南アフリカにおける知的財産制度
南アフリカは、VISTAと呼ばれる経済の発展が期待される新興国グループの一角を占め、市場としての重要性が高まりつつある国の一つです。
しかしながら、日本企業による南アフリカへの出願は、欧米諸国企業の出願と比してまだまだ数が少なく、なじみが薄いというのが現状です。そのため、南アフリカにおける知的財産制度がどのようなものであるのか理解していない方も多いと思われます。
そこで、南アフリカがどのような知的財産制度を有しているのか、どのような点で我が国の制度と異なっているのかを、主に南アフリカを第2国として出願する場合を念頭に解説していきます。
Ⅰ.特許
1.出願ルート
南アフリカは、パリ条約の同盟国であるとともに、特許協力条約(PCT)にも加盟しています。そのため、南アフリカへの出願としては、パリ条約上の優先権を主張して南アフリカへ直接出願する方法(パリルート)のほか、PCTによる国際出願をして南アフリカ国内に移行させる方法(PCTルート)が可能です。
PCT出願をした場合の南アフリカへの国内段階移行手続は、優先日から31ヶ月以内です。ただし、追加料金を納付することにより、更に3ヶ月の期間内に手続をすることができます。
なお、南アフリカは、アフリカ広域知的財産機関(ARIPO)およびアフリカ知的財産機関(OAPI)の加盟国ではありません。
2.出願の種類
南アフリカの特許には、通常の特許(発明特許)および追加特許の2種類の特許が存在します。その一方で、南アフリカには、我が国で小発明を保護対象とする実用新案(Utility Model)制度は存在しません。
追加特許とは、基本出願または基本特許(主発明)の明細書に記述された発明に追加、改良または変更を加えて新たに出願して付与される特許のことです(法第39条)。追加特許は、基本出願の出願人または基本特許の特許権者と同一の者が出願できます。
追加特許に付与される保護期間は、基本特許の保護期間でまだ経過していない部分の期間です。なお、基本特許が権利放棄されたり、取り消されたりしても、通常、追加特許は存続し続けます。
3.出願に必要な書類
南アフリカへの出願に必要な書類は以下の通りです。
- (1)願書
・手続言語は、英語です。
- (2)明細書、クレーム、要約及び必要な図面
・日本語の明細書等を提出することができます。この場合には、認証された英訳文を出願の日から3ヶ月以内に提出。
・独立クレームの数に制限はありません。
・追加クレーム料はありません。
- (3)宣誓書及び委任状
・出願人が署名。認証は不要。
・出願の日から6ヶ月以内に提出。PCT出願の場合には、国内段階移行日から6ヶ月以内に提出。
- (4)譲渡証
・出願人が発明者でない場合に必要。発明者が署名。認証は不要。
・出願の日から18ヶ月以内に提出。
- (5)優先権証明書
・出願の日から3ヶ月以内に提出(延長可)。PCT出願における国内段階移行に際しては不要。
- (6)優先権証明書の翻訳文(英訳文)
・出願の日から3ヶ月以内に提出。PCT出願の場合には、国内段階移行日から6ヶ月以内に提出。
- (7)優先権譲渡証
・優先権の基礎となる出願の出願人と南アフリカ出願の出願人とが異なる場合に必要。
また、出願に際しては、国際分類を表示する必要があります。
なお、パリ条約の優先権を主張して出願する場合に、(i)手数料、(ii)出願人または代理人の署名がなされた願書、ならびに(iii)基礎出願の出願番号、日付、名称および出願国名の明示によって、出願日を確保することができます(法第30条)。ただし、この場合には、出願日から14日以内に明細書および必要な図面を提出しなければなりません。
4.無審査登録
南アフリカでは、我が国と異なり、特許出願に対して方式審査のみを実施して実体的な審査を行わない、無審査登録主義を採用しています。
特許出願がなされると、特許庁では、出願の形式を満たしているか否かの方式的要件を審査し、方式的要件を満たしている場合には、これを受理します。出願から受理までにおよそ6ヶ月~9ヶ月かかります。
出願が受理されると、受理された日から3ヶ月以内に特許公報に公表されます。特許権の効力は、特許出願が受理された日からではなく、特許公報に公表された日から発生します。特許権の存続期間は、出願日から20年です。
<南アフリカで強い安定した権利を得るために>
