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商標判決紹介:「AWG治療」事件~商品「医療用機械器具」と役務「医療用機械器具の貸与」は類似すると判断された判決~

知財高裁 令和6年11月11日判決(令和6年(行ケ)第10028号 審決取消請求事件)
(原告)株式会社ジーウェーブ / (被告)ハウル株式会社

 

この記事のポイント

争点:標準文字商標「AWG治療」について、先に登録された同一構成の商標との関係から、指定商品「医療用機械器具」と指定役務「医療用機械器具の貸与」が類似するかが争われました。

特許庁の判断:商品と役務は「非類似」であるとして無効審判請求を不成立としました。

知財高裁の判断:特許庁の審決を取り消しました。医療機器の製造・販売とレンタル・リースが、同一事業者や同一ブランドの系列会社で行われている実情、用途、取引場所、需要者の重複などを総合的に考慮し、商品と役務は類似すると判断しました。

実務上の留意点:商品と役務が「販売(商品)」と「貸与(役務)」の関係であっても、別分野として安全に併存できるとは限りません。商標出願の際には、将来の事業展開まで見据えて指定商品・指定役務を検討することが極めて重要です。

 

1. 判決要旨

1-1. 事案の概要

本件は、「AWG治療」の文字を標準文字で表してなる商標について、商標法第4条第1項第11号(先願の同一・類似商標との抵触)に該当するか否かが争われた審決取消訴訟です。

原告(引用商標の権利者):
第10類「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)、家庭用電気マッサージ器」を指定商品とする、先願・先登録の商標「AWG治療」を保有。

被告(本件商標の権利者):
後願として、同じく「AWG治療」の文字からなり、第44類「医療用機械器具の貸与」等を指定役務とする商標を登録。

特許庁は、両商標自体は同一・類似であると認めつつも、「医療用機械器具(商品)」と「医療用機械器具の貸与(役務)」は非類似であると判断し、無効審判請求を不成立としました。

これに対し知財高裁は、上記の商品と役務は類似すると判断し、特許庁の審決のうち「医療用機械器具の貸与」に係る部分を取り消しました。

 

1-2. 商品・役務の類否について

商標法上、商品と役務(サービス)は異なる概念ですが、両者間で出所の混同が生じるおそれがある場合には、互いに類似するものと判断されます(商標法第2条第6項)。

◆ 審査における「類似群コード」の役割と本件の位置づけ

実務上、特許庁の審査を迅速かつ公平に行うため、商品および役務には「類似群コード」(数字とアルファベットからなるコード)が割り当てられています。同一の類似群コードが与えられている商品・役務は、審査において「原則として類似するものと推定」されます。また、コードが一致しなくても「備考類似」に該当する場合は、類似と推定されます。

備考類似の例

第9類「電子計算機用プログラム」(類似群コード:11C01)と、第42類「電子計算機用プログラムの提供」(類似群コード:42X11)は、類似群コード自体は異なりますが、備考類似によって類似するものと推定されます。

類似商品・役務審査基準の備考類似の記載例

(特許庁発行「類似商品・役務審査基準」より抜粋)

本件において、それぞれの類似群コードは以下の通り異なっており、備考類似の適用もありません。

  • 第10類「医療用機械器具」:類似群コード 10D01
  • 第44類「医療用機械器具の貸与」:類似群コード 42X09

したがって、特許庁の審査実務上は、両者は非類似と推定される関係にありました。

 

◆ 類否判断の具体的な基準(最高裁「橘正宗事件」の基準を踏まえて)

類似群コードは審査の迅速化のための便宜的なグルーピングであり、最終的な類否は実際の「取引実情」に基づいて判断されます。

特許庁の「商標審査基準」では、最高裁の「橘正宗事件」(最高裁昭和36年6月27日判決)の規範に基づき、以下の要素を総合的に考慮して商品と役務の類否を判断することとしています。

  • 同一事業者による提供の一般性:商品の製造・販売と、役務の提供が、同一の事業者によって行われるのが一般的であるか。
  • 用途の一致:商品と役務の用途が一致するか。
  • 場所の一致:商品の販売場所と、役務の提供場所が一致するか。
  • 需要者の範囲:双方の需要者の範囲が重なるか。

裁判所は、同一または類似の商標が使用された場合に、取引者や需要者が「同じ営業主体(または同一グループ)から提供されているもの」と誤認(出所の混同)するおそれがあるかという観点から、以下の実情を総合的に検討しました。

同一事業者・系列会社による事業展開:
医療用機械器具の製造・販売とレンタル・リースの双方を、同一の事業者または同一ブランドの系列会社が実施している実例が多数存在すること。

(※被告は「同一事業者には親子会社や系列会社は含まれない」と主張しましたが、裁判所は形式的な同一法人に限定せず、一般需要者から見て同一の営業主体と理解され得る系列会社等についても、同一事業者に準じて取り扱うべきとしました)

