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職務発明について

 ~外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における従業者等の対価請求の観点から~ 

2007年01月26日
特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 西尾 正之

1. はじめに
 平成18年10月17日、特許法第35条にいう職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における従業者等の対価請求について、同条第3項及び第4項の規定(平成16年法律第79号による改正前のもの)が類推適用される旨の最高裁判所判決がなされました(最高裁判所第三小法廷 補償金請求事件、那須弘平裁判長)。
 以下に、職務発明制度(特許法第35条)の概略、職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における従業者等の対価請求についての考え方、及び、上記対価請求についての判例の経緯を説明します。

2. 職務発明制度(特許法第35条)の概略
2-1.特許法での規定
※平成16年法改正後(現行特許法第35条)
 第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
二 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
三 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
四 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。
五 前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第3項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

2-2.職務発明制度の趣旨
 特許を受ける権利は、原始的には自然人である発明者(従業者等)に帰属する(特許法第29条第1項柱書)。しかしながら、職務発明がなされるに至るまでには、使用者等も研究費の支出、研究場所・資材の提供、給与の支払等、直接的又は間接的に、その完成に貢献している。それゆえ、職務発明から生じる権利や利益は、発明者が独占できるものではなく、労使間(従業者等と使用者等との間)で公平に分配する必要がある。
 ところが、職務発明から生じる権利や利益の分配を労使間の自由な取り決めに任せると、両者の力関係によってその配分が左右されるため不公平が生じる(多くの場合、従業者等に不利となる)。それゆえ、特許法の目的(特許法第1条)が達成できなくなるおそれがある。
 そこで、職務発明制度は、上記の不都合を解消し、従業員等がした発明についての取り扱い、特に、特許を受ける権利の帰属関係を規定することによって、労使間の衡平を図るものである。つまり、職務発明がなされるに至るまでの従業者等と使用者等との貢献度を公平に比較考量して、両者の利害の調和を図るものである。

2-3.職務発明について使用者等が受ける利益
 使用者等は、職務発明に係る特許権について、無償の通常実施権を有する(特許法第35条第1項)。また、使用者等は、職務発明についての特許を受ける権利、特許権等のいわゆる予約承継が可能である(特許法第35条第2項反対解釈)。さらに、使用者等は、職務発明に係る特許権について、放棄、訂正審判及び訂正請求の承諾権を有する(特許法第97条第1項、第127条、第134条の2第5項)。

2-4.職務発明について従業者等が受ける利益
 発明をしたことによって生ずる特許を受ける権利は、原始的には自然人である従業者等に帰属するので、従業者等は、特許権者となることができる(特許法第29条第1項柱書)。また、従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ(譲渡し)、又は使用者等のため専用実施権を設定したときには、相当の対価の支払を受ける権利を有する(特許法第35条第3項~第5項)。

3.職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における従業者等の対価請求についての考え方
 従来、上記対価請求についての考え方として、以下の2説の対立がありました。

(1)特許法は各国ごとに独立しているため、特許を受ける権利の譲渡の効力発生要件は各国法に委ねられており、その譲渡の対価についても各国法の規律が適用されるという説(外国における特許を受ける権利の譲渡には特許法第35条を適用することができないという説)
(2)従業者等の労務給付地、当事者の選択等を基準として、我が国法を類推適用することができるという説(外国における特許を受ける権利の譲渡にも特許法第35条を類推適用することができるという説)

4.職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における従業者等の対価請求についての判例の経緯(以下の判決に類推適用されているのは、平成16年法改正前の旧特許法第35条であります)

※平成16年法改正前(旧特許法第35条)
 第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
二 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定の条項は、無効とする。
三 従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
四 前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。

4-1.東京地方裁判所 平成14年11月29日判決
(1)結論
 外国における特許を受ける権利を譲渡した場合における従業者等の対価請求には旧特許法第35条を適用することができないと判示した。

(2)理由
 「各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められる」という、いわゆる属地主義の原則に照らすと、職務発明について、外国における特許を受ける権利が使用者等又は従業者等のいずれに帰属するか、帰属しない者に実施権等の何らかの権利が認められるか、使用者等と従業者等との間に特許を受ける権利の承継は認められるか、認められるとして対価の支払い義務があるか等については、各国の特許法を準拠法として定められるべきである。
 そうすると、旧特許法第35条は、我が国の特許を受ける権利にのみ適用され、外国における特許を受ける権利に適用又は類推適用されることはないというべきである。

4-2.東京高等裁判所 平成16年1月29日判決
(1)結論
 外国における特許を受ける権利を譲渡した場合における従業者等の対価請求にも旧特許法第35条を類推適用することができると判示した。
〔東京地方裁判所 平成14年11月29日判決を覆す判決〕

(2)理由
①職務発明に係る外国の特許を受ける権利の譲渡契約についての準拠法
 職務発明についての特許を受ける権利の譲渡契約は、その対象となる権利が日本国及び外国における特許を受ける権利であって、渉外的要素を含む法律関係であり、かつ、使用者と従業者との間の財産権の譲渡契約であるから、その成立及び効力についての準拠法は、法例(国際私法)7条により判断されるべきである。そして、本件譲渡契約は、日本法人である1審被告(使用者)と日本国に在住する日本人である1審原告(従業者)との間で、日本国で締結されたものであるから、法例7条1項(当事者の意思による準拠法)により、日本法が準拠法となる。

