カナダ

所管庁

カナダ知的財産局(Canadian Intellectual Property Office、略称:CIPO)

http://www.ic.gc.ca/eic/site/cipointernet-internetopic.nsf/eng/home

カナダ知的財産法は、特許法、商標法、意匠法、著作権法、集積回路トポグラフィー法、及び植物育成者権法からなります。

このうち、カナダ知的財産局は、特許法、商標法、意匠法、著作権法、及び集積回路トポグラフィー法を所管しています。

加盟している条約

(1)パリ条約
(2)特許協力条約(PCT)
(3)WIPO条約
(4)微生物寄託の国際的承認に関するブダペスト条約
(5)国際特許分類に関するストラスブール協定
(6)TRIPS協定
(7)植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)
(8)北米自由貿易協定(NAFTA)

 

特許

特許及び出願の種類

カナダ特許法では、実用特許(通常の特許)のみ規定されています。

出願の種類としては、以下の3種類があります。

・特許出願(通常の特許出願)
・分割出願
・PCT出願に基づくカナダ移行出願

さらに、特許を補正する手段として、以下の2種類があります。

再発行出願(特許):登録になった明細書、図面、クレーム等の記載に欠陥のあることが判明した場合に、これを救済する目的で、ある一定の要件を満たした場合に限り、明細書等の記載の訂正を認めて、訂正後の内容で特許の再発行を認める制度(法47条)。再発行特許の申請は、特許日から4年以内。審査官は、提出された申請書を検討して、再発行を認めるか否かを判断します。

権利の部分放棄:登録後に登録クレームの一部を放棄する制度(法48条)。特許権の存続期間中はいつでも申請可能。部分放棄自体の当否の審理や部分放棄後の特許の審査は行われません。

 

出願ルート

パリルート及びPCTルートでの出願が可能です。

PCTルートの場合、優先日から30ヶ月以内に国内段階移行手続をする必要があります。

但し、出願人が追加手数料を支払った場合には、42ヶ月まで延長が可能です。

英語又はフランス語の翻訳文の提出が要求されます。

最先の優先日から30ヶ月を超えてカナダ国内段階移行手続をする場合には、回復費用(”reinstatement fee”:CAD $200)の支払が必要です。また、最先の優先日から30ヶ月以内にカナダ国内段階移行手続をすることができなかったことが、故意ではなかった旨の陳述書(”statement”)を提出しなければなりません。

出願に必要な書類

願書、明細書及びクレーム、要約、必要な図面

書類は英語又はフランス語で作成する必要があります。

ただし、PCT経由ではなくカナダ特許庁に直接出願する場合において、直接出願された特許出願が英語及びフランス語以外の言語で手続された場合でも、正当な出願日として認められます。但し、2ヶ月以内に翻訳文の提出が必要となります。

・クレーム形式につき、多項従属クレーム(マルチクレーム)および多項従属クレームを引用する多項従属クレーム(マルチ-マルチクレーム)のいずれも可。
・クレーム:申請できるクレームの数および独立クレームの数に制限がない。
・クレーム超過費用の導入(2022年10月3日以降に審査請求を行う案件)

クレーム数が20を超える場合に、20を超える部分に対し、1クレーム当たり100カナダドルのオフィシャルフィーが課せられます。

・small entityの制度あり(中小企業、又は大学)。
・委任状の提出は不要。
・優先権の回復。

PCT出願の場合、優先権が国際段階で回復しているか、優先権回復請求が国内移行の日から1か月以内にされているときは、カナダ国内段階移行出願において優先日の回復が可能となります。

優先権主張出願に含まれるべき内容物を提出する機会

追完書類が優先権書類に完全に含まれている場合、出願人は、原出願日を失うことなく、欠いている必要書類を追完することができます。但し、対象出願は、カナダ直接出願のみであり、PCT出願のカナダ国内段階移行出願は、対象外です。

優先権の基礎となる特許出願の認証謄本の提出

PCT出願の場合であって、国際段階において優先権書類の認証謄本がファイルされなかった場合、出願人は認証謄本をカナダ特許庁にファイルしなければなりません。

保護対象

以下のものが特許の保護対象に含まれます(法2条)。

・新規かつ有用な技術、方法、機械、製造物もしくは合成物
・技術、方法、機械、製造物もしくは合成物の新規かつ有用な改良

なお、以下のものは保護対象から除外されています。

・発見や科学的理論
・単なるアイデア
・人体や動物に対する治療法
・高等生命体
・ソフトウェア

出願公開

特許出願又は特許出願に関連して提出された書類は、出願日又は優先日のうちいずれか早い日から18ヶ月経過後に公開されます。(法10条)

