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ビジネスモデル特許

2000年3月10日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 原  謙 三

I. はじめに

知的財産権の分野において、近年、最も注目を浴びているのは、「ビジネスモデル特許」であろう。
「ビジネスモデル特許」について、特許庁を含め専門家間において未だ確定された定義付けはないが、一般には、「コンピュータによる処理を前提としたビジネス手法を保護対象とする特許」といわれる。

ここ数年におけるパソコンを中心としたコンピュータの爆発的な普及や、ネット、通信などの情報技術(IT)が急速な進歩をみせている。インターネット人口は、現在、全世界で約2億人(米国は約1億人、日本は約2千万人)といわれ、さらに急拡大傾向をみせている。
特許法は、産業立法であってその最終目的は「産業の発達」にある(法1条)。しかし、これまでは、特許法で保護すべき対象として考えていたのは「技術」であり(法2条1項)、この技術の累積的進歩を促進するための代償として独占権を付与することにより、発明に対するインセンティブを与えてきた。この結果、「技術」開発の競争社会が実現し、これは主として製造業を中心として発展してきた。

一方、銀行、証券、保険、流通などのサービス産業においては、インターネットなどのITが急速に進歩した結果、インターネットを用いた電子商取引やデリバティブ等の金融ビジネスが可能となり、このサービス産業の成長が今後ますます期待されるので、特許法はこれを法的に支援して、その成長を促進させなければならない。

IT先進国といわれる米国では、ビジネスモデルやビジネスアイデアについて、特許によって強力に保護することが米国産業経済に貢献すると判断し、その精神はレーガン政権時代から受け継がれている。ITとサービス産業とが結びついて生まれたNew Businessに対して、米国はこれを法的に支援したことにより、現在の国家経済的繁栄とビジネスモデル特許の隆盛がもたらされたものである。
一方、日本特許庁は、これまで先行していた米国を追撃すべく、近年、プロパテント政策(早い権利化/強い権利効力/広い権利保護)を明確に打ち出した。このプロパテント政策を推進する一貫として、ソフトウエア関連発明に対する保護の強化を図るべく、特許庁はソフトウエア関連発明に関する審査レベルのハードルを下げ始めた。

21世紀のボーダレスなネットワーク社会においては、産業政策の立ち遅れが即刻、国家経済的利益の巨額な損失または逸失となって現れる怖さを持っている。我が国が欧米先進諸国に対して十分な競争力を維持できるように、広範なビジネスモデル特許に対する早急な法的支援が望まれる。

Ⅱ.日本〔JPO〕におけるビジネス特許の現状

1.ビジネスモデルに関する類型
日本特許庁〔JPO〕の運用指針では、ビジネスモデル特許について、次のように類型している。
(1)従前から特許の保護対象として認められている分野
コンピュータ技術、通信技術、データ処理技術、ネットワーク技術といったものである。
(2)特許の保護対象と認められる可能性のある分野
ビジネスアイデアをITにより具体的に実現したソフトウエア技術を特定ビジネスに応用したもの、が議論の対象となっている。
これを大別すると、次の三種類がある。
①電子商取引関連
(ビジネス応用システム:例えばインターネットショップ、ホームバンキングシステムなど)
②金融ビジネス〔銀行、保険、証券〕関連  (電子決済、電子マネーなど)
③広告、流通、在庫管理、娯楽、転職等の人的資源関連
(3)特許の保護対象にはなり得ない分野
自然法則自体(エネルギー保存の法則等)、人間の推理力等で案出された数学(計算方法等)、論理学上の規則、経済法則、商慣習、心理法則(催眠術等)、経営手法、人為的取り決め(遊戯方法等)などのビジネスモデルやビジネスアイデアは、「自然法則の利用性」に該当しないので、それのみでは保護対象にはならない。
但し、 発明の内容に自然法則を利用しない部分が含まれていても、発明全体(請求項)として自然法則が利用されていれば、「自然法則の利用性」という条件は満たされる。

2.コンピュータ・ソフトウエア関連発明を、発明の種類の観点からみると、次の三種類に大別することができる。
(1)「方法」のカテゴリの発明
時系列的につながった一連の処理または操作の「手順」(アルゴリズム)。
(2)「物」のカテゴリの発明
 a.ソフトウエアを一または二以上の機能で表現したクレーム。
 b.プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
 c.構造を有するデータを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体など。
(3)コンピュータ・プログラム/コンピュータプログラム言語
現在、特許庁が認めているソフトウエアに関連する発明の保護対象は、上記(1)および(2)に限定されており、(3)のコンピュータ・プログラム自体の発明については、特許法の保護対象外としている。

3.従前の特許庁の審査基準/運用指針
日本の特許法では、法2条1項に「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義している。「ビジネスモデル特許」が成立するか否かは、「自然法則を利用した技術的思想」の解釈の問題に帰着する。
従前のコンピュータ・ソフトウエア関連発明に関する審査基準によれば、「コンピュータを使用したことに伴って必然的に生じる限定(ハードウエア資源の単なる使用)に相当するときは、・・・その発明は自然法則を利用したものとはいえない。」として、その発明の「自然法則の利用性」を否定していた。

4.現在の「発明の成立性」に関する特許庁の審査基準/運用指針
特許庁は、現在のところ、以下に示す1997年に公表した審査基準に基づいて審査している。
特許庁が1997年に公表した審査基準「特定技術分野の審査の運用指針第一章 コンピュータ・ソフトウエア関連発明」によれば、①ハードウエア資源に対する制御または制御に伴う処理、②対象の物理的性質または技術的性質に基づく情報処理、 ③ハードウエア資源を用いて処理すること 、の3点のいずれかに該当する場合には、「自然法則の利用性」が認められるとしている。
ビジネスモデル発明は、コンピュータによる処理を前提としたビジネス手法であるから、上記「③ハードウエア資源を用いて処理すること」に該当するか否かで、発明としての成立性を判断されるケースが多い。この要件を満たすには、 コンピュータのハードウエア資源をどのように(how to)用いてビジネス方法を実現したかを請求項に具体的に記載 されていればよく、これにより法2条1項の「発明」に該当し、ビジネスモデル発明であっても特許法の保護対象となる。