このように南アフリカでは無審査登録主義を採用しているため、特許要件(実体的要件)を満たしていない瑕疵のある特許であっても特許権が付与され得ます。このような特許要件を満たしていない瑕疵のある特許の場合、特許付与後にその特許の有効性に関し、裁判所で争うことになります。そこで、南アフリカにおいて瑕疵のない強い安定した権利を得るためには、以下の出願対応が考えられます。
・PCT出願
PCTルートで保護を求めた場合には、国際調査機関にて先行技術の調査がなされ、特許性の有無に関して有意義な情報を入手することができます。そのため、PCTルートで南アフリカに特許出願をして、国際調査機関による報告および見解を参考に、補正により予め瑕疵を取り除いておくことによって、瑕疵のない強い安定した権利を得ることができるといえます。
・出願受理の延長の申請
上述のように、通常、出願してから6ヶ月~9ヶ月で出願が受理されますが、所定の手数料を納付して申請することにより、出願の受理に係る期間を延長することができます(法第40条)。したがって、対応する我が国の出願、US出願およびEP出願が特許許可可能(特許査定)となった場合に、南アフリカでの出願の受理を遅らせて、特許許可可能となった他国の出願と同様の補正を行うことによって、瑕疵のない強い安定した権利を得ることができるといえます。
なお、出願人は、特許付与前においては、いつでも補正を行うことが可能です。補正の範囲については後述します。
第1国出願から権利消滅までの各期間をまとめた概略図を以下に示します。
第1国出願から権利消滅までの概略図
5.不特許事由
南アフリカでは、単なる発見や精神活動など法上の発明とみなされていないもの、および公序良俗に反する発明は特許を受けることができません(法第25条)。これらのうち、以下の点については我が国と異なるため、注意が必要です。
A.コンピュータ・プログラム
・コンピュータ・プログラムは、南アフリカでは法上の発明とはみなされておらず、特許を受けることができません。ただし、メモリー等の記憶装置に特定のコンピュータ・プログラムを記憶したコンピュータは、特許の対象となります。
B.人体もしくは動物の身体に対する外科的もしくは治療的処置の方法または人体もしくは動物の身体に対して行われる診断の方法
・我が国では、人体に対する治療・診断方法等については特許を受けることができない一方で、その他の動物に対する治療・診断方法等については特許を受けることができます。しかし南アフリカでは、人体に対する場合のみならず、動物の身体に対する外科的もしくは治療的処置の方法または動物の身体に対して行われる診断の方法の発明も、商業、工業または農業に使用または適用することができないとみなされ、特許を受けることができません。
ただし、人体または動物の身体の治療方法や診断方法に使用される物質または組成物からなる発明は特許を受けることができます。また、優先日の直前にこれら物質または組成物が技術水準の一部を構成していたという事実は、治療方法や診断方法におけるこれら物質の使用が技術水準の一部を構成していないときは、特許付与を妨げるものではありません(法第25条(9))。
C.動物、植物および生物学的方法
・(i)動物もしくは植物の品種、(ii)微生物学的な方法ではない、動物もしくは植物の生産のための本質的に生物学的な方法、または(iii)当該方法により得られる生産物は、特許を受けることができません。
6.明細書の補正
特許出願人または特許権者は、いつでも、所定の方法により、明細書の補正を申請することができますが、その補正の内容および効果は、下記表に示すように、特許付与の前後、さらには訴訟係属中であるか否かにより異なっています(法第51条)。
表1.特許付与前後および訴訟係属中における補正の相違点
| 特許付与前 |
特許付与後 |
特許付与後訴訟係属中 |
| 出願人はいつでも補正を行うことができます。 |
| 補正の内容および十分な理由を提示する必要があります。 |
| 補正書に係る申請は、特許庁に対して行います。 |
補正書に係る申請は、裁判所に対して行います。 |
| 一方的手続で、異議の申し立てはありません。 |
補正後、公開され、第三者は異議申し立てが可能です。異議が申し立てられた場合、長官が裁定を下します。 |
裁判所は、係属中の手続を停止して、公開および異議申し立てができるよう、補正申請を特許庁に移送することができます。 |
| 新規事項の導入または補正前の明細書に実質的に開示されていない事項の導入は認められません。 |
