スタートアップ企業にとって、知的財産は成長を支える重要な要素です。知的財産の中でも特に商標は、ビジネス上のリスク排除の観点からも有効な手段として挙げられます。以下では、スタートアップにとっての「商標登録」の重要性や、商標登録出願の戦略について解説します。

「商標登録」の重要性

商標登録は、企業が提供する商品やサービスに関連する名称、ロゴ、ネーミング等を法的に保護する手続きです。
起業した会社が、自社の商品やサービスに関する名称等を商標登録しない、つまり商標権を取得しない場合、次のようなリスクが生じます。

他の商標との関係におけるリスク

商標権は登録によってのみ効力が発生する制度になっています。つまり商標権は、商標を出願して、登録が認められなければ権利として成立しないということです。
更に、その権利の取得は早い者勝ちで決まるため、先に使用していたかどうかは、原則として考慮されません。
そのため、商標登録出願を行わないで商標を使用していると、

  • ①既に他人の登録商標であり、知らずに他人の商標権を侵害していた
  • ②他人が横取りして商標登録をしてしまい、自社で使えなくなってしまった
  • ③他人が勝手に自社商標を使用しているが、商標権侵害で訴えることができない

というような事態が起こり得ます。

①や②の場合、以下のような対応をしなければならず、費用や手間がかかり、ビジネスにマイナスの影響を与えてしまいます。

  • 商標の変更
  • 相手から商標権を譲渡してもらう
  • ライセンスをうける
  • 不使用取消審判や無効審判によって相手の商標権を取り消す又は無効にする。

また、③のように他人が自社の商標を勝手に真似した場合、権利を侵害していると訴えることができませんので、適切にブランドを保護することができない状態に陥ってしまう恐れがあります。

EXITにおけるリスク

一般的に、企業価値を評価する要素の一つには「知的財産の情報」が含まれます。商標権についても、知的財産の情報に含まれるため、商標権を取得することにより、知財価値を向上させることができます。
しかしながら、上述したように、自社の商標を登録しないでいると、他人とのトラブルが生じ得ます。そのため、IPOやM&Aの際には、商標権などの知的財産を保有しているかをチェックされます。
チェックの結果、商標権などの知的財産を保有していないと判断された場合、事業を進めていく上でのリスクを抱えている可能性が高いと判断され、IPOやM&Aを判断する際に、マイナスの影響を与えることが考えられます。
換言すると、商標権を取得することで、第三者による侵害から自社のブランドを守り、自社の業務上の信用を維持しつつ、商標を育てることが可能となります。これにより、投資家からの評価も高まると考えられます。
以上のように商標権を取得しない場合、投資家から評価されない、又は、評価されたとしてもその評価が低くなるリスクを抱える可能性があります。
スタートアップ企業のブランド価値を守り、成長させ、ビジネスにマイナスの影響を与えないためにも商標権の取得は有効な手段と言えます。

商標登録出願の戦略

何を商標登録すべきか

A.会社名

まず、商標権を取得すべき対象として考えられるのが会社名です。
法人名として登記されている場合や会社名を含んだドメインを取得している場合でも、それは会社名の商標的使用が法的に保証されたということにはなりません。
そのため、会社名を商標的に使用していることにより、知らないうちに、第三者の商標権を侵害していたということが考えられます。さらに、商標権を取得していない場合、模倣されたとしても権利を行使することができません。
よって、ブランドとして認知させたい会社名の商標は、第一に出願をする必要があると言えます。特に、会社名と、商品名・サービス名と、が一致している場合、出願は必須と言えるでしょう。
※会社名と、商品名・サービス名と、が一致している場合、商標の出願数を抑えたり、ブランド管理をし易くしたり等のメリットがあります。「株式会社SUBARU」や「株式会社SmartHR」のように、後に会社名をブランド力のある商品・サービス名に合わせる形で変更した例も多数あります。

一方、会社名を全く露出せず商標的に使用しない場合や、商品名・サービス名のみをブランドとして認知・保護したい場合、会社名の商標登録の優先順位は下げても構わないでしょう。
※「株式会社〇〇」と表示した場合、単に商号を表示するのみであって、普通に用いられる態様であれば、先行商標「〇〇」が存在する場合であっても商標権侵害とはなりません。

