この記事でわかること
商標の早期審査の3つの対象要件、申出方法と費用、使用証拠、審査期間、対象外となる出願、利用時の注意点を、特許庁の2025年10月改訂後の現行運用に基づいて解説します。
商標登録出願をしても、直ちに商標権が発生するわけではありません。特許庁の審査を経て登録査定を受け、登録料を納付することで商標権が発生します。
新商品・新サービスの発表、店舗の開業、ライセンス契約、海外展開などを予定している場合には、通常より早く審査結果を得たいことがあります。そのような場合に検討できるのが、商標の「早期審査制度」です。
早期審査は、一定の要件を満たす商標登録出願について、通常より早く審査を受けられる制度です。ただし、早期審査の対象となっても、登録が保証されるわけではありません。識別力や先行商標との類似性などの登録要件は、通常の審査と同様に判断されます。
目次
商標の早期審査とは
商標の早期審査とは、所定の要件を満たす商標登録出願について、「早期審査に関する事情説明書」を提出することで、通常より早く審査を受けられる制度です。一般には「早期審査の申請」と呼ばれますが、特許庁の正式な表現は「早期審査の申出」です。
早期審査の申出は、商標登録出願と同時に行うことも、出願後に行うこともできます。既に出願済みの案件も対象になり得ます。
早期審査と早期審理の違い
早期審査は、商標登録出願の審査を早める制度です。拒絶査定を受けて不服審判を請求した後に審理を早める制度は「早期審理」といいます。
早期審査を利用するメリット・審査期間・費用
早期に事業判断をしやすくなる
早期審査を利用すると、商品発売、店舗開業、広告展開、ライセンス契約、資金調達、海外出願などの前に、登録可能性に関する最初の審査結果を得やすくなります。第三者による無断使用が生じている場合にも、早期の権利化を検討する意義があります。
申出から最初の審査結果まで平均約2か月
特許庁の現行案内では、早期審査の申出から最初の審査結果の通知までは平均約2か月とされています。ここでいう「最初の審査結果」には、登録査定だけでなく拒絶理由通知も含まれます。そのため、申出から約2か月で必ず登録が完了するという意味ではありません。
特許庁への申出手数料は不要
早期審査の申出について、特許庁へ納付する手数料はありません。事情説明書を紙で提出する場合も、電子化手数料はかかりません。ただし、弁理士・特許事務所に事情説明書や証拠書類の作成を依頼する場合には、別途代理人費用が発生することがあります。
早期審査の対象となる3つの要件
早期審査を利用するためには、次の対象1~3のいずれかに該当する必要があります。2025年10月1日改訂後の現行運用を前提とします。

出典:特許庁「商標早期審査・早期審理の概要」(2026年7月27日時点)
| 類型 | 要件の概要 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 対象1 | 出願人又はライセンシーが、指定商品・指定役務の一部で出願商標を使用等しており、権利化について緊急性がある。 | 指定の全部について使用証拠を提出する必要はないが、緊急性の説明・証拠が必要。 |
| 対象2 | 出願人が出願商標を使用等している商品・役務のみを指定している。 | 原則として、指定したすべての商品・役務について使用又は使用準備を示す。 |
| 対象3 | 指定商品・指定役務のいずれかで使用等しており、すべての指定が特許庁所定の表示と同一である。 | 所定表示との一致が重要。漢字、句読点等の相違にも注意する。 |
対象1:使用等+緊急性
出願人又はライセンシーが、出願商標を指定商品・指定役務の一部について使用しているか、使用準備を相当程度進めており、さらに権利化について緊急性を要する案件です。
対象2:使用等している商品・役務のみを指定
出願人が出願商標を使用している、又は使用準備を相当程度進めている商品・役務のみを指定している案件です。対象2では、願書に記載した指定商品・指定役務の全体と使用状況との対応を確認する必要があります。
対象3:使用等+特許庁所定の表示のみを指定
出願商標を指定商品・指定役務のいずれかについて使用等しており、すべての指定商品・指定役務を、特許庁所定の表示(商標法施行規則別表、類似商品・役務審査基準、商品・サービス国際分類表(ニース分類))に掲載された表示と同一に記載している案件です。
対象3の表示は特許庁所定の表示との完全一致が求められます。
漢字や句読点などを含め、所定表示と少しでも表示が異なる場合には対象3に該当しません。したがって、出願前又は申出前に表示を正確に確認する必要があります。