②職務発明に係る外国の特許を受ける権利の譲渡と旧特許法35条
 属地主義とは、あくまでも、同一の発明について、各国において特許出願された後に適用されるべき原則である。しかし、旧特許法35条3項に規定する、従業員発明者が使用者に対し特許出願前に譲渡する特許を受ける権利は、職務発明について、発明者が発明完成と同時に(即ち、特許出願前に)取得する財産権である。そして、この財産権は、日本国の特許を出願する権利の他、外国の特許を出願する権利をも含むというべきである。属地主義は、各国に特許出願された後に適用される原則であるから、特許出願される前の特許を受ける権利には適用されない。よって、属地主義を根拠として、「旧特許法35条は外国における特許を受ける権利には適用されない」とした原判決(東京地方裁判所 平成14年11月29日判決)の判断は誤りである。

 また、旧特許法35条4項は、使用者が、従業員発明者から、発明完成と同時に職務発明について取得する権利を譲り受けたときに支払うべき「相当の対価」の算定上考慮すべき要素として、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」と規定しており、「出願後の日本国特許を受ける権利により使用者等が受けるべき利益の額」とは規定していない。そして、この「発明」自体は、どの国の特許を受けるかとは無関係に成立する一つの発明である。さらに、当該職務発明に係る日本国を含む各国における特許を受ける権利は、それぞれが当該職務発明から派生する権利であるにすぎない。よって、この「発明により使用者等が受けるべき利益の額」は、属地主義とは無関係なものであるから、当然、当該職務発明の日本国及び外国での実施により、使用者等が受けるべき利益の総額を意味する。

 また、旧特許法35条は、従業員発明者と使用者との間の法律関係について規定するものである。そうすると、職務発明に係る外国の特許ないし外国の特許を受ける権利の帰属・譲渡・対価について、日本国が日本国の法律を適用することができず、当該外国の法律を適用しなければならないとすれば、本来、日本国の政策に委ねられるべき日本国における労使間の法律関係について、外国の法律ないし外国の政策による干渉を許す結果となり、妥当ではない。よって、「旧特許法35条を職務発明に係る外国の特許を受ける権利に適用できない」とする原判決の判断には、我が国の国益に反する重大な法解釈の誤りがある。

 一方、外国の特許を受ける権利及び外国の特許権が、旧特許法35条の射程範囲外であるとすると、職務発明に係る外国の特許を受ける権利及び外国の特許権について、使用者は、有効に予約承継することができないことになる。さらに、使用者は、無償の通常実施権も有しないことになる。これでは、使用者から職務発明についての重大な権利が奪われることになる。よって、「外国の特許を受ける権利及び外国の特許権は、旧特許法35条の射程外である」とする原判決の判断は、これまで数十年にわたって積み上げられてきた産業界における実務に反し、使用者と従業員との間の了解事項(「日本国の特許についても外国の特許についても、補償金の決定は同一のルールで行う」という合意)とも乖離することになる。

4-3.最高裁判所 平成18年10月17日判決
(1)結論
 外国における特許を受ける権利を譲渡した場合における従業者等の対価請求にも旧特許法第35条を類推適用することができると判示した。
〔東京高等裁判所 平成16年1月29日判決を維持する判決〕

(2)理由
①職務発明に係る外国の特許を受ける権利の譲渡契約についての準拠法
 本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については、その対象となる権利が、我が国及び外国の特許を受ける権利である点において渉外的要素を含むため、その準拠法を決定する必要がある。そして、本件譲渡契約は、日本法人である上告人(使用者)と、我が国に在住して上告人の従業員として勤務していた日本人である被上告人(従業者)とが、被上告人がした職務発明について我が国で締結したものであり、上告人と被上告人との間には、本件譲渡契約の成立及び効力の準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認められる。よって、法例7条1項の規定により、その準拠法は、外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題を含めて、我が国の法律である。

②職務発明に係る外国の特許を受ける権利の譲渡と旧特許法35条
 旧特許法35条3項にいう「特許を受ける権利」には、我が国の特許を受ける権利のみならず、外国の特許を受ける権利が含まれるから、被上告人は、上告人に対し、外国の特許を受ける権利の譲渡についても、同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができる。

5.最後に
 今回の最高裁判所判決(平成18年10月17日判決)により、「職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における従業者等の対価請求について、特許法第35条を類推適用することができる」という考え方が確立されました。
 従いまして、昨今のグローバル化に伴い、外国の特許を受ける権利又は特許権を使用者等に譲渡した場合における「相当の対価」(特許法第35条第3項~第5項)についての契約、勤務規則等が非常に重要になってくると考えられます。
 そして、判例及び議論の積み重ねによって、上記対価請求についての問題が早期に沈静化することを期待したいと思います。
 なお、判例に関する記述は、適宜抜き出し、加筆等を行ったため、正確さを欠くことをご了承下さい。

6.参考文献
 別冊ジュリスト 特許判例百選(第三版) No.170 2004/2 有斐閣
 平成16年 特許法等の一部改正 産業財産権法の解説 社団法人発明協会
  特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK コラム「特許法と準拠法~判例の紹介を通して~(作成日:2004.12.28)」





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