この場合、クレームされたビジネスモデルが 全体として 自然法則を利用していればよく、 請求項の一部に非技術的要素が含まれていたり、自然法則以外の法則(経済法則等)が利用されていても問題とはならない。また技術的効果や経済的効果についても問われない。請求項のカテゴリによって発明の成立性判断が左右されることもない。

インターネット等を利用した電子商取引や、コンピュータを利用した金融商品などは、コンピュータハードウエアを用いることが前提であるから、請求項にハードウエア資源の用い方(how to)を記載しておけば、発明の成立性について特に問題はないと考えられる。
ここで問題となるのは、運用指針で示す「コンピュータのハードウエア資源がどのように(how to)用いられて処理されるかを直接的又は間接的に示す具体的な事項」が請求項に記載されていなければならないとする、その用い方の具体化の程度である。確かに、運用指針では、従前の「ハードウエアの単なる使用」という基準から、現行の「ハードウエアの用い方」というように、審査の基準が引き下げられたといわれている。しかし、この運用指針が公表されたのは1997年であって僅か3年前のことであるが、ハードウエアを念頭に置いてソフトウエアに関する運用指針が示されたものであり、ITの急速な進歩によりビジネス方法がコンピュータ技術を取り込んで今日のようにビジネス展開されることは予測していなかった時代のものと思われる。
現実の問題としては、「ハードウエアの用い方」およびその「具体化レベル」に関する基準に未だ厳しいものがあり、これがビジネスモデル特許の成立を阻害している。
ハードウエアをどのように利用するかについての基準については、単に形式的要件にすぎない程度まで引き下げるように審査基準や運用指針を改訂することが、産業政策上の観点から好ましいことであろう。
また、ハードウエアの用い方の具体化レベルについては、「発明の成立性」に関する問題ではなく、請求項を従来技術と比較した「特許性(進歩性)」の問題として判断すべきことであると思料される。
特許庁の運用指針で示されたハードウエアの用い方の具体化レベルは、次のとおりである。
(1)A.コンピュータのハードウエア資源を利用しているが、「コンピュータを用いて処理すること」 のみ であるとして発明の成立性が否定される請求項の記載例。

  『自然数nとn+kを入力する手段と、自然数nからn+kまでの和sを、
     s=(k+1)(2n+k)/2
     により求める演算手段と、
   演算結果を出力する手段とを備えたことを特徴とする、
   コンピュータにより自然数nからn+kまでの和を求める装置。』

  B.ソフトウエア発明の成立性が認められる請求項の記載例。
  『自然数nとn+kを入力する手段と、
    入力されたnを記憶するn記憶手段と、
    入力されたn+kを記憶するn+k記憶手段と、
    n記憶手段からnを、n+k記憶手段からn+kを取得しkを演算する手段と、
    該kを記憶するk記憶手段と、
   自然数nからn+kまでの和sを 上記n記憶手段、k記憶手段に記憶されたn、kを用いて
     s=(k+1)(2n+k)/2
     により求める演算手段と、
   演算結果を出力する手段とを備えたことを特徴とする、
   コンピュータにより自然数nからn+kまでの和を求める装置。』

〔注記〕運用指針で示された上記の実例は、不適当であり、Aの請求項記載例であっても「発明の成立性」は認められる、との特許庁関係者のコメントがあった。

(2)A.コンピュータのハードウエア資源を利用しているが、「コンピュータを用いて処理すること」 のみ であるとして発明の成立性が否定される請求項の記載例。
『コンピュータを利用したカードゲーム装置において、複数枚のカードの組み合わせの中から抽出された役の種類に応じて異なる得点を求める得点算出手段を有するカードゲーム装置。』

B.ソフトウエア発明の成立性が認められる請求項の記載例。
『コンピュータを利用したカードゲーム装置において、 複数枚のカードの組み合わせに対して所定の役データが対応させられている役データテーブルと、役データに対して得点データが対応させられている得点データテーブルとを記憶する記憶手段と、選択された複数枚のカードの組み合わせを元に前記役データテーブルを検索して対応する役データを抽出し、該役データを元に前記得点データテーブルを検索して対応する得点データを抽出し、抽出された前記役データの全て及び前記得点データの合計得点を出力する手段 とを有するカードゲーム装置。』

5.特許性判断の基準
(1)公知のビジネス方法
公知のビジネス方法を、単に、日常的作業で可能な程度の手法を用いてコンピュータに取り込んで実現しただけの発明は、「進歩性がない」として拒絶される。
しかし、公知のビジネス方法であっても、新規要素たとえば新規なハードウエアとの組合せや新規なビジネス手法の部分的付加等によって、特許性が認められることがある。また、コンピュータを処理するにあたっては、通常、何らかの創意工夫が必須不可欠であり、この点がクレームに含まれていれば、創作性は低いものの進歩性が認められる可能性はあると考えられる。