会社名の商標権を取得する場合、一般的に会社が扱う全事業をカバーすることになるため、商標権を取得する範囲が広くなることが多いです。
商標登録出願をする際は、実際に事業を展開してない領域であっても、近い将来事業を行う予定があれば、その領域についても権利範囲に含まれるように商標権を取得しておくべきでしょう。
一方、権利範囲が広くなると、商標の出願・登録費用が増加する場合があります。そのため、会社名の使用状況、事業展開予測を十分に考慮したうえで、商標登録の要否を判断することが重要です。

B.商品・サービス名

会社名とは別に、会社の展開する商品名やサービスを認知させたい場合があります。
その場合、該当する商品・サービス名の商標権を別途、取得する必要があります。

<会社名とは別の強力なブランドの例>

  • 「PlayStation」(登録第5695839号) 権利者:株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメン
  • 「LEXUS」(登録第5192338号他) 権利者:トヨタ自動車株式会社
  • 」(登録第1461327号) 権利者:ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー

C.その他

他にも、次のようなものも取得すべき対象として考えられます。

a.キャラクター
企業キャラクターは、企業活動において広告等の幅広い範囲で用いられることが一般的です。そのため、幅広い権利範囲で取得する必要があります。
また、権利保護を万全にするためにはイラストだけでなく、キャラクターの名称も保護することが望ましいです。

<登録例>

(登録第5077073号) 権利者:任天堂株式会社

b.会社や商品、サービスの特徴的な内容を表すワード、スローガン、フレーズ
スローガンやフレーズ等に関しても、商標登録することにより独占的に使用することができます。

<登録例>

「JUST DO IT」(登録第4206837-2号 他) 権利者:ナイキ イノヴェイト シーヴィー

D.文字かロゴか

商標権を取得するにあたり、文字やロゴ等、どのような態様で保護するべきかという問題があります。
原則的には、実際に使用する態様のものを商標登録すべきですが、以下のような基準を設けて検討してみても良いでしょう。

<文字商標として登録することが好ましい場合>

  • ロゴが決定していない
  • ロゴを変更する予定がある

<ロゴ商標として登録することが好ましい場合>

  • 識別力のない文字からなる商標である。
    ※識別力のない文字でも、文字を特殊な形態で表したり、記号・図形を付加したりすることにより登録を目指すという方法があります。
    ※識別力とは、自分の商品やサービスを他人の商品やサービスから区別できるようにする力のことを言います。例えば、商品「りんご」について、以下のような商標は識別力を有していないと判断されます。

    ・「りんご」(商品の普通名称)
    ・「長野」(商品の産地)
    ・「おいしい」(商品の品質)

〈注意点〉
ここで、「図形+文字からなる商標」、「図形のみからなる商標」、「文字のみからなる商標」は、それぞれ異なる商標であるという点に注意が必要です。
そのため、例えば、「図形+文字からなる商標」の商標権を取得しただけでは、第三者の「図形のみからなる商標」や「文字のみからなる商標」の商標登録を防ぐことや、第三者の使用に対して、権利行使ができない可能性があります。
よって、「図形のみからなる商標」と「文字のみからなる商標」それぞれについても商標権を取得することが最善と考えられます。

E.指定商品・役務

商標登録出願をする際、商標権の権利範囲を定める指定商品・役務を選択します。指定商品・役務の選択は、専門的な知識と経験が必要であり、その検討が不十分なまま、商標権を取得したとしても、必要十分な権利が取得できないということも考えられます。
したがって、可能な限り経験豊富な弁理士に依頼するのが良いでしょう。

※例えば、「APPLE WATCH」(登録第5819569号)は「腕時計」だけでなく、下記の商品・役務を含む幅広い権利範囲で商標権を取得しています。

・コンピュータ
・電子携帯用ゲーム
・フィットネス及び運動の指導及び教授並びにこれらに関する情報の提供(ウェブサイトを介して提供されるものを含む。)

いつ出願すべきか

A.先願主義というルール

日本の商標法は、早い者勝ちの先願主義が採用されています。そのため、原則、使用する商標の出願のタイミングはネーミング決定時等、早ければ早いほど良いです。
例えば、商標登録出願をする前にプレスリリース等で世間にネーミングやロゴを露出すると、悪意を持った第三者が先取り的に商標登録出願を行ってしまう危険性が高まります。
悪意を持った第三者の出願に対して、登録を防ぐ、あるいは、登録を取消す方策もございますが、何れも後手の対応であり、必ず成功するとも言えません。さらに、その様な方策には多くの手間とコストがかかってしまいます。
また、事業規模が大きくなるほど、商標の変更を強いられた場合のリブランディングのコストがかかります。そのため、世間の認知が拡大する前に、出願をしておくということがトラブルを未然に防ぐためにも重要です。
しかし、スタートアップにおいては予算が限られていることも多いでしょう。
ネーミング変更も許容できるのであれば、他人の権利を侵害していない限り、事業が軌道に乗ったタイミングで出願をすることも一案です。

