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特許権存続期間の延長制度について

平成19年12月26日
                        特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
                               文責:弁理士 中尾 守男

1.はじめに
 日本政府の知的財産戦略本部では、特許権存続期間の延長制度の見直しが行なわれている。ライフサイエンス分野の競争力を向上させるための議論の一環である。
 では、なぜ、競争力を向上させるための議論に特許権存続期間の延長制度が議題となるのか。本コラムでは、延長制度の見直されているポイントについて米国制度との比較を交えながら説明する。

2.現行制度について
(1)現行制度の概要
 日本の現行制度では、医薬品、農薬品の許認可に関する処分を受けるまでに要した期間について、延長が認められている(参考1:関連条文を参照)。
 この「処分」とは、医薬品については薬事法の承認、農薬品については農薬取締法の登録と定められている。なお、薬事法では、医療機器、医薬部外品、化粧品についても製造販売するためには承認が必要とされているが、これら医療機器等については延長制度の対象とされていない。
 また、延長された特許権の効力は、許認可を受けた処分の対象に限定される。特定の用途についてのみが許認可の対象となった場合、当該用途に限定される。
 例えば、存続期間延長の申請者が物質Cに係る物質特許を所有している場合でも、処分の対象が物質Cの用途A(胃癌薬)についてのみであれば、延長された特許権の効力は、用途Aに限定される。ただし、その剤形、用法、用量、製法等は問われない。つまり、処分の対象となった物を、処分において定められる特定の用途について実施する場合においては全て、権利の効力が及ぶ。

(2)米国制度との比較
 日本の現行制度を米国における特許権存続期間の延長制度と比較すると以下の通りである。
  日本 米国
対象製品 医薬品、農薬品 医薬品、医療機器、食品添加物、着色料
最大延長期間 5年 5年
延長できる特許 承認された製品が含まれる特許すべて 承認された製品が含まれる特許のうち申請人が選んだ一つの特許
延長された特許権の効力 承認された物及び用途 承認された物に限るが、用途についてはその後の新たな承認にかかわる用途も含む
(出展:ライフサイエンス分野プロジェクトチーム調査検討報告(後述の参考文献参照))

 日米の制度の主な相違点は、(i)対象製品、(ii)延長された特許権の効力である。このうち米国の制度における(ii)延長された特許の効力について補足する。
 米国制度では、ある物について延長期間が定まると、どの用途においても当該期間だけ延長されることとなる。
 例えば、物質Sの特許Xについて、用途Aにて薬事法上の承認を得るための審査を受けて、延長期間が3年と定められ、満了日が2000年末から2003年末になったとする。この場合、特許Xの存続期間が2003年末になると扱われ、その効力は物質Sの用途Aに限定されず、他の用途についても有効となる。

3.議論されているポイント
(1)延長制度の対象
 米国では農薬品は対象とされていない。一方、日本では、医療機器、食品添加物、着色料は対象とされていない。そのため、単純にどちらの国の制度が有利だといった比較はできない。しかし、国によって延長制度の対象が異なることは事実であり、日本の制度が日本の実情に沿ったものになっているかどうかについては議論の余地がある。
 そこで、知財戦略本部は延長制度の対象の拡充について議論している。
 例えば、薬事法、農薬取締法以外の法律による審査を対象とすることについて議論されており、具体的には「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」が挙げられている。
 遺伝子組み換え生物を用いて、食料生産、環境浄化を行なうためにはカルタヘナ法による審査が必要となる。審査自体に要する期間(申請から承認まで)は、過去の例をみると半年~1年程度であり、薬事法による審査に比べると短いが、申請に必要なデータ等を準備するために長い時間を要することが多いようであり、延長制度の対象に加える価値は十分にある。
 延長制度をDDS技術に対応させることも検討されている。
 上述のように、医薬品の場合には、有効成分及び効能・効果が同一であれば、剤形、用法、用量、製法等が異なる実施形態にも延長後の特許権の効力が及ぶ。このことから、ある物質及び用途について既に薬事法による承認が得られていた場合、剤形等に基づく特許権が成立しても、当該特許権は延長制度の対象にならないとされている(参考2:関連判決参照)。
 そのため、新たなDDS技術に関する特許権が成立したとしても、当該DDS技術により運ばれる有効成分、及びその用途について過去に薬事法の承認が得られていれば、当該DDS技術に関する特許権は延長制度の対象外となる。しかし、薬事法上は当該DDS技術に関する審査は必要であり、その審査には長期間をする。DDS技術の根幹となるナノバイオテクノロジーは日本が強みを発揮する分野の一つであることから、延長制度をDDS技術に対応するように見直すことが議論されているのである。
 また、議論はされていないが、医療機器を延長制度の対象に含めることについても議論する価値があると考える。薬事法によれば、手術室内で使用されるものは、カテーテル等の特殊な器具はもちろん、鉗子、メス等の手術室外であれば問題なく使用できる器具まで承認を受ける必要がある。ライフサイエンス分野への進出を目指したモノ作り中小企業が、得意のチタン加工技術を駆使して医療用の鉗子、鋏等を開発したが、薬事法の審査に莫大な時間がかかってしまい、ライフサイエンス分野への進出が滞ったという話を聞いたことがある。ただでさえ、中小企業の経営は開発から実用化までの期間に大きく影響を受ける。その上、薬事法の審査により、特許製品を製造販売できる期間が短くなると、開発投資の回収の機会が短くなり、開発意欲の減退を招いてしまう。
 そこで、医療機器が存続期間延長の対象となれば、これまでライフサイエンス分野には関係なかったモノ作り企業による医療機器開発を促進し、ライフサイエンスの競争力向上に資すると考える。

