知財コラム
CONTENTS
CONTACT

特許業務法人
HARAKENZO
WORLD PATENT & TRADEMARK


大阪本部    

〒530-0041
大阪市北区天神橋2丁目北
2番6号  大和南森町ビル
TEL:06-6351-4384(代表)
FAX:06-6351-5664(代表)
E-Mail:

東京本部    

〒105-6121
東京都港区浜松町2-4-1
世界貿易センタービル21 階
TEL:03-3433-5810(代表)
FAX:03-3433-5281(代表)
E-Mail:

広島事務所 

〒730-0032
広島市中区立町2-23
野村不動産広島ビル4 階
TEL:082-545-3680(代表)
FAX:082-243-4130(代表)
E-Mail:


上記トレードマークの背景地図は、1991年当時の特許登録件数を陸地の大きさと形状に擬態化して、地図状に表現したものです。

プライバシーポリシー


サイトマップ
知財コラム
知財教室のバナー
コラムインデックスへ

条約の位置づけ

2007年5月18日
                        特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
                               弁理士 西山 泰生

1はじめに

  しおりに代えて1500ドルもの額が記載された小切手を本にはさんでいた人がいた。アインシュタインである。当時の額ではかなりのものである。彼は偉人と謳われている一方で変わっていたといわれている。彼は、重要なことは決して問い続けることをやめないことだ、という。「なぜ」と考え続けることである。だからこそ、新しい発見もできたのだろう。疑問をもつことがすべてのはじまりだと彼は言う。
  以前、ふと疑問に思ったことがある。それは条約に関してであるが、とりあえず条約は法律に優先し憲法より劣後することを前提として知っておけばよいということだった。なぜ条約は法律より上位規範なのか、なぜ憲法より下位規範なのか。アインシュタインの言うように、なぜかを追究したくなった。この点について疑問を解消するには憲法の知識が必要となった。やや理論的な部分が多くなってしまうが、今回はこれらの「なぜ」について検討したい。


2法体系と条約

 1 条約とは国家間における合意をいう。協約・協定・議定書なども条約に含まれる。
   知的財産に関係する条約としてパリ条約やPCTなどが挙げられる。
   わが国の法体系は憲法を頂点とした段階構造を成しており、下位の法規範として
   法律・政令・省令・命令・規則・条例などがある。では条約はどの段階に位置
   するのか。

 2 この点を検討するにあたって、まず、そもそもパリ条約等の条約は国内法体系に
   属するかが問題となる。
   明文がないうえ、条約は国家間の合意であることから国内の問題にとどまらない
   という特殊性を有するからである。


1 大きく2つの考え方がある。
条約は統一的な法秩序を形成しているとする見解(一元論)と国内法体系とは別個の独立した法秩序を形成しているとする見解(二元論)である。
前者は国家主権を重視し国家秩序維持のため条約も国内法体系に属すると考えるのに対し、後者は国際協調を重視するために議論が生じる。条約を締結した場合、一元論によると条約はそのまま国内法化することになるのに対し、二元論によると条約が国内法的効力を有するためには必ず国内法への変型(条約を履行するための立法措置)が必要となるという違いがある。

2 以下、これらの見解について検討してみる。
二元論は、条約は国家間の関係を規律するものであり、国内法は国家と国民あるいは国民相互の規律を定めるものであるから両者は本質を異にする点を根拠とする。
    この説は、締結された条約を実施するために立法を要するという点で権力の均衡と抑制を図ろうとする三権分立の趣旨にかなうものである点で有益な考え方である。すなわち、条約締結権を有する内閣(憲法73条2,3号)が諸外国と締結した条約が国内法的効力を有するためにはそれを実施するための立法措置を講じることが必要であるところ、法律は立法権者たる国会(憲法41条)の審議・議決によりなされるものであるから三権分立の趣旨に合致する。
    しかし、条約の履行を困難とする国内法規範が存在する場合には条約の履行ができず、国際協調主義(前文、98条2項)に反するおそれがある。また、国会による条約承認権(73条3号)に加え、さらに立法措置による民主的コントロールを及ぼすとすれば、承認時と立法時の時間差があるため、条約の承認後に衆議院が解散され、立法時には条約への反対派が過半数を占めている場合等、不都合が生じる事態が予測される。この場合、承認時の民意と矛盾して条約の履行を制限するような立法措置をとることも十分にありうることから、国際協調主義を規定した憲法の趣旨に反するおそれがある。これらの点で二元論は妥当でないと考える。
    他方、一元論は条約も天皇の公布により効力を生じること等を根拠とする(憲法7条1号)。条約も国民の権利義務に関する規定を含む場合もあることからすれば、国内法体系に属する側面があるのは否定できない。たとえば、パリ条約は特許権についての定めをおくところ、特許権は憲法の定める基本的人権のひとつである「財産権」(憲法29条1項)にあたるから、パリ条約は個人の権利義務に関する規定を含んでいるといえる。

