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常識を用いた自明性判断に係る最近の米国の判例

特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
2013年08月05日
(文責:新 井)

1. はじめに

KSR 最高裁判決前は、グラハムテストを実施した上でTSM(教示・示唆・動機付け)テストに基づいて、複数の先行技術を組み合わせたり、単一または複数の先行技術に修正を加えたりして、クレーム発明に到達することが当業者にとって自明であったであろうか否かを判断することによって、当該クレーム発明が米国特許法第103条を充足するか否かが判断されていました。


これに対し、KSR 最高裁判決後は、自明性判断が、TMSテストによる硬直化したアプローチからフレキシブルなアプローチ(もっと柔軟に組み合わせる要素を加味する)へと変更されました。具体的には、複数の引用文献の組み合わせのための根拠として、”Common Sense”、技術分野における公知事項、先行特許において言及された必要性や問題等々が挙げられるようになりました。このように、先行技術に対してクレーム発明が自明であるか否かは、当業者の常識に基づいて柔軟に判断されるようになりました。


米国連邦最高裁判所は、KSR事件において、次のように、”Common Sense”について言及しています。


「課題を解決するための設計上の必要性、又は、市場からの要求が存在する場合であって、有限数の確認済または予測可能な解決策が選択肢としてある場合、通常の技能を有する者は、その技術理解の範囲内において、公知の選択肢を追及する十分な動機を有している。もし、このような選択肢を追及する(試みる)ことによって予測どおりの成功がもたらされるならば、その結果得られる生成物(product)は、技術の革新と呼ぶべきものではなく、通常の技術と「常識」の産物にすぎない。このような場合、組み合わせを試みることが自明であったという事実は、そのような組み合わせが米国特許法第103条下で自明であったことの証明になる可能性がある。」


米国連邦最高裁判所は、KSR事件において、次のように、同じ分野または別の分野での変形物(variation)について言及しています。


「一つの研究分野においてある成果が発表された場合、設計上のインセンティブおよびその他の市場圧力によって、同じ分野または別の分野において、その変形物の作製が促されることがある。その分野の通常の技能を有する者が予測可能な変形物を実施できる場合、その特許性は米国特許法第103条を充足しない。同じ理由で、或る装置を改善するために技術が用いられ、同じ技術で類似の装置が改善できることをその分野の通常の技能を有する者が認識する場合、実際の応用がその者の技能を超えていない限り、その技術の使用は自明である。」
これを受けて、USPTOは、”Common Sense”に関し、MPEP 2145(Obvious To Try Rationale)において次のように記載しています。


審査官としては、複数の引用文献の特定の開示技術を組み合わせたり、そのような技術を修正して審査対象であるクレーム発明を完成させたりすることは、当業者にとって”Common Sense”であると認定することができる。一方、出願人としても、そのような組み合わせや修正は、当業者の”Common Sense”に鑑み不当である旨を反論することが認められる。」


事実、自明性に関する米国連邦最高裁判所の判断基準である「先行技術に対してクレーム発明が自明であるか否かは、究極的には当業者の”Common Sense”をもって柔軟に判断すべきである」は、KSR事件後、多くの判例において何度も引用され強調されています。2010 KSR Guidelines Update* にも、次のような判例が例示されています。

