安定した成長を続ける新興国、その中でもVISTAの一部に含まれるインドネシアの知的財産保護の状況についてまとめました。皆様のインドネシアでの活動の一助になれば幸いです。
【概況】
インドネシアでは法務人権省知的財産局が司っています。主に特許、簡易特許(実用新案に相当)、産業意匠、商標、著作権の出願受付や登録業務、営業秘密及び半導体集積回路配置の登録業務を行っています。また出願の多くは知的財産コンサルタント(日本の弁理士に相当)を通して出願されています。
なお、インドネシアが加盟している主な国際条約は下記の通りです。
{パリ条約、特許協力条約(PCT)、TRIPS協定、ベルヌ条約 ※マド・プロ未加入}
表1 各法域の概要
| |
特許 |
簡易特許 |
産業意匠 |
商標 |
| 現地代理人の必要性 |
要 |
| 出願言語 |
インドネシア語 |
| 審査制度 |
有 |
有 |
有 |
有 |
| 審査請求 |
出願から36月 |
出願から24月 |
無 |
無 |
| 公開 |
出願から18月 |
出願から3月 |
出願から3月 |
審査終了後公告 |
| 存続期間 |
出願から20年 |
出願から10年 |
出願から10年 |
出願から10年(更新可能) |
| 無効審判 |
無(商務裁判所に提訴) |
| 効力の制限 |
強制実施権設定時政府による実施決定先使用者の実施容認教育・研究目的 |
強制実施権設定時政府による実施決定先使用者の実施容認教育・研究目的 |
教育・研究目的(先使用権無) |
先使用権無 |
| 備考 |
審査期間は、審査請求日から36月以内 |
審査期間は、審査請求日から24月以内 |
審査期間は、公開終了から6月以内 |
審査期間は、出願30日以内開始後9月以内 |
意匠・商標の審査期間は、実際には1年以上かかっている。
表2 出願件数の推移(2004年~2006年)
| |
特許 |
簡易特許 |
産業意匠 |
商標 |
| 2004年 |
3,668 |
209 |
4,396 |
49,311 |
| 2005年 |
4,304 |
195 |
5,114 |
54,651 |
| 2006年 |
4,612 |
268 |
4,926 |
54,250 |
(JETRO知的財産権情報模倣対策マニュアルより)
【特許】
インドネシアでは毎年4000~5000件弱の特許出願がされていますが、その約90%が外国からの出願です。つまり優先権主張を伴なった出願、またはPCT経由の出願が多く、実体審査は行われますが、他の先進国の審査結果を参考にすることが多いようです。
なお、国別で一番特許出願が多い国はアメリカ、次いで日本が多いとされています。
<出願時の注意点>
インドネシアに直接、あるいはパリルートで出願する場合の注意事項は下記の通りです。
- ①手続言語はインドネシア語です。但し英文明細書によって出願日の確保が可能です。(出願から30日以内にインドネシア語の翻訳文の提出が必要です。)
- ②提出書類は
(1)願書・特許請求の範囲・明細書・必要な図面・要約
(2)委任状(出願と同時に提出しなければなりません。また包括委任状は認められません。)
(3)譲渡書(出願人と発明者が異なる場合に必要です。出願日から16月以内に提出でき延長も可能です。)
(4)優先権証明書(パリルートでの出願の際必要です。)
(5)宣言書(出願人と発明者が同じ場合に必要です。)
- ③出願日・優先日から16月後に出願公開がされ、第三者は異議申し立てが可能です。
ただし、異議申し立てや答弁書の内容は審査の資料に使われるにすぎず、日本の情報提供に相当するものと考えられます。
また出願から36月以内に審査請求をしない場合、その出願は取下げたものとみなされる為注意が必要です。
なお、PCT出願でインドネシアの国内段階に移行する場合、上記書類の他、国際公開公報等、添付する必要があります。優先権証明書は不要です。
また、PCT国内段階移行期限は、第1章では最先の優先日から30月、第2章では最先の優先日から31月でしたが、現在は第1章・第2章、31ヶ月期限が適用されるようです。
〔その他留意事項〕
- 出願変更・分割出願は可能です。
- 新規性喪失例外制度はありません。
- 仮出願、国内優先権制度はありません。
- 期限徒過の救済はありません。
- 名義変更には会社の登記証明書と所定の委任状が必要です。
<特許要件>
特許要件は新規性・進歩性・産業利用可能性です。
不特許事由は、公序良俗違反、人体又は動物の検査治療の方法、数学的理論、生物(微生物を除く)動植物製造の為の生物学的方法((微生物学的方法を除く)。
<登録後>
出願が拒絶された場合に限り不服審判を請求することができます。しかし、登録された特許の無効を求める審判を請求する制度はありません。無効を求めるには商務裁判所に提訴しなければなりません。また特許期間の延長制度はありません。
侵害は親告罪です。
【簡易特許】
日本の実用新案に相当します。
<保護対象>
形状・形態・構造又はそれらの組み合わせによって実用的価値を有する物品の発明であって、新規なものが対象です。
【産業意匠】
年間5000件程度の出願がされており、全体の約8割がインドネシア国内からの出願となっています。なお、外国の中では日本が最も多く出願されています。
<出願時の注意点>
インドネシアに出願する場合の注意事項は下記の通りです。
- ①手続言語はインドネシア語です。
- ②提出書類は
(1)願書・意匠の図面・見本・写真及び説明
(2)委任状(出願と同時に提出しなければなりません。また包括委任状は認められません。)
