ポーランド

ポーランド共和国(以下、「ポーランド」と略す。)は、バルト三国の南に位置し、面積32.3万平方キロメートル(日本の約5分の4)、人口約3,800万人と、東欧州最大の共和制国家である。

公用語はポーランド語であり、首都はワルシャワにある。

ポーランドの主要産業は、食品、自動車、金属、化学製品、燃料であり、日本に対しては自動車部品、人造黒鉛などを輸出している。

 

ポーランドの知的財産権法の概要

ポーランドの知的財産権法の概要は以下のとおりである。

【表1】

  特許 実用新案 意匠 商標
現地代理人の
必要性
出願言語 ポーランド語
審査制度
審査請求
存続期間 出願から20年
(原則、延長無し)
出願から10年 出願から5年
(5年の延長が4回可能)
出願から10年
(更新可能)
異議申立 公報発行から6カ月
無効審判

 

 

特許制度

特許付与の対象

新規であり、進歩性を有し、かつ産業上利用することができる発明

発見、科学的理論及び数学的方法、美的創作物、コンピュータプログラム、精神的活動等は発明には該当しない。

公序良俗に違反するおそれのある発明、植物若しくは動物の品種又は植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な方法、人間及び動物の手術・処置方法および診察方法、形成および発達の様々な段階での人体および遺伝子配列を含む人体の要素の単なる発見に対しては、特許は付与されない。

出願書類

  • ①願書
  • ②明細書
  • ③クレーム
  • ④要約
  • ⑤必要な場合は図面
  • ⑥委任状(認証不要)
  • ⑦優先権証明書(優先権を主張する場合)
  • ⑧譲渡証(特許を取得する権利が譲渡された場合)

特許を取得する権利は原則として、創作者に帰属する。ただし、雇用による職務の過程で又は他の契約の履行中に創作された場合には、特段の合意がある場合を除き、使用者又は委託者に帰属する(実用新案・意匠も同様)。

出願から登録までの流れ

①方式審査

出願日の認定に必要な出願書類が提出されているか、方式的要件を満たしているかについて審査が行われる。

②調査報告書

明細を公開する特許出願について、調査報告書が作成され、出願人に送付される。

報告書は、英語、フランス語及びドイツ語による特許庁収集物中の利用可能な特許文献、ポーランド語による特許出願及び付与された特許並びに他審査官が考慮にいれることができる書類を基礎として作成され、審査の過程で考慮される。

③出願公開

優先日から18月が経過した後直ちに出願公開がなされる。出願人は、優先日から12月の期間内に、公開を繰り上げることを請求できる。調査報告書も公開の対象となり、第三者は出願に係る発明について情報提供が可能。

出願公開前に出願の手続が特許庁により停止されている場合又は拒絶の決定が確定している場合には、出願公開はなされない。

④実体審査

日本と同様に新規性、進歩性、産業上の利用可能性、冒認出願および明細書・クレームにおける発明の十分な開示等について審査がなされる。

審査官が実体的要件を満たしていないと判断した場合には、拒絶理由通知がなされる。

拒絶理由通知への応答により、拒絶理由が解消した場合には、特許付与の決定がされ、応答しても、なお、拒絶理由が解消しない場合には、拒絶の決定がなされる。

拒絶の決定に対する再審理の請求が可能である。

特許付与

特許を付与する旨の決定後、一定期間内に手数料を納付することを条件に特許が付与される。

出願ルート

パリルート、PCTルート(明細書等のポーランド翻訳文が必要となる。)、EPCルート(明細書等のポーランド翻訳文が必要となる。)

ポーランド特有の制度

追加特許制度 発明の改良または追加について、実体的特許要件の審査なしで特許を取得することができる。追加特許は基本特許と同時にその効力を失う。

秘密特許制度 ポーランド国民がした発明が国防または国家安全保障に係る場合は秘密発明であるとされ、特許取得上の優先権を主張する目的のみをもって出願することができる。特許庁は出願に係る発明が秘密扱いとされている期間中、その手続を差し控えなければならない。

特許審査ハイウェイ

日本国特許庁とポーランド特許庁との間で、2013年1月31日から特許審査ハイウェイ試行プログラムが実施されてきたが、2016年1月31日から本格実施に移行されている。

2017年1月6日付けで、ポーランド特許庁は、グローバル特許審査ハイウェイ(GPPH)試行プログラムの参加庁となった。これにより、GPPH参加庁間において、特許審査ハイウェイを利用することができる。

 

 

実用新案制度

権利付与の対象

物品の形状、構造やこれらの組み合わせに関する技術的特徴に関する新規で有用な解決手段

必要書類

  • ①願書
  • ②明細書
  • ③クレーム
  • ④図面(必須)
  • ⑤委任状
  • ⑥優先権証明書(優先権を主張する場合)
  • ⑦譲渡証(実用新案についての保護を取得する権利が譲渡された場合)

出願から登録までの流れ

基本的に特許と同様。

新規性、産業上の利用可能性について審査がなされる。特許と異なり進歩性は審査されない。

登録の付与

登録付与の決定後、一定期間内に登録料を納付することで権利が付与される。

出願ルート

パリルート、PCTルート(明細書等のポーランド翻訳文が必要となる。)

 

 

意匠制度

権利付与の対象

新規性を有し、かつ独自性を有する製品又はその装飾の線、外郭、色彩、形態、質感又は材料の特徴から生じる製品の全部若しくは一部の外観

必要書類

  • ①願書
  • ②明細書
  • ③図面
  • ④委任状(認証不要)
  • ⑤優先権証明書(優先権を主張する場合)
  • ⑥譲渡証(意匠についての登録を取得する権利の譲渡があった場合)

