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トレードマーク・ストリート −商標登録表示(1)−

2003年6月7日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士  祐末 輝秀

トレードマーク・ストリートにようこそ。このコラムでは、商標に関する様々な事柄を、ウインドウショッピングをするような気楽さで眺めていきたいと思っています。コーヒーを片手にリラックスしてお読み頂ければ幸いです。

1.はじめに
商標の右肩などに「®」や「TM」の標示が付されているのを見たことがあると思います。例えば、マイクロソフト社の「WINDOWS®」や「WORD™」です。今回は、このうち「®」について眺めていきたいと思います。

2.「®」の由来
「®」は「Registered」の頭文字であるRを○で囲んだものであり、この標示が付された商標が登録商標であることを示すために用いられているものです。似たような標示として、「(C)」に見覚えがある方も少なくないと思います。これは「Copyright」の頭文字Cを○で囲んだものであり、当該表示が付された書籍等は著作権法で保護される著作物であることを示しています。
当初「®」は主としてアメリカで用いられていましたが 〔1〕 、デザイン上無理なく表示できる等の理由により、現在世界的に用いられています。例えば、中国においても、「®」は商標登録標示の一つとして認められています 〔2〕

3.日本における商標登録標示に関する規定
日本において商標登録標示はどのように規定されているのでしょうか。商標法(以下、単に「法」といいます)は、指定商品の包装等に登録商標を付するときは、その商標に商標登録標示を付するよう努めなければならないと定めています(法73条)。これは、当該商標が商標権の対象となっていることを表明し、かつ、第三者がその使用によって商標権を侵害しないようにあらかじめ警告するという効果を狙って設けられた規定であるといわれています。 〔3〕

上記規定は法的効力を有しない訓示規定であると解されているため 〔4〕 、商標登録標示を付すこと自体は法的な義務ではありません。商標登録標示を付すか否かは商標権者等の自由であり、付さなくても何ら不利益はありません(パリ条約5条D参照)。なお、この規定を受けて、商標法施行規則(以下、単に「規則」といいます)17条は、「商標法第73条に規定する商標登録標示は『登録商標』の文字及びその登録番号又は国際登録番号とする」と定めています。

これに対して、未登録商標 〔5〕に商標登録標示又はこれと紛らわしい標示を付すこと等(虚偽表示)は禁止されています(法74条)。これは、正当な商標権の権利行使ではないのにそうであるかのように装って第三者を欺瞞することを禁止しようとするものであるといわれています。 〔6〕

この規定に違反した者には、3年以下の懲役又は3百万円以下の罰金という刑罰が科され(同80条)、犯罪行為の防止を強化するため、法人に対しては両罰規定によって1億円以下の罰金が科されます(同82条)。なお、過失を罰する旨の規定は存在しないので、故意犯のみが罰せられます 〔7〕

それでは、民事責任は負わないのでしょうか。刑事責任と異なり民事責任に関する規定がないため、民事責任は一切負わないと考えられるかも知れません。しかし、法に直接の規定がないからといって、民事責任が免責されるわけではありません。不法行為法の一般原則に立ち返り、民法が適用されます。すなわち、故意又は過失によって虚偽表示を付したことにより他人の権利又は法上の要保護利益を侵害した場合には、虚偽表示を付したことによって生じた損害を賠償しなければなりません 〔8〕。刑事責任について明文の規定があるのは、罪刑法定主義(憲法31条)の要請に基づくものです。

以上より、法律は商標登録標示を付すか否かについては寛容ですが、虚偽表示に対しては民事責任・刑事責任の双方を課すことによって厳しく臨んでいるということができます。

4.日本における「®」の法的な意味合いと取り扱い
それでは日本において「®」はどのような意味を持つ標示として考えればいいのでしょうか。上述のとおり、米国や中国と異なり、法律及び規則は「®」について沈黙しています。
この点については、「®」はもはや商標登録標示の一つであると考えるべきでしょう。日本でも現実に「®」が商標登録標示として広く一般に用いられていますし、需要者(消費者)や取引者も「®」が付されている商標は登録商標であると認識し期待していると考えられるからです。

しかしながら、法73条が「経済産業省令の定めるところにより」と規定し、これを受けて規則17条が「登録商標」の文字及びその登録番号等を商標登録表示と定義していることが問題となります。規則が商標登録表示を上記定義に限定する趣旨であるとすれば、「®」を商標登録表示として取り扱う実定法上の根拠がないということになるからです。そこで、以下に実定法上の根拠に関する三つの見解を想定し、それぞれについて検討してみます。

