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人間のクローニング、その話題について

2002年12月27日 、米国のある宗教団体がクローン人間第1号である女児の誕生を公式に発表した。このクローン(複製)赤ちゃんが実際にクローン人間であるか否かは科学的に検証されなかったが、半世紀以上蓄積されてきた生命技術から推せばクローン人間の出現だけは事実である可能性が高いということである。この団体の計画によると、これからも4名のクローン赤ちゃんがさらに出生するだろうということなので、人間のクローニングというのは遠い未来のことではなく、これから解決しなければならない現実の問題になったと感じられる。
人間のクローニングとは、精子と卵子が受精された後、胎児に発育される前の細胞分裂の状態である人間胚を複製、同一の遺伝子を有する人間を続いて出産することだと1993年『NY TIMES』が始めて報道をした後、全世界的なissueになった。当時この新聞は人間のクローニングと係わり、`cloning of human embryos`という用語を用いた。
以下では、人間のクローニングの意味と、これに対する賛成と反対の各見解を鑑みながら、時期尚早との感もあるが、これと係わる特許制度について考えてみよう。

人間のクローニングとは?

抽象的意味の人間のクローニング

抽象的意味の人間のクローニングとは、遺伝形質だけではなく、外貌、性格、感情、趣味、能力、記憶等が同一の人間を作ることをいう。大部分の人々が人間のクローニングという言葉に拒否感を感じることは恐らくこれに起因するだろう。しかし、現在、問題になる人間のクローニングは生物学的な人間のクローニング、すなわち、ある個体と遺伝的に同一の他の個体を作ることを意味する。ここで言う個体には個人と胚とが該当し、それによりそれぞれ違う意味を有している。

人間個体クローニング(human individual cloning)

人間個体クローニングとは、ある人間と遺伝的に同一の他の人間を作る方法をいう。これには、大きく分けて受精卵分割と体細胞核移植との二つの技術がある。1997年2月英国のIan Wilimut博士が発表したクローン羊‘Dolly’は上記体細胞核移植法を用いて誕生した。

人間胚クローニング(human embryonic cloning)

人間胚クローニングとは、人間個体クローニングと技術的には同一であるが、その目的が個体を得るためではなく、完全に分化される前の胚の幹細胞(embryonic stem cell)を得たりそれに至るまでの過程を研究しようということをいう。この胚の形成過程は臨床医学と基礎生物学の発展に非常に大きな意味があるため、多くの科学者達がこれに関心を示しており、胚の幹細胞は糖尿病等様々の難治の病気を治療するのに用いることができる。

臓器クローニング(organ cloning)

一つの細胞を用いてその細胞が本来属していた全体臓器をクローニングすることであって、この研究では受精卵を用いないので、深刻な倫理的な問題は提起されていない。

 

 

人間のクローニングに対する賛反の主張

賛成の立場について

一部の科学者達は、人間のクローニングは科学の権利と自由のために許されるべきだと主張する。
それらの主張によると、人間個体クローニング術である体細胞核移植術を用いたら精子なしにも受精ができるので、不妊夫婦に新しい希望を与えることができ、また、人間胚クローニングの研究を通じて移植用臓器の培養、火傷等により損傷された皮膚の回生、脳再生等が可能になるとのことである。その他にも、糖尿病、癌、痴呆などの病気および遺伝性不治の病気を治療できるので、人間のクローニングは原則的に許されるべきだということである。

反対の立場について

人間生命を人為的に操作する行為は神に対する侮辱で、かつ挑戦であり、人間の尊厳性を非常に壊すことという宗教、倫理的な問題と、血縁と家族共同体に基づいた法理が全て混乱に陥るという法律的な問題と、現在人類社会の根幹をなす結婚と家族制度が深刻な危機を迎えるという社会的な問題などを挙げて人間のクローニングに反対する。

 

 

世界の動向

人間のクローニングを禁ずる世界の共通規範はまだ論議中である。 難治の病気、遺伝子疾患の治療のための体細胞研究に関する各国の禁止、許容の見解もさまざまである。しかし、人間のクローニング自体を許す国はない。
現在、胚研究を賛成する人々は、14日以前までの胚は厳格な意味で生命体だといい難くく、難治の病気のような医学的目的で人間胚クローニングの実験を遂行することは許されるべきだと主張している。さらに、人間ゲノム機構(HUGO)は、“人間のクローニングは反対するが、研究目的のための人間胚のクローニングは許されるべきだ。”と1999年9月30日宣言した。一方、世界最初にクローン羊を誕生させた英国においては、世界最初に人間胚クローニングの研究を法的に許しているが、胚の子宮内移植とクローン胚の成長は禁止する立場である。そして、人間のクローニングを禁止する国際協定がEurope会議(EC)において批准され発効された。この議定書は、胚分離、細胞核移植およびその他の技術を用いた人間のクローニングを禁止し、ひたすら研究目的の細胞および組織クローニングのみを厳格な条件下に許している。

 

 

人間のクローニングと特許制度

胚の研究実験および人間個体クローニングに対する賛反の見解はどちらも決定的な事例を提示していない。人間(human being)という用語の範囲と胚の道徳的地位とをどのように設定するかにより、上記のような二分法的思考は止揚されることができると思われる。
新しい世紀に予見される産業構造上、臓器生産貯蔵銀行、細胞冷凍保管銀行、生命クローニングサービスなどは普遍化されるだろうとのことを未来を予測する学者や科学者達は否定しなくなってきている。
従って、人間のクローニングおよび胚の研究、遺伝子操作など生命倫理と係わる全ての研究について倫理原則を決めて、研究の範囲と方法に関するガイドラインと、適切な法律的保護措置が絶対的に必要である時期にきているのではないだろうか。
そして、そのような土台が固まったら、特許制度によって保護が可能な研究成果の範囲も決めることができるであろう。

現在、日本特許庁は人を手術、治療又は診断する方法に関する発明は産業上利用できる発明ではないと解釈している(審査基準)ため、手術法など医療技術は、これまで特許の対象外だった。
しかしながら、近来、日本では、上記のような方針を転換し皮膚や臓器の再生方法など新たな医療関連技術を保護対象にしようという動きがある。さらに、先端医療技術には大きな研究開発費が必要で、次代の新技術を生むための再投資費用を生み、開発者の意欲を促すためには、特許という形の保護法が必要という声も強い。

このような観点でみれば、人間のクローニングと特許制度との関係においても、少なくとも人間胚クローニングの研究を通じた移植用臓器の培養、火傷等により損傷された皮膚の回生、難治の病気の治療などの研究成果については特許制度として保護する必要性があるのはないだろうか。
時代の変化に合わせた特許政策の変化を期待している。

 

 

結論

現代先端科学技術中で一番人間の生に及ぶ波及効果が大きいだろうと予測される分野は生命科学系列の技術である。生命クローニング技術は人間個体クローニングという危険性と医学的有用性という利益をともに有している。
個人的には、人間のクローニングに対する賛成と反対の論議において、ある片方の立場だけを絶対的に正しいとみる白黒論理は好ましくないと考えている。すでに、我々の現実になっている人間のクローニング研究に対して無条件反対することよりも、冷静にこれを研究して正しい方向に誘導することが先端科学技術のもたらす不利益に備える知恵ではないだろうか。

 

 

以 上

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