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海外で商標権を取得する必要性
商標権は、原則として国ごとに発生し、その効力も登録を受けた国又は地域に限られます。日本で商標登録を受けていても、その権利が当然に米国、中国、欧州、ASEAN諸国などの海外で認められるわけではありません。
そのため、日本国内で取得した登録商標と同一又は類似の商標が海外で使用されていても、当該国で権利を取得していなければ、商標権侵害として十分な対応を取ることが難しい場合があります。海外展開を予定している企業にとって、商標の海外出願は、ブランドを守るための重要な準備です。
特に、海外で商品を販売する場合、現地企業に製造を依頼する場合、展示会に出展する場合、越境ECを利用する場合、海外代理店やライセンシーと取引する場合には、出願の要否を早い段階で確認することをおすすめします。
海外商標出願を検討すべき場面
海外商標出願が必要となる場面は、すでに海外売上がある場合だけではありません。今後の事業計画、製造拠点、販売代理店、模倣品リスク、将来のブランド展開を踏まえて、各国での出願要否を判断する必要があります。
たとえば、次のような場合には、海外で商標権を取得することを検討すべきです。
- 海外の展示会、見本市、商談会で商品名やブランド名を使用する
- 海外のECサイト、SNS、代理店サイトで自社ブランドを表示する
- 海外企業に製造、販売、輸入、保管、広告宣伝を依頼する
- 中国、米国、欧州、台湾、韓国、ASEAN諸国などに販売予定がある
- 第三者による先取り出願、模倣品、なりすまし販売を防ぎたい
- 海外子会社、販売代理店、フランチャイズ、ライセンス契約でブランドを使う
海外では、先に出願した者が有利になる先願主義を採用する国が多くあります。日本で長く使用している名称であっても、現地で第三者に先に出願されると、自社の海外展開に支障が生じる可能性があります。
出願前に確認すべき商標調査と検索データベース
海外で商標出願をする前には、対象国で同一又は類似の商標がすでに出願・登録されていないかを確認することが重要です。商標調査を行わずに出願すると、拒絶理由を受ける、現地代理人費用が追加で発生する、予定していたブランドを変更せざるを得ない、といったリスクが高まります。
調査では、商標の文字、読み方、意味、ロゴ、図形、指定商品・指定役務、類似する区分を確認します。英語表記だけでなく、現地語表記、漢字・カタカナ・アルファベット表記、略称、発音が近い語も問題になることがあります。
検索には、WIPOのGlobal Brand Database、Madrid Monitor、各国・地域の商標データベース、EUIPOやUSPTOなどの官庁データベースを利用することがあります。ただし、データベース検索だけでは、類否判断や指定商品・役務の範囲を十分に判断できない場合があります。重要な商標については、弁理士や現地専門家の見解を踏まえて出願方針を決めることが大切です。
海外で商標を権利化する主な方法
海外で商標権を取得する方法は、大きく分けて「各国への直接出願」と「マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願(マドプロ出願)」があります。対象国、出願数、費用、手続期間、今後の国の追加予定、基礎となる日本出願又は日本登録の有無によって、どちらが適しているかが変わります。
また、欧州連合のように、複数国にまたがる地域単位の商標制度を利用できる場合もあります。たとえばEUでは、EU商標を利用することで、EU加盟国を広くカバーする権利取得を検討できます。一方で、拒絶理由や異議申立ての影響が広い範囲に及ぶ点には注意が必要です。
海外商標出願では、単に「出願できる方法」を選ぶのではなく、事業上どの国で権利が必要か、どの国で侵害対応の必要性が高いか、どの手続が費用・時間・管理面で適しているかを比較することが重要です。
| 比較項目 | 直接出願 | マドプロ出願 |
|---|---|---|