| 補正後の明細書が、補正前の明細書に開示されている事項に適切に基づいていないクレームを含むことになる補正は認められません。 |
| - |
補正後の明細書が、補正前の明細書に含まれていたクレームの範囲内に完全に収まっていないクレームを含むことになる補正は認められません。 |
7.特許の無効
何人もCourt of Commissioner of Patentsに対して特許の無効を請求することができます。無効理由は法第61条に限定列挙されています。
無効の請求があると、特許庁は請求書を特許権者に送達し、特許権者に2ヶ月間の期間を指定して答弁書提出の機会を与えます。この期間内に答弁書の提出がなかった場合には、特許は無効とされます。この期間内に答弁書の提出があった場合には、その後審理を行い無効か否かの決定がなされます。
8.特許権の侵害
(1)侵害行為
・正当な権原なく、特許発明を製造、使用等し、または輸入した場合は、特許侵害と認定されます(法第45条)。
・製品を生産するための方法または装置の特許に関するクレームは、クレームされた方法または装置により生産された製品にも及ぶものと解されます(法第67条)。
我が国では、原則として、製品を生産する装置の発明に係る特許の場合、特許権の効力は、当該装置により生産された製品には及びません。
(2)救済方法
・特許権者は、侵害者に対して、(a)差し止め、(b)侵害製品等の引渡し、(c)損害賠償、を請求することができます(法第65条)。
II.意匠
1.意匠出願
上述のように、南アフリカはパリ条約の同盟国であるため、日本の意匠登録出願の出願日から6ヶ月以内であれば、当該意匠登録出願の優先権を主張して南アフリカへ出願することができます。
南アフリカでは、意匠登録は以下の2種類に分類されています(法第1条、第14条、第15条)。
- (1)審美的意匠(Aesthetic Designs)
物品に適用される意匠であり、専ら視覚に訴える意匠
- (2)機能的意匠(Functional Designs)
物品に適用される意匠であり、専らその意匠の機能の観点から保護される意匠
審美的意匠と機能的意匠とでは、登録要件および存続期間が異なります(法第14条、第15条、第22条)。
- 審美的意匠の意匠権の存続期間は、出願日から15年です。
- 機能的意匠の意匠権の存続期間は、出願日から10年です。
2.無審査登録
特許と同様に、南アフリカでは、意匠出願に対して方式審査のみを実施して、実体的な審査を行わずに登録の適否を判断します(法第15条、第16条)。法上の登録要件を満たしていない意匠登録は、取消の対象となります(法第31条)。
3.登録要件
絶対新規性を有していなければなりません。出願に係る意匠がその出願日又は優先日前に世界中において公表された意匠と異なる場合、又は公表された意匠を構成していない場合に、新規なものとみなされます。ただし、公表日から6ヶ月以内に出願した場合には、新規性喪失の例外が認められます。
審美的意匠は、独創的(Original)なものでなければいけません。一方、機能的意匠は、その意匠の属する分野においてありふれていないもの(Not Commonplace in the Art)でなければなりません。
工業的生産過程にて量産できる可能性を有するものでなければなりません。
III.商標
1.商標出願
上述のように、南アフリカはパリ条約の同盟国であるため、日本の商標登録出願の出願日から6ヶ月以内であれば、当該商標登録出願の優先権を主張して南アフリカへ出願することができます。なお、南アフリカは、マドリッド協定議定書の加盟国ではありません。
我が国と同様、商品およびサービスを広く指定することができます(法第11条)。また、商品の外形を登録することもできます(法第2条)。
南アフリカにおける特許制度および意匠制度とは異なり、商標では審査制度が採用されており、不登録事由に該当するか否かについて実体的な審査がなされます(法第16条)。
2.存続期間および更新
商標権の存続期間は、出願日から10年です(法第37条)。存続期間は10年間ずつ更新することができます。ただし、登録商標が指定された商品又はサービスについて5年以上使用されていないときは、登録を取消されることがあります(法第27条)。
参考URL
南アフリカ共和国特許庁HP:http://www.cipro.gov.za/2/home/