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米国記述要件違反に係るCAFC大法廷での再審理

特許業務法人 原謙三国際特許事務所
平成21年08月24日
(文責:新 井)

1.はじめに
ARIAD PHARMACEUTICALS, INC.(原告、特許権者)は、米国特許U.S. Patent 6,410,516(licensed from Massachusetts Institute of Technology (MIT), Harvard, and the Whitehead Institute)のクレーム80, 95, 144, 及び145発明をELI LILLY AND COMPANY(被告)が侵害しているとの理由で提訴しました。
これに対し、ELI LILLY AND COMPANY は、クレーム80(*1), 95, 144, 及び145発明が、記述要件(§112 条の第1パラグラフ(*2):Written Description Requirement)を満たしていないので無効である旨を反論しました。
上記クレーム80, 95, 144, 及び145発明において、”reducing NF-KB activity”に関し、明細書中には「NF-κB の特異的阻害物質、NF-κB の優性変異体、及びNF-κB デコイ分子が記載されていました。しかしながら、reducing NF-KB activity”を実現するためには、NF-κB の特異的阻害物質、NF-κB の優性変異体、及びNF-κB デコイ分子などの化合物(compound)が必須であったにもかかわらず、このことが当初明細書中には十分に開示されていませんでした。
上記事情に鑑み、CAFCは、2009年4月3日に、クレーム80, 95, 144, 及び145発明が、広すぎて当初明細書に開示の記載によってサポートされていないので、記述要件を満たしていない旨を判示しました(2008-1248 (United States Court of Appeals for the Federal Circuit 2009-04-03))。


2.大法廷審理(*3)の申立
2009年8月21日に、ARIAD PHARMACEUTICALS, INC.が上記CAFCの2009年4月3日付判決に対して2009年6月に記述要件に関して申し立てていた大法廷審理を認める旨の指令(en banc order)をCAFCは通告しました(Ariad Pharmaceuticals, MIT, and Harvard v. Eli Lilly (Fed. Cir. 2009) (en banc) )。

ARIAD PHARMACEUTICALS, INC.は、次の2つの事項を再審理における争点として挙げています。

(i) 35 U.S.C. § 112, paragraph 1に含まれる記述要件は、実施可能要件(*4)から分離したものであるのか否か?
(ii) もし、制定法において記述要件が実施可能要件から分離したものであるのであれば、記述要件の適用範囲および趣旨は何か?


記述要件は、主として、医薬およびバイオテクノロジ関係のケースで争点となることが多い一方、ソフトウェア関係のケースの争点としても増加しつつあります。本件は、記述要件に鑑み、特許付与前のプロセキューションおよび特許付与後の訴訟がどのように手続されるかに対して重大な影響を与えるものであると考えられます。

3.今後のスケジュール
ARIAD PHARMACEUTICALS, INC.は、”brief”を45日以内(2009年10月5日まで)にファイルし、その後、30日以内にELI LILLY AND COMPANYは、”brief”をファイルすることになっています(*5)。


以 上




*1 Claim 80. A method for modifying effects of external influences on a eukaryotic cell, which external influences induce NF-KB-mediated intracellular signaling, the method comprising altering NF-KB activity in the cells such that NF-KB-mediated effects of external influences are modified, wherein NF-KB activity in the cell is reduced, wherein
reducing NF-KB activity comprises reducing binding of NF-KB to NF-KB recognition sites on genes which are transcriptionally regulated

*2 出願人が発明したという情報を明確に伝え、公衆がその発明に関する情報を入手できるようにするために、記述要件が規定されています。出願当初の明細書中に記載のない事項を出願後にクレームに追加する補正は、この112条第1段落違反として拒絶されます(MPEP § 2163.06)。この記述要件を満たすか否かは、その記述が当業者にとって、クレームされた発明を明確に認識させるものであるか否かによって通常決定されます(MPEP § 2163.02)。なお、記述要件は、出願時の当業者を基準として判断されます(MPEP § 2163, I.B.)。

*3 大法廷(en banc)
 米国の連邦控訴裁判所では、通常は三名でpanel(裁判体)を構成するが、必要に応じて、その裁判所の裁判官の全員で法廷を構成して事案を処理することがあります。これがen bancと呼ばれる手続です。連邦控訴裁判所では、 en bancは、その裁判所の過半数の裁判官が求めた場合に行われます( 28 U.S.C. 46(c))。これを決めるための手順には、それぞれの連邦控訴裁判所で違いがあります。
 米国連邦控訴裁判所の中でも、1982年に新設されたCourt of Appeals for the Federal Circuit (CAFC)は、全米の特許法等についての判例を統一することを設立目的の一つとしています。CAFCでは、各ケースについて、公にされる前に裁判所内で10日間回覧されます。担当裁判体の裁判官以外の裁判官は、この期間中に異論を挟むことができ、場合によっては en bancの手続きを求めることができます。

*4 クレーム発明が当業者にとって製造又は使用できるものであることを要求するものであり、発明が有意な方法で公衆に伝達されることを保証するものです(MPEP § 2164)。実施可能要件を満たしているか否かは、クレーム発明を実施するのに当業者にとって過度な実験を強いるか否かによって通常決定されます(MPEP § 2164.01)。なお、実施可能要件は、出願時の当業者を基準として判断されます(MPEP § 2164.05(a)、(b))。実施可能要件に違反する場合として、(i) 構成要素が一つしかないクレーム(single means claim)が存在する場合、(ii) 動作しない実施例がクレームの範囲に含まれている場合、(iii) 明細書中で必須(critical)とされている特徴がクレームに記載されていない場合等があります(MPEP § 2164.08)。

*5 LINK;
http://www.patentdocs.org/
http://www.patentdocs.org/2009/04/ariad-pharmaceuticals-inc-v-eli-lilly-and-co-fed-cir-2009.html
http://www.patentlyo.com/patent/

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