意匠の業種別ヒント

【意匠】住宅設備用品業界の皆様へ

(1)はじめに

御存知のとおり、「住宅設備用品」と「デザイン(=意匠権)」の結びつきは顕著です。

一般住宅向けの内装品・家具等についての「デザイン」の良し悪しは、非常に重要な要素であることは言及不要であり、常に消費者の関心は高いものです。

また、メディア媒体で定常的にインテリア特集が組まれたり、近年では、他店と差別化を図ったオシャレな内装の飲食店が人気を博したり等、デザイン性の高い内装品・家具への消費者の関心はさらに高まってきています。

更に近年、リビングや、キッチンの内装にこだわった特徴的な空間デザインが住宅設備用品の業界においてもブランド戦略の大きな要素となってきており、それに伴う権利の侵害が問題となっていました。そこで、2020年4月1日に施行された改正意匠法により、内装デザインについても保護が認められるようになりました。

当記事では、これまで保護されていた「住宅設備用品」、法改正によって新たに保護対象となった「内装の意匠」についての権利取得の必要性について説明します。

”HARAKENZO more ”は、我が国の住宅設備用品業界の皆様の知財活動を応援したいと考えております。当記事が、意匠出願を考えていらっしゃる方々のお力となれれば幸いです。

(2)住宅設備用品の意匠

住宅設備用品は、暮らしの利便性・快適性を向上させるのが主な目的ではありますが、それらを同時に兼ね備えつつ、優れたデザインを有する「インテリア」として趣向を凝らした製品が特に人気を博しております。

もちろん、優れた機能性は住宅設備用品の購入理由となりますが、デザインを最も重視して購入を決める層が徐々に増加傾向にあるようです。

<参考:「インテリア」についてのアンケート結果発表|おうち*くらぶ>

したがって、住宅設備用品業界において他社との競争を優位に進めるためには、独創的な「デザイン」を生み出し、他社と差別化を図ることが大変有効です。

しかしながら、デザインというのは目に見える「外観的特徴」ですから、特許のように一見して模倣が困難なものと違い、デザインをパッと見ただけで容易にマネされる可能性が多くあり、これがデザインの弱いところでもあります。

そのようなデザインを保護して、他人にマネされないよう独占的に使用できる権利が「意匠権」です。

我が国の住宅設備用品メーカーが取得している意匠の一例を以下に紹介致します。

★いす

【意匠権者】株式会社岡村製作所
(意匠登録番号 第1444386号)

★ベッド

【意匠権者】パラマウントベッド株式会社
(意匠登録番号 第1541258号)

★温水洗浄便座

【意匠権者】TOTO株式会社
(意匠登録番号 第1558420号)

★収納棚

【意匠権者】株式会社良品計画
      株式会社内田洋行
(意匠登録番号 第1564935号)

★タオル掛け

【意匠権者】スガツネ工業株式会社
(意匠登録番号 第1544590号)

★流し台

【意匠権者】クリナップ株式会社
(意匠登録番号 第1562266号)

様々ある住宅設備用品ですが、特許庁が策定した「意匠分類」の中でそれぞれ属するグループが決まっております。

意匠分類コード「Dグループ(住宅設備用品)」に分類されている物品は、以下のとおりです。

  • D0 :D3~D9に属さないその他の住宅設備用品
  • D3 :発光具及び照明器具
  • D4 :暖冷房機又は空調換気機器
  • D5 :厨房設備用品及び衛生設備用品
  • D6 :室内整理用家具・用具
  • D7 :家具
  • D9 :住宅設備用品汎用部品及び付属品
    ※床敷物、カーテン等主として繊維製の室内装備品は意匠分類コード「Cグループ」に、建具は意匠分類コード「Lグループ」に分類されています。また、内装の意匠はL3という分類が付与されます。

(3)物品全体だけでなく、物品の部分については「部分意匠」として権利保護できます

部分意匠

意匠は物品全体について権利保護される制度です。しかしながら、ある一部分に特徴がある住宅設備用品の意匠に対し、第三者に「独創的で特徴ある部分を取り入れつつ、意匠全体で非類似となるような巧妙な模倣デザイン」を使用された場合に、その第三者に対して意匠権の効力は及びません。

