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意匠判決紹介:「スタッズ付きバッグ事件」~新規性喪失の例外の適用に関する意匠判決~

-令和5年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件(2023年12月25日)-
(原告)株式会社レインボーシェイク/(被告)特許庁

判決要旨

概要

引用意匠について、意匠法第4条第2項の新規性喪失の例外の適用を認めるかどうかが争われた事例。

原告は、引用意匠が、「意匠の新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」記載の意匠(証明書記載意匠)の公開に基づいて、公開されたとして、証明書記載意匠と引用意匠とが実質同一であることを主張したが、裁判所は両意匠は物品の形状等による美観に影響を及ぼす相違点があることから実質的同一の範囲とは認められないとして、原告の請求を棄却した。

なお、引用意匠は本件意匠の出願日(2021/9/3)の前の2021/8/31に公開された。

新規性喪失の例外適用について(裁判所の見解)

・原告が引用意匠について意匠法4条2項の適用を受けるためには、原告が引用意匠について同条3項所定の証明書を提出していることがその前提となる。

・意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているものであって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。

証明書記載意匠②と引用意匠③とは、同一の意匠とは認められなかった

両意匠の共通点:収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状

両意匠の相違点:正面側のスタッズの個数及び配置態様

➡両意匠の相違点であるスタッズの態様については、十分肉眼で看取可能であって、バッグの正面の意匠の装飾的な構成要素として機能し、「上から一つ目から二つ目よりも二つ目から三つ目の間隔をやや長く」三つ配したものと「四つずつ、略等間隔に」配したものとでは、その構成が異なる。

➡両意匠の共通点である収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状との関係において、証明書記載意匠は、左右辺の山部三つに対して同数の三つのスタッズが配置されており、二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置にあるのに対し、引用意匠は、左右辺の山部三つに対して一つ多い四つのスタッズが配置されており、二つ目のスタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部との間の谷部下方寄りの位置にあり、上から三つ目のスタッズが左右辺中央部の山部と左右下角部の山部との間の谷部中央やや上方寄りの位置にあることから、 それぞれ異なる美観を有するものといえる。

 

 

コメント

・引用意匠は出願人が関係している公開情報と推察されることから、引用意匠とされた公開意匠についても、証明書を提出すべきであった。 なお、令和6年1月1日付に施行された改正意匠法では、施行日以後の出願については、意匠法第4条第3項において[同一又は類似の意匠]については最先の日の公開行為を証明することで第3条第1項の適用が除外される。

・改正法下では、本件のようなケースは類似の意匠として第3条第1項の適用が除外される可能性はあるものの、証明書記載意匠とその後の公開意匠、出願意匠の類似関係を考慮して証明書の提出要否を検討する必要がある。

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