B.事業拡大・リブランディング

事業が拡大すると、最初に想定していた商標の権利範囲に収まらない場合が生じ得ます。その場合、同じ商標について、拡大した事業の範囲を包含する商品・役務を指定した商標登録出願を別途する必要があります。
また、企業が自社のブランドを見直し、リブランディングすることがあります。その場合、リブランディングしたロゴ等を出願する必要が出てくるでしょう。

C.海外展開

a.外国で権利取得する必要性
日本で既に権利化している商標であっても、外国において同様に商標権を行使することはできません。そのため、外国で商標を守るためには、その国毎に商標登録をする必要があります。

b.外国への出願方法
外国に出願をする方法は、国ごとに直接出願する方法と、日本の特許庁に出願中又は登録されている商標を基礎として国際出願する方法があります。詳しくは、下記URLをご確認ください。
https://www.harakenzo.com/step3/

c. 外国への出願時に注意すべきこと
日本で登録が認められた商標であっても、外国でも同じく登録されるとは限りません。現地における識別力や先行商標との関係で登録が認められない可能性もあるため、注意が必要です。

d.外国出願の費用
外国出願は、国内出願よりも費用がかかります。資金が調達でき、どの国に進出するか明確になった後に出願をするのが良いでしょう。

外国出願費用は、特許庁が費用を助成しており、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)と各都道府県等中小企業支援センター等が窓口となっています。詳しくは、下記URLをご覧ください。
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_gaikokusyutugan.html

事例紹介

スタートアップ企業の商標登録の具体的な事例を以下に紹介します。
スタートアップの商標登録の重要性や基本的な商標出願の戦略については、以下URLにて解説しています。
ご参照ください。

スタートアップ 商標ガイド 商標登録の重要性から、出願戦略まで:
https://www.harakenzo.com/project/enterprise/
※以下に紹介する商標は各社の登録商標です。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

筑波大学発のスタートアップで、メディアアーティストの落合陽一氏が代表をつとめています。

(1)ハウスマークの保護

商  標:Pixie Dust Technologies
登録番号:第6049000号(国際登録第1508583号)
区  分:7、9、12、28、35、38、41、42、45
出 願 日:2017年8月30日
商  標:ピクシーダストテクノロジーズ
登録番号:第6373589号
区  分:7、9、10、12、15、16、28、35、37、38、41、42、43、45
出 願 日:2020年3月9日
商  標:Pixie Dust Technologies
登録番号:第6610486号
区  分:3、5、6、7、10、15、17、19、20、27
出 願 日:2022年5月12日

<特徴>

  • 英語表記および片仮名表記の2種類を、標準文字で権利化
  • 幅広い権利範囲を指定
  • ①については、国際出願により中国・韓国・アメリカでも権利化

(2)提唱する概念の保護

商  標:Digital Nature
登録番号:第6083268号
区  分:7、9、10、12、28、35、38、41、42、45
出 願 日:2017年12月12日
商  標:Digital Nature
登録番号:第6465063号
区  分:9、16、39、42
出 願 日:2020年10月7日

<特徴>

  • 英語表記のみを標準文字で権利化
  • ハウスマークほどではないものの、幅広い権利範囲を指定

※「Digital Nature」(デジタルネイチャー)とは、落合陽一氏の提唱する「コンピュータと非コンピュータリソースが親和することで再構築される新たな自然環境」として捉えられる概念のこと。

(3)商品ブランド名の保護

商  標:
登録番号:(i)第6480555号 (ii)第6621422号
区  分:(i)6、9、12、17、19、20、37、42 (ii)27
出 願 日:(i)2021年1月29日 (ii)2022年4月14日
商  標:iwasemi
登録番号:第6524931号
区  分:6、7、9、12、15、17、19、20、27、35、37、40、42、43
出 願 日:2020年12月10日
商  標:
登録番号:第018720915号(EUIPO)
区  分:6、17、19、20、27、42
出 願 日:2022年6月21日