特に注目すべき点は、商業上慣用的に行われているビジネスモデルに関する発明である。この種の発明は既に無数に存在するが、これは実社会に存在するビジネス手法そのものであるから、人間の思考回路に蓄積されているだけのものが多く、文献に記載されている例は稀であろう。このように先行事例のデータベースが極端に不足しているので、商業上慣用的に行われているビジネスモデルに対する公知公用の認定は困難であろう。公知資料のデータベース化が待たれるところであるが、これには相当な長期間を要することも、現実の問題として残る。
それゆえ、このようなビジネス方法についても、コンピュータで処理できるようなシステムを開発することにより、ハードウエア資源(コンピュータ)をどのように(how to)用いてビジネス方法を実現したかが具体的に記載してあれば、先行文献が存在しない限り、特許として認めざるを得ないのではないだろうか。
例えば、米国のビジネスモデル特許の代表例とされるプライスライン社の航空券等の販売方法に関する特許「逆オークション」(USP5,794,207 )について考えてみたい〔添付資料「A」ご参照〕。このビジネス方法は、消費者または仲介者(旅行代理店等)が、人間の思考回路に蓄積された手法と電話回線等を利用して、従前から商業上慣用的に行われていた方法にすぎないと思われる。すなわち、そこで用いられるコンピュータ技術、インターネット技術、及びクレジットカードによる支払い方法には新規性がなく、「逆オークション」というビジネス手法そのものについても、数ある各社の商品を電話回線等を利用して問い合わせ、又は店頭において見比べて、これら商品の中から、限られた予算枠内の条件を満たす商品を選択し、予算等の購入条件を満たさなければ値引き交渉等により売り手を競わせ、その結果、購入条件を満たせば購入し、満たさなければ商品を購入しない(購入できない)のが普通の取引方法であるから、この商業上慣用化された普通のビジネス手法を採用したものにすぎないと考えられる。しかし、このようなビジネス手法をインターネット技術に組み込んでコンピュータで処理するという方法を採用したことにより、米国では特許が成立している。
近年、我が国でも航空券等のディスカウントショップが乱立しており、航空券の割引競争が過熱している現況にあって、上記「逆オークション」というビジネス手法自体は、決して新規な手法ではないと考えられるのである。

(2)新規なビジネス方法
新規なビジネス方法は、ビジネス方法自体に高い創作性を有しているので、これをコンピュータを用いて実現した発明については、コンピュータの用い方(how to)がクレームに示されていることを条件として、特許性が認められる。
法29条1項柱書(法2条1項)に定める「産業上の利用性(発明の成立性を含む)」は、コンピュータの用い方(how to)をクレームに含めることでクリアされ、かつ、進歩性については、独創的なビジネス方法で判断されるからである。
一つのクレームから一つの発明の概念が形成されるので、クレーム中に進歩性のある要素が含まれていれば、この要素がたとえ非技術的要素であっても、特許性が認められるものと考えられる。

(3)先行文献
ビジネス方法は、元来、人間の頭の中で思考され、各自がベストと思う方法や手順を実社会に則して判断して選択し、または他人から受け継がれた方法や手法の中からbest wayと判断したものを選択して、これを実行に移す種類のものが多い。それゆえ、刊行物が存在しない場合が多く、仮に存在していたとしても、断片的なものしか期待できないであろう。
したがって、ビジネスモデル発明については、先行文献の存在しない場合が多く、またビジネスモデル特許についての先願または先行特許が少ないので、コンピュータの用い方(how to)をクレームに含めるという条件さえ満たせば、大半の特許は成立するであろう。しかも、米国特許で見られるように、ビジネスモデル特許は、「儲けを生み出す仕組み」に関する発明が多いので、インターネットの普及により巨額な経済的利益を生む素地を持っている。さらに、ビジネスモデルを実施化する上でも、汎用パソコンの設置と既存のネットワークがあれば、僅かの設備投資をするだけでこれを現実のものとすることができるなど、ベンチャービジネスなど小規模企業であっても容易に実施できる種類のものである。
これが、現在、ビジネスモデル特許がゴールドラッシュの様相を呈している所以であり、出願の急増を生じている原因である。

6.最近の実例
日本対応出願「ハブ及びスポーク金融サービス構成のためのデータ処理システム及びその方法」(特願平4−507889号、特表平6−505581号)に対して、日本特許庁は、「法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない」として拒絶理由通知書(平成11年9月24日)を送達した。なお、本事件は、米国出願に基づく国際出願(PCT/US92/02163)の国内(日本)手続であり、その基礎となった米国出願では特許が成立している、代表的ビジネスモデル特許(USP5,193,056)である〔添付資料「B」ご参照〕。
同拒絶理由において、本事件の判断が示された重要な箇所を抜粋すると、次のとおりである。
「請求項1において各手段として規定されているものの実体は、特定の会計処理及び税金処理に必要なデータの操作手順であり、これは、Hub andSpoke Financial Configuration の仕組みや会計制度、税制に基づく考察により、人為的に定められたものということができる」
「出願人が発明として提案する内容は、データ処理のためのコンピュータが本来有する機能の一利用形態であって、しかも、その利用形態は、特定の金融サービスに必要な会計及び税務処理についての考察に基づいて定められたものであり、何ら技術的考察を伴うものでないから、これをもって『技術的思想の創作』ということはできない。」

上記の拒絶理由では、「自然法則の利用性」は認められるが、「技術的思想の創作性」が認められないと認定している。
法29条1項柱書に規定する「発明」要件は、「発明の成立性」(法2条1項)に関するものである。
コンピュータが本来有する機能を用いて特定の金融サービスに必要な会計及び税務処理を行う場合であっても、程度の差こそあれ、何らかの技術的考察を伴うことは必然である。
人間が行っている業務をシステム化し、これを単にコンピュータにより実現するといった、日常的作業で可能な程度のことであれば、本来、「進歩性なし」として特許性が否定されるべきことであろう。

7.最近の報道
平成12年2月21日付け日経新聞の朝刊によれば、特許庁は、インターネット技術の進展に伴い、例えば、音楽のネット配信の場合、音楽をネットに載せるための変換方法から実際に再生するまでのそれぞれの段階で、記録媒体への書き込みを想定しない新規な手法(音楽・映像などのオンライン配信方式)が独創的な発明であれば、CD−ROMなどの記録媒体に書き込まれていなくても、特許として認めることを検討中であり、特許法第2条で定める「物の発明」にネット上のソフトなどが含められるか否かの最終的な詰めを進めている。ネット上の「無体物」も特許法の「物」にあたると拡大解釈することが可能と判断すれば、審査指針の改訂など運用面で対応し、法改正が避けられない場合は、特許法の改正作業を急ぐ見通しである、と報じている。
なお、最近、元特許庁幹部から、「米国の審査基準に倣うような日本特許法の改正は当面ないであろう。」、「コンピュータ・プログラムについては、権利行使上も特に問題はないと考えられるから、運用指針を改訂してこれを保護対象に加える方向で検討している。」旨の見解が示された。