Wyers v. Master Lock Co., No. 2009–1412, —F.3d—, 2010 WL 2901839 (Fed. Cir. July 22, 2010) 類似技術の範囲は、広く解釈されるべきであると共に、発明者が解決しようとした課題に合理的に関連していると解釈されるべきである。常識は、それが十分な理由に基づいて説明されている限り、自明と法的に結論することをサポートするために使用される可能性がある。
Perfect Web Techs., Inc. v. InfoUSA, Inc., 587 F.3d 1324 (Fed. Cir. 2009). 有限数の特定の予測可能な解決策が存在し、非予測の結果の証拠が存在しなかった場合、試みることが自明であるかどうかの問題は、自明性の法的結論に適切に導く可能性がある。常識は、十分な根拠に基づいて説明される限り、自明性の法的結論をサポートするために使用し得る。
Perfect Web Techs., Inc. v. InfoUSA, Inc., 587 F.3d 1324 (Fed. Cir. 2009). 特定され且つ予測可能な有限数の解決策が存在した場合であって、非予測の結果の証拠が存在しない場合、試みることが自明であるか否かの問題は、自明性の法的結論に適切に導く可能性がある。常識は、十分な根拠に基づいて説明される限り、自明性の法的結論をサポートするために使用し得る。
2.最近の判例

このような状況下で、KSR最高裁判決後、USPTOと裁判所は、いずれも、クレーム発明が自明であると容易に認定されてきました。一方、どのようにして、USPTOと裁判所が、KSR自明性判断基準を実施してきたかについては論争の対象とされてきました。KSR事件において裁判所により解析ツールに格上げされた”common sense”に適合するように、自明性規定が適用し得ることを明らかにする判決も時々下されています。そのようなケースとして、In re Doron Adler (Fed. Cir. 2013, Decided: July 18, 2013)* があります。


(2-1) 簡単な経過説明

このケースは、米国特許出願番号10/097,096(特許権者:Given Imaging、発明者:Doron Adler, Ofra Zinaty, Daphna Levy, and Arkady Glukhovsky;以下Adlerらという。)のクレーム発明が2つの引用文献の組み合わせに対して自明である旨の審決* を不服として控訴された事案です。本件のクレーム発明は、消化器系疾患を見つけることに係るものです。本件のクレーム57発明は次のように規定されています。


  • Claim 57. A method for displaying in-vivo information, the method comprising:
    receiving at a data processor data generated by a swallowable in-vivo device transversing a GI tract, the data comprising a set of in-vivo images of the GI tract;
    the data processor comparing values of the received images to a reference value of blood and to a reference value of healthy tissue;
    the data processor causing to be displayed the imaged as a color video; and
    the data processor further, based on the comparison, causing to be displayed an indication of a position in the GI tract of a change in the level of red color content, the change correlating to the presence of blood.

Meron (WO 00/22975)とMasaru Hirata et al.(学術誌* 、以下Hirataという) の二つが引用文献として挙示されました。


Meronには、(i) 消化官における目標の位置を特定し、血液の存在を感知する手段を含む装置であって、消化管のマップを生成する飲み込み可能な装置(カメラ)を上記の特定された目標位置へ直送することについては開示されていますが、(ii) 血液の存在を検出する方法については開示されていません。


一方、Hirataには、静脈瘤の色調とred color signとの比較によって検出される食道静脈瘤の比色分析(colorimetric analysis)に基づいて、内視鏡により正常で健康な食道組織間の比較を行うことが開示されています。


本件特許出願の審査過程において、審査官は、次のように認定しました。


「発明時において当業者であれば、Meronが記載するように血液の存在を割り出すために、食道の映像データの比色分析を行うプロセッサであって、Hirataが教示するプロセッサを組み込むことは自明であったであろう。なぜならば、Meronには、血液の存在を割り出すことができると記載されている一方、そのための特定の方法が提示されていないが、Hirataには、これらのことを行う方法とプロセッサとが記載されているからである。」


審査官の上記認定を不服とし、Adlerらは審判請求を行いました。これに対し、審判部は、審査官の認定を支持する旨の審決を下しました。この審決において、審判部は次のような事実認定を行いました。


「すなわち、Hirataは、次のことを開示している。

  • (i) 確定した静脈瘤領域の色調と、確定した正常食道領域の色調とを比較することによって、色調が解析される。
  • (ii) red color signの面積も、確定した静脈瘤領域のために決定される
  • (iii) 画像処理を用いて、色調結果とred color signの面積結果との双方が、破裂するリスクが高い静脈瘤を選び出すために使用しようと思えば使用できる。」