| 利用できる国 | 各国・地域の制度に従い個別に出願 | マドプロ加盟国・地域を指定して出願 |
| 基礎出願 | 日本出願・登録がなくても可能な場合が多い | 日本の基礎出願又は基礎登録が必要 |
| 管理 | 国ごとに管理 | 更新・変更等を一元管理しやすい |
| 向いている場面 | 少数国、非加盟国、国ごとに柔軟な指定が必要な場合 | 複数国をまとめて出願・管理したい場合 |
直接出願の特徴
直接出願は、商標権を取得したい国又は地域の官庁に対して、現地制度に基づき個別に出願する方法です。日本で同一商標の基礎出願や基礎登録がない場合でも利用できることが多く、マドプロ加盟国以外の国にも対応できる点がメリットです。
一方で、各国ごとの書類、言語、料金、審査実務、使用証明、委任状、商品・役務の記載ルールに従う必要があります。多くの国では、現地代理人を通じて手続を行うため、対象国が増えるほど費用や管理の負担も大きくなります。
直接出願は、出願国が少ない場合、マドプロで指定できない国を含む場合、基礎出願との同一性に不安がある場合、各国ごとに柔軟な指定商品・指定役務を作成したい場合などに有効です。
マドプロ出願の特徴
マドプロ出願は、1つの国際出願によって複数の締約国を指定できる制度です。日本を本国官庁として利用する場合、日本国特許庁における基礎出願又は基礎登録が必要であり、国際出願の商標は基礎と同一である必要があります。指定商品・指定役務も、基礎出願又は基礎登録の範囲内で作成します。
マドプロ出願のメリットは、複数国への出願手続を一括しやすいこと、出願時に各国代理人を選任しなくてもよい場合があること、指定国の追加、名義変更、住所変更、更新などを一元的に管理しやすいことです。
ただし、指定国で拒絶理由や暫定的拒絶通報を受けた場合には、原則としてその国の現地代理人を通じた応答が必要になります。また、国際登録日から5年以内に基礎出願又は基礎登録が消滅すると、国際登録が取り消される、いわゆるセントラルアタックのリスクがあります。
マドプロ出願は、複数国に同時出願したい場合、今後指定国を追加する可能性がある場合、更新や変更の管理を一元化したい場合に有力な選択肢となります。
出願国の選び方と優先権
海外商標出願では、すべての国に出願することは現実的ではありません。事業計画、売上見込み、製造地、販売地、模倣品の発生状況、代理店契約、将来の展開予定を踏まえて、優先順位を付けることが重要です。
出願国を選ぶ際には、現在販売している国、近い将来販売する国、製造委託先がある国、ECやSNSでブランドが露出する国、模倣品や先取り出願のリスクが高い国を確認します。米国、中国、EU、韓国、台湾、タイ、ベトナム、インドネシアなど、事業分野によって重視すべき国は異なります。
日本で商標登録出願をした後に海外出願を行う場合、パリ条約上の優先権を主張できることがあります。優先権を利用するには、原則として日本出願日から6ヶ月以内に外国出願を行う必要があります。海外展開の可能性がある場合は、日本出願後すぐに対象国の検討を始めることが望ましいです。
費用・期間・更新管理の考え方
海外商標出願の費用は、対象国数、出願ルート、区分数、指定商品・指定役務の内容、調査の範囲、現地代理人の有無、拒絶理由への対応の有無によって大きく変わります。直接出願では各国官庁費用、現地代理人費用、翻訳費用などが発生し、マドプロ出願ではWIPO手数料、日本国特許庁に納付する手数料、指定国ごとの個別手数料などを確認する必要があります。
登録までの期間も国によって異なります。スムーズに審査が進む国もあれば、拒絶理由通知、異議申立て、使用証拠の提出、補正、審判等により時間がかかる場合もあります。出願前の調査と指定商品・指定役務の整理により、登録可能性を高め、不要な費用や時間を抑えることができます。
登録後は、更新期限、名義変更、住所変更、ライセンス管理、不使用取消への備えなども必要です。国によっては、商標を一定期間使用していないと取消リスクが生じる場合があります。海外商標は、出願して終わりではなく、権利の維持と使用状況の管理まで含めて検討する必要があります。