8.権利行使上の課題および対策
(1)ビジネスモデル特許の大きな特徴の一つは、インターネット等の国際的なネットワークを用いることを前提としているものが多いので、日本に特許が存在しない場合であっても、日本に居ながらにして権利侵害が国境を超えて発生する可能性を含んでいるところにある。インターネット上では、企業が提供するサービスを国境で遮ることができず、ビジネスモデル特許が成立していない国(日本)で提供されるサービスであっても、米国特許に抵触する可能性が生まれる。例えば、インターネット電子商取引がボーダーレスなサイバースペースで行われるため、サイバースペースでの日本企業の活動が米国特許により制限されることになる。

(2)インターネット電子商取引関連のビジネスモデル特許の場合、サーバーコンピュータとクライアントコンピュータの両方を含めて、「物」または「方法」でクレーム化されることが多い。この場合、権利一体の原則により、「物」または「方法」からなるクレーム全体を実施しなければ、直接侵害は成立しない。法101条の間接侵害が成立する可能性もあるが、「のみ」の要件を満たすケースは稀であろう。
したがって、サーバーコンピュータに限定したクレーム作成、またはクライアントコンピュータに限定したクレーム作成を心掛けることが重要となろう。

(3)日本では、企業対消費者の取引の場合、クライアントコンピュータを操作する利用者の行為は「業として」の要件を満たさないから非侵害となる。したがって、サーバーコンピュータに着目したクレーム作成がより重要になる。
〔注〕米国では日本と異なり「業として」は侵害の成立要件になっていないから、米国出願では、サーバーコンピュータだけでなく、クライアントコンピュータに着目したクレーム作成についても有効となる。

(4)例えば、音楽・映像などのオンライン配信方式というビジネスモデル特許の場合、侵害者はプロバイダーなのか、回線業者なのか、それとも両社なのか、不透明な部分が残る。日本におけるビジネスモデル特許の権利行使のあり方について、早い時期に司法当局による統一的見解を出すことが待たれる。

(5)サイバースペースはボーダーレスであるから、外国で成立しているビジネスモデル特許を無視するわけにはいかない。あるビジネスをウェブサイト上で行っている日本企業に対して、米国特許に基づく権利行使が可能か、これは米国法の問題であるが、非常に深刻な事態が予想される。ヘーグ条約(民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約)によれば、インターネット商取引に関連した米国特許に基づく管轄権や当事者適格は、外国(日本)にも及ぶであろうし、また、同種の日本特許に基づく管轄権や当事者適格については外国(米国)にも及ぶことになると考えられるからである。

(6)インターネットは全世界を一つのマーケットとしているが、侵害訴訟の場合、サーバーがどの国に設置されているかが問題となるであろう。原則的には、インターネット著作権が規定されたWIPO著作権条約に基づき、サーバーが設置されている国の法律に則り、侵害性の判断がなされると考えられる。著作権新条約には、コンピュータを用いた情報ネットワークで送信する著作物の保護などが規定されている。
しかし、米国政府は、たとえ同条約の未加盟国(エチオピア、アフガニスタン等)にサーバーが設置されていても、米国在住者が被害をこうむったり、米国向けに配信された場合は「断固とした措置をとる」との強硬な姿勢を示している。
日本企業が、経費節減のために米国内にサーバーをおいて、日本でサービスを展開した場合は当然、米国特許に抵触することになる一方、外国(日本)にサーバーが設置されていて、米国のユーザーがこれにアクセスしてサービスを受けた場合であっても、米国特許に抵触するおそれがあるので、日本企業にとってはこのような事態も想定しておかなければならない。

(7)米国の特許権所有者は、日本企業が米国特許を侵害していても、戦略的にこれを黙認し、しばらくはそのまま放置しておくことが予測される。実際にも、現在のところ未だ、日本企業が米国のビジネスモデル特許を侵害しているとして米国裁判所に提訴された事例はない。これは、日本のネットビジネスが、米国と比較して未だ揺籃期にあると考えられるからである。戦略的にみて、日本企業によるネットビジネスがある程度の規模にまで成長してから、過去に遡って巨額の損害賠償を要求してくる可能性は十分にある。基本的なビジネスモデル特許の多くは、既に、米国で取得されている可能性が高いので、日本企業は、ここ数年の間に成立している米国特許が権利期間満了を迎えるまでの今から約20年近くもの長期間にわたり怯え続けなければならない。
数年前に、米国TI社の年間純利益が約1000億円、このうちロイヤリティ収入が約500億円(大半は日本企業からの支払い)と報じられていたことがあった。一社のロイヤリティ収入だけでこれだけの巨額に達するということは、ビジネスモデル特許に関して日本企業がこれから20年近くも米国企業に対して支払い続けるロイヤリティ総額は、天文学的数字になることも予測される。
21世紀はネットビジネス市場で生き残ることが経営の最重要課題といわれながら、米国企業に主導権を握られた日本企業にとっては、厳しい制約が課されることになったと言える。