3 以上からすれば一元論が妥当と考えられる。なお、一元論が通説である。


3条約と憲法・国内法との関係

 1 一元論を前提にした場合、条約も国内法体系に属する。そこで条約は国内法体系のどの段階に属するのだろうか、条約と国内法との関係について明文がないので問題が生じる。
   まず、法律との関係では条約が優位することにほぼ争いはない。実質的理由として、厳格な改正手続きを定めた憲法96条趣旨と国際協調主義に反するおそれがあるということが挙げられる。前者について、議会と政府が一応分立しつつも政府の存立と存続が議会の信任に依拠する議院内閣制(憲法67条1項、68条、66条3項等)の下では、条約締結権を有する内閣は事実上、実質的に国会の多数派を通じて選出されるため(憲法6条1項、66条1項、67条1項、68条1項但書き等)、国会の多数派が内閣によって締結された条約を支持する傾向に傾きやすい。そのため国会の多数派(過半数)によって条約が締結されることになるから、条約が憲法に優位すると考えた場合、条約によって憲法を容易に変更可能となるので「各議院の総議員の三分の二以上」の賛成を必要とする厳格な改正手続きを定めた憲法96条趣旨に反するおそれがある。後者について、仮に法律が条約に優位するとすれば、条約内容いかんによっては法律に反する事態が生じ得るため憲法は内閣に違法な条約を締結する権利をも授権したとも解釈できるところ、違法な条約を履行することは不可能である結果、条約を遵守できず国際協調主義に反するおそれがある。形式的理由としては、法律より上位にある憲法が条約を遵守する旨を特に規定していること(憲法98条2項)、条約の締結には立法機関たる国会の承認を必要とすること(憲法61条)などが挙げられる。
   よって、法律は条約の枠ぐみの範囲内で成立し、法律が条約と矛盾する場合には法律が改正されることになる。特許法等が条約を遵守し、その範囲内で成り立っていることが一例である(特許法26条参照)。

 2 問題となるのは憲法との関係である。
憲法98条1項は、「憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律」等は「その効力を有しない」と規定し、97条と相俟って最高法規性を定めている。ところ が、ここには条約について何らふれられていない。そこで憲法と矛盾する条約は無効かどうか、条約が優位とするならば憲法と矛盾する条約も「その効力を有しない」とはいえないことからいずれが優位にたつかが問題となる。

(1)この点に関する学説として大きく3つ挙げられる。
①条約が憲法に優位するとする説、②憲法が条約に優位するとする説、③原則として憲法が優位的地位にあるとする折衷説である。
(2)以下、検討してみる。

 ア 条約優位説は、国際協調主義を強調する憲法前文や98条2項、同条1項に「条約」が含まれていないこと等を根拠とする。この説を徹底すれば憲法に反する条約であっても遵守することが憲法の要請であるとも考えられることになる。
確かに、国際協調主義は重視されるべきであるが、だからといってただちに
条約が優位すると考えるのは妥当でない。なぜなら、仮に条約が憲法に優位するならば、憲法と矛盾する条約を締結してもその条約は有効であり、結果的に憲法を実質的に変更する条約の締結が可能となってしまい、厳格な憲法改正手続きを定めた憲法96条の存在意義を没却しかねないという上述した二元論の不都合性と同様の問題が、次元は異なるも、ここでも妥当するからである。また、98条1項に「条約」が含まれていないとする根拠については、憲法は条約を排除する趣旨ではなく、条約が憲法より下位であることを明文で規定することは国際信義の点から望ましくないため規定しなかったにすぎない又は同条2項で規定しているなどの批判が可能である。 そもそも、条約締結権は憲法に基づいて内閣に認められた権能である以上(憲法73条2,3号)、条約は憲法を変更できないと考えるのが論理的である。また、憲法99条が国家機関の憲法尊重擁護義務を定めている点から憲法と矛盾する条約の内容を締結することはできないと考えられる。よって憲法が優位すると考えるのが妥当である。  もっとも、憲法優位にのみ重点をおくと国際協調主義を無視するおそれがある。