<特徴>

  • デザイン化した書体と標準文字の2種類を権利化
  • ①②は日本特許庁、③は欧州連合知的財産庁(EUIPO)における登録例

(4)技術ブランドの保護

商  標:DeepWear
登録番号:第6255302号
区  分:9、14、18、25、35、41、42、45
出 願 日:2019年4月2日

<特徴>

商品やサービス名ではなく、技術名を商標登録
⇒「技術=特許」ではなく、多角的な保護を行う

※「DeepWear」は、深層学習によって、新たなデザインを生成する技術・仕組みです。

株式会社メルカリ

メルカリは2013年2月に「株式会社コウゾウ」として設立されましたが、2013年11月には「株式会社メルカリ」に商号変更しています。2013年7月にアプリ「メルカリ」のサービス提供を開始しており、社名をサービス名に合わせて変更した例の一つと言えます。

(1)外国における保護

商  標:mercari
登録番号:第5686537号(国際登録第1201083号)
区  分:9
出 願 日:2014年2月28日
商  標:
登録番号:第6147954号(米国登録)
区  分:9
出 願 日:2018年3月20日
商  標:
登録番号:第5590156号(米国登録)
区  分:42
出 願 日:2018年3月20日

<特徴>

  • ①は国際出願により、中国・欧州連合知的財産庁(EUIPO)・韓国・アメリカで登録されている
  • ②③は国際出願ではなく、個別出願によりアメリカで登録されている
    ⇒アメリカには国際出願だけでなく、個別にも商標を出願しており、国によって出願戦略を変えている。

(2)リブランディング後のコーポレートロゴの保護

商  標:
登録番号:(i)第5739826号 (ii)第5981252号
(iii)第5988642号 (iv)第6022271号
区  分:(i)9、35 (ii)36 (iii)42 (iv)43
出 願 日:(i)2014年10月29日 (ii)2017年1月23日
(iii)2017年3月2日 (iv)2017年6月26日
商  標:
登録番号:第6062348号
区  分:5、9、16、17、20、24、25
出 願 日:2017年10月20日
商  標:
登録番号:第6231701号
区  分:9、16、17、20、24、25、35、36、41、42、43
出 願 日:2018年10月29日

<特徴>

  • コーポレートロゴについて、徐々に権利範囲が広くなっている
  • コーポレートロゴのリブランディングに合わせて、新たなロゴ③も権利化

株式会社ユーグレナ

ミドリムシの研究開発、関連商品の製造・販売を行うバイオベンチャーです。

(1)普通名称からなる社名の保護

商  標:
登録番号:第5021177号
区  分:3、29、30
出 願 日:2006年4月24日
商  標:
登録番号:第5227772号
区  分:35
出 願 日:2007年6月28日
商  標:
登録番号:第5424614号
区  分:3、29、30
出 願 日:2010年12月15日
商  標:
登録番号:第6593576号(国際登録第1657269号)
区  分:3、5、32
出 願 日:2022年1月21日
商  標:
登録番号:第6593577号(国際登録1657270号)
区  分:3、5、32
出 願 日:2022年1月21日

<特徴>

  • 図形及び文字の構成で権利化
    ⇒識別力がないとされる語からなる社名について、ロゴ化することで保護
  • リブランディング後のコーポレートロゴである④⑤は、国際出願を行っている
  • ④はミャンマー・タイ・ベトナムで、⑤はシンガポール・アメリカで登録されている
    ⇒リブランディング後における海外での事業展開が推察される

※「ユーグレナ」とは
・植物と動物両方の性質を持った微細藻類のことであり、ミドリムシの別名(学名)。
・株式会社ユーグレナが屋外大量培養に成功したことで、サプリメントをはじめ様々な食品や化粧品に使用されるようになった。
・造語等ではなく普通名称であるため、株式会社ユーグレナ以外にも「ユーグレナ」を含む商標を保有している権利者が多くいる。
・文字のみからなる「ミドリムシ」(商願2009-94355)や「ゆーぐれな」(商願2009-97417)は、識別力の欠如を理由に過去に拒絶されている。

(2)キャラクターの保護

商  標:
登録番号:第5572053号
区  分:9、14、16、18、25、26、28
出 願 日:2012年9月3日
商  標:ゆーぐりん
登録番号:第5572054号
区  分:9、14、16、18、25、26、28
出 願 日:2012年9月3日

