意匠権取り消しの申し立てをすることができる(意匠法19条)。
6.商標
・出願日から10年であり、更新により延長が可能である(商標法25条(1))。
・商品商標に加えて、役務商標も保護される(2条(1)(zb))
・団体商標制度もある(61条)
・立体形状、色彩の組合せも保護される(2条(1)(m))。
・パリ条約に加入しているため、日本での出願に基づく優先権の主張が可能である。尚、マドリット協定議定書には加盟していない。
・日本と同様に、一出願一商標制度を採用しているが、一出願で多区分を指定することができる(18条)。
・追加料金を支払うことによって、早期審査の請求ができる(商標規則38(1))。
・審査の結果、拒絶査定となった場合には、審判請求することできる(商標法91条)。
・付与前異議申立制度を採用しており、公告日から3ヶ月以内であれば、何人も異議申し立てをすることができる(商標法21条)。
・インドには、商標庁が5箇所ある。外国の出願人は、代理人の居住地により特許庁が決まる。
・更新時の審査においては、商標が実際に使用されているかは審査されない。
・利害関係人は、無効審判を請求することができる(商標法57条)。
・不使用期間が5年3月となれば不使用取消審判の対象となる(商標法47条)。
・登録商標の所有者の代理人又は代表者が委任を受けずに自己の名義で標章を登録等するときは、当該所有者は、出願された登録に対して異議を申し立てることができる(商標法146条)。但し、当該行為を知ってから3年以内にする必要がある。
7.共通事項
インド特許庁URL http://www.ipindia.nic.in/
〔参考資料〕
(1)「インドにおける知的財産保護制度及びその運用状況に関する調査研究報告書」、平成19 年3 月社団法人 日本国際知的財産保護協会、AIPPI・JAPAN
(2)「インド特許法改正の影響」、パテント、2008年、Vol61 No.2 P42-48
(3)国際第3委員会、アジア・オセアニア諸国での特許取得上の留意点(改訂版)、資料332号(2006年5月)
(4)「インド 特許法と実務」、平成23年3月31日