一つの考え方として、法73条、規則17条および法74条を一体のものとしてとらえる見解が成り立ち得ます(一体説)。すなわち、法73条に規定する商標登録表示を規則17条の規定するものに限定し、その限定された内容に基づいて法74条の「商標登録表示」を解釈するという立場です。換言すれば、法74条の規定する商標登録表示とは規則17条に明記されているものだけをいうと解釈し、それ以外に表示はすべて「これ(商標登録表示)と紛らわしい表示」に該当すると解する立場です。

しかし、この見解にたつと、商標登録表示という文言に対する一般的な理解と乖離するように思います。また、現在普通に行われている「®」表示は、すべて一律に法74条の虚偽表示に該当するということになります。つまり、この見解では、すでに「®」が広く一般的に用いられているという取引の実情や社会通念と合致しなくなってしまうおそれがあります。
この一体説と対極的な考え方として、規則17条は商標登録表示の一例を示したものにすぎず、「®」のような他の商標登録表示として認識されうる表示を排除する趣旨ではないと解する見解も考えられます(例示説)。一体説と異なり、その結論は取引の実情や社会通念に合致すると考えられます。

ただこの例示説にたつと、「経済産業省令で定めるところにより」という法73条の規定を受けて、規則17条が「商標法第73条に規定する商標登録標示は…番号とする」と規定していることの説明に窮するのではないかと思われます。すなわち、法73条は、商標登録表示の内容の明確化を規則(経済産業省令)に明文をもって委任しています。そして、規則17条の「とする」の文言からは、同規則が他の商標登録表示をも許容していると理解することには困難が伴うからです。

上記二説の中間に位置するといえるであろう考え方として、法74条の商標登録表示の意義は、法73条および規則17条の規定とは切り離すべきであるという見解も考えられます(分離説)。言い換えれば、法73条に基づいて商標登録表示を付す場合には規則17条に従った表示を付しましょう、しかし刑事罰につながる法74条に規定する商標登録表示は規則17条とは別にその意義を考えましょう、という考え方です。
この分離説にたてば、「®」を用いても、取引の実情や社会通念を考慮すれば、それが直ちに違法と評価されることは少ないと考えられます。

ただ、法74条における商標登録表示の文言は、法73条および規則17条の定めに基づいて解釈するというのが条文の位置や順番を考慮した体系的な解釈であるような気がしますし、本見解は若干技巧的にすぎるのではないかとの疑念は払拭し得ないでしょう。

以上のように、三説のいずれも決め手を欠き一長一短があります。しかし、結論の妥当性から考えて、一体説は取り得ないでしょう。条文の論理的帰結を重視するこの見解は、概念法学的な解釈手法であって、取引の実情や社会通念に基づく結論の妥当性を軽視するものであるということもできるため、具体的な問題を解決しうる現実的な解釈とは言い難いように思います。

とすると、例示説と分離説のいずれが妥当かということになりますが、分離説に立つべきだと考えます。例示説は、「…番号とする」という規則17条の文言を「…番号を含むものとする」と読み替えることになりますが、このように考えることが果たして解釈論として許されるのか、もはや解釈論を超えた立法論なのではないのか、若干の疑問と躊躇を感じます。

規則は法律の下位規範であるため、法律解釈における立法論ほど厳密に考え回避する必要はないのかも知れません。また、規則は法律と異なり改正が容易であるため、立法論を展開する意義は少なくないでしょう。しかし、だからといって解釈論に立法論を混入させることには違和感を禁じ得ません。解釈論と立法論を峻別することは、法律に関する議論の前提であると考えられるからです。

この点、分離説には立法論は混入していません。分離説には前述の問題点はありますが、法73条と法74条の性格の相違を考慮すると、あながち不当とはいえないと思います。すなわち、法73条は訓示規定にすぎないのに対し、法74条は刑事罰につながる規定です。本来訓示規定に関する規則にすぎない規則17条を、刑事罰につながる規定に関する規則でもあると解するのは穏当ではないと考えられるからです。よって、トレードマーク・ストリートでは、分離説に立ちたいと思います。

したがって、「®」が商標登録表示に該当すると解する実定法上の根拠が、法74条に関してはあります。すなわち、日本においても、法74条に関しては、「®」を商標登録表示と解することは許容されているということになります。ちなみに法73条については、そもそも訓示規定なので、「®」が法73条に規定する商標登録表示に該当しないと解したところで、実際に問題が生じることはないでしょう。