<特徴>

  • キャラクターロゴ及びキャラクター名を権利化
  • 指定商品「洋服」等を含む幅広い範囲で権利を取得している

(3)共同出願での保護

商  標:DeuSEL
登録番号:第5424614号
区  分:3、29、30
出 願 日:2010年12月15日

<特徴>

株式会社ユーグレナの他に、いすゞ自動車株式会社が権利者となっている

※株式会社ユーグレナは、いすゞ自動車株式会社とユーグレナ由来の次世代バイオディーゼル燃料の実用化に向けた共同研究契約を締結している。
※「DeuSEL」とは、「DIESEL」(ディーゼル)と「euglena」(ユーグレナ)を組み合わせた造語。

ペプチドリーム株式会社

東京大学発のバイオベンチャー企業で、特殊ペプチドを応用し医薬品の研究開発を行っています。

(1)様々な態様での保護

商  標:
登録番号:第5027870号
区  分:5
出 願 日:2006年8月7日
商  標:
登録番号:第6438997号
区  分:1、5、35、40、42
出 願 日:2020年10月16日
商  標:
登録番号:第6618212号
区  分:1、5、9、10、35、40、42、44
出 願 日:2022年2月3日

<特徴>

  • 文字のみ、文字と図形、図形のみの3パターンで権利化
  • 徐々に、権利範囲が広がっている

(2)現地語での保護

商  標:
登録番号:第18127178号(中国登録)
区  分:42
出 願 日:2015年10月22日

<特徴>

「ペプチドリーム」の中国語表記が、中国において権利化
⇒中国における現地語での事業展開が伺える

(3)自社技術の多角的な保護

商  標:
登録番号:第5652110号
区  分:5、40、42
出 願 日:2013年3月15日

<特徴>

自社独自の創薬開発プラットフォームシステムについて、その名称を商標で保護
※当該システムの技術については、複数の特許を取得済み。

株式会社マネーフォワード

「マネーブック株式会社」として設立されましたが、その後に「株式会社マネーフォワード」に商号変更されました。金融系ウェブサービスを提供しています。

(1)様々な態様での保護

商  標:
登録番号:第5787967号
区  分:9、35、36、38、41、42
出 願 日:2015年2月23日
商  標:マネーフォワード
登録番号:第5868070号
区  分:9、35、36、38、41、42
出 願 日:2015年11月17日
商  標:
登録番号:第6203306号
区  分:9、35、36、38、41、42
出 願 日:2018年10月26日
商  標:Money Forward
登録番号:第6321841号
区  分:9、35、36、38、41、42
出 願 日:2019年8月22日
商  標:マネフォ
登録番号:第6560770号
区  分:9、35、36、38、39、41、42、45
出 願 日:2021年11月11日

<特徴>

  • 同じ「マネーフォワード」でも、ロゴと標準文字、英語と片仮名等、様々な態様で権利化
  • 「マネーフォワード」の略称である⑤も商標登録している
  • ④の英語表記の標準文字が国際出願され、中国・インドネシア・シンガポール・タイ・アメリカで登録されている

(2)キャッチフレーズ・スローガンの保護

商  標:お金を前へ。人生をもっと前へ。
登録番号:第5789878号
区  分:9、41
出 願 日:2015年2月23日
商  標:お金を前へ。人生をもっと前へ。
登録番号:第5820863号
区  分:35、36
出 願 日:2015年8月7日
商  標:お金を前へ。人生をもっと前へ。
登録番号:第6504649号
区  分:42
出 願 日:2021年4月21日

<特徴>

同じキャッチフレーズ・スローガンを3度に渡り出願
⇒事業内容に合わせて権利範囲を随時追加していると考えられる

商号(会社名)の商標登録

起業する際には必ず商号(会社名)を決めます。その会社名は、起業した人たちにとって、思い入れがあるものです。しかし、会社名について商標登録をしていないことにより、自分たちの会社名が使えなくなったり、第三者から損害賠償を請求されたりする可能性があります。

以下では、会社名の商標登録について、注意点等も含めて解説します。起業した方、これから起業される方は、必読です。

商号(会社名)と商標の違い

商号(会社名)と商標は、名前が似ているため混同されやすいですが、下記のような違いがあります。

商標:自社と他社の商品やサービスと区別するためや出所を表示するために使用するマークのことです。商標法において規定されており、特許庁に願書を提出して登録します。
商号:会社等が営業を行う際に自己を表示するために使用する名称のことであり、他の営業主体と区別するためのものです。商法や会社法において規定され、法務局で登記をします。