9.代表的ビジネスモデル特許
ビジネスモデル特許の多くは、国際特許分類(G06F17/60)に含まれる。ビジネスモデル特許に該当すると思われる日本出願は、現在のところ出願公開されているもので100件を超えない程度であろう。なお、日本に出願されているビジネスモデル特許の多くは、外資系、特に米国からの出願であるといわれている。
ビジネスモデル特許の実情   [作成日:2000.7.15] 日本における代表的ビジネスモデル特許を挙げると、次のとおりである。
① 顧客順列決定システム(特公昭63−41105号)
② 財務在庫管理装置(特公平1−23814号)
③ スイング預金(特公平4−1381号)
④ 自動セルフサービス装置(特公平5−10702号)
⑤ 電子マネー特許(特公平7−111723号)拒絶査定不服審判請求
⑥ 転職仲介サービス(特開平10−232893号)
⑦ オープンマーケット社の電子商取引(特開平10−312433号)
⑧ アマゾンコムのワンクリック特許(特開平11−161717号)
⑨ カーマーカ特許(特許第2033073号)審決取消訴訟を提起
⑩ 有価証券用データ処理システム(特許第2587615号)
⑪ 広告情報の供給方法と登録方法(特許第2756483号)
⑫ ビデオゲームシステム(特許第2784727号)
⑬ AT&Tの長距離電話課金方法(特許第2795596号)
⑭ モンデックス・マネー(特許第2874341号)
⑮ 顧客情報収集システム(特許第2897127号)
⑯ インターネットの時限利用課金システム(特許第2939723号)
⑰ コンピュータ化された商業取引を遂行する方法(特許第2984731号)

Ⅲ.米国〔USPTO/CAFC〕におけるビジネスモデル特許の現状

IT先進国といわれる米国では、政府が、どのような知的財産権政策をとれば国家的にみて米国に経済的利益がもたらされるか、という明確な観点で知的財産権を位置付けている。ビジネスモデルやビジネスアイデアについては、特許によって強力に保護することが米国経済に貢献すると判断し、その政策を推進している。特に、米国では、インターネット利用者人口の急激な拡大に支えられたビジネスモデルやビジネスアイデアが次々と生まれ、これを事業化することによって今までになかった新しい産業が生まれ、これによって新たな雇用が創出され、また短期間のうちに巨額な経済的利益をあげる起業家も続出しており、これらが現在の好調な米国経済を牽引している。すなわち、米国は、現在の史上最大規模の経済市場と好景気とによって、知的財産権政策の正しさが実証されたわけであり、New Businessを法的に支援することにより現在のビジネスモデル特許の隆盛がもたらされたものである。
米国では、電子商取引を始めとしてインターネットを活用した「ネットビジネス」が急速に拡大している。単に、インターネットを利用するだけでなく、ビジネス上の工夫が凝らされ、こうしたビジネスモデルを組み込んだソフトウエアについて、特許が成立している。ちなみに、逆オークションや外貨取引保険の発明者でありビジネスモデル発明の先駆的役割を果たしたジェイ・ウォーカー(Jay S.Walker) 氏の場合、ビジネスモデル発明を生み出す研究所を設立し、情報専門家とビジネス専門家と法律専門家の3名で1チームを構成する手法を採用して、既に300件以上の出願を行っているといわれている。
米国政府、USPTO(米国特許商標庁)は、ビジネスモデルを含むネットビジネス関連特許を認めることに積極的であり、知的財産権を国家戦略としてネットビジネスの世界的な市場支配を考えているようにさえ思われる。

(1)米国特許法101条には、特許の保護対象について、「新規かつ有用なプロセス、機械、製品、組成物」と定めている。ここには、日本特許法が定めるような自然法則の利用性に関する条件がない。
電子商取引、金融、証券、保険商品、広告、在庫管理などのビジネスモデルは、法101条のプロセスまたは機械に該当し、特許の保護対象に該当するか否かの判断基準は、「 有用で具体的かつ有形の結果 」(useful,concrete and tangible results) をもたらすか否かに置いている。
この判断基準は、1998年にCAFC(連邦巡回控訴裁判所)によるステートストリート事件(ハブ・アンド・スポーク特許「USP5,193,056」)判決で初めて示された。ビジネス方法に向けられているから特許の対象にはならないとする主張は、実体法上も判例法上も根拠を有しない、と判示して、本件特許の有効性を認めたものである。その後、最高裁へ上告されたが棄却された。本件は、経済法則を利用した投資信託に関するコンピュータシステムについて、CAFCが法101条の法定の主題(保護対象)に該当すると認めた事例であり、ビジネスモデル特許に関するCAFC判断の先例となる事例である。
また、長距離通話サービスに関するAT&T事件(USP5,333,184 )において、CAFCは、クレームのカテゴリーに関わらず、「 有用、具体的かつ有形の結果 」を判断基準とし、「有用、具体的かつ有形の結果」、例えば価格や利益等の 経済的効果 を考慮して特許の保護対象に該当するか否かの判断がなされるべきとして、先のステートストリート事件の判断を追認した。なお、「有用、具体的かつ有形の結果」は、一つ一つの用語を分離して解釈するのではなく、全体として解釈すべきである、との見解があり、この場合、発明全体から「経済的効果」を明瞭に打ち出すことができれば、特許性が認められると考えられる。ビジネスモデル発明の多くは「儲けを生み出す仕組み」に関するものであって、元々、経済的効果を狙った発明であるところから、米国のビジネスモデル関連出願の大半は特許と認められることになろう。
米国では、上記二つの事件が、ビジネスモデル発明に関する今後の審査の基準となるものと考えられ、有用で具体的かつ有形の結果をもたらすものは発明として成立することが確認された。
したがって、1996年にUSPTOが発表した審査ガイドラインは、近い将来、改訂されることになろう。

(2)米国特許庁は、1997年に、ビジネスモデル発明に対する専用の技術分類番号として「705」を付与するなど、早くからビジネスモデル特許に対する重要性を認識している。この結果、上記分類に該当する特許は既に約4000件に達するといわれている。特に、1998年のステートストリート事件の判決後は、ビジネスモデル特許に関する出願が加速的に急増し、最近では毎週約30件もの特許が成立しているといわれている。
これはネット先進国である米国の強みを米国政府の戦略的知的財産権政策が支援した結果であって、ビジネスモデルを組み込んだソフトウエアの開発者が次々と特許を取得している。
ちなみに、1996年度に日本特許庁(JPO)に特許出願された件数は総計40万1千件であったのに対して、同年度のUSPTOに対する特許出願件数は総計22万4千件であった。この比率からすれば、日本のビジネスモデル特許に関する出願件数が7000〜8000件に達していてもおかしくはない。ところが、日本特許庁から出願公開されたビジネスモデル特許は、現在のところ総計でも100件足らずといわれている(なお、日本では、出願日から出願公開までの1年6月の期間中は一切公表されないので、同期間中の出願の実態については不明であるが、同期間中に数百件程度の出願がなされているものと推測される。)。いずれにしろ、日本企業が米国と比較して大きく出遅れていることは否めない。
(注)米国も、2000年11月29日から、外国出願済の米国出願に限って出願公開制度が採用される。