(3)譲渡書(出願人と創作者が異なる場合に必要です。)
(4)優先権証明書
- ③秘密意匠・関連意匠に相当する制度はありません。
- ④組物意匠・部分意匠出願に相当する制度はあります。
<登録要件>
新規性のみ判断されます。従前は少しでも相違点があれば登録されました。しかし近年は新規性の判断の範囲を広げ、実質的に同一か否か判断されるようになって来ています。
<審査>
出願公開により第三者に異議申し立ての機会が与えられます。
異議申し立てのあった出願のみ実体審査が行われていましたが、現在は全ての出願が実体審査されるように運用されています。
審判制度はありません。不服の場合は商務裁判所に提訴しなければなりません。
<登録後>
侵害は親告罪です。
【商標】
年間50000件程度の出願がされており、全体の約7割がインドネシア国内からの出願となっています。なお、外国の中ではアメリカが最も多く出願されています。
また、インドネシアでは、真正な商標所有者が商標出願をする前に、他人に商標出願をされてしまうことが多々あります。なかでも元社員や元代理店が会社に無断で出願するケースが多いようです。
もし、自らの出願より先に、他人によって商標が出願されてしまった場合には、自身の商標が著名であることと、相手方が悪意をもって商標出願していたことを理由に異議申立を行う必要があります。
<出願時の注意点>
インドネシアに出願する場合の注意事項は下記の通りです。
- ①手続言語はインドネシア語です。
- ②提出書類は
(1)商標を使用する商品・サービスの区分
(2)商標所有宣誓書
(3)委任状(出願と同時に提出しなければなりません。また包括委任状は認められません。)
(4)商標印刷見本
(5)優先権証明書
- ③団体商標制度があります。
- ④防護標章制度はありません。
- ⑤1出願で3区分まで出願可能です。
<登録要件>
- ①登録の対象は商品・サービスに使用する商標、地理的表示、原産地表示です
(地理的表示、原産地表示は登録されて初めて保護されます。)
- ②立体商標・においや音声の商標は認められません。
- ③識別力がない商標は拒絶されます。
<審査>
全ての出願が実体審査され、9月以内に終了します。審査終了後に第三者に異議申し立ての機会が与えられます。
出願が拒絶された場合に限り不服審判を請求することができます。
<登録後>
侵害は親告罪です。
<他人の権利に対抗する為に>
商標異議申立、不使用に基づく商標取消(商標局の職権による)、登録取消訴訟(商務裁判所に出訴)が可能です。
【不正競争防止法】
インドネシアには日本の不正競争防止法に相当する法律はありません。
現状では特許法等の登録によって権利行使をしていく方法が効果的です。
営業秘密については営業秘密法によって保護されています。これは営業秘密を特許等と同じく登録によって保護しようとするものです。
※参考文献 「模倣対策マニュアル インドネシア編」
2010年6月7日付け大統領令第37号に基づき、相続、贈与、遺言、文書による取り決めにより特許権を譲渡する場合、その譲渡について知的財産権総局に登録しなければならないとしました。
特許権譲渡登録請求時に必要なもの
- 1. 特許証書原本
- 2. インドネシア語に翻訳された認証及び宣誓書、譲渡証書。
- 3. 委任状
- 4. 特許権譲渡登録申請の支払い領収書
- 5. 本年度分の年金支払い領収書の写し
手続きについて
正規の手続きを経て登録申請を受領した場合、受理後30日以内に譲渡登録の通知があり、、譲渡登録証明が発効されます。
また、譲渡についての登記も行われ、特許公報にも掲載されます。
※優先権の回復について
2011年2月10日付けインドネシア特許庁の回覧状によりますと、インドネシア特許庁はPCT規則にある優先権の回復規定に関して、自らの立場を周知させるために公式発表を行ったようです。
【内容】
PCT規則26の2.3及び49の3.2における優先権の回復は、インドネシア国内法と適合しない。従って、上記規則にある「回復のための基準」を満たしてもその国際特許出願は取下げられたものとみなされ、また手数料等の返還もできない。
なお、PCT規則26の2.3及び49の3.2は、国際出願日がパリ条約の規定する優先期間12ヶ月の満了日の後であっても、その満了日から2ヶ月以内(優先日から14ヶ月以内)であり、 優先期間を遵守できなかった理由が受理官庁又は指定官庁が採用する以下の判断基準に該当する場合には、優先権の回復が認められる旨規定しています。
<優先権の回復の判断基準>
優先期間を遵守して国際出願を提出できなかったことが、
・相当な注意を払ったにもかかわらず生じた場合(より厳格な基準)
・故意でない場合(より緩やかな基準)
(上記いずれの基準を採用するかは各受理官庁・指定官庁の判断に委ねられます)
※優先権の回復について
2011年2月23日付けインドネシア特許庁の回覧状によりますと、インドネシア特許庁は、審査の質の向上、審査遅延を解消する為、拒絶理由の応答期限に関する告知を行いました。
【内容】
- ① 一回目の拒絶理由が送達された際、3ヶ月の応答期間が与えられる。
- ② 上記期限内に応答をせず、または記載不備など応答が不完全であった場合、応答督促の通知がされる。そして、応答督促通知の発行日からさらに2ヶ月の応答期間が与えられる。
- ③ それでも応答しなかった場合、該当する出願は拒絶決定となる。または、出願を取り下げたものとみなされる。
- ④ 出願人・その代理人は上記決定や取り下げとみなされたことに対し、不服の申し立てはできない。