(2)延長された特許権の効力について
 上述の米国の延長制度に関する説明では、延長された特許権の効力について「用途が限定されない」と記載した。この記載だけ読むと用途が限定される日本の延長制度に比べ、米国の延長制度の方が有利なように感じられるが、そうとは断言できない。
 上述の例において、仮に、用途Aに基づいて延長期間が3年と定められた後に、4年の審査期間を終えて物質Sの用途Bについて許認可されたとする。この場合であっても、米国の延長制度では、最初に定められた延長された期間である2003年末までが特許権の存続期間であると扱われる。
 一方、日本の延長制度の場合、用途Aについては2003年末であるが、用途Bについては2004年末まで延長が認められる。
 つまり、追加用途がある場合は日本の制度が有利であり、追加用途が無い場合は米国の制度が有利であるといえる。
 このように、日本の制度には、米国の制度に対して有利な側面が存在する。この不利な側面が日本の競争力の低下を招いていないかを検討した上で、有利な側面も考慮した上で延長制度の見直しが議論されることになる。現状の議論では、この不利な側面のため後発医薬メーカには不利な制度であると指摘されているが、有利な側面が大きいためか、対象の拡充ほどの活発な議論はされていない。

4.最後に
 延長制度の改正については、まだ、議論が始まったばかりであり、実際に延長制度の改正が行なわれるか否かについては全くの未知数である。そのため、延長制度の改正動向に着目した本稿にいかほどの意味があるか分からないが、本稿を読まれた方にとって延長制度に関する知識のおさらいとなれば幸いである。

(参考1:関連条文)
特許法 第67条(存続期間)
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行なうには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、5年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。

特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
 特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。

特許法施行令 第3条(延長登録の理由となる処分)
 特許法第六十七条第二項の政令で定める処分は、次のとおりとする。
一 農薬取締法(昭和二十三年法律第八十二号)第二条第一項の登録(同条第五項の再登録を除く。)、同法第六条の二第一項(同法第十五条の二第六項において準用する場合を含む。)の変更の登録及び同法第十五条の二第一項の登録(同条第六項において準用する同法第二条第五項の再登録を除く。)
二 薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条第一項に規定する医薬品に係る同項の承認、同条第九項(同法第十九条の二第五項において準用する場合を含む。)の承認及び同法第十九条の二第一項の承認並びに同法第二十三条の二第一項に規定する体外診断用医薬品に係る同項の認証及び同条第四項の認証

(参考2:関連判決)
 知財高裁平成17年(行ケ)10345号では、「薬事法による医薬品の承認は,その成分,効能・効果のみならず,名称,用法,用量,使用方法等を特定した品目ごとにされるものではあるが,特許法としては,薬事法による承認が得られた品目に限定して延長に係る特許権の効力が及ぶとするのではなく,延長に係る特許権の効力は,「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶものとしたものである。」とした上で、延長制度に関する条文の起草担当者による「最初の製造承認に基づいてのみ延長登録が可能であり,その後の製造承認は,特許発明の実施に当該承認を受けることが必要であったとは認められないこととなるのである。…一般的にいえば,物以外の要素(当該処分において用途が特定される場合にあっては物と用途以外の要素)が異なる処分を受けても,特許発明の実施に必要であったとは認められないこととなる。」との解説を支持している。
 つまり、特許権存続期間の延長の適用を受けるためには、対象となる処分が「特許発明の実施に必要」な処分であることが要件の一つとされているが、物及び用途について薬事法の承認が得られていた場合は、剤形等が異なることにより、別途、薬事法の承認を得るための処分を受けたとしても、当該処分は、「特許発明の実施に必要」な処分に該当しないとしている。

(参考文献)
・「ライフサイエンス分野プロジェクトチーム調査検討報告書」知的財産戦略本部知的財産による競争力強化専門調査会ライフサイエンス分野プロジェクトチーム
・「工業所有権法逐条解説〔第16版〕」特許庁編

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