上記審決を不服とし、AdlerらはCAFCに控訴しました。



(2-2) 「審判部の自明性判断に誤りがない」ことについて

CAFCは、審判部による審決を初めから審理し直し、審判部の自明性判断に誤りがないことに関し、次のように説示しました。

  • ① Adlerらは、先行技術が、画像や位置情報を外部ディスプレイに送信することができる装置であって、飲み込み可能な感知装置を教示していることについては争っていない。本件における主たる争点は、審判部が、先行技術に鑑み、消化管の画像が赤色含有量レベルの変化(この変化は、血液の存在に関連する。)を示したか否かを決定するために、問題のクレーム発明に明確に記載されているように健康な組織および血液の基準値を比較することが自明であったであろうか否かにある。
  • ② 審判部は、当業者であれば、Meronの示唆(生体内カメラが、血液の存在を検出するための手段を含めようと思えば含めることができるという示唆)に基づいて、Hirata(組織の2つの基準値のred color contentを比較する方法を開示している)と組み合わせるように動機付けられたであろうから、本件のクレーム発明は当業者にとって自明であったであろうと結論した。
  • ③ これに対して、Adlerらは、次のように反論した。すなわち、審判部がクレーム発明に記載の2つの比較を規定していることを考慮していない。一つは、受信した患者の画像は、健康な組織の画像との比較であり、他の一つは、血液値との比較であるが、審判部はクレーム発明を適切に解析していないと反論した。
  • 一方、審判部は、上記2つの比較を理解しており、上述の(i) のように、これらがHirataに開示されていると認定している。この認定は、実体的な証拠によってサポートされている。すなわち、Hirataは、“Rr” という割合値を形成するように2つの色調がどのように使用されるかについて開示している。
  • ④ これに対し、Adlerらは、本件クレーム発明は、上記二つの比較時に用いられる三つの値を必須としていると共に、Hirataは二つの値に対して一つの比較をすることを開示している。当業者であれば、Hirataが将来のbleedingを記載しているので、Hirataに目を向けなかったであろうと反論した。
  • ⑤ しかしながら、Adlerらの議論は、審判部の理由付け(当業者であれば、赤色を現在のbleedingと同一視しないであろうし、Hirataに開示の基準値と比較され得る装置であって飲み込み可能な装置から得た画像に関するMeronの教示に礎を置くように動機づけられるであろう)を看過している。これは、HirataとMeronの組み合わせの予測可能な変形物(variation)である(KSR事件(KSR Int'l Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398, 417 (2007))ので、本件クレーム発明は非自明性の特許要件を具備していない。


本件においては、上記⑤に記載のように、当業者であれば、HirataとMeronの組み合わせの予測可能な変形物を実施でき、その結果得られた生成物は、技術の革新と呼ぶべきものではなく、通常の技術と「常識」の産物にすぎないので、本件クレーム発明が当業者にとって自明であったと考えられます。



(2-3) 「審判部が新たな拒絶の根拠に依拠していない」ことについて

CAFCは、審判部が新たな拒絶の根拠に依拠していないことに関し、次のように説示しました。

  • A) Adlerらは、次のように反論した。審判部が新たな拒絶の根拠に依拠しているので、審査が再開されるべきであった。審査官の認定をサポートすることに対する審判部の事実認定とその根拠(Hirataの 画像処理と比色分析)は、審査官の拒絶の根拠(Hirataのcolor signsの等級分け)の要旨を変更した。
  • B) Adlerらは、審判部と審査官とで拒絶の根拠をテーブル(次頁参照)で示し、審判部が、審査官の拒絶の根拠の要旨を変更したので、審査が再開されるべきであった(37 C.F.R. §41.50(b))旨を反論した。