審査

1 審査請求

・実体審査請求期限:PCT出願日またはカナダ出願日から4年以内。

・分割出願の実体審査請求期限:親出願の実体審査請求期限(親出願日から4年)、又は、分割出願の出願日から3ヶ月のうち、いずれか遅い方までに、行う必要があります(審査請求料の支払を含む)。

審査請求期間は延長することができません。

審査請求期間内に審査請求料が納付されなかった場合、出願は放棄されたものとみなされます。なお、審査請求期間経過後12カ月以内に、回復の請求が可能です。

審査請求期限を徒過すると、権利の回復のために「相当の注意」基準をクリアしなければなりません。

2 審査内容

法27条(1)において、本法律に基づいて特許を付与するためのすべての要件が満たされた場合に特許が付与される旨、規定されています。具体的には、以下の内容が審査されます。

・単一性
・特許可能事由
・有用性
・新規性
・進歩性 *1
・記載要件 *2

*1 特許されるためには、新規であることに加え、発明的創意工夫が必要です。
*2 日本よりも厳格であり、審査過程においては、用語や表現の不明確さを指摘されることが比較的多くあります。

3 オフィスアクション応答期間

4ヶ月。但し、2ヶ月の延長が可能です。但し、応答期限の延長申請に必要なacceptable reasonが厳格に判断されるため、オフィスアクションの検討に時間が必要といった理由等では延長が認められない場合があります。

4 Request for Continued Examination(RCE:継続審査請求)の導入(2022年10月3日以降に審査請求を行う案件に適用)

オフィスアクションの発行回数が3回に制限され、審査を継続するためには、RCEをファイルする必要があります。

また、RCEをファイルした後は、オフィスアクションの発行回数は2回に制限され、審査を継続するためには、さらにRCEをファイルする必要があります。なお、RCEの回数には制限はありません。

5  グレースピリオド

以下の場合の公開は新規性に関して考慮されません(法28.2条(1)(a))。

・出願日前1年以内に出願人が直接または間接的に発明を公開・開示した場合

なお、この1年の猶予期間は、優先日ではなく、出願日から起算されるため注意が必要です。

6  早期審査

以下の3種類の早期審査制度があります。

(1)早期審査制度
審査を促進しなければ、請求人の権利が害される恐れがあると特許庁長官が認める場合に、適用されます。

(2)特許審査ハイウェイ(PPH)
日本国特許庁とカナダ知的財産庁は、特許審査ハイウェイ試行プログラムを平成21年10月1日から実施しています。また、申請要件を緩和した特許審査ハイウェイ試行プログラム「PPH MOTTAINAI」が実施されています。

(3)Green Technology関連の発明

7  対応外国出願の情報提出

審査官は、対応外国出願の情報を提出するよう、出願人に要求することができます。

8  原子力に関する出願

特許庁長官が原子力の生産、応用又は使用に関するものであると認めた発明についての特許出願は、審査される前に、その発明内容が原子力安全委員会に通知されます。(法22条)

原子力安全委員会は、当該特許出願の審査等に関して一定の制限を課すよう特許庁長官に勧告することができます。

9  医薬用途発明に関するクレーム形式

医薬用途発明に関しては、以下のクレーム形式が許容されています。

(1)スイスタイプクレーム
(2)用途限定付きの化合物/組成物クレーム
(3)Useクレーム

10 ダブルパテント

親出願と分割出願とが共に係属している場合に、ダブルパテントの通知を受けたときは、一方の出願を放棄することでダブルパテントは解消します。

一方、親出願が登録されている場合に、分割出願においてダブルパテントの通知を受けたときは、親出願を放棄してもダブルパテントは解消しません。

補正

1. 補正の時期

出願後~特許発効前においていつでも補正をすることができます(法38.2条(1))。

*許可通知~登録料納付の間にも補正を行うことが可能です。但し、2019年10月30日以後に許可通知が発行された場合には、許可通知後の補正は、自明な誤記を訂正するものを除いては一般に認められません。

*許可通知後の補正において、審査官が補正される誤記が自明ではないと判断した場合は、補正は許容されず、補正が組み込まれない状態で特許となります。なお、出願人が許可通知の取り下げを請求していない場合は、登録料の支払期限は変わりません。

*許可通知後の補正が自明な誤記を訂正するものではない場合は、出願人は、許可通知を取り下げて、再度審査へ付すように請求することができます。当該請求は、許可通知の発行後4カ月以内に行わなければなりません。

*特許許可通知が発行された場合、”final fee(Issue Fee)”の支払前に、特許許可通知を取り下げると共に、庁費用(CAD $400)を支払うことによって、プロセキューションを再開させることが可能となります。

2. 補正の範囲

新規事項の追加は認められません。但し、新規事項であっても、明細書中に先行技術である旨を明記すれば、その事項を明細書中に含める補正を行うこともできます(法38.2条(2)(3))。