(3)米国では、上記のようなビジネスモデル特許の乱立により商業活動に弊害を生じる虞れがあるので、米国特許法が1999年11月29日に一部改正された。ビジネスの方法を、他人の出願の1年以上前に現に実施し、かつ、その出願以前に商業的に使用していた者は、特許権侵害の主張に対して非侵害の抗弁をすることができる〔35USC273(b)(1)〕。但し、米国内での実施および商業的使用に限定される点に留意する必要がある。

(4)ビジネスモデル特許に関する主な侵害訴訟の事例を挙げると、以下のとおりである。

①シグニチャー・ファイナンシャル(Signature Financial Group,Inc.) がステート・ストリート・バンク(State Street Bank & Trust Co.) を連邦地裁に提訴、同地裁の特許無効判決後、1998年、シグニチャー社がCAFCに控訴して特許「ハブ・アンド・スポーク特許(USP5,193,056 )」の有効性が確認された。その後、ステート・ストリート社が最高裁に上告したが棄却された。

②AT&Tがエクセル・コミュニケィションズ・マーケティング(Excel Communications Marketing,Inc.)をデラウエア地裁に提訴、同地裁の特許無効判決後、1999年、AT&TがCAFCに控訴して特許「長距離電話の課金方法特許(USP5,333,184)」の有効性が確認された。

③アマゾンドットコム(Amazon.com)がバーンズアンドノーブル(Barnesandnoble.com)を提訴(1999/10/21)アマゾンドットコム社の特許「ワンクリック」特許(USP5,960,411)〔1997年9月出願、1999年9月28日登録〕は、ユーザーがショッピングや支払いに関する情報を毎回入力しなくても1クリック機能により簡単に買い物ができるシステム。連邦地裁はバーンズアンドノーブル社に対して使用中止の仮処分の決定(1999/12/1)を下した。
〔注記:本件に関し、「無料」がモットーのインターネット社会で、ワンクリック技術を用いた他社のオンラインショッピングサイトはすべて閉め出されるか、またはアマゾンとライセンス契約を結ぶ必要があることから、GNU主催者でフリーソフト財団(FSF)の設立者でもあるリチャード・ストールマン氏は、安易に特許を付与したことについてUSPTO及びCAFCを批判する声明を発表すると共に、アマゾンをボイコットするようにネットユーザーに提唱している。〕

④プライスライン(Priceline.com) がマイクロソフト(Microsoft) を提訴(1999/10)

プライスライン社の所有するネット上の「逆オークション」特許(USP5,794,207)を、マイクロソフト社のトラベルサイト( Expedia.com ) が模倣しているとして、コネチカット州の連邦地裁に提訴(1999/10/13)。

⑤SBH社(Patent Marketing Company、本社:セントルイス)〔元の特許権者はハリントン(Harrington:ニュージーランド個人) 〕が、ショッピングカート特許(USP5,895,454)でヤフー(Yahoo) を提訴(1999/11/10)。

⑥ダブルクリック社(Double Click)がL90Inc.( マーケティング会社) をDART技術に対する特許侵害として提訴(1999/11/20)

(5)米国の代表的なビジネスモデル特許を挙げると、以下のとおりである。
  ① 証券取引の現金管理システム(USP4,346,442 )
  ② ソフトウエアのオンライン配信(USP4,528,643 )
  ③ 株式のオンライン取引(USP4,674,044 )
  ④ 音声・映像データ保存検索システム(USP5,191,573 )
  ⑤ ハブ・アンド・スポーク型の金融サービス(USP5,193,056 )「ステートストリート事件」
  ⑥ 長距離電話の課金方法(USP5,333,184 )「AT&T事件」
  ⑦ 電子マネーシステム(USP5,455,407 )
  ⑧ 電子郵便スタンプ(USP5,666,284 )
  ⑨ 映像・音声のデータ配信方法(USP5,675,734 )
  ⑩ オンラインショッピング(USP5,715,314 )
  ⑪ オンラインショッピング(USP5,724,424 )
  ⑫ 学生への先行投資(USP5,745,885 )
  ⑬ クーポン等のプリントアウト(USP5,761,648 )
  ⑭ 景品企画特許(USP5,774,870 )
  ⑮ 情報配信特許(USP5,790,793 )
  ⑯ 逆オークション(USP5,794,207 )「プライスライン特許」
  ⑰ 仲介ビジネスシステム(USP5,794,210 )
  ⑱ 航空チケットのオプション(USP5,797,127 )
  ⑲ オークションシステムの事業手法(USP5,835,896 )
  ⑳ エキスパート検索(USP5,862,223 )
  21 ショッピングカート特許(USP5,895,454 )
  22 外貨取引保険(USP5,884,274 )「ウォーカー特許」
  23 準乱数を用いた複合証券の評価方法(USP5,940,810 )「コロンビア特許」
  24 スケジュール管理サービス(USP5,960,406 )
  25 ワンクリック特許(USP5,960,411 )「アマゾンコム社」