このような事態を回避するために、住宅設備用品全体を意匠登録するだけでなく、特徴のある一部のデザインを「部分意匠」として登録することができます。

部分意匠によって、特徴部分の模倣行為に対しても権利行使を行うことができるようになります。

住宅設備用品メーカーが取得している部分意匠の一例を以下に紹介します。

★家具用引き出し
※実線部分が部分意匠の権利範囲です。

【意匠権者】サンウエーブ工業株式会社
(意匠登録番号 第1342075号)

★水栓付き洗面カウンター
※「赤色で着色を施した部分」以外が部分意匠の権利範囲です。

【意匠権者】株式会社LIXIL
(意匠登録番号 第1550176号)

★家具用アジャスター
※実線部分が部分意匠の権利範囲です。

【意匠権者】スガツネ工業株式会社
(意匠登録番号 第1435088号)

(4)内装の意匠

令和元年の法改正により、保護対象となった「内装の意匠」は、以下の要件を満たす必要があります。

  • ①店舗、事務所その他の施設の内部であること
  • ②複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
  • ③内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

■内装の意匠で保護される住空間に関するものの例
住宅用リビングの内装、住宅用キッチンの内装、住宅用寝室の内装、住宅用バスルームの内装、住宅用トイレの内装など

これまでは、「システムキッチン」や「ユニットバス」として登録されていましたが、1物品の要件を満たす必要がありました。内装の意匠では、壁紙、天井、床、テーブル、いすなどの複数の物品からなる空間の美感について保護を受けることが可能になります。斬新で特徴的な配置や空間の統一的な美感については内装の意匠として保護することをご検討ください。

内装の意匠について、より詳しくはこちらをご確認ください。

(5)関連意匠の利用

関連意匠

関連意匠制度とは、一のデザインコンセプトから創作されたバリエーションの意匠について、創作の観点から本意匠(基礎意匠)と同等の価値を有するものとして保護し、各々の意匠について権利行使することを可能にした制度です。関連意匠制度が登録されると、関連意匠の類似範囲まで権利範囲を拡大することができます。

本意匠

[意登第1459926号]いす

関連意匠1

[意登第1460079号]いす

 

関連意匠2

[意登第1460080号]ソファー

関連意匠3

[意登第1460081号]ソファー

関連意匠4

 

関連意匠5

※2020年4月1日施行の改正意匠法において、関連意匠についても大幅な改正がなされました。詳細はこちらをご確認ください。

(6)その他の知的財産権による保護

出願日から25年*で権利が切れてしまう意匠権以外の知的財産権で、物品のデザインが保護されるかについて、近年人気がある「ジェネリック家具」を例にご紹介致します。
*2020.3.31迄の出願については、登録日より20年が存続期間となります。

★「ジェネリック家具」

ジェネリック家具とは、意匠権の権利保護期間(出願日から25年)が満了してパブリックドメイン化したデザインの家具についての第三者による模倣品のことを指します。特許権の切れた医薬品の後発品をジェネリック医薬品と呼ぶことに因んで普及した名称です。

模倣元となっている正規品家具の価格は数百万円する場合がありますが、ジェネリック家具だと10分の1程度の安価で購入できる場合もあることや、第三者により改良が加えられている等のメリットがあります。一方、デザインだけをマネたジェネリック家具だと、品質や安全性が損なわれた粗悪品の場合もありますので注意が必要です。

また、そのジェネリック家具に問題があった場合、問題が正規メーカーにも飛び火するおそれもあります。

◎ジェネリック家具を製造販売することは違法ではない?

模倣元家具の意匠権(出願日から25年)の権利が失効していれば、違法とはなりません。

また、模倣元家具が「著作物」と認定されない限り製造販売に問題はないでしょう。

 ※著作物である場合は、著作者の死後70年まで権利が存続します。

 ※一方、不正競争防止法や商標法上の権利を侵害する可能性もあるので注意が必要です。

★著作物性を肯定された事件

◎TRIPP TRAPP事件(知財高裁平成26年(ネ)第10063号(平成27年4月14日判決))

・これまでは、原則、著作権法は「芸術作品」を保護するものであり、意匠法の保護対象である「大量生産可能な実用品のデザイン」とは抵触しないものでした。

・しかしながら、「TRIPP TRAPP事件」において、知財高裁が「幼児用椅子(下記控訴人製品)」の著作物性を肯定する判断を下し、大きな議論を呼びました(侵害は否定された)。