英語及び仏語以外の外国語で特許出願がされて英語又は仏語への翻訳文がファイルされる場合、特許出願後の補正は、出願当初の明細書(外国語)と当該明細書の翻訳文(英語又は仏語)との双方から合理的に結論されるものでなければなりません。

3 誤記を訂正することができる期限の明確化

誤記(”clerical error”)を訂正するための明確な期限が設けられています。具体的に設けられる期限の適用対象は、(i) 優先権主張の誤記の訂正、(ii) 発明者および出願人の誤記の訂正、及び、(iii) 特許における明らかな誤記に関する訂正に限定されています(規則104-106条)。

4 特許許可後の訂正プラクティスの簡素化

“final fee(Issue Fee)”の支払前に、特許許可通知を取り下げると共に、庁費用(CAD $400)を支払うことによって、プロセキューションを再開させることが可能となります。

分割出願

原出願の特許発行前まで分割出願をすることができます(法36条(2))。

分割出願からの分割出願(孫出願)が可能です。

維持年金

維持年金:出願から2年目から毎年支払う(法27.1条)。

維持年金の支払を徒過した場合、権利の回復のためには、延滞料の支払のための猶予を与える旨の通知から2ヶ月、又は、本来の納付期限から6ヶ月のうち、何れか遅い方の期限までに、延滞料(CAD $150)と共に未払いの維持年金を支払う必要があります。権利の回復には、「相当の注意」基準をクリアする必要があります。

登録料の支払期限:Notice of Allowanceの発効日から4ヶ月以内。

 

登録

特許の存続期間は出願日から20年となります(法44条)。
医薬品に関する特許には、特許期間の延長制度があります(カナダ特許法改正により、2017年9月21日に発効)。

*延長期間は、以下のように定まります。
 延長期間=(販売承認日-特許出願日)-5年
 ※但し、最長2年間

再審査

何人も、特許の登録後に再審査を請求することができます(法48.1条)。再審査の決定に不服のある特許権者は、連邦裁判所に上訴することが可能です(法48.5条)。

*特許付与の阻止のために、第三者は、先行技術の提出(情報提供)を行うことができます。また、付与済特許の取消のために、第三者は、再審査請求を行うことができます。なお、カナダでは、公告制度および異議申立制度は存在しません。

侵害訴訟

特許権侵害が発生した場合、特許権者は、不正行為の停止と損害賠償の請求を行うことができます(法55条(1)(2)、法57条(2))。

*大部分の訴訟は連邦裁判所で扱われるため、法廷地の選択は原則できません。

*ディスカバリーの範囲が、米国と比べて狭くなっています。

*陪審員制度はなく、公判はすべて裁判官により行われます。

*特許権侵害訴訟では、包袋禁反言の原則は適用されません(すなわち、クレーム解釈において、審査経過は参酌されません。)

*三倍賠償は原則ありません。

弾劾無効訴訟

カナダ司法長官又は利害関係人は、特許又は特許のクレームについて無効訴訟を提起することができます(法60条)。

*侵害訴訟とは独立した無効訴訟です。日本とは異なり、裁判所が特許無効を判断することができます。

*無効の効果は、対世的効力を有します。

 

 

特許規則の改正

2023年6月21日、カナダ政府は、”Canada Gazette, Part II Volume 157, Number 13″において、新特許規則(SOR/2023-113)を公開しました。この新特許規則は2024年1月1日から施行されます。

2024年1月1日からカナダ特許庁の各種料金が値上げされます。

small entityの対象となる企業の定義が変更されます。2023年12月31日までは、50人以下の企業が軽減対象ですが、2024年1月1日改正後には100人以下の企業が軽減対象に変更されます。
https://ised-isde.canada.ca/site/canadian-intellectual-property-office/en/what-you-need-know-about-upcoming-changes-cipos-fees

 

特許法の改正

2022年10月3日、カナダの特許法が改正され、下記(1)(2)の新制度が導入されました。

(1)クレーム超過費用(※1)

(2)Request for Continued Examination(RCE:継続審査請求)(※2)

(※1)クレーム数が20を超える場合に、20を超える部分に対し、1クレーム当たり100カナダドルのオフィシャルフィーが課せられます。

(※2)オフィスアクションの発行回数が3回に制限され、審査を継続するためには、RCEをファイルする必要があります(オフィシャルフィー:816カナダドル)。
また、RCEをファイルした後は、オフィスアクションの発行回数は2回に制限され、審査を継続するためには、さらにRCEをファイルする必要があります。なお、RCEの回数には制限はありません。

新制度は、2022年10月3日以降に審査請求を行う案件に適用されます(2022年10月2日までに審査請求された案件は、新制度は適用されません。)。

特許担当者 : 弁理士 橋本 由佳里(名古屋)
意匠・商標担当者: 弁理士 石黒 智晴(東京)


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