      そこで、憲法が優位すると考える一方で、国際協調主義との調和をも図るべきである。よって憲法の枠組みの中でできるだけ国際協調を遵守していくことが妥当と考えられる。

 イ 次に、折衷説は、憲法が段階的構造をなしていることを認め、主権原理等の本質的に重要な部分とそれ以外の部分とに分け、前者に関しては国家の独立性を考慮して条約に優位するとし、後者については国際協調を尊重して条約が優位するとする。
確かに、国内問題と国外との調和を図ろうとする点では賛同できる。
しかし、重要な部分とそれ以外の部分とは何かが明確でない上、誰がその部分を判断するのかも不明確ゆえに問題が生じる。また、本質的部分以外は条約が優位すると考えると、現実にそぐわない場面が生じるおそれがあるので疑問がのこる。
では具体的に現実にそぐわない場面とはどのような場合か。たとえば地方分権が上記「それ以外の部分」と考えてみると、憲法は第8章に地方自治の規定を設け、92条において「地方自治の本旨」に基づいて法律で定めると規定している。ここで「地方自治の本旨」とは何かが問題となるところ、中央政府とは別個独立の地方公共団体による統治、つまり地方分権により中央政府との権力の抑制・均衡を図ろうとし、代表民主制を補完し地方住民による自己統治を可能とする地方自治制度趣旨に鑑みれば、①地域団体が自己の責任と判断で行う団体自治および②地域に密接な住民の意思に基づいて一定の政治・行政が行われるという住民自治をいうものと解釈できる。この点について仮に条約が優位するとすれば条約が地方自治の内容を定めることが可能となるため、地方自治制度自体を廃止することも可能となる。しかし、住民の意思、歴史や風習に反する上、国土等の物理的な問題が生じるおそれがある。さらに権力の均衡と抑制を図る地方自治制度趣旨に反し、憲法が地方自治制度を設けた趣旨に反するおそれがある。
このような不都合が生じることが考えられるため、折衷説は妥当でない。よって憲法の枠組みの中で国際協調を尊重するのが現段階では適していると考えられる。

 3 以上から、憲法優位説が妥当であると考える。最高裁(最大判昭34.12.46)も安保条約の合憲性が争点となった砂川事件において、条約が「一見きわめて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外」であるとしていることから、条約も違憲審査の対象となる可能性があると考えられ、憲法優位説に立っているものと考えられている。


4最後に

 以上のように、条約の位置づけを考えるには、まず一元論か二元論かによって結論がかわる。この議論の出発点は国家主権か国際関係か、いずれを重視するのかというところにある。そして条約も国内法体系に属するという一元論をとった場合には、次に憲法・国内法と条約との優位性が問題となる。ここが冒頭でのべた「なぜ」の部分にあたる。そして、「なぜ」に対する回答として、国内法との関係では憲法自身が条約を優位に扱うことを認めていることと条約が優位にたった場合の不都合から条約が法律に優位すると考えられる。他方、憲法との関係では、最高法規としての憲法が条約との関係を明確にしていないため、その性格と国際協調主義との関係をどのように考えるかによっていくつかの対立がある。そのため明確な回答というものはないが、憲法優位を認めた上で対外関係を可能な限り尊重すべきと解釈するのが実際的ではないだろうか。
 各国をみてみると、条約は法律と同一の効力を有する旨の規定や法律に優位する旨の規定を憲法が明文で認めている国も存在する。現在、EUでは、欧州憲法条約(欧州のための憲法を制定する条約)の成立が試みられている。この条約は、法的には条約として位置づけられるが、基本法(憲法)としての性質を有するため、EU諸国の憲法と当該条約との関係がどのようになされるのかも注目に値する。新たな連合諸国としての憲法条約がどのような影響をあたえるのか、今後の進展に期待したい。

参照条文
< 憲法6条1項 >
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
< 憲法7条 >
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行う。
1号 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
< 憲法29条1項 >
財産権は、これを侵してはならない。
< 憲法41条 >
国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
< 憲法61条 >
条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
< 憲法67条1項 >
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。
< 憲法66条1項 >
内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
3項 内閣は、行政権の行使について、国会に連帯して責任を負ふ。
< 憲法68条1項 >
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。 但し、その過半数は、国会議員の中から選ばなければ成らない。
< 憲法73条 >
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
2号 外交関係を処理すること。
3号 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
< 憲法92条 >
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。
< 憲法96条1項 >
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
< 憲法97条 >
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
< 憲法98条1項 >
この憲法は、国の最高機関であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2項 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
< 憲法99条 >
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。
< 特許法26条 >
特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。

参考文献
 憲法と国際社会 成文堂                   P189~203
 知的財産と国際私法 金彦叔 信山社           P72~79
 新スタンダード憲法 古野豊秋 尚学社          P233,267、278~281
 憲法 芦部信喜 岩波書店                  P284,285,354,355
 演習講義憲法 小林武 法学書院             P276~279
 条約法の理論 小川芳彦 東信堂             P24~29
 憲法判例百選Ⅱ 有斐閣                  P422,433
 芦部憲法学を読む 統治機構論 高見勝利 有斐閣 P399~414
 憲法講座4 清宮四郎・佐藤功 有斐閣         P188~192
What a life! Milada Broukal
 EUROPEAN UNION http://www.deljpn.ec.europa.eu/home-jp.php

コラムインデックスへ
このページのトップへ