  • 商号は、名称のみが登録の対象ですが、商標は名称以外のマーク(図形)も登録の対象となります。
  • 商号は、同一の住所に同一の名称が存在しなければ登録できますが、商標は、指定した商品やサービスの分野で同一又は類似の名称(マーク)が存在しないことが登録の条件になります。
  • 商号として登記している場合でも、その商号を自由に使用できるわけではありません。例えば、登記した商号と同一又は類似する第三者の登録商標があった場合、商標的使用(*)により商標権侵害となる可能性があります。
*商標的使用とは、商品やサービスとの関係において、商標(名称やマーク)が自社と他社の商品(サービス)を区別するためや出所を表示するために使用することを言います。

商号商標のポイント

会社名を決める際には、商標調査を行い商標登録することをお勧めします。候補となる会社名について、既に同一又は類似の商標登録(先行商標)が存在している場合、上記のとおり商標権侵害になる可能性があるためです。そのため、会社名を決定する前に商標調査を行い、商標としての使用に問題がないかを確認するようにしましょう。
なお、商標調査をする場合、調査をする範囲に注意しなければいけません。
会社名は、商標として会社の全事業に用いられることが多いため、単なる商品名やサービス名よりも広い権利範囲が必要となる傾向があります。自社事業の範囲を漏れなく、適切に調査することがポイントです。
仮に、調査範囲外に先行商標が存在していた場合、その先行商標の権利範囲で商標を使用すると、上記のとおり商標権侵害になる可能性があります。つまり、適切な範囲で商標調査をした上で、適切な範囲の商標出願を行い商標登録する必要があるということです。
調査の結果、自分たちの事業範囲において、先行商標が発見された場合、以下のような対応をすることを迫られます。

  • 商標の変更
  • 相手から商標権を譲渡してもらう
  • ライセンスをうける
  • 不使用取消審判や無効審判によって相手の商標権を取り消す又は無効にする。

事例紹介

商号を商標権として権利化していなかった、又は、商標の権利取得を適切な範囲で行わずに商標を使用していたことからトラブルが発生した事例を以下に紹介します。

〈1〉モンシュシュ事件

(1)概要

株式会社モンシュシュ(現:株式会社モンシェール社)(以下、被告)が「モンシュシュ」と呼ぶことのできる商標を洋菓子又は洋菓子の小売について使用することが、ゴンチャロフ製菓株式会社(以下、原告)の登録商標「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」の商標権を侵害すると認められ、約5100万円の賠償が命じられました。

本件により、被告は会社名(商号)を変更することとなりました。

(2)経緯

被告は、「飲食物の提供」に関する役務を指定して登録商標を保有していました。一方、被告は「ロールケーキ」の販売で有名でした。つまり、「洋菓子」についても商号を商標として使用していたということになります。

原告は登録商標「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」について、指定商品を「菓子,パン」として保有していました。

裁判所は、被告の「洋菓子」への商標の使用は、原告の登録商標を侵害するとして損害賠償を命じました。

被告は原告商標を含むドメイン名を包装用紙袋等に使用していました。裁判所はそのドメイン名の使用についても、商標として使用されていると判断し、原告の登録商標を侵害すると認定しました。

被告が訴訟係属中に商号を変更し、店舗や包装における名称にも反映させたため、被告標章の使用のおそれがなくなったとして、差止め請求は認めませんでした。

主な原告登録商標
商     標:
登 録 番 号: 第1474596号
指定商品・役務: 菓子,パン(第30類)
被告登録商標
商     標:
登 録 番 号:第4939769号
指定商品・役務:ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供(第43類)

(3)変更後の商号商標

変更後の商号に係る下記の商標を登録しています。「菓子」が該当する第30類を含む、広い範囲で権利を取得していることがわかります。また、事業範囲の拡大や必要性に応じて、登録する区分を追加していることが窺えます。

商  標:
登録番号(指定区分):第5276767号(第30類),第5460770号(第29類,第43類),第5555454号(第3類,第31類),第5582119号(第18類,第24類,第25類)

〈2〉ロックオン事件

(1)概要

株式会社ロックオン(現:株式会社イルグルム)(以下被告)による商号に係る商標の使用が、ビジネスラリアート株式会社(以下原告)の商標権を侵害することが認められました。