・この判決はあくまで”個別具体的”な判断という事が前提にあります。以後全ての実用品が著作物として判断されるわけではありませんが、今回の判断により著作物と判断されるための障壁が相当低くなったといえます。

・今後の司法判断に影響を与えると考えられます。正規品の家具を製造販売するメーカーも、「ジェネリック家具メーカーに権利行使を行いやすくなった」と歓迎しています。

◎正規メーカーによるジェネリック家具への対策とは

意匠権の権利が切れた後は、上記のように、著作者の死後70年迄存続可能な著作権で保護を行う他に、以下のような権利で販売差止や損害賠償請求ができる場合があります。

・商標法による保護

家具等のデザインは、商標法において「立体商標」として保護することができます。意匠権は出願から25年という存続期間ですが、商標権は更新し続ける限り半永久的に存続させることが可能です。

立体商標として保護を受けるには、一定の期間独占的に使用したことによる十分な識別力を獲得していなければなりません。 また、機能の実現のために当然有する特徴のみで構成されたデザインは登録できません。

・不正競争防止法による保護

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するために、他人の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示の使用等により、当該他人の営業上の信用を自身のものと混同あるいは誤認させる行為を不正競争と規定(2条1項1号)し、そのような行為を禁止するものであり、周知性のある商品等表示の有する出所表示機能を保護するものです。侵害かどうかの判断については、以下A、Bがよく問題となります。

A. 特別顕著性を有するか

他人の商品等表示と区別できるほどに特別顕著性を有している必要があります。これまでのものとは一線を画するデザインであれば特別顕著性が認められやすいです。

B. 周知性を獲得しているか

長期間に及ぶ継続的・独占的な使用で、需要者に出所表示として認識されているかどうかが重要となります。それ故に、裁判においては「営業上の使用時間・使用頻度・使用態様」を立証する必要があります。

期間は個別具体的に異なり、例えば、玩具などのライフサイクルの短い分野や○○ブームを起こしたものなどは、数ヶ月~数年の期間で周知性が認められる傾向にあります。

商標権や不正競争防止法による保護を受けるためには、ある程度の使用期間が要求されるため、結局のところ、基本的には意匠登録と同時期に、商標権/不正競争防止法での保護を受けることは難しいといえます。

※意匠権および商標権は登録することで権利が設定されるため、法的安定性および他者抑止力が高いといえます。一方、立体的形状について、著作権や不正競争防止法の保護の多くは、裁判を行って初めて法的保護が可能であるか判明するので、法的安定性が低くなります。また、不正競争防止法による保護は、権利が設定されるわけではありません。

(7)海外で模倣品が出回ってからでは遅い

ある住宅設備用品・家具等の人気が出ると、外国、特に東アジアから模倣品が国内に流入し、出回ることがあります。また、現地で類似品の意匠や商標の出願が済まされてしまっていることも多いものです。

そういった事態に直面した後で、やっと海外で権利保護を図ろうとしても大変厳しい状況になりますので、国内での意匠権取得と同時に海外諸国でも意匠出願を行うことを強くおすすめします。海外での展開を考える際にも、ぜひ、お気軽に当所にご相談ください。

欧州・米国などの知財先進国をはじめ、近年では東アジア、東南アジア諸国、その他各国において意匠の取扱は様々でございます。意匠登録を行う方法にも、各国において必要なノウハウが存在しますので、この点はお気軽にご相談頂ければ幸いです。

また、2015年より我が国もハーグ協定に加入したことから、国際意匠登録制度の利用が可能となったため、手続面・費用面共に負担を軽くすることができます。

(8)”HARAKENZO more e” は住宅設備用品業界の皆様を応援します

住宅設備用品業界では、商品の機能性は当然として、独自のデザインを開発し、他者と差別化を図ることが特に重要でございます。一方、知的財産で適切に保護されていないと、そのデザインをマネた海賊版が簡単に流通してしまい、水際対策に追われることになってしまいます。

そのため、皆様が知的財産権の問題を意識せざるを得ない状況に直面することもあろうかと思います。”HARAKENZO more ”では、住宅設備用品業界の皆様の知的財産保護に全力を尽くす体制を整えております。どうぞお気軽にご相談ください。

関連記事

TOP