海外商標でよくあるリスクと対応
海外商標では、第三者による先取り出願、現地代理店による無断出願、模倣品販売、現地語名称の権利化漏れ、ECサイト上のなりすまし販売などが問題になることがあります。
これらのリスクに対応するには、出願前調査、早期出願、契約上の商標使用ルール、現地語ブランドの検討、模倣品監視、侵害発見時の警告書・行政摘発・税関登録・異議申立て・無効審判等の対応を組み合わせることが有効です。
海外では、国ごとに権利行使の方法や実務が異なります。日本の感覚だけで判断せず、対象国の制度や現地代理人の見解を踏まえた対応方針を作成することが重要です。
HARAKENZOの海外商標サポート
弁理士法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARKでは、海外での商標権取得について、出願国の選定、海外商標調査、出願ルートの比較、直接出願、マドプロ出願、指定商品・指定役務の作成、現地代理人との連絡、拒絶理由・暫定的拒絶通報への対応、登録後の更新・変更管理まで、各段階に応じてサポートしています。
当所では、外国支援室、USA支援室、EPO/EUIPO支援室、中国支援室、韓国支援室、台湾支援室、タイ支援室、インド支援室、インドネシア支援室など、地域ごとの知見を活かして、事業内容に合った出願戦略をご提案します。
海外展開を初めて検討する企業、出願国の選び方に迷っている企業、すでに海外で模倣品や先取り出願に悩んでいる企業、海外代理店との契約に商標条項を入れたい企業など、状況に応じて必要な資料や見積りをご案内いたします。
よくある質問
Q1.日本で商標登録していれば海外でも使えますか。
日本で商標登録を受けていても、その権利は原則として日本国内に限られます。海外で独占的に使用したい場合や、第三者の使用・出願に対応したい場合には、対象国での出願を検討する必要があります。
Q2.マドプロ出願と直接出願はどちらがよいですか。
対象国数、基礎出願・基礎登録の有無、指定商品・指定役務の内容、将来の国追加予定、費用、拒絶時の対応方針によって異なります。複数国を一括して管理したい場合はマドプロ出願が有効ですが、国ごとの柔軟な対応が必要な場合は直接出願が適することもあります。
Q3.海外商標調査は必要ですか。
必要性は高いといえます。調査を行うことで、同一又は類似商標の有無、登録可能性、出願国ごとのリスク、ブランド変更の要否を事前に把握しやすくなります。
Q4.海外商標の費用はどのように見積もりますか。
対象国、区分数、出願ルート、調査範囲、現地代理人費用、翻訳の有無、拒絶理由への対応可能性を前提に見積もります。国ごとに官庁費用や代理人費用が異なるため、出願国リストを作成したうえで確認することが重要です。
おわりに
海外で商標権を取得するためには、対象国の選定、出願前調査、出願ルートの選択、指定商品・指定役務の作成、拒絶理由への対応、登録後の更新・使用管理まで、複数の観点を整理する必要があります。
海外展開の予定が具体化してから商標を検討すると、第三者による先取り出願や模倣品対応の面で不利になることがあります。海外での販売、製造、代理店契約、EC展開、展示会出展を予定している場合には、早めに海外商標出願の必要性を確認することをおすすめします。
海外での商標出願、商標調査、出願国の選定、マドプロ出願と直接出願の比較、侵害対応、更新管理について詳しく知りたい方は、弁理士法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARKまでお気軽にお問い合わせください。
参考にした公的情報
- 特許庁「国際出願(商標)/マドリッド協定議定書による国際出願」
- INPIT「外国に商標登録出願する方法を教えてください。」
- WIPO「Madrid System」
この記事の監修者:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
弁理士 山本 悠一郎