Ⅳ.欧州〔EPO〕におけるビジネスモデル特許の現状

(1)EPC52条(2)には、産業上の利用性、新規性、進歩性のあるすべての発明は特許の保護対象となるが、以下に示す抽象的で知的な活動は、直接的な技術効果を目的としないので、保護対象から除外される旨が規定されている。すなわち、発見、科学理論、数学的方法、美的創作、頭脳活動用の計画・規則・方法、遊戯用の計画・規則・方法、経済活動用の計画・規則・方法、 電算機用の指令手順 、情報の提示である。
但し、上記の除外項が適用されるのは、上記の活動に限られた内容「のみ」しか含まない場合である〔52条(3)〕。
このように、精神的行為を行い、遊戯を行い、又はビジネスを遂行するための計画、規則、及び方法、並びにコンピュータプログラムは、それ自体に関する限りにおいてのみ、特許性が排除される、旨が明確に規定されている。
EPCでは、発明を構成する内容に技術的側面が存在しているか否かが重視され、これによって特許性が判断される。ビジネスの方法(例えば金融方法、保険方法、広告方法等)「それ自体」に該当しないためには、発明の主題が「具体的でかつ技術的性質を有し技術的貢献をなすもの」であれば、この発明に非技術的部分が含まれていても、特許性が認められることになる。
EPO審判部は、「技術的性質」は発明の課題、手段、または効果の中に存在しうるとし、コンピュータプログラム製品を特許の対象と認めた最近のIBM審決(T1173/97)では、更なる 技術的効果 をもたらすものであれば特許性がある、との判断が示された。
この結果、 コンピュータを用いたビジネス方法であっても、通常のコンピュータの機能や動作を越える「更なる技術的効果」があれば、特許性が認められると考えられる。

なお、現在、EPC52条に関し、「あらゆる技術分野の発明」に特許を認める内容の改正についての議論がなされており、コンピュータ・プログラムやビジネス方法を排除している現行法の見直しが行われている。

(2)EPOの代表的な審決例を挙げると、以下のとおりである。
①材料分配方法及びその方法に使用する装置(T636/88)
②自動セルフサービス装置の操作方法(T854/90)
③財務・在庫管理のためのコンピュータシステム(T769/92)
④顧客順列決定システム(T1002/92)
⑤IBM特許(T1173/97)

Ⅴ.日本企業の動向

1.ビジネスモデル特許が脚光を浴びてから、各社はビジネスモデル特許についての戦略を検討し、着実に実行に移している。科学技術情報誌「TRIGGER」2000年1月号には、「緊急特集 米国が仕掛けた特許爆弾 ビジネスモデル特許」と題して、各社の動向が詳細にレポートされている。

2.同誌によれば、特に日本の電気メーカー等が中心となって、ここ約1〜2年の間に多数のビジネスモデル特許を日本出願して、自己防衛にあたっている旨が記載されている。しかし、これら出願の多くは、米国では特許が成立しても、現行の日本審査基準や運用指針をクリアできない内容のものであろうと推測される。
それでは、なぜ、ビジネスモデル特許に関する日本出願が急増しているのであろうか。その理由はいくつか考えられる。
第1は、日本で特許が成立しなくても、この日本出願を基礎として米国等の外国で特許化は図ることができること。
第2は、日本のビジネスモデル特許に関する審査基準や運用指針等が、近い将来、さらに引き下げられる可能性が高いので、先願主義に則り、先行投資として出願を先行させておいた方が得策であり、これによって他社に対して優位を確保できること。
第3に、米国ではビジネスモデル特許が乱立しており、これが日本に上陸してくる可能性も高いので、21世紀には基幹産業になるであろうネットビジネス上の活路を確保しておきたいこと。
第4に、将来、米国企業等がビジネスモデル特許に抵触していることを根拠に、日本企業に対して高額の損害賠償を要求してくる可能性が高いが、これに対抗する手段として、クロスライセンスできるような特許を予め確保しておきたいこと。
第5に、ビジネスモデル特許は「儲けの仕組みを生み出すビジネス手法」といわれるほど、巨額の利益を生み出す性質を有していること。

3.日本のネット市場は未だ揺籃期にあるが、日本の数年先を走る米国ネットビジネス企業では、基本的なビジネスモデル特許の保有をベースに、豊富なビジネス・ノウハウの蓄積と、潤沢な資金(主として高騰した自社株の所有)とを駆使し、これが日本マーケットのオープン化とあいまって、日本への進出を考えているベンチャー企業が多く、実際にもヤフー(Yahoo)で代表されるように、米国企業が日本企業と合弁で進出してくるケースが目立ち始めた。
日本企業にとっては、これからネットビジネス分野で生き残りをかけた厳しい戦いを強いられることになろう。

Ⅵ.提  言

1.三極(日米欧)間または日米政府間において、早い時期に、ビジネスモデル特許の権利行使のあり方について、話し合いを持つことが重要ではないだろうか。
米国における隆盛なビジネスモデル特許の背景としては、確かに、ネット先進国を自負する米国のネット関連ビジネスの発達を挙げることができる。これは米国政府(USPTO/CAFC)による保護政策、具体的にはビジネスモデル発明について積極的に特許の成立を支援したことに起因するものであって、これが米国産業界に大きく寄与したことは否定できないであろう。
米国におけるビジネスモデル発明に対する審査の基準は、日米の基準の種類が相違している(土俵が違う)とはいえ、日本よりもかなり低いことは事実である。現行の日本特許法(審査基準/運用指針)では特許が成立しないビジネスモデルであっても、米国では特許が成立しているものが無数に存在しているという現実は、上記の事実を裏付けている。逆に、日本では特許として成立するが米国では特許が認められない場合もあるが、このようなケースは少ないであろう。前述した「ハブ及びスポーク型金融サービス」に関する日米の審査結果が一つの好例であろう。
しかし、ここで問題となるのは、大原則として世界的に確立されていた各国特許独立の原則が、国際的ネットワークを用いるビジネスモデル特許の出現によって崩れる虞れが生じてきたことである。日本国内(日本に限定すること自体が困難であるが)でのネットビジネスが米国で成立した特許に抵触する虞れを生じるからである。これはインターネットを利用したビジネスモデル特許の特有の問題である。
一国の戦略的政策だけでマーケットが世界的に支配されてしまうといったことは、米国特許法においても予期していなかった事態であろうと推測される。インターネットを利用したビジネスモデル特許については、「権利の行使」に関する国際的な取り決めが必要であろう。
なお、本年11月12日にベルリンにて、日米欧の三極特許庁の会合が持たれる予定であり、ビジネスモデル特許の取り扱いについて比較研究を行うことになっている。但し、欧州特許庁は、現在、EPCの改正を検討中であることを理由に、今回の参加を見合わせることになっている。