    Examiner's Decision:"Red color signs were classified in a minor degree, which indicated negative or mild ( or a reference of healthy), and a major degree, which indicated moderate or severe (or a reference of blood)..."
    Board's Decision:"Appellants also argue that 'Hirata did not teach com-paring image to a reference value of blood, and ... a reference value of healthy tissue'... Hirata discloses comparing the color tone of a known variceal region with the color tone of a known healthy esophageal region."
  • C) Adlerらは、また、In re Kronig, 539 F.2d 1300, 1302–03 (C.C.P.A. 1976)を引用し、審判部による審決において新たな拒絶の根拠に変更されたか否かの究極的な判断基準は、そのような変更に対して出願人が公正な対応の機会が与えられていたか否かであると反論した。
  • D) Adlerらは、審査官の拒絶の根拠を誤って特徴付けており、審査官によってではなく審判部によって認定された特定の事実を指摘していないと共に、そのような事実がどのように審判部による拒絶の根拠の根底を成すのかについて説明していない。
  • E) Adlerらは、(i) Hirataが静脈瘤の色分析を行うこと、(ii) Hirataの開示が、比色分析データの定量化のために電子画像を処理する可能性に焦点を当てるように当業者を導くであろうこと、及び(iii) 画像処理によってbleeding pointを割り出すことができるであろうことを審査官がExaminer’s Answerにおいて認定していることに、自らの主張の根拠を置いている。しかしながら、Adlerらは、実際には、クレーム発明の拒絶の根拠の変更に対して応答していた
  • F) 審判部の方が、審査官よりも詳しく拒絶の根拠を説明しているだけであり、これをもって新たな拒絶の根拠に変更したとは言えない(See In re Jung, 637 F.3d 1356, 1365 (Fed. Cir. 2011))。


(2-4) CAFCの判決

CAFCは、自明性に係る審判部の認定に誤りはなかったと共に、自明性の認定が、審査官とは異なる根拠に基づくものではなかったので、審判部の審決を支持する判決を下しました。




3.実務上の留意事項

(3-1) 複数の先行技術の組み合わせの変形物(variation)に基づく自明性判断

KSR最高裁判決後、先行技術に対してクレーム発明が自明であるか否かは、当業者の常識に基づいて柔軟に判断されるようになりました。本件のように、複数の先行技術の組み合わせの変形物(variation)に基づいて自明性が判断されている場合、慎重な対応が必要です。具体的には、少なくとも次の2点について検討する必要があります。

  • ① 選択肢(組み合わせ)を試みることによって予測どおりの成功がもたらされるか否か。
  • ② 当業者であれば、組み合わせの予測可能な変形物(variation)を実施できるか否か。


たとえ上記①がクリアできたとしても、上記②において、当業者であれば、先行技術の組み合わせの予測可能な変形物(variation)を実施できたであろう場合、結果として得られる生成物(product)は、技術の革新と呼ぶべきものではなく、通常の技術と常識の産物にすぎないので、クレーム発明が当業者にとって自明であると認定されてしまいます。



(3-2) 審決における新たな拒絶理由への対応

審判部による審決において新たな拒絶の根拠に変更されたか否かの究極的な判断基準は、そのような変更に対して出願人が公正な対応の機会が与えられていたか否かです。




以 上



*1 LINK: http://edocket.access.gpo.gov/2010/pdf/2010-21646.pdf
*2 LINK: http://docs.justia.com/cases/federal/appellate-courts/cafc/12-1610/12-1610-2013-07-18.pdf
*3 Ex parte Doron Adler, Ofra Zinaty, Daphna Levy, and Arkady Glukhovsky, No. 2010-012509, 2012 Pat. App. LEXIS 2387 (B.P.A.I. May 8, 2012) *4 STUDY OF NEW PROGNOSTIC FACTORS OF ESOPHAGEAL VARICEAL RUPTURE BY USE OF IMAGE PROCESSING WITH A VIDEO ENDOSCOPE, 116 SURGERY 8–16 (1994)

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