「権利化について緊急性を要する案件」とは
対象1を利用する場合、使用又は使用準備に加えて、権利化について緊急性が必要です。現行運用では、例えば次の案件が該当します。
- 第三者が、出願商標又はこれに類似するおそれのある商標を無断で使用している
- 出願商標の使用について、第三者から警告を受けている
- 他人から出願商標の使用許諾を求められている
- 出願商標について、他人へ使用許諾をしている
- 同じ商標を外国の特許庁又は政府間機関へ出願している
- 当該出願をマドリッド協定議定書に基づく国際登録出願の基礎出願とする予定がある
緊急性を主張するだけではなく、警告書、使用許諾に関する書類、外国出願の書類など、該当する事情を客観的に示す資料を提出します。
早期審査の申出方法と事情説明書
早期審査の申出には、「早期審査に関する事情説明書」の提出が必要です。提出者は出願人又はその代理人であり、インターネット出願ソフトによるオンライン提出又は書面提出が可能です。
提出時期は商標登録出願の日以降いつでもですが、特許庁は出願と同時又は出願後速やかに提出することを推奨しています。提出が大幅に遅れると、通常の審査より着手が遅くなる場合があります。
事情説明書の主な記載項目
| 記載項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 事件の表示 | 商標登録出願の出願番号 |
| 提出者 | 出願人又は代理人の氏名・名称 |
| 使用状況の説明 | 使用者、使用に係る商品・役務、使用場所、使用の事実又は使用準備の状況 |
| 緊急性の説明 | 対象1として申し出る場合の具体的な事情 |
| 提出物件の目録 | 使用証拠、緊急性を示す資料その他の添付書類 |
事情説明書では、使用者、使用に係る商品・役務、使用場所、使用事実を示す書類などを説明します。対象1として申し出る場合は、緊急性を要する状況も記載します。なお、対象1~3のどの類型で申し出るかを明記することは必須ではありませんが、提出資料から要件を判断できる状態に整える必要があります。
使用証拠として必要な資料
使用の事実を示す資料からは、次の3点を客観的に確認できる必要があります。
| 確認事項 | 確認する内容 | 資料上のポイント |
|---|---|---|
| 使用商標 | 出願商標と同一であるか | 商標の表示部分を明確に示す |
| 商品・役務 | 指定商品・指定役務について使用されているか | 商品名、サービス内容、提供状況が分かるようにする |
| 使用者 | 出願人、ライセンシー等であるか | 販売者・運営者情報や契約関係を示す |
上記3点を示す箇所には、下線、マーカー、矢印等を付し、文字を判読できる鮮明な資料を提出します。
使用商標と商品・役務を示す資料
- 商標を付した商品の写真
- 商標を付した役務の提供に用いる物の写真
- 商品・役務に関する対外的なパンフレット又はカタログ
- 広告、ウェブサイト又はSNSの画面の写し
使用者を示す資料
- 商品パッケージに記載された販売者情報の写真
- 通販サイトの「特定商取引法に基づく表記」
- ウェブサイト又はSNSの運営者情報
- ライセンシーによる使用の場合は、使用許諾関係を示す契約書等
証拠資料では、確認対象となる部分に下線、マーカー、矢印等を付し、文字が判読できる鮮明な状態で提出することが重要です。資料を提出しても、使用商標、商品・役務、使用者の3点が明確に把握できなければ、早期審査の対象と認められない可能性があります。
「使用の準備を相当程度進めている」とは
単に社内で名称を決定したことや、デザイン案を作成したことだけでは足りない場合があります。例えば、商標を掲載したパンフレット・カタログ・広告等の印刷を外部へ発注し、相手方が受注している場合や、商品・サービスについて対外的なプレス発表をしている場合などが例示されています。
出願商標と使用商標の同一性
早期審査では、出願商標と使用又は使用準備に係る商標が同一であることが必要です。外観上厳密には一致しなくても差異がわずかであれば同一と判断されますが、迅速かつ画一的な選定のため、比較的厳格に判断されます。

出典:特許庁「商標早期審査に関するQ&A」A-25(2026年7月27日時点)
不使用取消審判の基準とは同じではありません
早期審査における商標の同一性判断は、不使用取消審判における「社会通念上同一と認められる商標」の範囲と必ずしも一致しません。早期審査では、文字・図形が原則として一致する外観上酷似した態様が中心となります。
申出後の流れと選定結果
