外国制度

 著作権については、基本的にどの国であっても創作と同時に権利が発生し、その享有のために特段の手続を要しません(無方式主義)。また、著作権の保護に関するベルヌ条約加盟国の国民(これには自然人、すなわち単なる人だけでなく、会社等の法人も含みます)であれば、その創作にかかる著作物は日本国内での発行の有無を問わず、日本の著作権法上保護に値する著作物となります。この場合、外国で創作された著作物について、日本で保護を求めようとすると、日本の著作権法が適用されることとなります。
 では、逆に日本で創作した著作物について外国での保護を求める場合はどうでしょうか。この場合も、先ほどと同様に保護を求めたい国の著作権法が適用されることとなります。そして、情報化社会が進み、インターネットによってあらゆる情報に簡単にアクセスできるようになった現在、著作物につき、外国での保護を求める場面は以前とは比べ物にならないくらい増加しているといえるのではないでしょうか。
 このように考えると、外国での著作権制度について理解することも重要といえます。また、国によっては著作権の登録を得ておくことによって、
①著作権に基づき訴訟を起こす場合に有利な証拠となったり、
②さらには著作物が図形等である場合に、これに類似する商標の当該国での商標登録を排除する効果が得られる
ということもあります。
 ここでは、このような重要な意味を持つ外国での著作権制度につき、概略を説明します。

米国の著作権制度

はじめに

 米国は、かつては方式主義を採用しており、1886年発行のベルヌ条約に加盟しておりませんでした。しかしながら、1988年に当該条約に加盟しました。
 日本と対比した場合の米国著作権法の特徴として、下記が挙げられます。

  • ① 著作権表示
  • ② 著作権登録
  • ③ 著作権譲渡契約・ライセンス契約の終了権
  • ④ フェア・ユースの法理の存在
  • ⑤ 著作隣接権制度の不存在

 

著作権表示について

 上記のベルヌ条約加盟前は、著作権表示をすることが著作権の保護要件でした。ベルヌ条約加盟後は、著作権表示は保護要件ではなくなりましたが、これをすることによって、侵害者に対して著作権の存在を知らなかった旨の主張を排除することが可能となります。

著作権表示の方式

  • レコード以外:© 発行年 + 著作権者
  • レコード   :℗ 発行年 + 著作権者

 

著作権登録について

①登録事項

    • 著作物の創作(著作権の取得)⇒日本にはない
    • 著作権の譲渡・ライセンス   ⇒日本にもある

②著作物登録(著作物の創作にかかる登録)の手続

    • 主体要件:著作物の著作権者または排他的権利者
    • 手続要件
      (ⅰ)申請書
      (ⅱ)著作物の納付
      (ⅲ)手数料

 

③登録の効果

    • 著作権保有等の推定効=一応の証明
    • 法定賠償請求権     =立証不要
    • 弁護士費用賠償請求権=立証不要

④登録までの期間

  • 約9ケ月
    ※5~10日で審査が終了する早期審査制度も存在するが、係争中であるといったような特別な事情と追加料金が必要
  • なお、以前は登録のあることが訴訟提起のための要件でしたが、ベルヌ条約加盟後は、米国の著作物のみ登録が訴訟要件とされています。

 

 

 

譲渡・ライセンス契約の終了権

著作者は、著作権の譲渡契約・ライセンス契約を無条件で終了させることができます。

職務著作物や遺言書による権利付与の場合は例外として認められません。

 

フェア・ユースの法理の存在

 社会一般の著作物の利用を図るべく、日本にも著作権の権利を制限する規定は存在します。しかしながら、日本の著作権法では第30条以下に各類型に応じた個別的な規定を置いているにすぎません。これに対し、米国ではより一般的な権利制限条項としてフェア・ユースの法理というものが存在します。

※フェア・ユースの法理が適用される場面

 

  • 批評・解説・報道・研究のための引用
     ⇒日本では、第32条に相当
  • タイム・シフティング(録画して後で視聴すること)
  • パロディ作品
  • リバース・エンジニアリングのための複製
     ⇒日本では不可
  • 比較広告のための引用
     ⇒日本では不可

 

著作隣接権制度の不存在

 著作隣接権とは、著作物の創作には直接関与していないものの、その流通に寄与するものが享有する権利ということができます。具体的には、実演家(歌手、俳優等)、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者が享有する権利がこれに該当しますが、米国ではこの著作隣接権制度が存在しません。その代わりに、米国では、言語の著作物や音楽の著作物等と同様に「録音物」も著作物として保護の対象とされており、これが著作隣接権に相当するものとされています。

 

インドの著作権制度

はじめに

インド著作権法(1957年制定)は、もともと英国の著作権法を基に生まれたものです。インドは、文学的および美術著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」に加盟しており、その他にも、万国著作権条約(1952年締結)、実演家、レコード製作者および放送事業者の権利の保護に関するローマ条約(1961年締結)(以下「ローマ条約」)に加盟しています。さらに、世界貿易機関の一員として、知的所有権の貿易関連側面に関する協定(以下「TRIPS協定」)にも加盟しており、インドの著作権法は、この基準に準拠した規定となっています。