被告が控訴したものの、結果的に、被告が原告に対して、解決金6000万円を支払うことで和解しました。

本件を経て、被告は会社名(商号)を「株式会社イルグルム」に変更しています。

(2)経緯

原告が被告を商標権侵害で提訴する前に、被告が「LOCKON」の商標を使用する原告に対して商標権侵害を訴え、差止請求をしていました。(以下第一事件)

第一事件の原告(株式会社ロックオン)は、第一事件の被告(ビジネスラリアート株式会社)がその商標の使用を第35類「広告業」について行っていると主張しました。しかし、裁判所は第一事件の被告(ビジネスラリアート株式会社)の商標の使用は第35類「広告業」ではなく、第42類「電子計算機用プログラムの提供」について行っていると判断し、第一事件の原告(株式会社ロックオン)の請求は棄却されました。

その後、今度は逆に、原告(ビジネスラリアート株式会社)が被告(株式会社ロックオン)を商標権侵害で訴えました。被告は、商標は第35類について使用していると主張しました。しかし、裁判所は第42類「電子計算機用プログラムの提供」についても使用していると判断しました。(以下第二事件)

主な被告使用商標


※L(ロゴ)とImpact On the Worldは登録商標(下記③)
主な原告登録商標
商  標:
登録番号:第4839624号
指定区分:9,38,42類
⇒第42類を指定しています。第一事件での原告(株式会社ロックオン)の「第一事件での被告(ビジネスラリアート株式会社)が上記商標を第35類に使用している」という主張は認められませんでした。
主な被告登録商標
商  標:
登録番号:第5671044号
指定区分:第35類、41類⇒第42類を指定していません。第二事件において、被告が、上記自己の商標を第42類ではなく、第35類に使用しているという主張は認められませんでした。一方、下記登録商標では第42類を指定しています。
商  標:
登録番号:第5450134号
指定区分:第9,35,42類

商  標:Impact On The World
登録番号:第5450135号
第9,35,42類

(3)変更後の商号商標

「被告(株式会社ロックオン)は商号変更に伴い、下記商標を登録しています。商号変更前に係る登録商標では指定していなかった、第42類「電子計算機用プログラムの提供」が含まれています。

商  標:イルグルム
登録番号:第6223835号
指定区分:第9,35,41,42類
商  標:IRUGULUMU
登録番号:第6223836号
指定区分:第9,35,41,42類

〈3〉本田圭佑氏が発起したサッカークラブ名の変更

元サッカー日本代表の本田圭佑氏の発起したサッカークラブの名称について、先行商標との関係で、クラブ名を変更する事態がありました。
本田圭佑氏が発起したサッカークラブ「Edo All United」ですが、当初は「ONE TOKYO」という名称でクラブ設立が進められていました。しかし、その過程で、一般社団法人東京マラソン財団が登録商標「ONE TOKYO」を保有していることが判明しました。
その後、一般社団法人東京マラソン財団と協議を重ねた結果、「ONE TOKYO」の名称は使用できないことになり、クラブ名を「Edo All United」に変更することになりました。新名称の選考過程では、名称候補を弁理士の商標調査により絞った上で決定されました。

商 標:ONE TOKYO
権利者:一般財団法人東京マラソン財団
登録番号:第6414746号
指定区分:第9,18,24,25,26,35,36,38,41,42,44類
商 標:Edo All United
権利者:Edo All United株式会社
登録番号:第6438220号
指定区分:第9,18,25,35,38,41,42類

〈4〉まとめ

自社の商品・サービスが、どの指定商品/役務に該当するか入念に確認し、将来的な事業展開も含めて商標の指定商品・役務を検討する必要があります。

先行商標がある場合、商標的使用を考慮して商号の変更等の対策を検討しなければなりません。

商標登録出来たとしても、登録された範囲以外で使用する場合には、他人の商標権を侵害してしまう可能性があります。

本田圭佑氏のサッカークラブチームの名称変更のように、自分たちが悪気なく使用していた名称について、登録商標が既に存在していたということはよくあり、商標に関する認識不足は、ビジネスの上で大きなリスクになり得ます。

以上の事例からも、商標調査をした上で、適切に権利範囲を定め、商標を出願・登録することの重要性がわかります。弊所では商標調査や商標出願から登録まで、さらにその後の管理も含めてお客様に対して一貫したサポートを行っております。お気軽にご相談ください。

 

 


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