| 段階 | 手続 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 商標登録出願 | 出願と同時又は出願後に早期審査を申し出る |
| 2 | 事情説明書・証拠書類の提出 | 使用状況、商品・役務、使用者、必要に応じて緊急性を説明する |
| 3 | 対象要件の選定 | 特許庁が事情説明書と証拠書類に基づいて対象性を判断する |
| 4 | 審査結果の通知 | 選定された場合、申出から最初の審査結果まで平均約2か月が目安となる |
事情説明書が提出されると、特許庁は説明内容と証拠書類に基づき、早期審査の対象とするかを選定します。選定された場合には、通常の審査順番を待たずに審査が進められます。
対象としないと判断された場合は、理由を記載した選定結果通知が送付されます。この場合も、商標登録出願自体が拒絶されたわけではなく、通常の審査順序に従って審査されます。証拠書類を補充して再度申し出ることも可能です。
なお、早期審査の申出を取り下げる手続はありません。申出後に通常審査へ戻したい場合でも、取下げによって選定手続を停止させることはできないため、申出前に方針を確認しておく必要があります。
早期審査の対象外となる出願
現行運用では、次の出願は原則として商標の早期審査の対象外です。
- マドリッド協定議定書に基づき、日本を指定した国際商標登録出願
- 動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標
- 店舗・施設等の外観又は内装からなるものなど、一部の立体商標
- コンセント制度の適用を主張する商標登録出願
なお、他人の氏名を含む商標に係る出願を一律に対象外とする取扱いは廃止されました。2025年10月1日以降の出願は、所定の要件を満たせば早期審査の対象になり得ます。
特許・意匠の早期審査とは要件が異なります
商標、特許、意匠にはそれぞれ早期審査制度がありますが、対象要件や必要書類は同一ではありません。商標の申出では、出願商標の使用又は相当程度進んだ使用準備が基本的条件となります。
利用前に確認したい注意点
登録要件が緩和される制度ではない
早期審査は審査の順序を早める制度であり、商標登録の要件を緩和する制度ではありません。先行商標と類似する場合や、識別力がない場合には、通常審査と同様に拒絶理由が通知される可能性があります。
指定商品・指定役務を削除する前に権利範囲を確認する
対象2又は対象3の要件を満たすため、使用していない指定商品・指定役務や所定表示でない指定を削除・限定することがあります。しかし、出願後に指定商品・指定役務を追加して権利範囲を広げることはできません。早期審査を優先するか、将来の事業範囲を維持するかを検討する必要があります。
提出資料は閲覧対象となる
事情説明書と証拠資料は、原則として閲覧対象になります。営業秘密等はマスキングを検討できますが、使用商標、商品・役務、使用者など、要件判断に必要な部分まで隠すことはできません。
早期審査を検討しやすい場面
- 新商品・新サービスの発売又は店舗の開業が迫っている
- 大規模な広告・プロモーションを予定している
- 第三者による無断使用や警告が発生している
- ライセンス又はフランチャイズ展開を予定している
- 外国出願又はマドプロ国際出願を予定している
- 投資、融資、M&A等の前にブランドの権利状況を明確にしたい
まとめ
商標の早期審査は、所定の要件を満たす商標登録出願について、通常より早く最初の審査結果を得られる制度です。特許庁への申出手数料は不要ですが、使用又は使用準備の状況を客観的に示す資料を整える必要があります。
また、早期審査を利用しても登録が保証されるわけではありません。申出前に、出願商標と使用商標の同一性、指定商品・指定役務の記載、先行商標との関係、提出証拠の内容を確認することが重要です。
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARKでは、商標登録出願、早期審査の対象要件の確認、使用証拠の選定、事情説明書の作成、拒絶理由通知への対応、外国商標出願まで一貫して支援しています。早期の商標権取得をご希望の場合は、弁理士へご相談ください。
参考資料
- 特許庁「商標早期審査・早期審理の概要」
- 特許庁「商標早期審査に関するQ&A」
- 特許庁「商標早期審査・早期審理ガイドラインの改訂について」
- 特許庁 電子出願ソフトサポートサイト「早期審査に関する事情説明書(商標登録出願)」
- INPIT「商標登録出願について審査を早期にしてもらう方法」
監修者 弁理士 能勢 政典