また、2012年には著作権改正法が制定され、上述のインド著作権法に関し、その明確化、運用上の諸問題の解消、およびデジタル技術とインターネットの普及に伴い出現した新たな問題への取り組みを目的とした改正が提案されました。この法案はさらに、インド著作権法の条項を、世界知的所有権機関(WIPO)の2つのインターネット条約、すなわちWIPO著作権条約(WCT)(1996 年締結)および WIPO実演・レコード条約(WPPT)に準拠させることも求めています。

 

登録制度

インドにおける著作権登録では、著作物の利用方法に応じて手続に相違があります。すなわち、著作物が、商品・サービスに付して(商標として)使用されるものである場合、著作権登録出願の申請の前に、商標局による調査として以下の手続が必要となります。

 

(a)商標局による調査

  • ①著作物と同一又は類似の他人による登録商標の存否が、全区分にわたり調査されます。
  • ②上記同一又は類似の商標が存在する場合、現地代理人に通知されます。
  • ③その商標登録が著作権登録出願人によるものである場合には、その旨を主張して対応します(15日以内)。
  • ④現地代理人による上記主張が認められれば、商標局長から著作権登録出願の申請に必要な証明書が発行されます。

(b)著作権局に対する著作権登録出願の申請

  • ①申請書に、物品に関連して使用等する旨を記載し、上記証明書を添付します。
  • ②登録に問題があると認められる場合(申請書類の不備等)は、審査報告書が発行され、現地代理人に当該報告書が送付されます。
  • ③その後、代理人により、必要措置が取られ登録となります。

(c)著作権局での申請手続

  • ①登録対象
    ・コンピュータプログラム(言語の著作物に含まれる)を含む
    ・著作物の名称または表題、著作者・発行者または著作権者の名称および住所
    ・その他の所定事項

 

  • ②登録申請者
    ・著作者、発行者、著作権者および利害関係人
    ・日本における職務著作制度(当HP「 著作権制度―著作物・著作者 」ご参照)と異なり、著作者はあくまで著作物の創作者

 

  • ③登録までの期間
    ・約18ヶ月から24ケ月
    ※商標局による調査を経ない場合は、短縮される。

 

登録制度の有効活用

ベルヌ条約に基づき、著作権登録が著作権に関する権利の取得条件となっていないことは、日本や他のベルヌ条約加盟国と同じです。

しかしながら、著作権登録簿は、ここに記載された内容についての一応の証拠となると、インド著作権法では定められています。すなわち、著作権登録簿に記載された明細の写しや抄録で著作権局長が認証・押印したものは、すべての裁判所において証拠として採用され得るとされています。そのため、著作権登録簿は実務上発効日や権利の帰属に関する証明手段として有効であると考えられています。

また、インド商標法第11条第3項において、著作権法により商標登録出願が拒絶される旨規定されています。ここで、著作権登録は当該拒絶理由に関する規定の適用条件ではございませんが、著作権登録が存在することが著作物に該当するロゴマーク等と同一・類似の他人の商標登録出願の排除に有効に働くことは言うまでもないでしょう。

この点、日本における著作権移転登録は権利変動に関する対抗要件と考えられているにすぎず、インドにおける著作権登録制度とはその意味が異なります(当HP「 著作権登録制度 」ご参照)。

なお、著作権登録は増加傾向にあるといわれています。これは、著作権については他の知財と比較して侵害が容易に認められる傾向があり、一般に損害賠償額も高額と言われているからと考えられます(JETRO 「アセアン・インド知財保護ハンドブック」第12頁より)。

 

動的差止命令と超動的差止命令

インドでは、映像コンテンツを違法に配信する例が非常に多い。このような違法なコンテンツ配信に対して、インドでは動的差止命令という措置が取られている。

「動的差止命令」(Dynamic Injunction)とは、申立人の知的財産権を侵害するウェブサイトを運営する者のみならず、同様のミラーサイトを運営する事業者等に対しても効力を及ぼすことを認める差止命令を指す。これにより、申立人は、当所意図していたウェブサイトのみならず、これに類似するミラーサイトや、侵害サイトのドメイン変更を発見した場合、新たに訴訟提起を行うことなく、新たな被疑侵害者に対して最初の差止命令の効力を拡張して保護を受けることができる。

これはデリー高裁により2019年2月に認められた運用であるが、それ以降、インドの裁判所は積極的に動的差止命令を認める傾向にある。さらに近時は、「将来制作される映画やドラマ」も保護対象として認める「超動的差止命令」(Dynamic + Injunction)がデリー高裁によって認められた(2023年8月9日)。通常の動的差止命令は、差止の対象となる違法配信サイトについてミラーサイトやドメイン変更後の配信についてもその対象とするものであるのに対し、超動的差止命令は、現在は存在しないが将来作成されるコンテンツについても差止の対象に含めるものである。

超動的差止命令は、著作権者側にとっては違法配信に対する強力な対抗措置となるが、現在存在しないコンテンツについてまで保護を拡張するものであり、適用対象をむやみに拡張することにならないか、と疑問も提示されていることから、その適用範囲について今後議論が進むものと考えられる。

