知財高裁-令和5年(行ケ)第10141号 審決取消請求事件(2024年4月10日)-
(原告)X1、X2/(被告)特許庁長官
目次
1. この記事のポイント
- 標準文字商標「知財実務オンライン」について、裁判所は、商品の品質又は役務の質を表示する標章に当たるとして、商標法3条1項3号該当性を認めました。
- 「知財実務」は「知的財産に関する実務」を意味する一般的な用語であり、「オンライン」も一般的な用語であることから、全体として“知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供するもの”と理解されると判断されています。
- また、YouTubeチャンネル等で継続的に使用されていたとしても、本件では使用による識別力の獲得(需要者に自身の商品・サービスとして広く認識されること)は認められませんでした。
- YouTube、TikTok、ニコニコ動画等の動画共有サービスのチャンネル名のネーミングを考えるうえで、将来の商標権の取得という観点から、実務上示唆の大きい判決です。
2. 判決要旨
2.1. 概要
本件は、標準文字商標「知財実務オンライン」に関する審決取消訴訟です。特許庁が下した3条1項3号(記述的商標)および同3条2項(使用による識別力)を理由とする拒絶審決の妥当性が、知的財産高等裁判所で争われました。
知財高裁は、「知財実務オンライン」は、知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供する商品・役務であることを表示するにすぎないとして3条1項3号該当性を認め、また、使用による識別力の獲得も否定し、原告らの請求を棄却しました。
2.2. 商標法3条1項3号該当性について
裁判所が商標法3条1項3号該当性を認めた理由のポイントは次のとおりです。
- 「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意味する一般的な用語
- 「オンライン」も、インターネットを利用した提供形態を示す一般的な用語
- 「○○オンライン」という表現形式は、取引上広く用いられている
- そのため、「知財実務オンライン」は全体としても内容・提供形態を示すと理解されやすい
その結果、本願商標は、商品の品質又は役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に当たり、商標法3条1項3号に該当するとされました。裁判所は、この種の表示は、取引に際し必要適切な表示として何人も使用を欲するものであり、特定人の独占に委ねるのは相当でないとも述べています。
この点について、原告らは、例えば次のような点を主張しています。
- 第三者による同一標章の使用が見当たらない
- 本願商標は造語であり、間接的に内容を示すにとどまる
- 動画投稿・共有サービスの役務の性質と取引の実情は定期刊行物と共通するから、定期刊行物の題号と同様の審査基準を採用すべき
しかし裁判所は、
- 第三者使用の不存在は上記認定を左右しない
- 本願商標はその内容に一定の幅があるとしても、いずれにせよ品質・質を表示するものと理解される
- 動画投稿・共有サービスは原則として誰もが簡便に動画投稿できるから、特定の新聞社等が発行する定期刊行物と同様の取引実情があると認めることはできない
として、これらの主張を採用しませんでした。
ここで解説:定期刊行物の題号の審査基準とは?
例えば、ビジネスマンの8割が購読している「日本経済新聞」という新聞があります。これを字面でみれば「日本の経済に関する報道・解説・論評を、すばやく、かつ広く伝えるための定期刊行物。」という意味合いであるため、本来的には、特定の内容を認識させるものであるとして、商標法3条1項3号に該当し、商標登録をすることができません。
しかし、特許庁発行の商標審査基準においては、以下の記載があることから、商標法3条1項3号には該当せず、登録されます。
新聞、雑誌等の「定期刊行物」の商品については、商標が需要者に題号として広く認識されていても、当該題号は特定の内容を認識させないため、本号に該当しないと判断する。
本訴訟では、出願人は、YouTube番組について毎週木曜日更新しており、定期刊行物に準じるものではないかと主張しておりました。しかし、知財高裁は、上記のとおり、個人が配信できるものと新聞社・雑誌社が発行するものとでは取引実情が異なるとして、定期刊行物ではないと判断しています。
2.3. 商標法3条2項該当性について