用途の共通性(民法上の賃貸借の性質):
医療用機械器具の貸与は、単に物品を引き渡すだけでなく、需要者に医療目的でその機器を使用させることを当然に予定しています。この点は、商品の用途(医療目的での使用)と完全に共通します。

(※裁判所は、賃貸人が賃借人に「物の使用及び収益」をさせることを骨子とする民法第601条(賃貸借)の定義を踏まえ、貸与の目的が「医療目的での使用」にあると論理的に整理しました)

提供場所の一致:
同一事業者の営業所や同一のウェブサイト上で、販売と貸与が並行して案内されるケースが多いこと。

需要者の重なり:
需要者は医療機関だけでなく、家庭用治療器や介護用ベッド等を利用する一般消費者にも広がっており、商品と役務の需要者が実質的に重複していること。

取引上の実感としての判断

一般の家庭が治療器等を導入する際、購入するかレンタルするかは「支払方法や利用期間の違い」にすぎないことが多く、需要者にとって重要なのは「どのブランドの機器か」「信頼できるか」という点です。同じウェブサイト上で「購入もレンタルも可能」と提示されている以上、需要者が両者を無関係な別事業と捉えることは困難です。裁判所は、こうした現代の取引感覚に則り、両者は類似すると結論づけました。

 

1-3. 商標権の効力との関係

判決では、法的な整合性の観点からも重要な指摘がなされています。

先願商標(商品「医療用機械器具」)の権利者は、その商標を付した機器を他人に引き渡す行為に対して商標権の侵害を主張できます。一方で、もし後願商標(役務「医療用機械器具の貸与」)が有効であるとすると、商標を付した機器を貸与(これには「引き渡し」が伴います)する行為が、後願商標権の適法な行使と評価され得る余地が生じてしまいます。

このように、同一の機器に同一の商標を付す場面で、「販売(商品)」と「貸与(役務)」のどちらの商標権の効力が及ぶのかが競合・錯綜する状況は、商標法全体の整合性から見て好ましくありません。裁判所はこの点からも、商品「医療用機械器具」と役務「医療用機械器具の貸与」は類似すると判断するのが相当であると判示しました。

 

2. コメント

2-1. 「販売」と「貸与」を分けて考えてよいか

本判決は、「商品を売るビジネス」と「その商品を貸し出すビジネス」が、商標法上当然に別物として峻別できるわけではないことを明確に示しました。

かつては「販売業」と「レンタル業」は比較的明確に区分されていましたが、近年は「所有から利用へ」という消費者意識・ビジネスモデルのシフトが進んでいます。医療機器に限らず、事務用機器、測定器、美容機器、介護用品、建設機械、IT機器など、あらゆる分野において、購入、レンタル、リース、あるいはサブスクリプションといった多様な利用形態が並行して提供されることが当たり前になっています。需要者側から見れば、単に「同じブランドの製品を、買うか、借りるか」の選択肢の違いにすぎません。

したがって、商標出願時に「現時点では製造・販売しか行っていないから、商品区分だけを確保しておけば十分」と判断するのはリスクが伴います。事業の発展に伴い、自社でのレンタル事業の開始、リース会社との提携、あるいは点検・サポートといった周辺サービスへの展開が見込まれる場合、類似する他人の役務商標が先行して存在していると、大きな事業障壁となる可能性があります。

 

2-2. 実務上の示唆

本判決から得られる実務上の教訓は以下の通りです。

・商標調査の視野を広げる:
新ブランドの出願・使用調査を行う際は、自社が想定する商品区分だけでなく、その商品と密接に関連する「貸与」「レンタル」「リース」といった役務区分も調査対象に含めるべきです。

・将来の事業展開を見据えた多区分出願の検討:
出願時には、現在の主力ビジネスモデル(販売など)にとどまらず、将来的にレンタルやサブスクリプション、点検等の付帯サービスを提供する可能性を考慮し、あらかじめ関連する指定商品・指定役務を包括的にカバーしておく戦略が推奨されます。

・取引実情による類似性の変化に注意する:
特許庁の類似群コードにおいて「非類似」とされている商品・役務であっても、実際の市場において「販売と貸与が同一ブランドで行われるのが一般的」となっている分野では、商標法上で「類似」と覆る可能性があることを認識しておく必要があります。

 

2-3. まとめ

本判決は、特許庁の審査実務における画一的な「類似群コード」の判断に依存せず、現代のビジネスにおける「所有から利用へ」という取引実情(販売とレンタルの緊密性)を的確に捉え、商品と役務の類似性を認めた極めて合理的な判断事例です。

企業が新しいブランドや製品名を立ち上げる際には、視野を単なる「モノの販売」に限定せず、「サービスとしての提供(貸与、サブスク等)」まで見据えた、包括的かつ精緻な商標調査および出願戦略を構築することが強く求められます。

 

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