主な意匠制度

★多意匠一出願制度:有り
  ⼀の意匠出願で、意匠の本質的特徴が共通する10のバリエーションの意匠を包含することができる

★部分意匠制度:有り

★組物の意匠制度:有り

★関連意匠制度:有り

★秘密意匠制度:無し

出願公開制度

出願公開制度は採用されていない。

審査

①審査請求制度は採用されていない。

②実体審査なし
登録要件として新規性・独自性が必要だが、これらの実体要件は審査されず、方式要件・公序良俗違反のみが審査される。

・方式要件
 一の出願に、意匠が10個以上含まれているもの(分割出願をするよう求められる。)
 明らかに新規性・独自性を欠く意匠

・公序良俗違反
 ポーランドの表象、公共の標識等を含む意匠等

登録異議申立て

時期:意匠公報発行日から6ケ月間
主体:何人も登録異議申立てをすることができる。
主な不登録事由

 1)専ら製品の技術的特徴によって定まる意匠
 2)新規性・独自性のない意匠
 3)他の製品と機械的連結または相互作用させるために、正確な形状及び寸法で複製しなければならない意匠

異議申立てがあった場合、意匠権者に反対陳述の機会が与えられる。
また、特許庁の異議決定に対して、行政裁判所に不服申し立てをすることができる。

新規性喪失の例外

以下の場合には、新規性は喪失しないものとされる。

  • 秘密保持の条件に基づく第三者への意匠の開示
  • 創作者(又は承継人)の同意を得た第三者による出願前12ヶ月以内の意匠の開示
  • 創作者(又は承継人)の権利濫用の結果による出願前12ヶ月以内の意匠の開示

登録の付与

登録付与の決定後、一定期間内に公告手数料および登録料(最初の5年間分)を納付すると権利が付与される。

存続期間

出願から25年。5年ごとに更新可能

直接出願以外の出願形式

①ハーグ協定
  1)締約しているハーグ協定:ジュネーブ改正協定 (1999)
  2)発効日:2009 年 7 月 2 日
  3)締約国が行った宣言
   ・公表の延期の禁止。(第 11 条(1)(b))
   ・標準指定手数料: 国際出願に関する手数料について等級2(新規性以外の実体審査)
    又は等級3(異議の申立による実体審査)を適用する。(第 12 規則(1)(c)(i))
   ・国内法令に基づく最長の保護の存続期間(第 17 条(3)(c))

②パリルート

③欧州共同体意匠(registered Community design、RCD)

 

 

商標制度

保護対象

語、デザイン、装飾、色彩の組み合わせ、商品若しくはその包装の立体的形状、旋律その他の音響信号。

必要書類

  • ①願書
  • ②商標見本(図形・色彩等の文字以外の要素を含む場合)
  • ③音響を録音したテープ(音響商標の場合)
  • ④商標使用規約(団体商標、団体保証商標の場合)
  • ⑤委任状(認証不要)
  • ⑥優先権証明書(優先権を主張する場合)

★団体商標、団体保証商標の制度がある。

先願主義

先願主義が採用されています。

多区分一出願

一出願で多区分について出願することができます。

標準文字制度

標準文字制度は採用されていません。

出願から登録までの流れ

①方式審査

出願日の認定に必要な出願書類が提出されているか、方式的要件を満たしているかについて審査が行われる。

②出願公開

出願から3ヶ月以内に出願公開がなされる。

公開後、第三者は商標の保護を否定する理由に関する情報提供をすることができる。

③実体審査

⇒2016年4月15日施行の法改正により

これまでの実体審査は、絶対的拒絶理由および相対的拒絶理由の両方について審査されたが、絶対的拒絶理由のみを審査する制度へ変更。
絶対的拒絶理由とは、商標本来が有しているべき識別性を欠く商標、商標の定義に該当しない標識、公序良俗に反する商標などの登録を阻止するための拒絶理由のことをいう。
絶対的拒絶理由があると判断された場合、出願人に通知され、同人はそれに対応できる。

商標権付与後の登録異議申立制度であったが、商標権付与前の異議申立制度に変更
公告日より3ヶ月以内に異議申立が可能。異議理由は、相対的拒絶理由のみに基づいて請求され、申立人は自身の先行商標と比較しなければならない。
また、和解交渉のための2ヵ月のクーリング・オフ期間が与えられます。この期間内に当事者で交渉し、和解することもできます。クーリング・オフ期間は4ヵ月間の延長が1回のみ認められます。

相対的拒絶理由とは、出願した商標が先行する商標と同一である場合、また当該商標にかかる商品またはサービスが、先行する商標にかかる商品またはサービスと同一である場合、当該商標が先行する商標に類似し、また、その商標にかかる商品またはサービスが先行する商標にかかる商品またはサービスと類似するために公衆に混同を生じさせるおそれがある場合の拒絶理由のことをいう。

分割出願について、出願審査中においてのみ分割出願が可能であったが、不服審判または取消・無効審判においても分割可能になった。

登録付与

登録付与の決定がなされた後、一定期間内に登録料を支払うことで、権利が付与される。

存続期間

存続期間は、出願日から10年間です。更新出願をすることによって10年毎の更新が認められます。

更新期間

存続期間満了日前12か月以内に更新をすることができます。

使用義務

正当な理由なく、登録商標を継続して5年以上使用されていない場合には、請求により登録が取り消される。

直接出願以外の出願ルート

パリルート、マドプロルート、CTMルート

 

 

 

弁理士 スペシャリスト  山口 充子


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