次に裁判所は、原告らによる使用の結果、本願商標が需要者の間において原告らの業務に係る商品・役務を表示するものとして広く認識されるに至ったか、すなわち商標法3条2項該当性を検討しました。
判決では、原告らについて次のような使用実績が認定されています。
- YouTubeで「知財実務オンライン」の名称を付した動画を継続的に投稿
- 本件審決日まで約3年4か月の間に191本を配信
- チャンネル登録者数は4100人
- 知財実務に関する同種YouTubeチャンネルの中では登録者数が最も多い
- 出演者には弁理士、弁護士、企業知財部所属者、特許庁担当職員、著名な学者等が含まれる
裁判所も、特定の複数の指定役務との関係では、原告らが本願商標を使用し、知財分野で一定の認知を得ていること自体は認めました。
もっとも、裁判所は次の点を重視して、3条2項該当性を否定しました。
- 使用期間約3年4か月は、識別力獲得を基礎付ける事情として特に長期間とはいえない
- 需要者は知財実務家に限られず、研究者、学生、事業者等を含む広い範囲に及ぶ
- 登録者数約4100~4200人は、その需要者全体からみるとごく一部にとどまる
- 実際の視聴者数や需要者全体への浸透を示す客観的証拠が十分ではない
- 上記の、特定の複数の指定役務以外の指定商品・指定役務については、使用事実自体が認められない
このように裁判所は、本願商標について、需要者の一部から一定の認知を得ているとしても、自他商品役務識別力を獲得したとまでは認められないと判断しました。
3. コメント
3.1. 動画投稿サービスのチャンネル名の商標登録の実務上の示唆
本判決は、定期的に更新している動画共有サービスのチャンネル名であっても、定期刊行物の題号とは認められず、その番組名が「知財実務オンライン」のような記述的標章である場合は商標法3条1項3号に該当し、登録を受けられないと判示し、また、商標法3条2項の識別性の獲得についても、認められておりません。
特に、商標法3条2項の識別性の獲得ですが、動画共有サービスの歴史が二十年ほどと日が浅いため、どの程度の周知性を満たせば識別性を獲得するか不明となっております。例えば、YouTubeから贈られる「金の盾(チャンネル登録者数100万人以上)」「銀の盾(チャンネル登録者数10万人以上)」のような指標が、法的に識別力を示す基準として機能するかは未知数であり、興味がひかれるところです。
実務上は、動画共有サービスのチャンネル名の権利化を検討する際には、少なくとも次の観点を意識する必要があります。
- 内容をそのまま説明する語だけで構成していないか
- ブランド名として独占・保護し、商標権として確保したい名称か
- 3条2項を主張する場合に備え、資料を蓄積できているか
3.2. まとめ
人気のあるYouTubeチャンネルは、今でも個人のクリエイターや企業にとって、非常に大きなビジネスチャンスにつながります。そして、その大切なチャンネルとビジネスを守り、さらに発展させるために「商標登録」は極めて有効な戦略です。
なぜYouTubeチャンネルの商標登録が重要なのか?
人気が出ると、残念ながら模倣やなりすまし、第三者による便乗ビジネスといったリスクも高まります。商標登録は、そうしたリスクからご自身のブランドを守るための強力な盾となります。
メリット①:ブランドの独占と保護
商標権を取得すると、登録したチャンネル名やロゴを、指定した分野(動画配信、グッズ販売など)で独占的に使用できます。これにより、第三者が同じ、または似たような名称を使って視聴者を混乱させたり、ブランドイメージを損なったりする行為を法的に差し止めることができます。
メリット②:ビジネス展開の基盤
商標は、チャンネル運営の「守り」であると同時に、「攻め」の武器にもなります。
- グッズ販売:Tシャツやマグカップなどのオリジナルグッズ
- イベント開催:ファンミーティングやセミナー
- 書籍化・コンテンツ販売:ノウハウをまとめた電子書籍や教材
- 他社とのコラボ
これらのビジネスを展開する際、チャンネル名が商標登録されていれば、安心してその名称を使用できます。もし他人に先に商標登録されてしまうと、最悪の場合、ご自身がチャンネル名の変更を余儀なくされる可能性さえあります。
商標は「名称(ロゴ)」と「それを使用する商品・サービス」をセットで登録します。将来のビジネス展開を見据えて、以下の適切な範囲を指定することが重要です。
第41類 | オンラインによる映像の提供、セミナーの企画・運営 |
第9類 | ダウンロード可能な動画ファイル、電子出版物 |
第16類 | 書籍、雑誌、ステッカー |
第25類 | Tシャツ、パーカー、帽子 |
第35類 | 広告業、経営コンサルティング |