1.はじめに
2016年9月27日付け日本経済新聞電子版に、「日米独、IoT規格を標準化 産学官で連携」との記事が掲載されました。「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」分野において、日米独が連携して国際規格や標準技術の策定を進める流れを取り上げた報道です。
本稿では、IoTと規格との関係について、特にIoTと通信規格との関係について、その概要を説明します。
2.IoTの実現に不可欠な要素としての通信規格
IoTが「Internet of Things」の略称であることからも分かる通り、IoTの進んだ世界とは、モノ(Things)がインターネット(Internet)につながった世界であり、様々なモノが相互に通信を行なう(Machine to Machine、M2M)世界です。モノとモノとがコミュニケーションを行うためには、当然、コミュニケーションのためのルールが必要となり、つまり通信規格が必要となります。
ここで、IoTの世界では、あらゆるモノがインターネットへとつなげられることが想定されていますが、Cisco社によれば、現実世界に存在する1.5兆個のモノのうち、2013年2月時点では99.4%がインターネットに接続されていないとされていました。[1]
したがって、IoTのための通信規格の整備が急がれているとはいえ、全てのモノのための統一的な通信規格を、現時点で一気に整備することは事実上不可能でしょう。
3.IoTのための通信規格の現状
全てのモノのための統一的な通信規格の整備に代えて、IoTのために現在整備が進められているのは、モノ(製品)の属する技術分野ごと、モノの属する市場ごとの通信規格です。
例えば、これまでネットワークにつなげていなかったモノ(製品)を通信に参加させるための最低限の通信規格の整備を始めた領域もあれば、従来はオン/オフデータのみを送受信していたモノについて、多様なデータを送受信させるため通信規格の高度化が進められている領域もあります。
また、通信規格の整備プロセスも一様ではありません。国際標準化機関、国家標準化機関などの公的機関で明文化され公開された手続によって作成されるデジュール規格、市場において勝ち抜くことにより実質的に市場で採用されるデファクトスタンダードに加え、関係する企業、団体、個人で構成されたフォーラムにおいて作成されるフォーラム規格があります。
しかも、日本国内で標準化されている規格だからといって、海外でも勝ち残れる規格であることが保証されている訳ではありません。例えば、ECHONET Liteは、2013年に国際標準化規格として承認された日本発のHEMS(Home Energy Management System)標準規格ですが、HEMS規格として、米国ではSEP2.0が、欧州ではKNXが現在のところ支配的だと言われています。
4.メーカ各社様の通信規格対応
どの媒体を使ってコンテンツを提供するかがコンテンツの出荷量を左右するのと同様に、IoTの世界では、どの通信規格に対応しているかが、そのモノ(製品)の売上を左右すると考えられます。
したがって、メーカ各社様は、自社の製品(モノ)をどの通信規格に対応させるかについて、細心の注意を払われているでしょう。
また、場合によっては、自社の製品(モノ)が利用する通信技術を、通信規格として採用させることによって、自社の製品(モノ)のマーケットにおける優位性を維持、強化しようとなされるかもしれません。自己にとって有利な、少なくとも自己にとって不利でない条件を、ルールとして制定させることによって、競争を勝ち抜こうとするのは、スポーツの世界に限られる話ではありません。
IoTの世界にあっては、スマホのメーカや通信サービス事業者等の間で行われている「無線通信技術」についての熾烈な開発競争は、どのような製品(モノ)のメーカ様にとっても、対岸の火事ではないと言えるでしょう。
〔参考文献〕
[1] Cisco,“Embracing the Internet of Everything To Capture Your Share of $14.4 Trillion”, 2013年2月
以 上