2.日本政府(特許庁)は、日本のビジネスモデル特許に対する政策を緊急に見直すべきであろう。米国政策のように、ビジネスモデル特許に関する限り、審査の基準が低い程、国家としてみれば巨額な利益が生まれるのが実情であり、これは米国経済が実証しているのであるから、産業立法である日本特許法についても、「自然法則の利用性」に関する判断基準のハードルを下げ、「ハードウエアの用い方」や「ハードウエアの用い方の具体化レベル」といった「発明の成立性」要件の基準を、単なる形式的要件にまで引き下げるべきではないだろうか。

3.また、ビジネスモデル発明に関する「進歩性」の判断基準についても、同様に、先行文献が存在しないビジネスモデル発明については、積極的に特許の成立を認めるべきであり、これにより、はじめて日本企業がネットビジネスに生き残る道を探し出すことができるのではないだろうか。ネット先進国の米国では、既に、ビジネスモデルやビジネスアイデアに関して、先行文献について相当量のデータベースが構築されているといわれている。したがって、日本の審査においても、米国のデータベースを活用すれば、広すぎるクレームが成立した結果、他社のネットビジネスが大きく阻害されるといった事態は、招来しにくいのではないかと考える。

4.アイデアさえあればビジネスモデル特許を取得することにより、誰でも少ない投資でビジネスチャンスをつかむことができ、ベンチャー企業であっても、大企業に対して競争力を維持できる。このようなベンチャー企業を相手とした場合、米国のPatent Marketing Companyの場合と同様に、従前のクロスライセンスを主体とした取り引きができないので、企業にとっては新たな特許戦略を迫られることになる。
ビジネスモデル特許はユーザーの利便性に立脚したアイデアであるものが多いので、企業はITの開発戦略を見直して、ユーザーの観点に立ってビジネスモデルを発掘し、ビジネスモデル特許の取得に積極的に取り組むことが必要であろう。

5.米国にビジネスモデル特許が存在していても、日本企業にとって安全にネットビジネスを行う方法がある。ビジネスモデル特許が存在していない国(例えば日本)にサーバーを設置し、ビジネスモデル特許が存在している米国のユーザーからのアクセスのみを禁止して、サービスを受けられなくすることである。但し、この手法は、インターネット本来の目的と逆行するものであり、しかも米国という最大のマーケットを失うことを意味している。日本企業にとっては、ネットビジネスに関して、米国企業との合弁やライセンス契約等が避けられない立場に、徐々に追い込まれているように思われる。

〔 参 考 資 料 〕
1.「緊急特集 米国が仕掛けた特許爆弾 ビジネスモデル特許」
  科学技術情報誌「TRIGGER」2000年1月号
2.「日本版プロ・パテントの時代を迎えて」(平成11年12月22日)
  特許庁調整課審査企画室
3.「インターネット上の仲介ビジネスについて」(平成11年8月)
  特許庁総務課企画調査室
4.「特許から見た金融ビジネス」(平成11年6月)特許庁
5.「ビジネス関連発明に関する審査における取扱いについて」(平成11年12月)
  特許庁調整課審査基準室
6.「ビジネス関連特許について」(平成11年12月)特許庁
7.「米改正特許法案について」AIPPI( 1999)Vol.44 No.11
8.「ビジネス方法の特許性を認めた米国の注目判決と日本におけるビジネス方法の特許性の判断実務」
   電子情報通信学会誌 Vol.82 No.7
9.「知らないですまないビジネス・モデル特許」
   日経エレクトロニクス2000.1.17 No.761
10. 「ビジネス・モデル特許の衝撃」(1999.9) 情報通信総合研究所
11.「ビジネスモデル特許の事例」1999.12 古谷栄男氏HP
12.「ビジネスモデル特許の現状と今後の動向」1999.12 恩田誠氏HP
13.「ビジネス方法の特許について」(平成12年1月)特許庁
14.「ビジネスモデル特許の流れ」(1999 年12月 5日研修会資料) 古谷栄男氏
15. 「住友銀、取引手法で『特許』」日経新聞2000年1月31日朝刊記事
16.「電子商取引 決済方法で特許申請」日経新聞2000年2月1日朝刊記事
17.「ソニー、総合ネット企業へ 電子ビジネスを全面展開」
   日経新聞2000年2月2日朝刊記事
18.「ネット取引・金融ITのビジネスモデル 特許取得に企業躍起」
  日経新聞2000年2月 日朝刊記事
19.「音楽配信や電子商取引 ネット活用手法に特許権」
   日経新聞2000年2月21日朝刊記事
20.「ビジネスモデル特許の研究」知財管理Vol.50 No.2 2000
21.「ビジネス関連発明に関する審査における取扱いについて」
  (平成11年12月)特許庁調整課審査基準室
22.「ビジネスモデル特許の現状と課題」パテント2000Vol.53 No.2
23.「ソフトウエア関連発明の審査基準について」(平成5年1月20日)
  特許庁審査第二部調整課審査基準室
24.「特定技術分野の審査の運用の手引き 参考資料」(平成9年)特許庁
25.「特定技術分野の審査の運用指針等」(平成9年3月10日)特許庁
26.「日米知的所有権問題アップデイト’96−’97」ILS Publications,Inc.
27.「日米知的所有権問題アップデイト’98」ILS Publications,Inc.
28.「日米知的所有権問題アップデイト2000」ILS Publications,Inc.
29.「CAFC年報 米国連邦巡回控訴裁判所1998年判例抄訳」知財翻訳研究所
30.「アメリカの新たな挑戦状」中央公論2月号
31.「ビジネスモデルセミナー」(平成12年3月9日)相田義明氏
32.「欧州特許」内田謙二著

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