 

 

中国の著作権制度

はじめに

 中国著作権法の制定は、1979年より起草が始まり、大きな混乱を背景としつつ、十数年後の1991年に施行されました。
 2001年には中国のWTO加盟に合わせ第一次改正が行われ、さらに2010年には第二次改正が行われています(現行著作権法)。
 いずれも国際社会に応じた受動的な施行であったことから、現在では中国国内の情勢やより積極的な著作権保護の必要性に則した全面的な改正(第三次改正)が予定されています。

 

登録制度

 中国では日本と同様、著作物の創作と同時に権利が発生し保護される制度(主義)を採用していますが、著作権のさらなる保護を図るべく1995年から著作権の登録制度を開始しています。

(a)登録の効果

 著作権に係る紛争が起きた際に、著作権登録を提出することにより、その著作権に対して登録されている事項が一応の証明(裁判官の自由心証の形成に訴える証明)として扱われます。著作物の先創作が争われた際に、創作時期を立証する負担の軽減に役立ちます。

(b)申請手続

  • ①版権センターのシステムに身分を登記
  • ②版権センターのシステムに記入し、書面の申請表を印刷後同センターへ提出
  • ③登録機関へ著作物著作権登録申請書、権利保証書、権利帰属署名、著作物説明書、著作物サンプル(代理機関への委任があればその委任状も)を提出
  • ④審査が行われた後に登録証明書の発行、インターネットでの公示

(c)登録までの期間

 申請の日より30作業日以内(期間にするとおよそ1~2ヶ月程度)で登録証書を受け取ることが出来ます。

 

著作権の有効活用

(ア)商標権との関係

 中国商標法の第31条では「商標登録出願は、他人が現有する先行権利を損なってはならない。」と規定しており、この先行権利には著作権が含まれます。
 例えば、日本ではロゴマークの著作物性は認められにくい傾向がありますが、中国では一定の独創性が認められれば、ロゴマークにも著作物性が認められます。そのため、ロゴに対して著作権登録を行うことによって、他者によってそのロゴが不正に商標登録されてしまった場合に、著作権登録を理由として異議申立、無効宣告請求を容易に行うことが可能となります。

※商標権の及ぶ範囲は、その登録された商標で指定する商品・役務(サービス)と同一又は類似であるかという観点から判断されます。従って、商標登録を受けていない国際分類について他社によって模倣出願がなされた場合、原則としてこれを排除できません。著作権登録を受けておけば、上記第31条を根拠に商標の全ての国際分類について他社による模倣出願を阻止することが可能となります(ただし、中国国内における著名性が要求されます)。さらに、一定期間ごとに更新を要する商標権と異なり、著作権登録については更新手続きが不要なため、1回の登録で長期間(個人著作物:著作者の死後50年目の12月31日まで、共同著作物:最後に死亡した著作者の死後50年目の12月31日まで)に渡って登録を維持することが可能です。

 

≪実際に争われた事例≫
(ⅰ)シカゴブルズマーク異議申立



(出願商標第195726号商標【268商標】)




(NBA所有のシカゴブルズマーク)

 NBAは当該マークに対し著作権登録は行っていなかったものの、北京市高級人民法院は証拠を総合的に判断し、当該マークに係るNBAの先著作権を認定。上記268商標は当該著作権を侵害しているとして、上記268商標の登録を認めた商標局、評審委員会及び北京市第一中級人民法院の判断を取り消しました。
※商標登録証や会社の規約等を総合的に検討し、著作権帰属を判断しています。著作権登録証がない場合、著作権証明に複数の資料を提出しなければなりません。また本件異議申立の下級法院では「商標登録証では著作権帰属を証明できない」と判断されています。著作権登録証は他の資料よりも直接的、あるいは容易に著作権の証明を可能とします。

 

(ⅱ)ブリジストンによる無効審判請求



(出願商標第3042469号)




(ブリジストン所有の先行著作権)

 出願商標第3042469号の登録に対し、株式会社ブリジストンが無効審判を請求しました。審判においてブリジストン側は、上記ロゴが先行著作権である証拠として著作権登録証書を提出し、当該出願商標はブリジストンの著作権を侵害していることを理由として登録が取消されました。

 

(イ)コンピュータソフトウェアとの関係

 中国では2001年より、コンピュータソフトウェア著作権登録制度も開始しています。
 登録申請の際には、登録申請書、ソフトウェア鑑別資料、履歴事項全部証明書(代理機関への委任があればその委任状も)などの書類を登録機関へ提出します。申請書類の形式審査の後に登録費用を納付し、その後行われる実質審査を経て登録証明書作成、インターネットでの公示が行われます。
証明書受領までの期間は通常の著作権と同じく、申請後30作業日以内(期間にするとおよそ1~2ヶ月程度)です。
 なお、機密情報が鑑別資料に含まれる場合、例外提出・保存の方法を選択し、当該機密部分を塗りつぶすことが可能です。

 

 


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