「®」が商標登録表示に該当するか否かを法及び規則の解釈を通じて詳細に検討した文献は、寡聞にして見つけることができませんでした。ただ、網野博士はその著書において、「なお®については、省令に規定があると、たとえば上記アメリカの登録商標に®を付した商品が、その商標の登録されていないわが国に輸入された場合に、虚偽表示の規定(74条)に該当するとされるおそれがあることをも考慮して、省令では規定していないが、慣習的には、従来よりわが国でも行われている」と述べています 〔9〕

上記記述は、博士自身の見解というよりも、省令(規則17条)の制定経緯を説明したものであり、主に法74条との関係において「®」を検討したものと思われます。しかし、そのような問題があるのなら、わざわざ省令という形式で商標登録標示について規定を設ける必要はないような気がします。このような問題は、憲法の定める権力分立制の下、法74条の解釈として裁判所(司法権)の判断に委ねるべきでしょう。それに、アメリカ等からの輸入品に付された「®」が虚偽表示に該当するかどうかは、刑事罰に直結するものである以上、刑法理論にしたがって「商標登録表示」という文言の解釈を通じての構成要件該当性、正当業務行為(刑法35条)等の違法性阻却事由、あるいは期待可能性等の責任阻却事由の問題として検討すべきであり、行政が中途半端な省令を携えて登場してくるべき場面ではなく、それで解決できる問題でもないでしょう。

ただ、「慣習的」であればなぜ虚偽表示罪に該当しないのか、その理論的根拠が明らかではありません。この問題には興味を引かれますが、かなり長くなってしまうので、別の機会に考えてみたいと思います。

以上より、「®」は法74条の適用に当たっては「商標登録標示」であると考えられるため、少なくとも虚偽表示に対しては民事上及び刑事上の責任が課されるということになります。

5.刑事・民事責任に関する補論
上述のとおり、未登録商標に「®」を付すと虚偽表示として刑事責任が課されます。しかしながら、虚偽表示罪で逮捕・起訴されたという事例は寡聞にして聞いたことがありません。虚偽表示行為は全く行われていないのであればいいのですが、そうでないとしたら法80条は事実上空文化しているということもできるのかも知れません。

また、虚偽表示は民事上の不法行為に該当しますが、虚偽表示行為と被害(損害)との間の因果関係を立証することは容易ではありません。実際に「®」を未登録商標に付したことによって、需要者等に損害が発生することは考えにくく、その因果関係の立証は事実上不可能でしょう。そのため、虚偽表示を理由として不法行為責任が追及されることはほとんどないということができます。
しかしながら、刑事・民事責任を問われる可能性が極めて低いとはいっても、未登録商標に「®」を付すことは厳に慎むべきであると考えます。なぜなら、そのような行為は、商標登録という事実に反する違法な表示であることに変わりはないからです。そのため、これは法律論ではありませんが、「®」を付された未登録商標は不実を表しているということで、ブランドマーケティング論でいうところのブランドイメージに悪影響を及ぼし、消費者による不買行動を惹起するおそれがあります。その結果、最悪の場合には、当該ブランドイメージの失墜により、市場からの撤退を余儀なくされることになりかねません。不実なブランドに対する消費者の拒否反応は、決して小さくないと思います。
このように、虚偽表示は法的リスクが大きくなくとも、経営上取り返しの付かない事態を招来するおそれがあります。そのため、少なくとも故意に虚偽表示を付すことは断じて避けるべきであると考えます。

なお、「TM」については、後日「商標登録表示(2)」において、改めて考えてみたいと思います。
ウインドウショッピングにしては、刑法理論が出てくるなど難しい内容になってしまいました。コーヒーを片手に、というわけにはいかなかったかも知れません。ただ、今まであまり詳しくは論じられてこなかった問題なので、僭越ではありますが一つの考え方を提示させて頂きました。皆様のご批判を頂戴できれば幸いです。

−注−
〔1〕米国連邦商標法(Lanham Act)29条(15USC1111)
〔2〕中華人民共和国商標法実施条例37条2項
「登録マークには、……Rを含む。登録マークを使用するときは、その商標の右上端又は右下端に表示しなければならない。」
〔3〕特許庁編『工業所有権法逐条解説』(発明協会,第16版 2001年)1324頁
〔4〕同上
〔5〕出願中のすべての商標(登録料を納付していても未だ登録されていないものを含む)および存続期間満了等により消滅した場合を含みます(田村善之『商標法概説』(弘文堂,第2版,2003年)404頁〜405頁参照)。
〔6〕特許庁編『工業所有権法逐条解説』(発明協会,第16版,2001年)1326頁
〔7〕刑法38条1項
「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」
〔8〕民法709条
「故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は、之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず。」
〔9〕網野誠『商標』(有斐閣,第6版,2002年)755頁

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